足休め 幕間
足休め
バニラ、こんなところで何してるの? ここって……ジェシカの宿舎でしょ?
あっ、フランカ先輩!
はい、ジェシカ先輩の部屋を整理しているんです。
……それもそうね。我らが勇敢なるお嬢様は開拓地へ行っちゃったもの。今後は本艦に滞在することも滅多にないでしょうね。
はい、なので部屋にある荷物を整理して、先輩のところに送ることにしたんです。
あたしも手伝おうか?
エンジニア部から装置を借りてきているので私一人で十分ですよ。
自動ドアに挟まれてた子が、今や立派に成長するなんて。
えへへ。
……
フランカ先輩。
なに?
先輩はジェシカ先輩の選択が間違いだったと思いますか?
……
あの子に聞いて来いって言われたのね?
……はい。
まったく、あんな決断を下しといて、今頃になって先輩の目を気にするなんて……
ほんとに成長したのか怪しいものね。
……私はジェシカ先輩はすごいと思います。
恵まれた環境を自分から捨てる勇気があるんですから……
ふふっ、そんなに慌てて肩を持とうとしなくていいわよ。
ジェシカはまだ直さなければいけないところがたくさんあるけど、あの子は自分のやるべきことを常に理解している。
だからあの子なら大丈夫だって初めから分かっていたよ。
まあ……こんな早い段階で決断を下すことになるとは思ってなかったけど。
早いん……ですか?
ええ、あの子、まだ二十代前半でしょ。
まだ時間はたっぷりあったはずなのに。
えっと……
だけど、それも悪いことじゃないわ。
決断を下せない人と比べれば、ジェシカはずっと優秀よ。
ごめんなさい!
えっ?
私も自分の将来についてはずっと考えてはいるんですけど、いつまでたっても答えが出なくて……だから……
プッ……アハハ、あなたのことを言ってるんじゃないわよ。
え?
だってあなたもまだ若いじゃない?
あたしが言っているのは……
……誰のことかしらね?
では、トランスポーターさんに配達をお願いしてきますね。
いってらっしゃい。
あたしよ。
任務? 分かった、すぐ行くわ。
……
一つの任務が終われば、暇つぶしに何か楽しいことでも見つけて、また次の任務を待つ。
いつも通り。何も問題はないはず。
そう考えながら部屋を出ようとした瞬間、ある声が彼女の歩みを止めた。
分かってます。
はい、わたしの考えは変わっていません。
自分の警備会社を持つこと……それは今も私の夢です。
ミスターグリフがわたしと話をしたいと?
分かりました。明日、一度本部へ戻ります。
フランカですか?
普段なら何食わぬ顔で相棒の前に出ていき、目配せしていたことだろう。
機嫌がいい時だったら、面白おかしなイタズラまでしていたかもしれない。
しかし今日は――
……
彼女もわたしの考えを知っています。
……分かりました。
この件について彼女と話し合います。
……
……あたしったら、何から逃げてるのかしら。
フランカ?
ちょうどいいところに来た。わたし、一度本部に戻らないといけないの。
あら? 何かあったの?
前にも言ったと思うけど、ミスタークリフと話をしに行こうと思ってる。
ようやく決心したのね?
うん、ジェシカの勇気にあてられちゃったのかな……わたしも、もう少し勇敢にならないと。
勇敢と無謀は違うわよ。あなた、あの「クリップ」クリフと向き合う覚悟が本当にできているの?
一人じゃ対処しきれないなら、あたしも一緒に付いていってあげられるけど。
……大丈夫、こういうことにも慣れなきゃいけないから。
あなたのその素直な性格じゃ、陰湿ジジイに会話の主導権を完全に握られちゃうわよ。
フランカ、今日機嫌悪いんでしょう?
それ、今の会話と何か関係でもあるの?
毎日あなたの相手をしているうちに、わたしも少しは人を見る目が鍛えられたみたい。
……
あら、我らが優等生サマまで立派になっちゃって。
フランカ。
なに?
