暴風眺望 9-18・戦闘後
「夜明け」
お前、この辺りで角の生えた白い髪の娘を見たらしいな?
じょ、上官方がお探しの人物かはわかりませんが……
いいから言え。
ひっ、はい! ええと、胸とお腹に大きな傷がありまして、恐らく重傷だったのではないかと――
続けろ。
か、彼女は白髪のサンクタに抱えられていて……そこら中に、血がぼたぼたと……それはもう、ひどい光景で……!
サンクタ? 確かだろうな?
間違いありません! ヒロック郡で、サンクタなんてあまり見かけませんし、もう日が落ちてますから、あの頭の上の輪っかが光ってなければ気付けませんでした。
で? そいつらはどこへ行った?
奥の方にある建物の、上の階……窓が割れているあの部屋です。そのサンクタ、とんでもなく素早くて、一瞬で飛び込んでいくのが見えました。
あそこだな? こんなに近くにいたのか。
「P-8」! 「R-3」! こちら「B-9」――お前ら、一体何をやってる!? ターゲットはこのエリア内にいるはずだぞ!
お前らの隊は一時間前と三十分前で二回、この通りの全部屋を捜索したんだろう? なぜこのことを報告しなかった!?
……何だ?
さっきから、何の音も……どうした「P-8」、「R-3」! 応答しろ!
チッ……*ヴィクトリアスラング*!
あ、あの、上官、ほかに御用はお有りでしょうか? ないようでしたら、俺はもう行こうかと……そ、それと、包帯をくださるって約束でしたけど……
包帯? ああ……
その必要はあるまい。
えっ? な……何をするおつもりですか!?
悪いが、すべて幹部からの命令なんだ。恨むなら、見てはいけないものを見てしまった自分自身を恨むんだな――
う、うわあああ!
ッ……誰だ?
今は戦う前に名前聞くのが流行ってるの?
ひっ……う、ぁ……! お、俺、生きてる……っ?
早く逃げて。この悪者たちはうちが引き受ける。
あ、ありがとう……!
うちらはこれがお仕事だから。お礼はいらないよ!
その破城矛……ヴィクトリア兵か!
急げ! ヴィクトリア部隊の残党がいると、至急「略奪者」様にお伝えしろ!
「略奪者」? おめーさんたち、ネーミングセンスなさすぎだべ。
さっきやっつけた人たちも、「囚人」様がどうとか言ってた気がするし……
……「P-8」小隊全員をやったのか? たったの、一人で……?
あいつらは三十人もいたんだぞ!?
自分たちが何と戦ってるのか、理解してないみたいだね。
――うち一人だろうと、相手は「ヴィクトリア軍」なんだよ!
くっ……隊列を整えろ! 奴を囲め、相手はたったの一人だ!
こんなに早く陣形を整えるなんて……なかなかやるね!
戦線を維持し、取り押さえろ! 相互支援を忘れるな!
敵の突撃能力は高い! 一対一でやり合うな!
おっ! 数で勝てると思ってるの? じゃあ、言っとくけど……
この矛を――甘く見るなよ!
う、うわあああ! そんなっ――!?
ひ、一突きで二人も……! こ、このヴイーヴルはヤバすぎる! 重装兵、食い止めろ! それ以外は退却だ! 急いで幹部に知らせなければ――
逃すか!
――これで、あと一人っ!
あああっ――クソッ! なぜあの重装備で耐えられない!?
撤退だ、今すぐ退け、間に合わなくなるぞ!
うわわっ……!? 急に飛んで行っちゃった!?
うちらの蒸気式ジェットパックを盗んでたとか……? それとも、別の国の飛行装置の改造品?
何にせよ、敵の戦い方が変わってきてる。亡霊部隊って、本当につかみ所がない相手だね。
こういう時トライアングルがいてくれたらなぁ。うちの矛じゃあの高さにはちょっと届かな――
あっ、落ちた! って、あれ? まさか今、石ころで撃ち落とされたの……?
うーん、ってことは、クロスボウ使いがやったわけじゃない――
通りの脇の空き家から、昏睡状態の怪我人を片手で抱えたOutcastが現れた。
あ! もしかして、おめーさんが助けてくれたの? ありがとう!
どういたしまして。実のところ、私も君に助けられたよ。
サンクタはみんな一流の銃使いだって聞いてたけど、まさか石を投げさせても一流だなんて思わなかったよ!
あっはは。いやなに、私の銃は使うと少々悪目立ちするものでね。
なるほど! 銃声だって馬鹿にならないしね。
ところで、おめーさんのお友達……怪我してるの? だいぶ具合が悪そうだべ。
それが、昼間の汚染爆弾に降られてな。
えっ!?
……ごめんなさい。あと少しであの攻撃を止められたんだ。こんなふうに罪のない人を巻き込むなんて、やっぱりあんなの間違ってるよ。
はぁ、今更こんなこと言ったって何にもならないね。今から助けられるだけでも、助けなきゃ。
……ねえ、こいつらが探してたのっておめーさんたちなのかな?
