灯火序曲 幕間
遺された灯台
p.m. 2:18 天気/晴天
イベリア以北 海に面する荒れ果てた都市
予定の座標に到着。
目標建造物の外見は事前調査報告書の内容と一致。
これより小隊が建物内に進入し初期調査を実施。その間、おそらく通信途絶と予想。緊急時には信号弾を使用。ご注意くださいまし。
報告はアズリウス、オーヴァー。
ここに入り口がありますわ。うーん、元々あったものではなさそうですわね。
お粗末な仕事ですこと。縁を斧か何かで無理やりこじ開けたような跡ですわ。バウンティハンターかしら? この辺りへ「宝探し」に来る輩もいると耳にしましたわ。
彼らのほとんどは、イベリア人ではありませんからね……
そうですわね。何とか逃げ出した人々にとっては、このような遺跡は「毒性」が強いでしょうし。
残った人々……教会と、裁判所。彼らもここへ来ることはおそらくないでしょう。
彼らは、やるべきことを多く抱えていますし、そもそもこういったものを見たくはないはずです。
……子供の頃の私が、自分の足を見たくなかったのと同じように。どれだけ強く踏ん張っても、走ることができない――今のイベリアは、こうした「壊れた部品」から目を背けています。
グラウがそうやって自分に喩えたりすると、思わずイベリアに同情しそうになりますわ。
うーん、今のは冗談だってよくわかりました。
電磁パルスアンテナ、解放。
で、上へ向かいますの? それとも下へ?
あなたに従います。
私は上に行きたいですわね。なぜかはわかりませんが、上へ行くべきだと思いますの。ここはまるで……塔のようですから。
塔ですか? それほど高くありませんよ? 地上に見えているのはせいぜい三階程度です。こんな高さで何の役に立つでしょうか。
では、下へ行きましょうか。
え?
あなたの意見は的確ですわ。下はどれほど深いのか、わかりませんもの。
では下へ向かいましょう。アズリウスさんについていきます、背中は任せてください。
あら、グラウにそう言ってもらえると安心ですわね。もちろん戦う必要がなければそれが一番ですけど。
うーん、中はとても暗いですわね。
照明システムが完全に壊れています。
あなたでも直せませんの?
これは数十年前のイベリアの技術です。レイジアン工業の設計とは構想の方向性が大きく異なります。数日頂ければもしかしたら……
ならやめましょう。修理できるかどうかは、クロージャさんや後続のエンジニアチームにお任せすればよろしいですわ。私たちがこの地下の墓穴にとどまる必要はありません。
墓穴?
ものの喩えですわ、あるいは事実なのかもしれません。この建物の中は死の臭いが充満していますもの。
何十年も海水に浸り、土に埋もれ、荒れっぱなしで――
シーッ。
え?
静かになさって……幽霊の声が聴こえませんこと?
ゆ、幽霊……?
思った通り可愛らしい反応ですわね。冗談ですわよ、そんなに強くつかまないでくださるかしら? この新しい服、結構気に入ってますのよ。
……やはり携帯源石灯を点けましょう。
これで明るくなりましたわ。
ふむ……
この遺跡の技術が随分気になっているようですわね。
海辺の古い都市にしかない技術です。現在のイベリアには、見たことがある人すらほとんどいないでしょう。
一体……何の目的で使っていたのでしょうか。
展望台? 信号の中継? エネルギーの生産? それとも……ただの観光用?
人を監禁するための場所かもしれませんわね。
……たしかにそれもありえます。
過去のイベリアに思いを馳せている方々は、失われた技術や、埃をかぶった黄金にしか目を向けませんわ。
でも、あの最も輝かしい時代の――黄金都市の下には、たくさんの骨が埋まっているんですのよ。
ごめんなさい……
なぜグラウが謝るんですの? 私の祖先を捕らえてイベリアに連れて行ったエーギルたちは、波で腐食してとっくに骨すら残っていませんわ。
私は、イベリアのこともエーギルのことも嫌ってなんかいません。それどころか今の私は、自分のこともさほど嫌いではなくなったんですのよ。これもすべて、ドクターとグラウのおかげですわ。
これらの技術は……あなたに嫌な記憶を思い出させませんか?
私が関心を持っているのは、この場所がロドスにとって有用であるか否か、それだけですわ。
つまるところ、それこそが私たちがここにやって来た目的ですわ。そうじゃありませんこと?
