ウォルモンドの薄暮 TW-1・戦闘前
黙して語らず
p.m. 2:10 天気/晴天
リターニア移動市街ウォルモンド。かつては栄えた商業街だが、今は見る影もない。
市街議事堂
セベリン・ホーソーン憲兵長、どこへ行っていたんですか?
決議会にあなた不在で、何を決めろというのですか?
……では君たちが我が息子の命運を決定したとき、私はその場に居たというのか?
あっ……その件は、タチヤナが既に……
ああ、聞いている。君たちがタチヤナを寄越したからな。私はただ君たちの行いを改めて提起しただけさ。
状況は?
……感染者たちは未だに抗議を続けています。しかも新たにコミュニティに加わった感染者を排除しようとしています。
彼らの目的は?
彼らは……あの火災は誰かが「意図的に」起こしたものだと主張しています。アント先生と死んでいった感染者のために、納得のいく説明が欲しいと。
……意図的に……説明が欲しい、か。
彼らの多くはウォルモンドの住人だった者たちだ。誇り高きウォルモンドの民ならば、他人に濡れ衣を着せるような低劣な行いはしない。……誰かが彼らを扇動しているのだろう。
彼らが例の不審な武装集団と接触した形跡は?
……今の所ありません。
ですが、あの集団は街の周囲を徘徊し続けています。抗議する者たちに影響を与える可能性も懸念されます。
すみません、見張りからの連絡です。報告してもよろしいですか――
構わん。
……二人? 感染者か?
ロドス? その名前は記憶にある――
……ああ、アント先生の所属する会社だったな。ふぅ、遅かれ早かれ来るものは来るというわけか。
で、ではどうしましょう?
その二人は、アント先生の足取りを調査しに来たのかもしれん。先生は、尊敬に値する感染者だった……
よって彼らには、真相を知る権利がある。入れて構わない。
……聞こえただろう、憲兵長の言う通りに。
ふぅ、本当にこれでいいんですか? もしその二人が、あの武装集団の関係者だったら?
大裂溝、火災、感染者。私たちが、これ以上何かに疑心暗鬼になっている余裕はあるのか?
ですが、ロドスが全て知ったらどうなると思いますか? もし賠償など求められたら、ウォルモンドにとってかなりの痛手です!
……だったらどうしろと言うのだ?
彼らを門前払いするのか? それとも騙すのか? アント先生は鉱石病患者を連れて遠足に行ったとでも言うつもりか?
隠しきれないのはわかっていますが、この件に関してはあなたの一存で決められることではありません。私たちは、あらゆる可能性に備えなければ。
私であれ君たちであれ、真相は誰かが決めるものではないだろう? だが……まぁいい、君たちの好きにしろ。
私はもう行く。
行く? またどこへ行くつもりですか?
……問題の解決に。
私はこの街を、無事正規の運行ルートに戻すことだけを考える。決議に関しては……君たちでままごとを続ければ良いさ。私は興味ないのでな。
待ってください!
あなたが辛い思いをしているのはわかっています、我々がたくさん過ちを犯したことも……ですが、仕方がなかったんです!
それは私も承知している。だからこそ私は、君たちとまだこうして会話ができているんだ。
ロドスの件は君たちに任せる。この手のことは君たちの得意分野だろうからな。私は他の区画の状況を見てこよう。
ではこれで。
セベリンさん! セベリン・ホーソーン! 今のあなたはウォルモンドのトップなんです。あまり勝手に歩き回られては――
チッ――あの人はいつも――
――はぁ。
……まぁいい。みんな気の毒な人たちなんだ。タチヤナも、セベリンも、トールも、みんな。
すぐにここを片付けるぞ、そろそろロドスの二人が到着する。
ウォルモンドは八つ目の月という意味だそうです。周囲の七つの街と共に商業集落を形成していて、リターニア北部で異彩を放つ存在だと――
本にはそう書いてありました。
でも目に見える様子は「商業集落」とは似ても似つかないわね。
「大裂溝」のせいでしょうか?
そうね。あれだけの規模の天災はなかなかないもの。岩盤上にむき出しになった活性源石、千メートルにも達しようかという深度……うーん、思い出しただけでもショッキングな光景だわ。
でもフォリニックお姉さん……当時は砲弾を投げ込んだらどうなるかなんて言っていたじゃないですか……
あれは活性源石に対する探究心からよ。本当にやってみれば、高地が麓まで割れて、真っ二つになるかもしれないじゃない。
私たちは大裂溝を避けながらなんとかここまでこれたけど、この街規模になると、なかなか身動きが取りづらいでしょうね。
こんなときに観光客か? 変わった服装だな、危ない奴らじゃないだろうな?
あの尻尾を見ろよ、それにあの肩の結晶は、感染者か?
