火山と雲と夢色の旅路SL-6・戦闘前森の中の小屋
フォントファミリー

フォントサイズ

⌘/Ctrl+
拡大
⌘/Ctrl−
縮小

地図

ヴィクトリアサルゴンミノスシエスタ
クルビアリターニアヴィクトリアサルゴンミノスシエスタイベリア

名前

火山と雲と夢色の旅路 SL-6・戦闘前

森の中の小屋

破産した商人

災難だ、まったくもって災難だ!

これが君のデザインか? 道理で君たちシエスタ人に依頼する者がいないわけだな。観光都市には端っから独自性なんてないんだ。そのうえ、君は真似することさえできないのか!

優雅なヴィクトリアスタイルをこんな有様にするとは。見てみろこのテーブルを、大理石の質感を出せと言ったのに、こんな安い低品質の木材を使うなんて!

貧しい少女

その言葉を口に出す前に、君のくれた予算が人・工・大理石をひとかけらでも買えるかどうか自分で考えてみてよね。

破産した商人

ハッ! いいだろう。アンマイヤーさん、君はまだ自分の立場をわきまえていないようだ。

私がいなければ、君は今頃サルゴンのキャラバンと街をさまよっていただろう! 戸籍のない者がヴィクトリアに紛れ込んだことを今すぐ通報してやってもいいんだぞ。君は一銭も受け取れないぞ!

貧しい少女

あたしだって君が戸籍のない人間を匿って、不法就労させたことを通報したっていいんだからね! ちゃんとお金払ってよ!

破産した商人

お、お前!

フンッ、さすがは愚かなシエスタ人だ。これほどまで下品で無礼だとは……

さすが黒曜石鉱業を廃止するような連中だ。自分で自分の首を絞めるような真似のできる愚かな都市なんだ。お前のような他人を尊重することを知らない市民がいても当然だな!

貧しい少女

(お給料、お給料、言い返すなら、お給料をもらってから……)

破産した商人

ぐうの音も出ないか? お前の悲劇は、お前らシエスタの愚かさに全く気付かないまま、ここでわめき散らして私のことを非難していることだ!

貧しい少女

(タダ働きはダメ。旅費なんだから、旅費……)

破産した商人

ヴィクトリアへの併合を選んでおけば、お前たちはとうの昔に帝国の民となって富を享受し、我らの歴史の一部になっていたんだ! そうすれば今、旅費を乞う必要もなくなっていただろうに……

貧しい少女

……

破産した商人

フンッ、ようやく身の程が分かったようだな。私の高尚な言葉を理解できるだけの頭はあるらしい。

持ってけ、お前の給料だ。ふん、よく数えるんだぞ、これはポンドだからな。どうやって換算するかは分かるか? 私がピンハネするような者だと思わないでくれよ、失礼だぞ。

貧しい少女

そもそも君に礼儀正しくする価値を見出せないよ。

だって、シエスタの歴史について何も知らないし、ご自慢のヴィクトリアの建築史すら少しも理解してないから。それにヴィクトリアの栄光は先祖の功績であって、君とは全く関係ないでしょ。

ヴィクトリアの建築をちゃんと見てきたらどうかな。シエスタの黒曜石が君たちの建築様式をどのように変え、どのように君たちの貴族が憧れる贅沢品になったのかをちゃんと目を開いて見てきな。

視野が狭いのはどっちなの?

破産した商人

お前……!

貧しい少女

採掘場を閉鎖したのは、環境保護のための選択だよ。あたしたちは常に故郷の未来を考えてるの。過去の栄光にすがって、めっちゃケチなくせに尊敬されたいとか思ってるような人と違うから。

あたしは、故郷が新たな命を得る手助けをするために帰ってシエスタを建設するつもりだよ。君はどうなの? ヴィクトリアが今こんな姿になっても、何もしないの?

アンマイヤーは口をゆがめ、手でお札の厚さを示した。

貧しい少女

クルビアの解体作業隊の給料でもこれよりは厚みがあったよ。元雇用主さん。

その自信満々のセンスで、また返り咲けるといいね。

さようなら!