……その通りです。環境調査とデータ解析を行い、回収可能部分を特定するのが任務ではありますが――
うーん、バラバラにされていますね。ただ単に老朽化や環境による影響なら、部品がここまで徹底的に破壊されることはありません。
これを見てください、すっかり吹き飛ばされています……あっ。
どうなさいました? 突然フランカーを構えたりして……
ゆ……幽霊がいます!
幽霊? ……前の通路に見えるあの人影のことかしら?
動きませんわ、どうやら生きてはいないようですわね。
あの格好……バウンティハンターかしら。
入り口からそう遠くありませんわ。扉をこじ開けて中に入った後、ここで死んだのかもしれませんわね。
ああ、なるほど。
お待ちになって。近づかない方が無難ですことよ。
え?
彼がどうやって死んだのか、確認できていませんもの。
何か危険があると?
バウンティハンターともあろうものが、入り口からこれほど近い場所で死んでいますのよ?
彼の命を奪ったのは、厄介な代物かもしれませんわ。
うん……
もう少しお下がりになって。
これは……海水の匂いですわ。
海水? 海岸はここから近いとは言えない距離ですが。
……
まさか……
アズリウスはグラウコスにその場を動かないように念を押し、歩みを進めた。死体から一メートルほど離れた場所にしゃがみ込むと、念入りに観察し始める。
……ただの海草ですわね。
骨は揃っていますわ。噛まれた跡もなく、致命的な外傷も見当たりませんわね。
(クンクン)
一般的な毒物の痕跡もありませんわ。
この体勢から判断するに、海草に絡まって溺死したようですわね。
でも水なんて見当たりませんよ、どこも乾いています。
壁に海水による腐食の跡がありますでしょう?
ええと……程度が異なる腐食の痕跡が二種類あります。
つまりここは、二度浸水した?
おそらく第一波でこの建物は海水によって破壊され、すべての機能を失った。そして第二波で海水が押し寄せた際、完全に水に沈んだのですわ。
そしてこの不運な方は、ちょうどその第二波の浸水のタイミングでここへと押し入り、一儲けできると喜びながら壁の装飾品などを取り外していたのでしょう。
水が満ち始めた時には、もう逃げる暇がなく、さらには手足が海草に絡まり、もがいた末に命を落としたというわけですわね。
彼の不注意だと責められませんわね。クランタですもの。
……可哀想に。彼らは海の恐ろしさを全く知りません。
ドクターがおっしゃっていましたけれど、海に関する研究は、少数の海洋学者にしかなされておらず、内陸のほとんどの国々において研究の主題として好まれないものらしいですわ。
でも、それも不思議なことではありませんわね。人々は目に見える範囲で、かつ征服可能なものにしか興味がありませんもの。
……かつてのイベリアを除いては、ですけれど。
それも過去の話です。私ですら海は見たことがありません。
ですから……あなたがなぜそこまで海の匂いに敏感なのか、私にはよく理解できません。
そうですね……あの噂を聴いたことはあるかしら?
あの噂……?
例の、「災い」についてですわ。
私たちは……それについて話すことはありません。イベリアでは、禁忌とされていますから。
あなた方は、口をつぐむことが染み付いておりますのね。
慣習を変えるのは難しいことです。ロドスでも、私たちが……故郷の話をすることはほとんどありません。それに、あの出来事やあの場所に対する思いは、みんなそれぞれに違いますから。
時々、ウィーディと話すことがあります。私たちは共にイベリアで生まれ育ったエーギルですが、彼女にとってのイベリアは、私の目に映るものとは完全に異なります。
それは当然じゃありませんこと? 語り合うことを禁止されてしまえば、人々は自分の目に映った物事の断片しか、記憶として残せませんもの。
彼らは……人々がその断片を繋ぎ合わせる機会を故意に断ち切ったのですわ。
……今は私たち二人しかいませんし、普通なら話せるのでしょうけど……でも私はできません。話そうとするとなぜか喉が詰まるんです。
それを話した瞬間に、この通路に映っている影が襲ってくるのではないかと、恐怖を感じてしまうんです。
……ただの源石灯の影であることくらいわかっているのに。
影……言い得て妙、ですわね。彼らは人々の視線を巧みに逸らし、影を恐れさせたのですわ。その背後にある巨大な真相ではなく。
ここは寒いはずなのに……汗が滲んできました。
以前の私なら、自分がこの場所に立って、あなたとこんな話をすることなど想像もしませんでした。
私もですわ。
きっと、この真っ暗で閉鎖的な建物が、私たちを守ってくれているんですのよ。
ここには死体が一つ、通路の先に何があるかはわかりませんわ。でもここはなぜか、ひらけた場所なんかよりずっと……安心させてくれますわ。
壁が近くにあることで、目に見える範囲すべてを掌握している錯覚を私たちが得ているからですわね。
そうですね。少なくともここには、こちらを見つめるような第三の目がないということがわかります。
あら、そうとは限りませんわよ?