戻ってきたら少し話がしたい。
真面目な話?
うん。
大体一ヶ月くらいで戻ると思うから。じゃあね。
……
そうね、確かに今のあたしは機嫌が悪いみたい。
状況は?
事前に得ていた情報とおんなじ。盗賊たちが輸送ステーションの従業員を人質にして、そこを占拠してる。
人数はそこそこいるし、装備も充実してる。でも警戒態勢はそこまで厳重じゃないみたいだね。
建物の構造とあいつらの人員配置はもう調べてあるから、今そっちの端末に送っといたよ。
……
届いたわ。
ふぅ……
どうしたの?
いやぁ、キミとリスカムちゃんみたいなエリートを製薬会社に派遣するなんて、ずいぶんもったいないことするなあってずっと思ってたんだよ。
でもやっとそうした理由が分かった気がする。結局やってることはそんなに変わってなかったってことだね。
後方支援部か人事部に申請を出せば、ここでしんどい目にあう必要もなくなるわよ。
それは無理だよ。だって外勤オペレーターはBSWのエンジニアよりもずっと好待遇だもん。
それに、前からこういうタイプの仕事って体験してみたかったんだよね。
前線は遊びで来るような場所じゃないのよ。
だからわざわざ二人の先輩と一緒の任務を申請したじゃん。
優秀な先輩からは学ぶところも多いだろうしね。
戦場で使う知識を学んだっていいことなんてないわ。
あなたは一生戦場で過ごすわけじゃないんだから。
あたしちゃんからすれば全部一緒、お金になる知識だけどね!
稼げる時にいっぱい稼いだら、自分のやりたいことを思う存分できるでしょ?
やりたいことって?
へへ、実はまだ決めてないんだよね。
でも、いつか思いつくはずだよ。
フフッ、若いっていいわね。
キミだって大して変わんないでしょ!
BSWでもロドスでも、あたしのほうが先輩よ。
はいはい先輩、肩でもお揉みしましょうか?
結構です。
よし、作戦の組み立てが終わったわ。今から共有するわね。
えっ、もう!?
うわっ、しかもめちゃくちゃ細かいし!
先輩の実力を見くびるなってことよ。
見くびったことなんてありませんけど……
二チームに別れて、Aチームが正面から敵を足止めして、その隙にBチームが人質を救出する、なるほどなるほど。
でもAチームの人数、少なすぎじゃない?
事前情報によれば、敵のリーダーはかなり警戒心が強いらしいわ。大人数で攻め込んでは逃げられてしまう可能性が高いの。
山に逃げ込まれたら面倒なことになるからね。
だけど、この人数はいくらなんでも……
あなた、誰かさんからこんなこと言われたでしょ――
「リスカムがいない間は、フランカの行動をよく見張るように。絶対に早まったことはさせるな」って。
うっ……言っとくけど――
リスカムに言われたわけじゃないのは知ってる。
だって優等生サマは、あたしに直接言ってくるもの。
でもそうね、あたしたちはコンビでいる時間が少し長すぎたわ。
ロドスから任務を任せられる時だって、いつも一緒に組まされるくらいよ。
それっていいことじゃん。
本当にそう思うの?
うん――だって頼りになる相棒がそばにいたら安心するじゃん。
戦場に刺激を求めて危なっかしい行動を度々取るフランカちゃん。
そして、そんな彼女を守るために、様々な方法でブレーキをかけようとするリスカムちゃん。
普段の二人はいつも口ゲンカばかりなのに、戦闘時は常に息ピッタリで、いつも完璧に任務をこなしてくれる。
BSWにいた頃から、キミたち二人のコンビの噂はさんざん聞かされていたよ。
そうね。
あたしもリスカムも、気付いたらそんな関係にすっかり慣れちゃったのよ。
そう言って彼女はため息をついた。
BSWへ加入する際、ほとんどの者は制式の武器を一つ選ぶことになる。
フランカは護身用に制式のスティレットを選んだものの、メインの武器は今まで通りレイピアを使い続けた。
そうしているうちに、彼女は周りからレイピアしか扱えないものだと思い込まれた。
実際の彼女は、スティレットの扱いもとても長けているのにも関わらず。
そして今や、彼女自身すらそのことを忘れかけていた。
行くよ、さっさと片付けちゃいましょ。
フランカちゃんが相手を正面から食い止めてくれたおかげで、あたしちゃんたちはスムーズに人質を救出できたんだ。
だけど振り向いたら、フランカちゃんが敵に行く手を塞がれてたのが目に飛び込んできたの!