スワイヤー

もう一度確認する必要はあるかしら? どこも壊れてないわよ。

ペリペ

コレクションは無事だし、建物が崩れてなけりゃいいさ。確認の必要はねぇな。

スワイヤー

約束の報酬はちゃんと渡すわ。大体二ヶ月後に、あの展示品級の黒曜石も証明書付きで届くはずよ。

ペリペ

そりゃありがたいな! 期待してるぜ。

コレクターの目は一瞬輝いたが、興奮はあまり長くは続かなかったように見える。

スワイヤー

アンタをこんなに魅了するなんて、黒曜石には一体どんな魔力があるの?

ペリペ

あんたも黒曜石に興味があんのか? ……なわけねーか、もう懲りてるからな。黒曜石の美しさを本当に理解できる奴はごくわずかであって、ほとんどは下心しかねぇ!

もういいさ、俺だってもう話そうとは思わねぇ! 帰った帰った!

スワイヤー

ペリペ・ブラウンさんは、あのシエスタの鉱山王ベアーテ・ブラウンと何か関係があるのかしら?

ペリペ

……

おっかない親父の話はよしてくれ……

スワイヤー

今でもその名前を覚えてる人は限られているかもしれないわね。黒曜石がまだシエスタの主な収入源だった頃はもっと広く知られていたはずよ。

前に資料を調べていた時に彼の名前を見つけたのよ。まさかその跡取りが、今じゃこのエリアの温泉ホテルを経営してるだけだったなんてね。

ペリペ

火山はシエスタに多くの富を残した。黒曜石は当然その一つだが、温泉だって素晴らしいものさ。

親父は一昨年死んじまったよ、鉱石病でな。

生涯採掘場に近づいたことはなかったんだが、クルビアにバカンスに行く途中で、車の源石エンジンの故障で感染しちまった。

スワイヤー

あっ……そうなの。ご愁傷様……

ペリペ

親父は善人と呼べるような人間じゃなかったが、親父の採掘場が少なくない人数に働き口をもたらしたことは確かだ。もしもう少し防護措置を徹底していれば、鉱山労働者に感謝されてたかもな。

スワイヤー

政府が黒曜石の採掘を禁止した際、アンタの一族の採掘場が最も率先して取り組んだと聞いたわ。

ペリペ

仕方ねぇだろうよ。違法なことはしちゃいけないからな。

スワイヤー

そうね。ブラウンさん、今後さらなる協力関係を築いていけることを願ってるわ。アンタのこの温泉ホテルはとても素晴らしいけど、温泉リゾートとして発展させることに興味はないかしら?

ペリペ

やめとくよ。これ以上苦労はしたくねぇ――今回よりもさらに俺が断れない条件を提示してこない限りな。たとえば、もっとでかくてきれいな黒曜石とかよ。

スワイヤー

ところで……ここの黒曜石のコレクションはどれも丁寧に手が加えられてるみたいだけど、なんで一つだけ全く磨かれてない晶洞があるのかしら?

ペリペ

……おっと、そいつには手を出すなよ。

それは、このホテルの黒曜石を全部合わせたよりも貴重なんだ。


???

アデル。

……アデル?

アデル

(これは……お母さんの手?)

(あったかい……)

(お母さんが、私の肩を撫でてる……)

???

起きるんだ、アデル。

こんな所で寝てはいけないよ、風邪をひくから。

アデル

(そんなことない……)

(お母さんがそばにいてくれれば、あたたかい……)


アデル

……お母さん……

ケラー

アデル?

アデル

……

ケラーは一瞬浮かんだ驚きの表情を即座に元に戻すと、手を伸ばしてアデルの頭を優しく叩いた。

ケラー

目が覚めたか?

アデル

あっ……ケラー先生……

私また……

ごめんなさい、ケラー先生! 少し気が緩んでしまって……

ケラー

……疲れているようだな。

悪い夢でも見たか? どこか、具合が悪いところは?

