アルコールの名のもとに! 幕間
アルコールの名のもとに!
……アカフラとゼルウェルツァのドゥリンたちのことは任せたわ。
本当に行かなきゃダメなのか、イナム?
イナム、どうか行かないでください!
あのねぇ、私が行かなきゃしょうがないでしょう?
うぅ……イナムのこと、絶対忘れませんから……
何よそれ、まるで私が二度と帰って来ないみたいじゃない!
だって今回は時間がかかりそうって……
首長選びに関わる件だもの。面倒事を積み上げたら、きっとズゥママのビッグ・アグリーよりも高くなるわ。その状況で明日には帰れるなんて約束できるわけがないでしょ!
うう……
はぁ。
いっそのこと自分が首長になったほうがマシって、ますます思えてきたわ。
とにかくアカフラとドゥリンたちのことは任せたわよ、ガヴィル。私が留守にしてる間はあんたが彼らのリーダーをやるのよ。
具体的に何すりゃいいんだ?
何もしないで。
それって、現状維持ってことか?
そう。
アカフラはこのままで問題なし。あとはゼルウェルツァのドゥリンたちだけど、今集落の建設を進めているの。作業のスピードを上げるために、しばらく禁酒をすることまで決めたそうよ。
禁酒!? あのドゥリンたちがですか!?
ええ、私もビックリしたわ。
でも多数決でそう決まったのよ。どうやら彼らも事の重大さをきちんと理解してるようね。
まあそんな調子ならば、私が帰ってくる前に集落を完成させられるでしょう。
だからあんたの仕事は、ここを私がいる時と同じように維持し続けること。大事なことなんだから、しっかりやってちょうだいね。
おう、つまりドゥリンたちの集落をしっかり見とけってことでいいんだな?
その通りよ。
よっしゃ、後はアタシに任せてくれ!
(心配そうな目つき)
ついでに、ドゥリンたちのお酒の醸造設備は全部隠しておいたわ。その隠し場所はね……(ヒソヒソ)
……覚えた? 絶対に見つけられてはダメよ。いい?
まさかそんなところに隠したとはな。
え? どこに隠したんですか? 私も知りたいです!
あのドゥリンたちはお酒の話になると、いくらでも悪知恵を働かせるの。あんたはすぐに口を割っちゃうからダメ。
ううう……
じゃあアタシにも伝えないほうがよかったんじゃねぇのか?
……今回はサルゴン宮廷の連中と会わなきゃならないから、それなりの準備をしなくちゃいけないの。
それで万が一、私の帰りが半年や一年も先になって、その間ドゥリンたちがずっと故郷の味を口にできなかったら、さすがにかわいそうでしょう?
とまあ、そんなとこね。あとは他の注意事項を説明しておくわ……
ガヴィルさん、本当にこんなことしていいんですか?
あん? ドゥリンたちのために木材を探してやるだけだろ、それの何が悪いってんだ?
でもイナムは「何もしないで」って……
ハッ、何を言い出すかと思えば。
あれはイナムが作った決まり事を変えるなって意味なんだよ。アタシらが何もするなってことじゃねぇ。
それに、ドゥリンたちの熱い感じを見てると、どうも何かしてやらないと気が済まなくて――
あんた、ガヴィルか?
おう、そういうお前はゼルウェルツァのドゥリンだな?
そうだ。
あなたもスディチさんみたいに迷子になったんですか? 集落まで案内しますよ。
それはいい。
実は、あんたにちょっと相談があって来たんだよ、ガヴィル。
話なら帰ってからにしてくれ、ジャングルの中じゃ危険だ。
いや、ここが一番安全なんだよ。
?
実は俺、ミード愛好家協会の者でな……
なんだ禁酒の話かよ。
おお、話が早くて助かる! そこでお願いがあるんだが――
待った、その話はナシだ。聞くまでもない。
おいおい、そんなあっさり断るなよ。
禁酒令はお前らが投票して決めたことだろ? 文句があんなら、お前んとこの仲間に言いな。
でも醸造用の設備は全部イナムに預かってもらったんだ。
んなこと言われても、アタシは設備の場所なんて知らないし――
本当か? 彼女しか知らないということか?
