ウォルモンドの薄暮 TW-3・戦闘前
高塔の花火
こ……これは……
……
ロドスの物資箱で間違いないわ。識別コードも日付もついてる。
……前回の定期連絡のときに、私が送った……
……
フォリニックお姉さん……
火災はどうやって起きたんですか?
事故――元々はそう分析されていました、ですが……
ここには明らかなアーツの痕跡が残っていました。アント先生はとても真面目で慎重な方ですから、危険な可燃物を放置しておいたりはしないはずです。
明らかな発火点は確認できていません。しかしテントの金属支柱は溶けていて、死体も……
あ……
……大丈夫です、続けてください。
……遺体にはテントを離れようとした痕跡も、苦しんだ様子もありませんでした。おそらく皆さん、一瞬で顔もわからなくなる程に……
でも、アント先生や患者たちが逃げる間もないほど、急に火が回るでしょうか。
アーツを使ったとしても、普通の火が残した痕跡には見えません。まるで何か特殊な方法で瞬間的に高温になったような……
亡くなった方の中に、感染者は何人いたんですか?
えっ? えーっと……街の感染者は三人です。皆さんここで治療を受けていた方たちです。ケヴィンさんとビーダーマンさん、エッケハルトさん……他に……
……
……トール、トールワルド。
彼は憲兵長の一人息子で、私の昔なじみでした……感染者ではありませんでしたが、アント先生の手伝いをしていました。
……タチヤナさん、もしあなたにも辛いお気持ちがあるのなら、私たちに打ち明けてみませんか。
えっ? 私はそんな……
いいえ、わかりますよ。この場所は悲しみに満ちていますから。
ここには……たくさんの悔しさと、喜びと、苦しみがあったみたいです。今はもう、全て消えてしまっていますが。
それも……アーツですか?
いえ、似たようなことを、何度も目にしてきたからわかるんです。こんな状況だと皆さん気丈に振る舞いますが、本当はそれじゃダメなんですよ。
私の考え過ぎかもしれませんが、もしタチヤナさんがずっと無理を続ければ、周りの皆さんは今以上に心配しますよ。
こんなときは泣いたっていいんです。誰も文句なんて言いません。
……ありがとうございます。私もわかっているんです。ですが今はまだ……まだ、気を緩める訳にはいきません。
はい――
……わ、私を見ないでよ。わかってるわ、リサちゃんは心配しなくていいから。
はい!
ええっと……あの、ごめんなさい!
えっ? どうして急に……?
……ロドスを出発するときに覚悟はしていたんです。アントは真面目な子で、いつも定期連絡は時間ピッタリでしたから。
オペレーターからの連絡が途絶えることが何を意味するか、私はよくわかっています。ロドスでは何度もそんな別れを経験しました。……でも、アントに関してだけは、信じたくなかったんです。
ふぅ……つまり、あの、さっきは感情的になりすぎました。ごめんなさい。
この事件で何かを失ったのは、ロドスだけじゃないのに。
……八人の遺体が、セベリン憲兵長によって運び出されました。
街には感染者の遺体処理の専門家はいませんので、簡単に埋葬してあげることしかできません……
彼らは……ウォルモンドと共に進むことはありません。街の外の荒野に埋められ、ウォルモンドがこの場所を離れてしまえば、二度と故郷に戻ることは叶わないんです。
本来なら……そんな措置は取らず、私たちの伝統に則って供養したいんですが。
同じ様なことは……色んなところで起きています。
……って、八人? 亡くなったのは八人なんですか?
はい、そうです。先程お話した五人の他は、恐らくここに治療を受けに来ていた、ウォルモンド外の放浪者だと思われます……
大裂溝が現れた際、ウォルモンドは事前の避難ができず、周囲に駐留していた商人や観光客の多くも天災に巻き込まれました……
ウォルモンドもひどい状況でしたが、彼らも大変だったでしょう。荒野を進むこの街を追いかけることしか、選択できなかったんだと思います。
あの時は、多くの難民たちが街にやって来ました。アント先生は……差別などせず、手助けを望む感染者たちみんなを助けてくださいました。
つまり八人の遺体とは、非感染者の遺体が一体、感染者の遺体が七体ということですね……
感染者の遺体は今どこに? 体内の源石融合率によっては、バイタルサイン停止後数分から数時間の内に、二次拡散が起きる可能性があります。専門的な処理を行わないと危険です。
あ、それは……感染が軽く、高温で一瞬にして体組織が破壊されたことから、大きな危険はないとセベリン憲兵長が判断されて……
……専門家はいないのではなかったんですか?
はい、セベリン憲兵長もただ経験に基づいて判断しただけで、そこまでの確信があるわけではないと仰っていました……
経験……感染者の死体処理なんて、どんな仕事でそんな経験を……
ですが、血の繋がった息子を亡くしてもあれだけ冷静でいられるなんて、見た目ほどいい加減な人物ではないのかもしれませんね。
私に感染者たちの遺体を検査させてもらえませんか……アントのことも一目だけでも見られれば。
もちろん構いません、私が憲兵長に説明します。しかしほとんどの遺体は炭化がひどく、誰が誰だか……
大丈夫です――
あっ――!
リサちゃん?
このプレートは……
……アントのIDカードね、焼けずに残ってるなんて……
……そうだ。そういえば……
あの子、仕事のときにIDカードが邪魔だってよく言ってたわね。胸の前に下げてるだけで、どこが邪魔なんだか……
ああ……行きましょう。早く、あの子に会いたい。
爆発音――?
街の方向です!
フォ、フォリニックお姉さん! 誰か近づいてきます!
……ああ?
そ、そのマークは……ロドスか……? お前たち、いつここに……
その装いは……普通の感染者には見えないわね。
リターニア人? それとも前に言ってたサルカズ?
……最近街の周囲に現れた武装集団です。正体不明のサルカズを中心に、現地の感染者たちを大量に受け入れているようです……
彼らは――「マドロック小隊」と名乗っています。