もうこれ以上からかわないでください……
まあ、冗談はさておき、話を戻しますわ。実際の話、これらのことについて話さぬよう定めたのは、裁判所ではありませんわ。陸に上がってきたエーギルが決めたことですのよ。
え?
最初はおそらく、ただの自己防衛のためだったのでしょうね。
自己……防衛?
あなたは、なぜエーギルが陸に上がってきたかご存じ?
いいえ……知りません。私たちは最初からイベリアにいたと思っていましたから。すべてのイベリア人がそう思っているわけではないのでしょうけど。
実は、私もよくわからないんですのよ。
そうですか……でもあなたは私たちよりも多くを知っています。
おかしな話ですわね。こうした歴史がエーギルたちの間から徐々に消え去っても、私たちはまだしっかり覚えているだなんて。
私の祖先は百年以上も前に、エーギルに連れて行かれましたのよ。彼らが当時欲していたのは、私たちに生まれつき備わる「毒物」の能力ですわ。
それは……どうしてですか?
彼らは、この陸地の奥深くからやってきた私たちの毒素を、武器として利用できないかと考えたのですわ……私たちの体からひたすら毒を抽出し、実験を繰り返したんですのよ。
それを使って、彼らは何に立ち向かおうとしていたんですか?
知りませんわ。見たことがありませんもの。けれど、私たちの祖先によれば、それはこの上なく巨大で、陸地には存在しない恐ろしい生物らしいですわ。
海に存在する生物……
その可能性は大いにある、とだけ申し上げておきますわ。
ドクターやケルシー先生、あるいは……彼女たちに直接問おうかと考えたこともありますわ。
前に一度、廊下でスカジにばったり会ったことがありましたの。その瞬間、心の奥底に潜んでいたこれらの疑問が浮かび上がってきましたの。
彼女はきっと答えてくれないでしょうね……
ええ。でも訊くことはできたでしょうね。私が質問しなかっただけですわ。
……真実を覗き見る勇気が自分にあるかどうか、わかりませんでしたから。陸に上がったエーギルと同じようには参りませんわ。
彼らは、数百年という長い時間をかけて、恐怖を忘れ去ることに成功したのですわ……だからこそ彼らは安心して陸地に根を下ろし、ゆっくりとイベリアに馴染んでいきましたのよ。
やっと手にした新生活を手放し、再び終わりのない争いに身を投じるなんて誰ができますの? 「災い」がいつ来るかわからないし、来たとしても、どんなに抗っても無駄になるかもしれませんのよ。
この私ですら、ドクターから多くのことを教えてもらってからは、新たな人生を送れることを願っていますのよ。
では私たちは……ここで引き返すべきでしょうか?
まだ間に合います。
かもしれませんわね。
……でもあなたはそれでも進もうとしています。
ええ、そうですわ。私はそれでも進みますわ。
今思うと、これだけの歳月が経っても、私は一度だって自分の毒の能力を捨て去ろうとしたことはありませんわ。
もしかすると私はずっと、先祖を奴隷のように扱ったエーギルの亡霊に、取り憑かれているのかもしれませんわね。心の奥底で、いつの日か私の毒が倒すべき宿敵に出会う日を信じているのかも。
どれほど下りてきましたっけ。
……覚えていませんわ。
私もです。
この塔は想像よりも深い……いえ、高いですわね。閉鎖的な空間が私たちの神経を狂わせますわ。
あっ、何か見えた気が……幻覚でしょうか?
何が見えましたの?
(まばたきをする)
光が見えました。
……
それが、ゆっくりと上へと浮かんでいきました。
――!
(声を抑えて)明かりを消して!
暗闇の中、白い光がそれほど遠くない場所で揺らめいている。
それは彼女たちの照明による影ではないとアズリウスは確信した。幻覚か、それとも現実か、どちらと捉えた方がより安全だろうか?
(ゆっくりと近づきますわよ。不用意に動かぬよう。)
(敵でしょうか?)