……
そんな……もしイナムが隠し場所を忘れてしまったら、もう二度とゼルウェルツァのミードが飲めなくなってしまうじゃないか! そんな無責任な……
無責任なんかじゃありません! イナムは離れる前に、ちゃんと隠し場所をガヴィルさんに教えましたから!
はっ! 終わった。
やっぱりそうだったのか! イナムがそんな無責任なことをするわけがないもんな!
そうですよ――
痛っ!
とにかくお前らに教えるわけねぇから、観念しな。
そうか、どうやら今日はダメみたいだな。
だが俺たちは諦めないからな!
都市はレンガを積み上げて作っていくものだ。設備の隠し場所も少しずつあんたの口から引き出してやるからな!
こんにちは、ガヴィルさん。
おう、なんか用か?
ちょっと急を要するものだから、お邪魔してごめんなさいね。
実は、私たちとても困っているの。ちょっとした……生活必需品がなくてね。みんながやる気を失くして夜も眠れず、まるで幽霊に憑りつかれたみたいに、苦しんでいるのよ。
そんな、可哀そうに……
だからね、みんなの苦痛を少しでも和らげたいと思って相談にきたのよ、尊敬すべきお方ガヴィルさん。
ガヴィルさん、助けてあげましょう!
まず、アタシの名前の前に、わけの分かんないもったいぶったお世辞を付け足すんじゃねぇ。
それと、当ててやろうか。その生活必需品ってのはどうせミードなんだろ?
なんてこと言うのよ!
なんだ、違ったか?
あんな幼稚なお子様用のドリンクと、高貴なセブンススピリッツを同列みたいに言わないで!
どうせ飲めねぇんだから、変わんねぇだろ。
あぁ、ガヴィルさん、無慈悲なガヴィルさん、あなたはどうしてそれほど冷酷無情でいられるの?
……アタシのことを非難する前に、その妙ちきりんな口調を何とかしてくれねぇか?
あら、そんなに変かしら?
アヴドーチャが書いたお話に出てくる人の話し方を真似すれば、地上の人たちともスムーズに会話ができると思ったのに。
そんなことはねぇよ、普通に喋ってくれ。
お願いよ、ガヴィル~!! スピリッツが飲めないと、私死んじゃうのォ!!!
我慢しとけ!!
あのガヴィルさん、イナムさんが醸造設備をどこに隠したか教えてくれませんか?
ねえガヴィル、設備はどこに隠したの?
なあガヴィル、醸造設備についてなんだが……
ここに居たのか、ガヴィル。
ズゥママか、お前でよかったぜ。やっと酒以外の話できる奴が来てくれた。
(固まる)
おい、なんだよその顔は……
……まさかお前……
すぅ……ハァ……
あのなガヴィル、ドゥリンたちの醸造設備のことなんだが……
なんでお前まであいつらと同じこと言い出すんだよ!
向こうが約束をしてくれたんだ。設備を渡せば、彼らの優秀な技術者を呼んで、ドゥリンのテクノロジーで私のロボットを整備してくれると……
諦めろ。
うっ……
けどあいつらがお前までも動かすとは予想外だぜ。
ほかに誰を巻き込んでるんだ?
そうだな……
トミミのところからは、すぐに追い返されていた。
それから、エッジ先生と、ゼルウェルツァの他の住民たちにも訴えに行ったらしい。
彼らに聞いた限りでは、アヴドーチャ以外の決心が揺らいできているみたいだ。少なくとも……曖昧な態度を取っているらしい。
曖昧な態度?
噂じゃ、最初は率先して禁酒令に賛成していたエッジ先生もかなり危ういそうだぞ。ゼルウェルツァで酒がどれだけ人気があるのかはお前も見ただろう。
チッ、このままじゃまずいぞ!