それとも病が……

アデル

平気です……

アデルは焦ったように自分を見つめる年長の学者を見た。心底心配している様子だった。数日間共に過ごしてきた中で、この厳かな学者がここまで優しい姿を見せたのは初めてだ。

アデル

ケラー先生……教えていただけますか……

あの時、ヴィルヘルム大学で、一体何が起きたんですか……?

ケラー

……

質問がよく分からない。アデル、君は何を聞きたいんだ?

穏やかな生物

いいえ、アデル。私たちはもう行かないと。

厳かな生物

そうだ、時間が来た。

アデル

……どこへ行くんですか?

穏やかな生物

雨が降る前に火山へ。


アデル

雨……

ケラー

ん?

アデル

ケラー先生……「雨」には、空から降るもの以外に何かほかに意味があるんですか?

ケラー

……

沈黙。

ケラーは唇をきつく噛みしめる。何か言いたげな様子であったが、ついに喉元まで出かかった言葉を飲み込んだ。

ケラー

アデル……今回の観測を終えたら、全てを話そう。それでいいか?


アデル

ドリーさん、ちびめーちゃんは一匹一匹が特別だって言ってましたよね。ただの分身ではないんでしょう……?

あの夢は、本当に夢なんですか?

「北風」と「種」は見つかりました。もしも最後の「毛皮」を見つけられたら、答えを教えてくれますか?

なんだか、みんなが何かしら私に隠してる気がします……

返事はない。

ある種の悪戯っぽさを含んでいた以前の沈黙とは異なり、何かが自分のそばから消えたのをアデルは確かに感じた。

アデルは誰もいない展示ホールをぐるりと見渡す。数日前に彼女が取り戻したサウンドストーンは元の場所に置かれており、微動だにしない。

アデル

ドリーさん?


放送の音

親愛なるシエスタ市民の皆さん、おはようございます。今日は1099年8月21日です。

湿度は63%、視程距離12キロ、南南西の風が吹いています。最新の火山噴火予想日まで、あと三日です……

いよいよ、素晴らしくエキサイティングな瞬間が間近に迫りつつあります。皆さんの気分はいかがですか? 貴重な瞬間を誰と共に見届けたいですか?

旧シエスタに忘れ物はありませんね? もしあるとすれば――残念ですが、もう手遅れです! 引っ越しの時にうっかりするのってありがちですよね。だからと言って取りに戻らないように!

いずれにせよ、悪いことばかりとも言えません。背負った荷物を投げ捨ててこそ、より身軽に未来を迎えることができることもありますからね。

『You Go Your Way』!

それでは、ザ・コーラルのこの曲で良い一日を始めましょう。

慌ただしい声

おい、気を付けろよ、看板をしっかり持て。少し重いから、落とすなよ。

疲れた声

こんなボロい看板なんだ。どうせ全部撤去するなら、切ってから下ろすのじゃダメなのか?

慌ただしい声

ダメだ。店を取り壊すにしても、斧で看板を叩き切ったことを知ったら、モッキンバード爺さんがきっと甦ってお前を殴りに来るぞ。

文句言うなよ、三――二――

男の子

おじちゃん、この楽器、全部割引してるの?

楽器屋店主

そうだ、全部最安値だよ。

ちっと惜しいけどな。街の中心部に持ってっても売る機会はもうないだろうし、使わない楽器が一番意味がないだろ。

どうだ、一つ買っていかないか? 自分のギターが欲しいってずっと言ってただろ。入門テキストも一冊おまけするぞ。

男の子

割引されても……百五十金券か……エニスは一時間働いて三金券しかもらえないって言ってたから……

も……もうちょっと考えてみる……

アイス屋店主

どうせ、次のとこには持っていけんのじゃろう。だったらその楽器をみんなで楽しむのはどうじゃ。

わしらもこの通りが空っぽになる前に、何か記念になることをやりたいんじゃがのう。

楽器屋店主

酒を飲むか? それとも海を見るとか、花火をするとか?