(戦闘の準備を。)
(フランカーの用意はできています。)
(よろしくてよ。もうすぐ接敵いたしますわ。前に曲がり角があります。私の手に注意しておいてくださるかしら? 三回ノック致しますわ。三度目で――)
クロスボウの矢が音もなく空を裂いて飛んだ。
それは正面のぼやけた白い光に命中したかのように見えた。だが、当たってはいなかった。当たる直前に、角度が変わったのだ。
外れたかのように見えるが問題ない。その矢は放たれた瞬間二つに分裂し、予定通りに白い光を取り囲んだ。
しかし次の瞬間、白い光が膨張した。
フランカー、出力最大!
ま、待ってください!
マイクロ波増幅――
私は敵ではありません!
え?
ゴホッ、ゴホゴホッ……痛い。背中に当たりました……すごい衝撃波です……
これ以上は勘弁してください……
本当にやめてほしいのなら、まずはそちらから術を解いてくださるかしら、名も知らぬ術師さん。
えっ、この光のことですか? ち、違います。誤解です。この光はただ照明代わりに使っているだけです……
さっきも無意識に防御しただけです。信じてください、私にあなたたちを攻撃するつもりは全くありません!
たしかにこの光……暖かくて、明るくて、嫌な感じはしません。
グラウ、そう簡単に警戒を解くものではありませんわ。
この女性のアーツは決して弱くはありませんことよ。しかも、特殊なものですわ。
えっ……そうなんですか?
ぶ、武器を向けないでください! それと、お願いですからこの矢を首から少し離してくださいませんか……少しだけで構いませんので……
い……息が詰まりそうで……ううっ……
武器を下ろして差しあげてもいいですわ。
でも、まずはあなたもアーツユニットを捨てていただけるかしら。もし何か妙な真似をしたら……分かりますわよね? あなたが動くよりも私の矢の方が速いですわよ。
わかりました……
少女は、素直にアーツユニットを投げ捨てた。それに伴い、白い光は消滅した。
源石灯をつけてくださる?
わかりました。
その光はあなたたちだったんですね……
あなたの目当ては私たちなんですの?
違います、そういう意味ではありません。
元々、ここから下には私のほかに誰もいません。光が見えたので、誰かが訪ねて来たのだと思い、あいさつをしようと上がってきたんです……
こんな場所に一人でいるなんて、あなたは何者ですの?
あっ、自己紹介がまだでした……えっと、私はアリアと言います。
アリアさん、あなたはイベリア人かしら?
はい。そんなにわかりやすいですか?
当てずっぽうですわ。違ったなら、クルビア、ヴィクトリアと順番に訊くつもりでした。いずれにしても口を割らせる方法などいくらでもございますわ。
急に寒気がしてきました……
あなたはイベリア人、そして術師ですわね。その照明のようなアーツ……あなたは裁判所と関係ありますの?
裁判所? いいえ、違います。私は裁判所の方たちなんて会ったことすらありません。
ではあなたは、何をしにここへ来ましたの?
(何だか尋問してるみたいじゃないですか? 私たちだってここには調査に来ただけですよ?)
(直接尋ねるのが最も有効ですわ。それに彼女も、あまり不快には感じていない様子ですわよ。)
うーん……私が何しにここへ来たか、ですか?
実は私もよくわからないんです……
え? アリアさん、あなたは記憶障害か何かかしら?
そんなことはありません。私がどうやってここまで来て、何日過ごしたかは、全部覚えていますよ。
二日前、地元の方に何かこの近くで仕事はないかと尋ねたんです。お金を稼ぐ必要があって……飢えてしまいますから。
その人は、私の持っていた最後の硬貨を受け取ると、ここに来れば財宝を見つけることができるって教えてくれたんです。
(この人、騙されたみたいですね……)
……
あなた、バウンティハンターと間違えられたんじゃないかしら? この一帯は、多くのバウンティハンターが訪れる場所ですから。
あなたはアーツユニットを持っていますし、見た目も……えっと、裕福な家の出っぽいですもの。冒険を味わってみたいどこかのお嬢様と思われたのかもしれませんわね。
えっ……そうですか? そんな、私のことを誤解して……
(多分誤解じゃありません……ただ単に、騙しやすいと思われただけですよ。)
(微笑む)
そ、そんなにおかしいですか?