来たやつらを適当に追っ払ってるだけじゃ、大変なことになる。自分たちで決めた禁酒令だからな。なかったことにするのだって一瞬だ。
こんな調子だと、集落の完成なんざ夢のまた夢だぜ。イナムが戻ってきたとき、アカフラで一番ドでかい未完成建築を見せることになるなんてごめんだぞ!
……あぁ。
お前もそんなこと望んでないだろ?
それはそれで別に構わないが……お前には従うよ。
ならトミミを呼んできてくれ、ひとまず作戦会議やるぞ。
え――ッ!?!?
どうするんですかガヴィルさん!
落ち着け、トミミ。
今すぐにエッジ先生に会いに行って、約束は守りなさいってしっかり言ってきます!
ちょいちょい、こら待て!
もうガヴィルとその話はした。エッジ先生自身も大の酒好きだ、今さら彼を説得しても効果はないだろう。
禁酒のことでまともに話が通じそうなのは、アヴドーチャだけだろうな。だが、ドゥリンにとっちゃ酒は命みたいなもんだから、あいつでもどうにかすんのは難しいだろう……
うぅ……
実は一つ考えがあるんだ。
さすがガヴィルさん! 絶対にいい手を思いついてくれると思っていました!
喜ぶのは早いぞ。アタシ一人だけじゃきっと無理だろうからな、お前たちにも力を貸してほしいんだ。
トミミ、お前は他の部族の奴らに、ドゥリンたちを見張っておくように伝えてくれ。
え? 伝えてどうするんですか?
まあ、その先はズゥママの仕事さ……
はあ……もう何日お酒を飲んでいないかしら?
俺はもう数えるのも嫌だね。このスピリッツ狂が。それより、お前らがガヴィルの説得に行かせた連中は全滅だったようだな、オリジムシよりも情けないぜ。
なんですって、このミード野郎!?
……おい、俺たちのことをどう言おうと構わねえが、ミードのことも侮辱するつもりなら絶対に許さねえぞ!
どうやら、お前はスピリッツの臭い足みたいな匂いで脳みそがやられちまったみたいだな!
あのー……
なんだよ?
実は私、ずっとあなたたちミードとスピリッツは上手くやれると主張し続けてきたのですが……
言いたいことがあるのならさっさと言いな、ベリートマト酒好きの変人。
そのですね、エッジ先生はもうすぐ我々の仲間の説得に応じてくれそうなんです。あと二三日、ほんのちょっとだけ我慢していただければ――
よぉ、酒飲みドゥリンども、また会ったな。
ガヴィル!?
直談判しに来たぜ。
直談判?
お前らは、醸造設備を返してもらいたくてしょうがないんだろ?
……そうだ。
じゃあ一ついいことを教えてやろう。
アタシと勝負して勝てたら、設備は全部返してやる。
本当か? では早速――
本気で今から始めていいんだな?
えっと……やっぱりちょっと準備してくるわ。
賢明な判断だな。
もう一度言うが、お前らのうち一人でもアタシを倒せたら、醸造設備はすぐその場で返してやるよ。
そっちにいるお前。そう、お前だ。
――!?
不意打ちはなしだぞ。
アタシに不意打ちしようと思ってるやつは一生禁酒を覚悟しとけ。
ヒィッ!
そもそも不意打ちなんてフェアじゃないんだ。そう思わねぇか?
で、でも、私たちは諦めませんよ!
いい心がけじゃねぇか。さすがはアカフラの新しい住民だぜ。
よし、さっさと準備して来いよ! 殴り合いたいっていうなら、いつでも付き合うぜ!
ズゥママ、そっちはどうだ?
順調だ。
最初は少しばかり装備を揃えて頑張れば、お前に勝てると思っていたようだな。甘く見すぎだ。
ここ何日かお前に負け続けたので、彼らは別の作戦を模索しているんだ。おかげで簡単に興味を機械に向けることができた。
ビッグ・アグリーの設計図を貸して、意見交換を行ってみたのだが……さすがはドゥリン、まったく興味深い技術ばかりだったよ。
彼らのセルカーは見た目こそ不格好だが、中身の技術は本物だ。これからビッグ・アグリーに応用したらすごいことになるだろう。
それは良いことなんだが……あいつら、自分たちの技術をふんだんに盛り込んだ自走式ビッグ・アグリーなんて作り出したりしねぇだろうな?