アイス屋店主

昔一緒に酒を飲んだ鉱山労働者や、この通りのほかの店主たちに声を掛けるとするかのう。家族や友人を連れてくるよう言って――

楽器屋店主

火山噴火の前夜に、みんなで一緒にパーティーでもやるか? あっちのまだ空いてる区画がちょうどいいだろう。コンテナパーティーなんて、なかなかイカしてるんじゃないか。


エニス

こんにちは、コスタさん。

コスタ

おう、ホワイト・ヴォルケーノのとこの。何してるんだい? 家の店番をしなくていいのか?

エニス

うちの店も移転の準備をしてるっす。

今は商売にならないんで……外に稼ぎにこないと、食べるもんもなくなっちまうんでね。

モッキンバード爺ちゃんのこと……本当に、ご愁傷様です。

コスタ

年を取れば、みんないつかはその日が来るさ……

爺さんは今頃違う場所で、別のやつに自分のコーヒー論でも話してるかもな。

そんな他人行儀になるなよ。何年か前までは夜になっても眠らなくてな、どうしても夜間ライブで俺の演奏を見ると言って聞かなかったくせに。昔みたいに、コスタと呼んでくれ。

エニス

たしか、「うるさいコスタ」って呼ばれてましたよね。

コスタ

うるさいのは卒業したよ。エレキギター、ベース、シンセサイザー……どれもとっくに売っちまった。

エニス

実は俺も大人たちにくっついて、音楽祭会場に紛れ込んでたのがすごく懐かしいっすよ。あれはサイコーの時間でした。

コスタ

もう少し大人になったら分かるよ。最高の時間なんてものはないってな。

時間なんて全部無駄に費やされるんだ。無駄に費やした後に記憶の中から引っ張り出して、そいつが被った埃を払ってやって、やっと最高の時だったと嘆くことができるんだ。

今思うと……当時の俺は、本当に爺さんをとんでもなく怒らせていたな。

シティホールの職員は目を細めて通りを走る車に目を向けた。視界にいくつかの影を残して、車は大きな音を立てて過ぎ去った。

コスタ

だからな、エニス、もし今やりたいことがあれば、遠慮なくやるといい。見慣れた物事がすっかり変わっちまってからまた始めても、その時にはもう遅いんだ。

エニス

……そうします。

エニスの肩を軽く叩くと、コスタは深く息を吐き出した。

コスタ

……商店街の住民たちは、おおむね再建計画に合意してくれた。俺の仕事もひと段落だ。これもまた、悪くない落としどころだよ。

人生ってのは続いていくもんさ。


アデル

おかしいなぁ……

ここまで来る途中に、ちびめーちゃんたちが一匹もいなかった……

穏やかな生物

私たちはもう行かないといけないわ。

厳かな生物

そうだ、時間が来た。


今日の街は、いささか度が過ぎるほど静かだ。

アデル

もしかして、全部……ただの夢だったのかな?

ううん……あの手紙も、あの石も、それに空飛ぶサーフボードも、本当だった……

アデルは、ここ数日に起きた奇妙な出来事が本当に存在した証拠を必死に思い返す。だが、彼女が記憶を掘り起こすほどに、記憶の輪郭はぼやけて現実味を失っていく。

アデル

ドリーさん――

いますか?

ドリーさん?

ドリーさん――

まだいますか――

少女の声が風の中に溶ける。


セイロン

血液結晶密度に少し変動がありますが、基本的には正常の範囲内と言えますわ……

突然気を失うとおっしゃっていましたけれど、具体的に何があったか教えてくださる?

アデル

鉱石病で……幻覚を見ることはありますか?

セイロン

理論上はその可能性もありますわ……何を見たんですの?