いいえ。こちらは私の友人で少し人見知りなんですけど、あなたをとても気にかけているようですわ。
ゴホンッ……
え? そんな……ご心配してくださってありがとうございます! 大丈夫です、私はただ迷っただけですから。ここにも灯台があるのを見て、思わず休みたくなってしまって……
今、何とおっしゃいました?
ま、迷っただけって……
そうではありませんわ。この建物が灯台だとおっしゃいました?
そうですよ。灯台はイベリアではよく見かけるものです。見たことありませんか?
(首を横に振る)
うーん……きっと海辺でしか見かけないものなんでしょうね。外で半年ほど過ごしてきましたが、たしかに海から離れた都市には灯台はありませんでした。
あなたは海辺で育ったんですか?
はい。ここからそう遠くはありません。小さな町で、きっと二人は聞いたことがないと思います。
その町は……今どのような状況ですか?
それなりにうまくやってる……と思いますけど?
町の人口は多くはありませんが、みんな仲が良いんです。先生が、私たちは幸運だったと言ってました。海がもたらした「災い」は、ひとまず私たちの家を見逃してくれたようです。
そう……それは良かったですね。
まぁ灯台を除いて……ですけど。あの日以来、私たちの町の灯台は明かりを灯さなくなりました。
あの日?
ええ。数十年前、最大の「災い」が訪れた……あの日です。
瞬きをするあいだに、イベリア全土の海岸線が一斉に闇に包まれました。
それ以来……光は消え失せました。
アリアさん、あなたは灯台にお詳しいようですわね。
幼い頃から灯台で過ごしてきましたから。
……この灯台と似たものですか?
違います。私たちの町の灯台は、ここよりもずっといい場所です。あまり損害は受けていなくて、ただ信号灯が点かなくなってしまっただけです。
角度調整モジュールに、システム管理センター、エネルギー供給ライン、自動演算コア、外壁用映像投影装置、無線通信装置、どれも問題ありません。
私は先生と一緒に、毎日規則通り、すべてのチェックとメンテナンスをしていました。外壁まで定期的に清掃や修復をしていたんですよ。
やむを得ない経年劣化を除けば、私たちの灯台は、数十年前の状態と変わりない……胸を張ってそう言えます。
すごいですね……
灯台の話をしている時、アリアさんの目は輝いて見えます……きっと私がフランカーの手入れをしている時と同じです。
あなたとあなたの先生は、お二人とも灯台の管理人ですの?
あら、言ってませんでした? すみません、私の先生はまさに栄誉ある灯台の守り人です。
一つの灯台につき正式な守り人は一人しかありません。私の方はまだ……えっと、ただの見習いなんです……
それに今の私は……えーっと、外に出てしまったので、見習いとも言えませんね……はぁ。
外に出て随分と経つようですのに、灯台での仕事内容についてよく覚えていらっしゃいますわね……
毎晩、寝る前に暗唱していますから!
……
アリアさんは、本当にそのお仕事がお好きなようですわね。
私は先生の思い描いた光景を見たいんです。それは先生の先生が、彼女に伝えた光景なんですけどね。
夜の海で、灯台一つ一つが縦横に巡らされた航路を照らすんです。
遠くには壮大な掘削場や海上要塞の灯火が瞬いて、昼間よりも明るく煌々としていて、近くでは大小様々な船が自由に行き来して、どんな陸地の都市よりも賑わう……
海岸近くまで来れば、イベリアのエーギルが大陸棚近くに建設した水中都市も見られるんですよ。
――
これらのすべてが、イベリアの海岸線にそびえ立った何千もの灯台によって見守られているんです。
ですが、「災い」によってエネルギーシステムが破壊されてしまいました。今は以前のように光を放つ灯台は一つもありません。
しかし、先生と私はそれでも灯台を守り続けています。
先生は、灯台に明かりを灯そうと毎晩試みています。信号灯がその機能を失ったなら、私たちは新たな光源を作り出すだけです。
私たちの光では、かつての灯台のように海域全体を照らすことはできません。大きな海のほんの少しにしか届かないんです。
そして海上を行き来する船などとっくの昔になくなってしまいました――
ですが私たちは灯台を守り続けています。
……
あなた方がどれだけ見守ろうとも、この海岸は永遠に静まり返ったままではありませんの?
ええ。たとえそうであっても私たちは灯台に留まります。
ここが塔のてっぺんです。
二日前には既に調べてみました。この灯台はひどく破壊されていて……ほとんど何も残ってません。
残っているのはこれだけです。
これは……?