それは……
確かにそれも考えているみたいだ。
(肩をすくめる)
まあいい、そもそもアタシたちの狙いはそこだからな。これをきっかけにドゥリンの連中が建設に使える機械を開発できるかお手並み拝見だ。
ここのところ連中とのあれこれは、喧嘩とも呼べやしないおままごとだからな。あいつらがビッグ・アグリーみたいな相手を用意できるっていうなら、悪くねぇ話かもしれない。
ガヴィルさん、大変です!
あ? どうした? 酒のことでまた揉め事でも起こしたのか?
そうなんですよ、ミード愛好家協会とスピリッツ派の人たちがケンカを――
ってそっちじゃなくて!
あの人たち、ビッグ・アグリーにも負けないような巨大な機械を作り出して、武器の発射テストを始めましたよ!
フン。
忘れたのか? そうなるようにズゥママが動いてたろ。
うぅ……そういえばそうでした。
じゃあ、私はその発射テストを見に行ってきます! ドッカンドッカンって本当にすごいんですから!
おう、行ってきな。もしなんかあったらすぐアタシに――
待て、あいつらどこでテストしてるんだ?
ユーネクテス族の集落の北にある洞窟近くですよ、あそこなら木の他に何もありませんから。
ズゥママんとこの北……洞窟――
しまった!
え?
トミミ、はやくそいつらを止めに行ってこい! アタシとズゥママは後で向かう!
ただの発射テストだぞ。何をそんな慌ててるんだ?
その洞窟にあいつらの醸造設備が隠されてるんだよ!
ふわぁ~。
ガ、ガヴィル!?
よぉお前ら、武器の発射テストをやってるって聞いたが、ちょっと場所を変えてくんねぇか?
なんでよ?
それは……
言ってたわよね、あなたに勝てたら設備は返してくれるって!
言ったな。間違いない。
じゃあなんで今さら俺たちを止めに来たんだ?
やめろなんて言ってないだろ。場所を変えてほしいだけなんだ。この……なんとかってヤツを……
ジャイアントアルティメットアグリーMkⅢだ!
そう、そのジャイアントアルティメットアグリーMkⅢの発射テストの場所を変えてくれ。それだけだ。
でもここは、テストのロケーションとして私たちが探しうる一番いい場所なのよ!
それに、あなたを倒すために、こっちはもうとても重い代償を払っているの!
重い代償?
もう三日三晩寝てないのよ。でもそれはまだいいわ。
一番の代償はね、そこのミード野郎たちと手を組むハメになったことよ!
そうだ! 俺たちはよりにもよってスピリッツ狂の連中と手を組んだんだ!
あ~……一番重い代償ってのはそれだったんだな?
ともかく、こんな屈辱的な思いをした以上、あんたの一言くらいで諦めるわけにはいかないんだ!
いや、アタシはただ場所を変えろって……
ダメだ、絶対にお断りだ!
なんでだよ?
(小声)ガヴィルさん、仕方ないですよ。
(小声)アヴドーチャさんが、誰の邪魔にもならない場所でやりなさいって言って、聞かないのならもう二度とお酒のキャッチコピーを書いてあげませんって脅しまでかけちゃったので……
(小声)みんな、頑張ってやっとここを見つけたんですよ。
(小声)それに固定式の機械や設備も設置されちゃってて、今からもう移動なんてできませんよ。
(小声)そうなのか。参ったな……
(小声)ならこうしましょう。武器を発射する時には、あの洞窟に当たらないようにしてって私から注意を……
それじゃあ、洞窟の中に何かあるって、わざわざ教えるようなもんだろ!
うぅ……
ガヴィルさん、もう帰ってください。これ以上私たちの邪魔をしないで!