そんな!!
あの時は口から心臓飛び出るかと思ったね。
敵が持ってる装備は大したことなかったけど、数は向こうが圧倒的に多かった。
それに相手もフランカちゃんに弄ばれてたことにはとっくに気づいてたから、ものすごく恨みを募らせてたしね。
なのにフランカちゃんってば、のんきにその場に突っ立ってただけでさあ。
ああ、もうおしまいだ、リスカムちゃんがこの場にいないのをいいことに、思いっきり羽目を外そうって魂胆なんだって思った時……
なんと――
なんと?
ふふ~ん、これは特ダネだよ。続きを聞きたいのなら、それ相応の代価を支払ってもらわなきゃ。
アーモンドは金銭を意味するジェスチャーを指で作りながら、ニヤニヤとあくどい笑みを浮かべた。
……し、仕方ありませんね!
いてっ!
他人を話のネタにして金儲けなんてよくないよ。
あたしちゃんは貴重なネタを合理的に運用してるだけだし!
って、リスカムちゃん、帰ってきたんだね!
うん。
フランカの話をしてたの?
そうそう。
わたしにも聞かせてよ。
はいはい、今日は特別に出血大サービスといきますかね。
ありがとうございます!
うっ……なんだか罪悪感が……
とにかく……コホン、まさにその瞬間!
フランカちゃんは戦場のど真ん中に立っていて、人質を安全な場所に移動し終えたばかりのあたしちゃんはタワービルの上にいた。
ステップごとの行動時間は厳格に決めてたわけじゃないから、フランカちゃんはあたしちゃんのいる位置を把握してなかったはずなんだよね。
なのにあの時、フランカちゃんは確かにあたしちゃんに向かって視線を投げてきた。
その視線が誘導する先を見ると、そこには今にも崩れ落ちそうな建物があったの。
しかも、その建物はちょうど盗賊のすぐそばにあった。
その瞬間に全部分かったんだ――
フランカちゃんは考えなしにただ敵の前に飛び出ていったわけじゃない。わざとあの位置まで敵を誘い込んだんだって。
しかも、あたしちゃんがタワービルに来るタイミングまで予期してたの!
フランカにそんな超能力はないよ。ただあなたや他の隊員が来る時間を大体予想してただけ。
じゃあ、もしあたしちゃんたちにトラブルが発生して、そこに行けなかったら?
たぶんそっちに合流するか、もしくは用意していた予備プランを実行してたと思う。
わたしだったら、その崩れかけの建物にあらかじめ爆薬を仕掛けておくかな。
あっ、確かに作戦開始前にフランカちゃんから爆薬がほしいって言われたわ……
今回の任務のフランカちゃんは、なんかいつもと違うふうに感じたんだよね。
落ち着きがあって、頼もしくて……いや、普段のフランカちゃんも頼りがいがあるけど……
フランカはどこにいるの?
任務から戻ったあと、ずっと部屋にこもっているみたいです。
そうなんだよ~、勝利を祝ってパァッと打ち上げでもしようと思ってたのに。
……様子見てくる。
……
おしゃべりのアーモンドのことだから、きっと今頃あちこちに言いふらしていることでしょうね。
はあ……もう好きにすればいいわ。
机の上には、母からのあの手紙が今も綺麗な状態で置かれていた。
フランカは定期的に母に仕送りをし、母からの質問にはどれも丁寧に答えていた。彼女は母をとても愛しているのだ。
だけど二つだけ、ずっと避け続けていた質問があった――
傭兵なんて危険な仕事、いつまで続けるつもりなの?
