ニアーライト NL-8・戦闘後
最後のケシク
わっ……!
マリア!
無茶をするでない!
……でも、フォーゲルヴァイデおじさんだって……手が……
この程度、これまでにもあったことじゃ。わしは慣れておる。
……勝負はついた。お前たちの力は我が想像を上回り、この怒りを辛うじて鎮めるに至った……
末裔の血に免じ、命までは取らぬ。だが今は、我が天路から去るがいい。
……お主はどうあってもマーガレットと私闘をしたいようじゃな。
……否。中断されし決闘の続きを行うのみ。
なぜそんなことをする?
そこまで固執し、そこまで……狂気に苛まれておるのは、何を求めてのことなのだ? お主の追い求めるものは、何だと言うのだ?
お前にはわかるまい……
わかってたまるか! その伝統とやらのために、お主は生活と、目の前のすべてを捨てたんじゃろうが! お主の行動には何の意味もないんじゃぞ!
我が生の意味は我が定めるもの。貴様の承認が必要か?
わしはただ、お主が狂気の中に囚われておるのを見てはいられんだけじゃ。そも、「天路」が成人の儀だと言うならば、お主はただの小僧に過ぎぬというのに!
……! くだらぬ話は止めよ。そこを退け。
ハッ、ならばわしを倒すほかあるまい。
――後悔するなよ、老いぼれ!
――!
何をしておる、マリア! お主はケガを――
……あなたの感情がそんなに大きく揺れたのは初めて見たよ、ナイツモラさん。
……
――「騎士の盾は、他者を守るためにある」。これは、お姉ちゃんが教えてくれたことなの。
……私の信念が借り物だって言われたことには、確かに返す言葉もないよ。
それでも……照らしてもらった道を歩むことを、臆病な行為だと言うのなら――それを照らし出す騎士なんて、何の意味もなくなってしまうから!
貴様が騎士について語るのか――
――悪いけど、今の私は騎士じゃないの。ただ、お姉ちゃんを守りたいと思ってここに立っているだけ――
――だから、あなたみたいな道理のわからない人に、お姉ちゃんの歩む道は邪魔させない!
これは……アーツか? だが、騒ぎ立てるほどのことは――うん?
マリアの頬を流れる血が、アーツの光に照らされた。
それは脆弱で小さく、ナイツモラには、全力を出せばこのペガサスを殺せるという確信があった。
そう――彼は、確信していたのだ。
しかし、なぜ……この瞬間、少女の頬を染めた鮮血が、金に輝いて見えたのだろうか?
……アーツの光が、血を金色に見せたのか?
だが、歴史書に記されるほどのペガサスが、斯様な弱者であるはずがない……単なる偶然であろう。
フォーゲルヴァイデおじさん、先に戻ってて……ここは、私が引き受けるから。
馬鹿なことを言うでない! あやつは、本当にお主を殺すつもりでおるのだぞ――!
大丈夫。
私が、あの人を止めてみせる!
……
……えっ? どうして、急に背中を向けたりなんて……
……ペガサスよ。
借り物の信念では決して、強者にはなれない。それを真実、固く信じ抜かぬ限りはな。
なれど、貴様はそれを信じてはおらぬだろう。
……
献身に、犠牲……
貴様のように……生まれながらにして、そうした自己破壊的な美徳を有する者も在るか。この邂逅は私にも学びを与えたと言えよう、ペガサスの末裔よ。
……ともすれば……
……いや。
――耀騎士に伝えよ。貴様との決闘は未だ終わりではない、とな。
……
ともすれば何だと云うのだ?
「貴様と同じ環境で育っていたら、私も同じ選択をしていたかもしれない」?
――腑抜けたことを考えるな、トゥーラ。
軟弱になってはならない!
……耀騎士に、血騎士か〜。あっという間に、メジャーも白熱してきちゃったわね~。
ポイントだけ見れば、耀騎士の決勝進出はほとんど確実でしょうけど……
……あなたは、あんまり嬉しそうじゃないみたいね?
……本当に。
だけど、連合会がどんな陰謀を企てていようが、監査会とドクターなら、ニアールさんが困難を乗り越えられるように助けてくれるって信じてるわ。
ただ、本当に商業連合会だけが問題なのかは気になるところね……彼らの得意分野は、自分たちの手を汚さずに、ただ種だけを蒔いて……それが芽を出すのをじっと待つことなんだもの~。
……抗議の声は、多く上がってくるでしょうね。
ふふっ……でも血騎士の時だって、そうだったでしょう?
だけど彼がトロフィーを掲げて、歓声と札束がみんなの視界を埋め尽くしたあとには……そんな抗議のことなんて誰も覚えてなかったわ。
民衆はすぐに過去のことなんて忘れてしまうの。だから、勝ったのが誰だろうと、その人が「感染者」の代わりに声を上げれば、全部解決しちゃうでしょうね~。
カジミエーシュは、チャンピオンを歓迎するのが当然だもの。
それって……血騎士との試合のことかしら~? ううん、あなたはそんな浅い話なんてしないわよね……
……ともあれ、何があろうと、あなたとニアールさんなら困難を乗り越えられるって、あたしは信じているわ。
ところで、アーミヤと医療オペレーターたちは?