もしかして、このジャイアントアルティメットアグリーMkⅢに敵わないと思って、邪魔しに来たんですか?
今のは聞き捨てならねぇな。
……と、とにかくお帰りください!
最後にもう一度だけな。お前らのために言ってやってるんだ、場所を変えたほうがいいぜ。
何を言われても私たちはここでテストしますからね!
ああ――もう面倒臭ぇ。
いっそのこと、対決を前倒しして今ここでやるってのはどうだ?
(小声)ガヴィルさん、どういう意味ですか?
(小声)こんなとこで好き勝手に暴れられて洞窟がぶっ壊れるよりもアタシが誘導した方がマシだろ。安心しな。
しかし、こっちはまだ武器の準備中で……
もしアタシが負けたら今すぐ設備を返してやるし、勝っても次に挑戦できるチャンスはあるじゃねぇか。どっちに転んでもお前たちは損しないだろ?
うーん……それは確かにそうかも。
ガヴィルは巨大なロボットの南側へと素早く移動した。
ちょっと、なんでこっちに来るんですか!
あっちは洞窟と岩壁しかないだろ。少しは体を動かせるスペースを確保しなきゃな?
うっ、確かに一理あります。
そんじゃあ、始めようぜ。
で、では失礼しますよ!
すごい火力だな。近づけやしねぇ……
まだまだこれからですよ! ドゥリン式斬木丸ノコ、起動!
はは、いいねぇ!
だが、まだまだだな!
なっ、超高出力のエンジンを素手で止めただと!?
しまった。避けろ、はやく避けるんだ!
おー、避けたか。
結構うまく動けるように作ってんな。そいつを集落の建設に使うつもりはねぇのか?
そういう話は終わってからにしてください!
これでも食らえ!
おっと!
なにぃ!? 斧で砲弾を止めた!?
こいつはズゥママが作ってくれた斧なんだぜ。砲弾なんて小石みたいなもんだ!
今度はこっちの番だぞ!
まずい! 後退だ、はやく後退しろ!
させるか! アタシのチェーンソーでも食らえ!
退いちゃダメ、ここは横に避けるのよ!
なにバカなことを、前進に決まってるだろ! 距離を縮めないとあのチェーンソーを避けられないだろうが!
ちょっ、リモコンを奪い合わないで――
??
何だこの妙ちくりんな動き――後ろに回り込みやがった!?
二人とも落ち着いてください! そんなんじゃ勝てませんよ!
ガヴィルさん、これでもう逃げ場はなくなりましたよ! さあ覚悟してください、この究極の一撃を――
ドゥリン式無力化ミサイル全方位チャージ攻撃!!!
まずい、洞窟が!
よりにもよってこんなところで全方位攻撃かよ!!!
ガヴィルはひとつ深呼吸をして、尻尾の力を抜くと、チェーンソーはジャラっと音を立てて地面に落ちた。
そして彼女は両手にありったけの力を込めて大斧を握りしめた。
ハァッ――!
なっ、ど、ど、どこまで飛び上がったのよ!?
大きくジャンプしたガヴィルは、巨大ロボットの足に着地すると、そこから機体の腹部へ駆け上がっていく。
少し平らな場所に差し掛かると、彼女は機体を蹴りつけて再びジャンプした。ロボットが高く掲げていたアームに尻尾を大胆に巻きつけると、勢いのまま洞窟の方へと身を躍らせた。
ヒュウウウウ――
空を覆い尽くす無数のミサイルを見て、ガヴィルは手にした大斧を持ち上げた。
ハァ、ハァ、ハァ……
こっちにちょっとしか弾が来なかったな。全方位攻撃でよかったぜ……
それに弾頭に爆薬が仕込まれてなくて助かった……少しは手加減ってもんを分かってたようだ……
ヒック。
ん?
どうしてその洞窟を守ろうとしたのか知りませんが、私たちの無力化ミサイルを食らったからには、もう手遅れですよ!
弾頭の中にアダクリス製のお酒をたっぷりと入れたんです。ドゥリン一番の酒豪でも、立ってることはできないですよ!