いつ家に帰ってくるの?
その二つは、実際には同じ意味だ。
言葉を変えて何度もそう尋ねてきたのは愛ゆえの行動だと、彼女は信じている。しかしフランカにとって、その二つの問いかけには誰にも想像しえない重みを含んでいるのだ。
……
彼女はクロワッサンのところから物色してきた中古のレコードプレイヤーのスイッチを入れると、柔らかなベッドに倒れ込んだ。
まるで自分のことを知る者が一人もいない奈落の底へ飛び込むかのように。
覚悟はできているつもりだった。
自分は今この瞬間の一分一秒を楽しめているのだと思っていた。
しかし、ジェシカが開拓地へ行くことを決めた時、リスカムが自分の警備会社を設立すると決めた時、自分の胸に広がったのは喪失感だった。
それは未来への戸惑いからくるものではない。彼女は自分の進むべき先を見失ったわけではなかった。
それは――
……
規則正しい丁寧なノック音。誰なのかすぐに分かった。
あたしが部屋にいるのは分かっているわけだし、きっとスペアキーの隠し場所を探すはずよ。
そう、ドアのそばに置いてある鉢植えの下。
そして、なんのためらいもなくドアを開けるの。
はあ……やっぱり今度からカギの隠し場所を変えようかしら。
……
らしくないね、フランカ。
……
どうしていればあたしらしいの?
……少なくとも今のような姿じゃない。
……
優等生サマ、今から時間あるかしら?
時間がなかったらそもそも来てないよ。
あたしたち、もうずいぶん長いこと手合わせしてないんじゃない?
つまり、自分の理想を馬鹿正直に全部話したってことね。
それ以外のやり方なんて知らないからね。
まあ、無理して上辺だけの話をするよりも、確かにこのやり方のほうがあなたに合っているわ。
で、結果はどうだった?
良くはなかったよ。ミスタークリフはわたしの選択を好ましく思ってはいないみたい。
だけど、辺地にビジネスパートナーが一人増える程度なら別に構わないとも言っていた。
もっともらしい言い方ね――警備会社の間には本当の意味での協力関係なんて存在しない。一度BSWを抜ければ、あなたはもう赤の他人なのよ。
それは分かってる。
二人は話しながら、それぞれ訓練場の両端へと向かう。
ローラから話は聞いたんでしょう?
うん。
どうしていきなり手合わせをしたいなんて言い出したのか、なんとなく分かった気がする。
今日はそっちが満足するまで付き合ってあげるよ。
優等生サマ、あなた最近ちょっと調子に乗りすぎじゃないかしら?
わざと言ってるの。
剣と盾がぶつかり合い、激しい音が訓練室に響き渡る。
そういえば、訓練生時代からずっと連絡を取り続けてる友達にも何人か会ってきたよ。
わたしについて来るって言ってくれた人もかなりいた。
なかなか戻って来ないと思ってたら、「同窓会」を開いてたわけ?
そんな大袈裟なものじゃないよ。軽く集まっただけ。
みんな、あなたの話をしてた。
あたしの話?
いつもわたしのこと「優等生サマ」だって呼ぶけど、毎回トップの成績を取っていたのはあなたのほうでしょ。同期たちにとって一番優秀なのはあなたのほうなの。
戦場に立つ人にとって「優等生」なんて、なんの誉め言葉にもならないわ。
それにあたしは、最初のひと目からあなたのことが気に食わなかったの。
知ってる。
初めて模擬訓練で手合わせした時のこと、まだ覚えてるよ。
その時のあたし、なんて言ったんだっけ?
「優等生サマは、実戦においても優等生かどうか見させてもらおうかしら」って。
あなたはその日から、わたしのことを「優等生サマ」って呼ぶようになったんだよ。
今までずっと根に持ってたの?