今日もしっかり、感染者騎士の検査と治療を行ってくれてるわよ。
あの働きぶり、誰の目から見ても、ロドスがとびきり優秀なのは明らかね。大騎士長があなたたちにここまで信頼を置く理由も、理解できるわ。
で・も~……今あなたのそばにいるのはあたしなのに、あたしのことは気遣ってくれないのかしら~?
ちょっぴり傷ついちゃうわ~。
確かに、君の協力には感謝しなくては。
感謝、ねぇ……具体的には、何に感謝してくれるの~?
そのくらい当然のことよ~。それがあたしのお仕事だもの。命令を受けたからには、身を粉にして働いてあげるわぁ。
……素知らぬ顔でドクターの感謝を受け取っちゃいたいところだけど……あたしに伝えられることなんて、大騎士長が許可してくれたことだけなのよ~。
だから、本当にロドスを助けてるのは、あの人なの。
あら。それじゃ、あたしたちの会話って、あなたにとっては単なるお喋りだったの?
ふふっ。本気でそう言ってくれるなら、いくらでも付き合ってあげるわ。
それで、ドクターはその感謝の印に何をしてくれるのかしら~?
うふふっ……素敵な提案ね。あたし、実はずっとモデルさんになってみたかったのよね。
だって、いつもは鎧ばっかり着てるんだもの。あたしだって女の子なのに、こんなの、うんざりしちゃうわ~。
まあ……昔のあたしには、こんなこと考える権利自体、ないに等しいものだったんだけど。
趣味~?
あんまり考えたことなかったわ~……普通のカジミエーシュ女子って何が好きなのかしら? グルメ? お化粧品とか? ん~……騎士の話で盛り上がる、とかなら遠慮したいところだけど~……
でも、そうねぇ……ファッションには興味があるわ。いつも鎧を着てばかりだから、段々気が滅入ってくるのよね~。
あたしみたいな征戦騎士は、私服を着る機会なんて滅多にないんだもの。
ドクター……自分が何を言ってるかわかってるの~? 「何でも」するだなんて言葉はたとえ拷問されてる時でも、一番最後の手段として取っておくべきだと思うけど~?
あんまり横着して選択を他人任せにしてると……任せた相手が、予想外の行動に出ることだってあるのよ?
ところで、ドクター……ちょっとそこに座っててもらえるかしら?
わかった。
目を閉じててね? あなたの目が傷ついてほしくないから。
それじゃあ、次はぁ……
――ドクター、まだ目を開けちゃダメよ。
無冑盟の殺し屋なんて見ちゃったら、カジミエーシュから無事に帰れなくなるかもしれないしね~?
......
……アンタ、普通の征戦騎士じゃないね?
あら。暗殺者になれるのは無冑盟だけだなんて、思わないことね。
動くなよ。少しでも動けば、オマエの喉を掻き切る。
それはできない相談だわ~。あたしは、死んでもドクターの安全を守らないといけないから。
相手はただのよそ者でしょ……一人の騎士が命を懸ける価値なんて――ん?
その腕についたバーコード……アンタ、買われた奴隷の身で、部外者にそこまで忠誠を誓う必要なんてあるの?
残念だけど、あたしは今、自分の意志でドクターを守りたいと思ってるのよ。
……なるほどね。監査会がロドスにオマエみたいなお供をつけておいたのは……最初から、ロドスの手を借りて零号地を調査するためだったってことか。
あたしたちが利用してるみたいな言い方はやめてちょうだい。
……アンタが、ロドスの「ドクター」? そばにコータスの女の子がいるはずだって聞いてるけど……
私、子供に手出しするのは嫌いなんだ。だから、アンタを始末しとけば、それでいいよね?
残念だが、そのアーミヤこそがロドスのリーダーでね。
ついでに言うと、彼女を甘く見るのはやめたほうがいい。
ドクター、先に行っててくれる? ここはあたしが引き受けるわ。あなたはアーミヤさんを連れてこの場を離れて、監査会へ――
……言っとくけど、私一人で来たわけじゃないからね。
無冑盟の人員が、ひそかにここを取り囲んでるんだ……もう逃げられないよ。
……大丈夫よ、ドクター。あたしがいる限り――
――っ、ドクター?
……護衛の前に立つなんて、どういうつもり? 自分の命を差し出して他人を守ろうってわけ?
ほーんと感動的だね。でも、私にも任務があるから。
その任務というのは、常務取締役からの指示か?
……え?
恐らく、理事会から直接受けた命令ではないはずだ。
何言ってるの……?
確かに、ロドスの存在は彼らを恐怖させたのだろう。
……それで?
座って一息ついてみないか。
……アンタ、自分が何してるか本当にわかってんの?