あー……
それで、お前らはアタシが酔っ払って寝っ転がってるように見えんのか?
そんなバカな!?
なぜミサイルが効いていない!?
あのさ、ミサイルに入れられる酒なんてたかが知れてるだろ。経口摂取するわけでもねぇし、少しくらい吸い込んだとしても、ほろ酔いになるくらいで、立ってられねぇほど酔っ払うかよ。
でも私たちには……
だったら、お前らの酒の強さもその程度ってことだな。
(激しく顔をこする)
そ、そんなことより! ガヴィルさん、なぜその洞窟のことをそんなに気にするのです? もしや、その奥には醸造設備の奪還を妨害するための秘密が隠されているとか!?
……
まあいいや。ここまで来たんなら、教えてやるか。
お前らの醸造設備は、この洞窟の中に隠されてるんだ。
な、なんだってェ!?!?
信じられねぇなら自分の目で確かめてもいいぞ――まあ当然、アタシを倒さない限りは返してやらないけどな。
つまり……さっき上に向かって飛んでいったのは、ミサイルから私たちの醸造設備を守るためだったと……?
それに、最初にジャイアントアルティメットアグリーMkⅢの後ろに回ったのは、戦いの影響を洞窟に及ぼさないため……?
テストの場所を移せと言ってきたのは、私たちが醸造設備を破壊してしまうかもしれなかったから……?
だから言ったろ、お前らのためだって。
……
ガヴィルさん……尻尾から血が出ていますよ。
こんぐらいどうってことねぇよ。
さっき、このロボットに尻尾を巻きつけた時、そこの尖がりかなんかで引っ掻いちまったみたいんだ。
顔にも傷がついてるぞ。
そりゃこんなドンパチやってたら、傷の一つや二つぐらいはな。
……まだやる気なの?
お前ら次第だ。
続けたいのなら、付き合ってやるよ。
えっと……やっぱりまた後にしましょう。
ああ、アタシもそうしたほうがいいと思うぜ。結局、お前らの究極の一撃とやらはアタシには全然通用しなかったからな。
もちろん洞窟もしっかり人をやって見張ってもらうからな。アタシを倒さずに設備を取り返そうなんて考えるなよ!
来たか。
おっ、ジャイアントアルティメットアグリーMkⅢも一緒か。
今はもうMkⅣですよ。
アップグレードも早いじゃねぇか、悪くねぇ。
それじゃ今から始めるか?
少々お待ちを。
ドゥリンはリモコンを手に、ガヴィルにも巨大ロボットにも目をくれず、ただ空を見上げて、ブツブツと何かをつぶやいていた。
ガヴィルさんがこう来たら、こっちはこうして……
で、こっちがこうすると、ガヴィルさんはこうするから……
それでガヴィルさんがああした後に、こっちはこうしておけば――
あとは……
しばし何かを考えた後、ドゥリンは再び前を向いた。
よし、では始めてもよろしいですか?
よし、かかってこい!
ガヴィルは姿勢を低くして、巨大ロボットの攻撃を待ち構えた。
ドゥリン人が手にしていたリモコンのボタンを、ぐっと押し込む。
巨大な爆発が起きた。だが……ガヴィルはまったくの無傷だった。
彼女はポカンとした顔で、爆発してガラクタの山になったロボットを見た。
ど――どういうことだよ?
前回一戦を交えた後、私たちは多くの改造を施しました。ただテストの結果、いくら改造をしても、この機体ではあなたに勝てないのは明らかだったんです。
そして、私は最後の技を思いつきました。即ち自爆です!
だからって、こんなに早く自爆する必要はねぇだろ?
……私はさっきまで、あなたがどういう動きをするか予想を立てていたんです。
そして、一つの結論に至ったのです。たとえ自爆をしても、あなたに勝てる見込みはありません!
だからこそ、潔く負けを認めたことの証として、あえてこうしたのです!
マジかよ。ズゥママに、そいつを工業用ロボットに改造させるつもりだったのに!!