アデル

たくさんのちびめーちゃんが……いや、黒い羊が見えました。しかも私に話しかけてきたんです……

それに……理由はわかりませんが、私はその子たちに会ったことがある気がするんです……

セイロン

それは……話を聞く限りでは、大きなストレスによるものだと思われますわね。

でも妙ですわ。年配の鉱山労働者が診察に来た時も似たような幻覚について言っていましたのよ……

もう数日様子を見るとしましょう。しばらくの間は時間通りに薬を服用し、なるべく安静に過ごしてくださいまし。また幻覚や他の症状が出た場合は、すぐにわたくしの所へ来るようお願いしますわ。

アデル

はい……

セイロン

はぁ、もし患者さんが全員エイヤフィヤトラさんのように協力的でしたら、医師も気が楽なのですけれど。隣のこの方ときたら、頭が痛くなりますわ。

エニス

……当て擦るのはよしてくださいよ。こうして、いい子にして薬をもらいに再診に来てるじゃないっすか。

セイロン

まあいいでしょう、これも進歩ですものね。わたくしからの応援として、今回の診察料はいただかないでおきますわ。

エニス

マジっすか!?

セイロン

ですが、一つお聞きしたいことがございますわ。

数日前に商店街の片隅で、かごに入った黒曜石を見つけましたの。周囲のお店は自分たちのではないとおっしゃっていましたけど、貴方はこれの出所について何か心当たりはありませんこと?

エニス

それは……

アデル

その黒曜石……色と質感からして、前にエニスさんが私にくれたものとよく似ています……同一時期に火山から採掘されたものである可能性が高いです。

エニス

誓って言いますが! 俺が採ってきたんじゃありませんからね! 感染してから火山に近づいたことはないんすから!

セイロン

つまり、他にも無断で黒曜石を採掘している人がいるということですわね。

エニスさん、この件についてほかに何かご存じですか?

エニス

えーっと、何も知らないって言えば、嘘になるかなーなんて……

セイロン

誤魔化しがきくと思わないでくださいまし。委細漏らさず話してください!

エニス

セイロン先生、アンタが市長さんの娘だってことを知ってる労働者もいるんすよ。ここの診察も他に手がないからきてんのに、黒曜石の違法採掘してる人まで調べ上げようとしたら……

無断採掘は確かに間違ってますよ。けどこんなやり方じゃあ……衝突が起きちゃいますって……

セイロン

わたくしはわたくし、市長は市長、なぜそうやっていつもわたくしと父を関連付けるのかしら?

わたくしが戻ってきたのは、自分の知識でシエスタのために何かをしたいと思ったからですわ。ここにロドスの事務所を建てたのはわたくしで、父とは何の関係もありません!

エニス

(セイロン先生、ヘルマン市長が嫌いみたいだな……)

アデル

(セイロンさん……お父さんとの関係が良くないままなのかな?)

セイロン

ふぅ……

とにかく、この黒曜石が誰の物かはご存知なのでしょう? わたくしをその方たちに会わせてください。

エニス

なんか裏切り者になった感じがありますけど、みんなのためだと思えば仕方ないか……

分かりました……いいっすよ……

アデル

私も一緒に行きます。黒曜石を見分けるのならば、役に立てます!

セイロン

いけません。貴方は前回こっそり逃げ出してしまいましたもの、今回はここで十分休んでからでないと出しませんわよ。

エニス

え? じゃあ俺は……?

セイロン

……貴方には、ご飯をごちそういたしますわ!


夜の闇が街を覆う頃、アデルは事務所から出た。

一匹の黒い羊が事務所の入り口に立ち、閉まったドアをぼうっと見ていた。

アデル

あれ、また幻覚かな?

どういうことだろう、休んだばっかりなのに……

はぁ……

アデルはその黒い羊を避け、自分の宿泊先に帰ろうとした。

黒い羊が振り返り、ぽてぽてと歩いてくる。そして首を振ると背中の鉱山用ランプが灯った。照明は明滅して光り、アデルの足元の道を照らした。

アデル

……?

アデルは足を伸ばし、黒い羊の背中にある明かりによって照らし出された自分の影を踏んだ。

アデル

本当に光に照らされている……?

彼女が振り返り、ためらいがちに手を伸ばすと、暖かくて柔らかい毛に触れた。

アデル

幻覚じゃない?

……あなたのことは前に見たことありますよ。手紙の住所を食べたちびめーちゃんですね、背中のそれは……鉱山用のランプ?

ランプを背負った生物

……