そのあだ名、今からやめてもらっても遅くないけど。
お断りね。
二人は互いの戦い方を熟知しており、しばらくの間、武器がぶつかり合う音が部屋中に響き渡った。
あなたのような野心もなければ武器商人でもないような人が傭兵をやるだなんて、どう考えてもおかしいでしょ。
今でもそう思ってるよ。
刺激を求めて傭兵になっただなんて、上辺だけの理由を並べてる人にとやかく言われたくないね。
ますます口が達者になってきたじゃない、優等生サマ。
いいお手本がいるおかげでね。
さっき部屋に入った時、机の上にあの手紙が置いてあったのを見たけど。
……
もう何年も帰ってないよね。
会っても何を話せばいいか分からないのよ。
お母さんとの仲は悪くなかった印象だけど。
悪くないどころか、あたしは母を愛しているし、母もあたしのことを愛してるわ。
あたしのやりたことはなんでも応援してくれて、やりたくないことを強制したことは一回もない。
あたしがこんな性格をしてるのも、きっと母に甘やかされて育てられたせいよ。
そうみたいだね。
だけど性格の話をするなら、わたしと似たようなタイプの傭兵はかなり多いけど……
あなたみたいに、戦いの中に面白さを見出し、危険を回避することよりも楽しむタイプはかなり少ないよ。
わたしもそのことを理解するのにずいぶん時間がかかったけど――
あなたは何も心配することがないからこそ、そんなふうに振り切れたんだね。
そうよ。あーあ、あたしの子供の頃の写真を見せてあげたいわ。
自慢じゃないけど、当時のあたしより「裕福な家のお嬢様」っぽい女の子なんていなかったからね。
いや、別にいい。
チェッ、仮に見たかったとしても写真なんて残ってるかどうか……
いや、実家に帰れば見つかるかもしれないわね。きっと母が取っておいてくれてるから。
はあ……今この瞬間が楽しければ楽しいほど、帰るのが怖くなる。こんなことになるくらいなら――
そもそも家なんて出なければよかったわ。
母のそばにいて、小さなお店でも開いて、慎ましく暮らしていける分のお金さえ稼げれば十分だったのに。
だけどあたしは……どうしても憧れを抑えきれなかった。
フランカは手に持った剣を指さすと、振り返って決して狭くはない訓練場内を見渡した。
フリーの傭兵をやってた頃から、母はいつもあたしのことを心配してた。
そしてBSWの訓練所へ出発する日、車に乗り込むあたしを母は笑顔で見送ってくれた。
だけど、車が走り去ったら母はきっと泣くんだろうって、あたしにはちゃんと分かってた。
お母さんに会うと、離れられなくなってしまうんじゃないか怖かったから、ずっと家に帰らなかったの?
自分でも抑えきれずに、母を責めてしまうのが怖いの。
あたしたちは、互いのことを本当に愛しているのに。
……ただ単純に機嫌が悪いのだと思っていたけど――
そうじゃなくて、どうやら完全に参ってるみたいだね。
これだけ長い付き合いなのに、こんなに長々と話しているところなんて初めて見たよ。
そうだよ。だっていつも小言をこぼすあなたを、あたしがからかうのがお決まりだったから。
……
あなた、まさか鉱石病が進行したわけじゃ……?
……
安心して、病気のほうは大したことないから。
治ることはないけど、これ以上悪くもなってない。
シャワーを浴びてる時に、結晶が手に当たる感触にも少し慣れてきたしね。
もしかしたら、あたしおかしくなっちゃったのかな?