ああ、だろうね。
さっき、こいつらが民間人を殺そうとするのを見かけたんだよ。うちも急いでるんだけど、どうしても放っておけなくて。
――悪行を為せば、裁きが下るのは必然だ。
わあっ、かっこいい! さっきこいつらが小隊二つと連絡がつかないとか言ってたの聞いたけど、うちが倒したのは一つだけでさ。もしかして、もう片方をやっつけたのはおめーさん?
すんごい強いんだね!
そう言う君も、やるじゃないか。
でも、相手はあれだけじゃないんだ。あいつらは軍隊を一つ持ってるし、午後からは増援がもっとたくさん押し寄せてきてるんだ。このままじゃ、ヒロック郡を守り切るのは難しいよ。
おめーさんも、地元の人じゃないなら、お友達を連れてこの街を離れた方がいいと思うよ。
今は路地を出たって敵だらけだし、裏から行くしかないけど――
って、ありゃ!? 道が塞がれてる!?
ほんと、街中瓦礫だらけだなあ……
こうなったら、追手が来る前に、道を塞いでる瓦礫を片付けちゃわないと――
ときに、君自身は撤退しないのか?
しないよ。
うちは市街地を抜けて、仲間と合流しないといけないから。
市街地にはまだ、あの連中がうようよいるんだぞ。その上、今、君が言った通り、道はほとんど瓦礫で塞がれている。
大丈夫大丈夫。あと半分ってところまで来てるしね!
一人でこれだけ多くの敵を相手取ることに、恐れはないのかい。
恐れ……? 戦場にいて、怖いと思ったことはないよ。
でも、今の状況は心配ではあるね。
ヴィクトリアの都市がこんなふうになるところなんて……見たことなかったからさ。
その昔、ヴィクトリアとその同盟国によって、リンゴネスが徹底的に破壊し尽くされた時、かつて世界の首都だったあの巨大都市は煉獄となり果てた。当時の光景は、今の数百倍悲惨だったよ。
……それもそうだね。教科書に載ってる四皇会戦の勝利はすごく輝かしいものだけど、ガリア人からすれば、本当に残酷な出来事でしかない。
ヴィクトリアがこれまでどんなに度を超した行いを重ねてきたのか……
自分の故郷まで戦火が燃え広がって初めて、それがこんなにつらいことだったんだって理解できたよ。
……よし、こんなもんだべ! あとは倒れた石柱くらいだし――
私も手伝うよ。
ありがとう! それじゃ、向こう側に押してくれる?
こうして……柱が一本倒れると、ほかの柱にぶつかって、それがどんどん連鎖して、かなりの瓦礫の山になっちゃうんだ。
はぁ……この先、一体どうなっちゃうんだろう……
終わりが来るその時まで、ヴィクトリアがどこへ向かうかなんて誰にも予測はできないものさ。
あっ、ごめんね。おめーさんは人を抱えてるのに気が回らなくて。
なあに。一緒に押した方が早いよ。
それもそうだべ! みんなで力を合わせたら、絶対チャンスが生まれるし、何でもいい方に進んでくものだよね!
っていうかそもそも、チャンスがないとか、全部が悪い方に進んでるとか、それがどうしたって話だよ。
悪い方に進んでたって、故郷は故郷なんだから。土地が荒れたら、自分の両手でまた豊かな土地を作ればいい。それが国民の義務ってやつだべ!
ふぅ……最後の一本!
これで片付いたね!
(小声)急げ! 「B-9」が送ってきたビーコンの座標はこの路地だ!
(小声)後ろは瓦礫で塞がれてるが……念のため、小隊を裏に配置しろ!
(小声)ほかの人員は入口を固めろ。絶対に逃がすなよ、すぐに上官たちがいらっしゃるからな――
あいつら、また……!
うちが足止めするから、おめーさんたちは早く行って!
恐らく、それは難しいだろうな。
えっ?
奴らのやり取りを聞くに、もうじき敵方の幹部が現れると見ていいだろう。そうなれば、普通の兵士を相手にするのとは訳が違う。
だったら尚更急ぐべきだべ!?
実は、伝え忘れていたんだが――
私は敵に背を向けない主義でね。
――さて、若者よ。少し頼まれてくれないか。
そう言って、Outcastは抱えていた怪我人をバグパイプに預けた。
んわわっ、すんごい重たい! この子、本当にヴイーヴル……?
ははっ。女性の体重に言及するのは野暮というものだぞ、君。
ふぅ、はぁ……そうは言うけど、普通の人なら、持ち上げられるかどうかも怪しいくらいだべ!
大丈夫。幸い私には、もう一人ヴイーヴルの友人がいるんだ。彼女も君と同じように、若く強靭な戦士でね。
ってことは頼み事って……
そう。この怪我人を彫像の東側まで連れて行って、友人と同僚たちに預けてほしい。
それと、悪いが、約束は果たせそうにないと伝えてくれ。これを聞けば、彼らなら次にすべきことをわかってくれるはずだ。
……おめーさんはどうするの?