そこの征戦騎士に邪魔されようが、私には――
――いや。君にはできない。
……
……!
今の音……電話……?
……
……セントーレアか?
……!
プラチナ、動揺せずともいい。
君がまだロドスのリーダーを手に掛けていなくてよかった。
撤退してくれ。伝達内容に誤りがあったんだ。功を焦った愚か者たちが、理事会を通さず無冑盟に命令を下したらしい……
それから、零号地での「不要となった感染者」への処理もやめさせるように。彼らはまだ、価値を生み出すことができると、ロドスが教えてくれたのでね。
連絡は以上だ。
……
……全部、アンタの計算通りってこと?
一体どうやって……
一部の人を味方につけ、そうでない人々に対処しただけだ。
本当に難しいのは、敵と味方の選び方だ。
話の通じる友人がいてくれて幸いだった。
……では、零号地のことはどうするんだ?
感染者たちがここまで多くの暴動を起こした直後に、二人の感染者騎士が勇姿を見せてしまうとなると、不確定要素が多すぎる。
このタイミングで、零号地の感染者に対する処理が明るみに出てしまえば……
おそらく、メリットもデメリットもあるでしょうが……
「おそらく」、なんてそんなあやふやなことは許されないんだ。良きにしろ悪しきにしろ、我々が求めるのは「すべてをコントロールすること」なのだから。
……ほかの方法も、用意してあります。
万一に備えて、無冑盟を向かわせておきました。
……こんなんでアンタを見逃せって言うの?
部外者のアンタに、無冑盟の存在を知られたっていうのに……
……あんまりしつこくすると見苦しいわよ? プラチナさん。
……
……ドクター! 今日の物資輸送の件ですが――
あっ、ご来客中でしたか? す、すみません……
……大丈夫。入っていいよ。
無冑盟と征戦騎士を同じテーブルにつかせてお茶をするなんて……ドクター、あなたって本当に型破りな人ね~。
では、失礼して。ドクター、こちらへ来ていただけますか? この書類、ドクターにもサインをお願いしたいんです。
(あれがロドスのリーダーか……今、手を下すとしたら……)
それは単なる想像にすぎなかった。
すぐ近くにいるグラベルでさえ殺気の一つも感じないほどだった。当然だ、所詮はただ想像なのだから。
しかしそうであっても、プラチナはやはり迷いを感じた。そしてそれと同時に、自分は運が良かった、とも思っていた。
任務完遂にこだわらなかったのは幸運なことだったのだ。
そう思うのは、彼女がその小柄なコータスから何か予感めいたものを感じ取ったからだ。
仮に、手を下そうとしたならば――自分は本当に無傷のまま矢を引き抜けるのだろうか?
それとも、その前に――
……? あの、どうかされましたか?
いや、何でもない。ごめん。
今日は、これで帰るとしようかな。さっき壊したガラスは、修理してもらえるように手配しとくよ。
アンタ……ロドスのDr.、だったよね?
アンタのこと、覚えたから。
……ドクター、グラベルさん、もしかして何かあったんですか?
……いいえ。
ちょっとお茶してただけよ。
……プラチナ様、お求めのものが手に入りました。
ほんとに見つけてくれたんだ。
はい。ロドスと監査会の間で使われている通信周波数を探り当て、それを手がかりとして特定した情報です。
こちらが、オペレーター・ニアール……耀騎士の、本当の身体検査報告書です。
……
えっ……?
耀騎士は……感染者じゃ、ない……?
カジミエーシュ騎士メジャー会場へよ~~こそ! 私は皆さんお馴染みのビッグマウスモ~~~~ブです!
本日の注目カードである、血騎士vs追魔騎士! 我々が幸運にもこの試合を見ることができるのは、追魔騎士のしたミスのおかげでございます! 感謝しておかなければ、ですね!
さてと、今宵幕を開けますのは――比類なき恐怖と実力のぶつかり合い! 強大なる血騎士と伝説の種族、ナイツモラの戦いは、火花散ること請け合いです!
この前の試合において、血騎士と追魔騎士は一触即発の顔合わせを済ませ、そして今! 正式にこの競技場で相まみえました!
これから始まる命懸けの闘争の果てに、勝者だけが栄光を手にすることになります! それではご登場いただきましょう! ――両騎士の――入~~場~~で~~す!!
……
……
現れましたのは追魔騎士! 彼は騎士団無所属、スポンサーからのサポートもなしの独立騎士でございます! なぜこんな優良物件を皆さん放っておくのでしょうか!?
どなたか、彼のために騎士団を作る気はありませんか? きっと大儲けできるはずですよ!
対しますのは――鮮血の王! 人呼んで、カジミエーシュの紅きゴブレット、無情なる勝利略奪マシン、その名に恥じぬ強さの頂点!
血騎士! ディカイオ~~~~ポリス~~~~~!!
……また会ったな、ナイツモラよ。
貴様はまだ、過去の幻影を追っているのか?