お帰り、イナム。
お帰りなさい!
みんな元気そうね。
こんなに早く帰って来たってことは、順調だったんですね!
まあ順調だったわよ。事前に色々と仕掛けをしておいたおかげで、宮廷はまったくアカフラに興味を示さなくなったわ。
そっちはどうだったの? いつも通り?
はい、いつも通りです! ドゥリンたちもガヴィルさんの指導のおかげで、しっかりと禁酒を守っていますよ!
なによガヴィル、上手くやってるじゃない。
それで、ドゥリンたちと付き合ってみて、どうだった?
悪くなかったぜ。
ぱっと見は頑固だしふざけてるけど、根はいい奴らだ。
じゃあ、どうやってお酒を飲みたがる人たちを宥めていたの?
まあ、主に拳でな。
殴ったってこと???
そんなことはしてませんよ! ガヴィルさんに勝てたら醸造設備を返すって、彼らと約束したんですよ! でもみんなガヴィルさんに負けちゃったんです!
そ、そうなのね。
いや、でもそれって一通りぶちのめしたのとあんまり変わらないような気がするんだけど。
とりあえずちょっと様子を見に行きましょう。
あらイナム、帰ってきたのね!
こんにちは。
はいこれ、私たちの試合のビラよ!
試合?
そう、試合!
それじゃあ、私はまだミード愛好家協会の仲間たちとの打ち合わせがあるから、ここで失礼させてもらうね!
試合って……第三回ギガンティックアルティメットアグリー杯……自走ロボット対戦選抜競技会ですって?
優勝したロボットはガヴィルと勝負する権利がもらえて……ガヴィルに勝てたら、醸造設備を取り戻すことができる……
イナム、顔色は良くないですよ。もしかして頭痛ですか?
はっきり言って、その通りよ。
……
まあいいわ。今回ガヴィルに任せっきりにしたことについては、それなりの覚悟はしてきたんだし。
ドゥリンの集落に行ってみましょう。こんな大会が盛り上がっているくらいなら、きっと集落の建設も終わってることでしょうね――
あら、あれってエッジ先生じゃないの。彼も大会に参加しているのかしら?
だからなぁアヴドーチャよ。私はもう準決勝まで進んどるんだ! あと一戦、あと一戦だけ、頼む!
イナムさん? そちらにいらっしゃるのはイナムさんですわよね!
ようやく戻ってきてくださいましたのね! 急ぎエッジ先生を説得してくださいまし! この自走ロボット対決とやらを中止させてください!
ねえガヴィル。
なんだ?
あんた、ドゥリンに禁酒を続けさせるためにこんな試合を企画したんじゃないでしょうね?
そう言われると……そんなとこかな?
じゃあドゥリンたちの集落は一体どうなってるのよ!?
あっちを見ろ。
ガヴィルの示す方に目を向けると、巨大なロボットがこちらに迫ってきているところだった。
何人かのドゥリンがロボットとの間に安全な距離を保ちながら操縦して、二人の前を悠々と通り過ぎていった。
あのセルカーとビッグ・アグリーを融合させたような変な機械は一体なんなの……?
確か「ジャイアントアルティメットアグリーMkⅤ」ってドゥリンたちが呼んでるな。
……
まだまだアタシにゃ敵わねぇが、ズゥママとダイコークたちの頑張りもあって、工業用ロボットとしてはまずまずの及第点ってとこかな。
お前がもうちょっと遅く戻ってきてたら、ドゥリンの集落はきっと完成してたはずだ。
……
私、夢でも見てるのかしら。
ガヴィル、一発殴ってちょうだい。
痛っ!
……
これは現実だわ。
ガヴィルさん、ガヴィルさん!
どうした?
今回の選抜競技会の優勝者が決まりました。それで、ドゥリンたちが早くガヴィルさんと勝負しろって、騒ぎ始めてるんです!
というわけだ。どうだイナム、久しぶりにアカフラ流の勝負を見に来ねぇか?
……
喜んで。