もう少しここに留まるよ。まだもてなすべき客人がいるからね。
例の相手はここですか?
そうです、上官。……あの、もしや六名お揃いで来てくださったのですか?
情報によれば、向こうはたったの三人……それも一人は意識不明の重体だという話だったな。
ならば、どなたかお一人だけでも十分だったのでは?
相手は二人で小隊三つを始末しているんだぞ。しかも、傷一つ負うことなく、な。
この状況で敵を侮るとは、よほど自分たちの無能さを証明したいらしいな。いや、あるいはこの任務が何度失敗しても問題ないほど些末な仕事だと認識しているのか?
い、いえ! そんなことは……
フーッ……フーッ……そいつら、本当に……強いんだろうな……?
ええ。少なくとも、あなたが目を覚ましておくだけの価値はある相手ですよ。
正体不明のサンクタとヴィクトリア軍人のほか、向こうにはあの女もいるんだ。用心を忘れるなよ。
限界まで追い詰められた時に見せる、奴の底知れない実力……お前たちもわかっているだろう?
……フーッ……期待して、おこう。
敵が……増え続けてる!
とにかく、隊長に通信を――
だめだ、やっぱり通じない! 早くこの子を届けて、隊長のところに急がないと……
ぅ、うぁ……!
ありゃ……? 目が覚めたの?
ぃや……いや、だ……
んー、うなされてるだけみたい。でも、なんで急にジタバタし始めたんだろ? 怖い夢でも見てるのかな?
……もうじき、約束の時間だ。
向こう側に敵が集まってきている。長くは留まれないぞ。
Outcastは絶対来るよ。だから、もう少しだけ待とう。
……ああ。
見て、あっちの方! 誰か向かって来てるよね?
Outcast! こっちです!
Outca――あ、あれ? あの人は……
バグパイプさん!?
あれ? あのカッコいいサンクタさんが言ってた友達って、おめーさんのことだったんだ!
それなら、ちょうどよかった! ほら、こっちの怪我した女の子もおめーさんたちの友達だよね? 預けといてくれってサンクタさんから頼まれて――
じゃあ、Outcastは……
彼女はどこ!? まさか何かあったんじゃ。
少なくとも、うちと別れるまではピンピンしてたけど……
でも、おめーさんたちに伝えてって言われたんだ。「悪いが、約束は果たせそうにない」って。それから、「彼らなら次にすべきことをわかってくれるはずだ」とも言ってたよ。
――ッ!
それって……!
他人を助ける前に、まずは自分の安全を確保しろって言ったのはOutcastなのに!
より多くの人を救いたいのなら、って……そう言ってた、のに……
………………
そんなの、嫌――!
ジェーン! ダメだ行くな!!
Outcastさんは、私たちを信じてくれたんだぞ。
っ……でも、あたし……
……うちは、このおにーさんの言う通りだと思うよ。
おめーさんは、あの人のこと信じてないの? たった一回会っただけだけど、うちは信じてるよ。
それで、聞いてほしいんだけど、この子をここへ連れてくる途中、二十人以上は敵を倒してきたんだ。もしかすると、追手はこれだけじゃ済まないかもしれない。
ただの兵士なら大した相手じゃないとは言え、向こうのリーダーに出くわしたらまずいことになる……あの術師は、相当の実力者に見えたから。
だから、この子を受け取ったら、すぐにここを離れて――
……何だ、あの光は!?
――爆弾?
ううん、そんなわけない。強烈な光が見えてるのに、うちらは無事だし、普通に息ができてる。あれは爆弾なんかじゃない。
じゃあ、まさか――アーツ!?
だけど、アーツであんな爆発を起こしたら……きっと、本人だって……!
……!
光が……雲を、突き破って……
……雨が……止んだ?
――!
あの光……さっきの路地がある場所からだ。
あれが西じゃなくて東から見えてたら、夜が明けたのかと思うところだったよ……
……ううん……きっと、そうなんだと思う……
夜明けが……来たんだ。
誰もが言葉を失っていた。
空を貫いたその光は、なおも揺るぎなく燃えていた――
それは、頭上に垂れ込めた暗闇に、死せる者の怒りをぶつけているようにも見えれば、地上で支え合う人々に、生命の輝きの素晴らしさを説いてるようにも見えた。
……これまでの人生で一番、衝撃的な夜明けだ。
ああ……そっか。だから、あの人は私の銃は悪目立ちするって言ってたんだね。
……こんなことって……
……
ジェーン……
…………あたしなら、大丈夫だから。心配しないで。
それより、シュレッダーさん……もう時間だよね?
……ああ。
オリバーおじさんに伝えて。……合流は完了した、って。
到着したのは――重症感染者一名。