イベリアの灯台のエネルギーコアです。最先端の技術であり、最初に破壊された部分でもあります。
使えないんですか?
基礎となる技術が……失われているんです。先生と私でもその設計を復元することはできません。エネルギーシステムが失われては、どんな代替技術でも、コアを元通り稼働させることはできません。
うーん……可能なら、これをロドスに持ち帰り、クロージャさんと調べてみたいです。
あ、確実な復元の見込みがあるわけではなくて……当時のイベリアの技術は特殊ですからね……このコアも、源石エネルギー技術を基礎として設計されたものではないということだけは分かります。
……源石をエネルギーとしていない?
とも言い切れません。エネルギーはやはり源石から来ていると思います。でも技術の原理が違います。もっと言えば、この装置を動かすのに、源石類のエネルギーが最善の選択には思えないんです。
あのっ!
ど、どうしました? もしかして私の話が退屈すぎましたか……?
いえ。あなたたちは本当に、灯台にまた明かりを灯せるんですか?
試す価値があるというだけです。それでもおそらくは、かなりの時間が必要です。
わ……私も入りたいです。
え?
あなたの言うそのロドスには、私みたいな人は要りませんか? 私にできることは多くないですが……が、頑張りますので。
うーん……
まずは履歴書が必要ですわ。
履歴書って何ですか? 私……
うっ……あれ、なんだか頭がクラクラする……
えっ?
急に倒れてしまいました。どうしたんでしょう?
(肩をすくめる)
あっ……毒の影響ですか?
彼女のようなフィディアには、あなたと同様に私の神経毒に対して免疫があるのではないかと疑ってしまいましたわ。
この状態を見るに、ただ発作が起こるのが遅かっただけですわね。
(どう捉えればいいのかしら? 特異体質というわけではなさそうですわね。単に……鈍いだけかしら?)
(とりあえず分析するのは後にしてください! げ、解毒剤は……用意してませんよね? 私と二人だけの任務ですし……)
焦る必要はありません。短時間の麻痺状態にすぎませんわ。
まずは塔から連れて出ますわよ。冷たい風に当たれば、すぐ意識を取り戻すはずですわ。
電磁パルス、解除。
――ああ、ようやく繋がったね。お嬢さんたち、危険な目には遭わなかったかい?
ええ。ちょっとしたハプニング以外は……
ゴホッゴホッ……
あら、お目覚めですこと?
ごめんなさい、急に眠くなったみたいで……
回復も予想より早いですわね。
――
ああ、心配ありませんわ。調査任務は滞りなく終えましたから。
それで、どうして君たち以外の声が聞こえるんだい? 知らない若いお嬢さんの声みたいだけど……
アリアさんですわ。任務中に偶然出会いましたの。彼女は私たちに重要な情報を提供してくれましたわ。それで、これから彼女と一緒にロドスへと戻り、人事部に履歴書を提出いたしますわ。
ああそうなのか。じゃあ先に歓迎しておくよ。ようこそロドスへ!
こ、こんにちは……
そうだ、まず結論を言っておきますわ。ここは――灯台ですわ。
うん? 灯台? 聞き間違いじゃないよね? 情報提供者が言っていた「見る限りとても複雑」ていう情報とあまり一致しないけど。
(何か重要な施設じゃないかと思ってたのにな……)
あの「災い」以前の建造物ですわ。
……なるほどね。
内部の構造は問題ありませんが、関連機器がひどく損傷していて、どれだけ回収できるかは不明ですわ。けれど――
後続のエンジニアチームに、一言申し送りしていただけますこと?
ここはロドスの新しい事務所になる可能性がありますわ。
……了解。
はぁ……もし本当に新しい事務所になったら、今後はしょっちゅうここに戻ってくることになるのかな?
例の場所からかなり近いよ……
まあでも、仕方ないね。僕たちだけの都合じゃないし。情報提供者によると、最近南方の崩壊した都市からまた難民たちが逃げ出したらしいよ。流浪の旅は大変だし、誰かが助けてあげないとね。
そうですわ、この灯台が……重要になるかもしれませんのよ?
付近の感染者のために医療サービスを提供し、助けが必要な方々に手を差し伸べる……そして、日毎に大地に迫る潮汐を観察するのに役立ちますわ。
以前のように、灯せば明確に照らしてくれる光をもたらすことは簡単にできなくても……引き続きこの海岸を見守ることはできるかもしれませんわ。