でもあの服、どこかで見たことが……ある……気がする?
……フォ、フォリニックお姉さん、私たち、こんな堂々と道を歩いて本当に大丈夫なんでしょうか?
リターニアはアーツが普及しているおかげで、他の街とは違う特色が二つあるわ。一つ目は音楽とアートが盛んなこと、もう一つは感染者に対して寛容なことよ。
感染者は完全に自由って訳にはいかないけど、少なくとも、対価を払うことで生活の権利を得られる。
……対価?
ええ、感染者にも払える対価よ。
ウォルモンドは中心部から離れれば多少の衝突や諍いはあるけど、感染者にも住む場所を与えてくれる街だって……少なくともあの子は、私にそう教えてくれたわ――
――あっ、誰か来た。
……ん?
(えっ? あのおじさんの服装は……)
(ウォルモンドの憲兵かしら? 道を聞いてみる?)
(こちらに歩いてきます、私たちを迎えに来たんでしょうか?)
(わからないわ……)
(あっ、タバコに火を点けました。)
(ライターをポケットにしまって、タバコをもう片方の手に持ち替えて、また持ち替えて――)
(――あれ? そのまま行ってしまいましたよ! フォリニックお姉さん!)
あのっ――!
ん?
こんにちは、私たちは――
ああ、ロドス、だろう?
市街議事堂はこの先だ。あの一番高い塔の足元にある。見えるか? そこまで行けば、誰かが迎え入れてくれるはずだ。
は、はい、ありがとうございます。あの、あなたは……?
私はもう退勤したのでな。
えっ、何と?
私の勤務時間はもう過ぎている。それに今は、公務以外ではあまり話をしたくないんだ……急ぎの用事があるのでな。
では、失礼する。
……えっ、それで終わり?
ちょっと失礼な態度でしたが、あのおじさん、何か心配事がありそうでしたね……
はぁ……そうだとしても、私たちだって疲れてるのよ!
まぁ道を教えてくれたのはせめてもの救いね、でもやっぱり他の現地の人にも聞いて――
憲兵長! こちらにいらっしゃったんですか!
感染者たちがまた抗議活動を始めました。他の憲兵たちはもう向かいましたが、憲兵長の指揮が必要になります――
あ! またタバコ! 店長たちに何か言われたんですか? お身体もですが、イメージも大切にしてください。そうでないと住民たちの信頼が――
あの……どうされたんですか?
……
……
……憲兵長と、言いましたよね?
あの、どうされたんですか、憲兵長?
……なんでもない。君はいつでも真面目だな、タチヤナ。素晴らしいと思うぞ。
えっ? お褒めに預かり光栄です――
あ、そちらのお二人は、服装から見るに外から来られた方ですね? もしかして、ロドスのお医者様でしょうか?
えっ? ……あ、そうです。私たちはロドスの医師です。
(医師?)
(まぁ……間違いじゃないでしょ。)
(私もですか?)
(私は医療部に所属してる正式なオペレーターだし、リサちゃんの場合は……ケルシー先生のもとで勉強してるから、見習い医師と呼べると思うわ、たぶん。)
そうだったんですね……あっ! お二人は議事堂へ向かうところですね? お邪魔してしまい、申し訳ございません!
本来なら憲兵長にお二人のご対応をいただくべきなのですが、ドデカフォニー通りの方でも憲兵長の力が必要な状況ですので……その……
いや、その憲兵長さんはさっき――
コホン! よし、タチヤナ、彼女たちを案内してあげなさい。私は感染者の状況を見に行ってこよう。
お二方。
――はい?
……君たちの目的はわかっている。だが今は、急務があるんだ。
君たちは、今のウォルモンドの状況を知っているのか?
大裂溝。
……賢い方が相手だと、余計なやり取りがいらなくて助かる。
そう、今ウォルモンドでは感染者住民たちの反発が、これまでにない程高まっている。もし巻き込まれたくなければ、ドデカフォニー通りに近づかないことだ。
私たちは、感染者問題対策の専門家ですよ。
それはわかっている。御社のアント先生とは、かつて深い業務関係にあったからな。
ならば、私たちが力になれるということもおわかりでしょう。
ああ。だがその必要はない。街に来たばかりの客人を巻き込んだりしたら、我々にとっても面倒なことになる。
……では、アントはここで何を任されているんですか?
あっ……
……彼女は今、街にはいない。
ではどこに?
彼女は――
ま、まずい! ケンカが始まっちまってる!
あ、あの感染者たちは武器を持ってるぞ! 一体どういうことだ?
ま、まさか剣も使うのか!? 死人が出るぞ!?
憲兵長!
……ああ。
君たちは、感染者問題対策の専門家、そうだったな?
私と来てくれ。