あたしね、別に大層な理想なんて持たなくてもいいんじゃないかって思ってるの。
戦いを通して自分が着実に成長していることを感じられたり、周りの人をからかってちょっとした楽しさを感じられれば、それだけで――
それだけで、あたしは十分なの。
BSWでもロドスでも、楽しい時間が大部分を占めていた。
このままずっとこうしていられるのだと思っていた。
ジェシカやあなたが自分の決断を下す時まではね。
その時になってようやく、このままじゃいられないんだって気付いたの。
あたしは思わず自分自身に向かってこう問いかけていたわ――
「それなら、あたしはどこへ向かうべきなの?」って。
……
フランカはどんなことだって、いつもそつなくこなせられる、みんなの憧れなんだよ。
わたし含めてね。
……えっ、あなたが?
うん。
初めての任務でいきなりあたしを引き留めたくせに?
それはあなたの戦い方を危険すぎると判断しただけであって、今の話とはまったく関係ないよ。
どうしてあなたとコンビになったのかずっと疑問だったけど、最近になってようやく少しずつ分かってきたの。
あなたが何を考えていたかなんて関係ない。とにかく、わたしは知りたかったんだ……
わたしとは正反対のあなたのような人にとって、人生はどのように目に映っているのか。
それか、あなたからたくさんのことを学べるんだって、直感が告げていたのかもね。
今まであたしから何か学べたとは思えないけど。
たくさんあるよ。戦闘技術に会話テクニック、それと……ポジティブな考え方とか?
もちろん、あなたから学んだというよりかは、あなたについていくために自分で身に着けたものだけどね。
……
ローラと一緒に担当したあの時の任務みたいに……
あなたはフランカなんだよ。
誰かが支えなければいけないように見えても、あなたが本当に必要としているのはそんなものじゃない。
あなたに必要なのは、背中を教えてくれる誰か。
これって一種に決別宣言?
わたしはただ――
そんなにわたしを気にする必要はないってことを伝えたいだけ。
突然気付いたけど、あたしを怒らせるスキルは一丁前に上達してきてるわね。
いいお手本がいるおかげでね。
テルミットレイピアが手から弾かれ、刃が空中で危なっかしく弧を描きながら飛んでいく。一方、ヴィーヴルのほうも耐え切れず持っていた盾を地面に落とした。
いつも通りの結果、引き分けだ。
だが今回、いつものようにリスカムをからかいながら、武器を拾いに行くフランカの姿はなかった。
彼女は何かを考えこんでいるのか、ただ呆然とその場に立ち尽くしている。
リスカムもそんな彼女を待つかのように、一歩も動かなかった。
そうして長い沈黙の末に、ようやくフランカが口を開いた。
戻ったら話があるって言ってたよね。
それってもしかして、あたしをあなたが立ち上げる警備会社にスカウトするって話だったりして?
うん。
あたし、行かないわ。
今のところはね。
分かった。
リスカムはレイピアを、フランカは盾を拾い上、お互いに投げ渡してやった。
......
あたしの病状は、もうほとんど安定してきてる。
だから長期休暇を申請して、一旦実家に帰るわ。母と向き合うためにね。
もしかしたら考えがまとまらなくて、色々言葉をぶつけてしまうかもしれないけど。
そのあとは……ちょっと遠出しようかしら。
長期の外勤任務かなんかを受けて、少し遠い場所へ行くの。
あたしが戻ってくる頃には、あなたの新しい会社がもう完成しているかもしれないわね。
その時は遊びに来ていいよ。ちゃんと接待してあげる。
喜ぶにはまだ早いわよ。
え?
あなた、勝手にあたしを追いかけてロドスまで来たんでしょ。
もしかしたらいつか、あたしがロドスにいられなくなったら、その時はそっちの会社に図々しく居座らせてもらうから。
わたしが私情よりも規則を取る人だってことは、あなただって知ってると思うけど?
そうなったら、あなたの会社のビルの目の前で野宿しながら、あなたの恥ずかしいあんなことやこんなことの書いてある看板でも立てちゃおうかしら。
……はあ、なんでこんな人が知り合いなんだろう。
確かにあたしみたいな人と知り合いだなんて、ほんと同情するわ。
ところで、お昼は何食べる?
どっちのおごり?
もちろんそっち――
……
はいはい、今日はあたしのおごりよ。