陰謀 幕間
陰謀
いや違う、君たちは全然わかってない! このままじゃ……
わ、私は、殺されるかもしれないんだ……!
あぁ?
なら近衛局へ行けばいいだろ?
行ったさ! でも、考えすぎだって追い返された。君たち「探偵」なんだろ? 誰が私を狙っているのか突き止めて、守ってくれよ!
それに……疑ってるんだ。近衛局の奴らもグルなんじゃないかって……
だから通報しても動かないんだ、そうに決まってる!
へぇ? 近衛局が絡む陰謀だって?面白ぇ。その話、乗ったぜ。
通常料金は1時間あたり1000龍門幣だが、特別に30000龍門幣ポッキリでどうだ?
ア、少し黙っていてくれ。この人の話を聞こう――
(小声)毎日カップ麺ばかり食べ続けるのは御免だね。最近アンタが引き受けた仕事で、報酬もらったことあるか? このままじゃ、リー先生が帰ってくる前に干からびちまう。
まあまあ、落ち着いて……っと。
ウンは先ほど男から受け取った名刺に視線を落とす。龍門の有名企業で、肩書きもかなり立派だ。
報酬の心配はなさそうだと、心の中で安堵する。
……劉(リュウ)さん。
先ほど、尾行されている気がすると仰っていましたが、何かの間違いということはありませんか?
私も先日、市場からの帰り道に視線を感じて振り返ったら、野良の雲獣がついてきていただけだった、なんてことがあったんです。
そういう話じゃないんだ! 聞いてくれ……
リュウは怯えたように周囲を見回し、声を潜める。
家の玄関の壁に、毎日奇妙な傷跡が増えているんだ。都市間ネットワークで調べてみたら……それは「処刑のマーキング」だって!
それに、確かに不審な視線を感じるんだ! 通勤中も、会社にいる時ですら、誰かに監視されているようで……
うう、思い出すだけでゾッとする……
だから、それは野良の雲獣かもしれ……
高層ビルのオフィスに野良の雲獣がいてたまるか!
何より、一番恐ろしいのは……夜なんだ。壁の向こうから、何かが囁く声が聞こえて……
リュウさん、この通りを抜けた先にアロマショップがあります。あそこの安眠用オイルは効きますよ。
少し神経過敏になっているだけかもしれません。一度試してみたらどうでしょう。
君たちまでそんなふうに……
まあ、確かに誰かに狙われてる状況と似てはいるな。
理由もなく視線を感じ続けるなんてこと、あるわけがねぇ。
俺の経験から言わせてもらうと、あんたに尻尾を掴ませてるってことは、相手は怖いものなしって感じだな。あんたに見つかろうが、どう足掻かれようが、痛くも痒くもないってわけだ。
そう! その通りだよ!
……ア、君のケースと一緒にしちゃいけないよ。
ところでリュウさん。その玄関の傷跡、まだ残っていますか?
あ、ああ! 一度消したんだがすぐにまた傷が付いて、怖くてもうそれっきりで……数日おきに新しい傷が増えてるんだ。
なら、今すぐ現場を見にいくぞ。
今すぐ?
当たり前じゃねぇか。俺が犯人なら、夜中に忍び込むね。
ウンは端末の時刻を確認し、困ったように頭を掻いた。
まだ本当に「犯人」がいるかどうかもわからないけどな……
まあいいか。リュウさん、今からご自宅へ伺ってもいいですか? 現場を確認すれば、少しはあなたが安心するような助言ができるかもしれません。
か、構わない! 頼む!
ちょっと待ってくれ。カメラを取ってくる!
街灯が一つ、また一つと灯り、車の往来もまばらになる。リュウは二人を先導しながら、頻繁に背後を振り返っていた。
どうした、また視線を感じるのか?
いや……今は感じない。おかしいな、君たちの事務所に向かう途中では、確かに視線を感じていたのに……
緊張のせいですよ。事務所の下にいる売店のお爺さん、暇つぶしに通行人を眺めるのが趣味なんです。珍しい客だと思われたんでしょう。
そ、そうか……
……着いたよ。ここの二階だ。
リュウの住む団地は古い商店街の中にあった。外壁の塗装はところどころ剥がれ落ち、階段は湿った空気が淀んでいる。
リュウは震える指で玄関横の壁を指差した。そこには確かに、交差する三本の鋭い傷跡が刻まれていた。
見てくれ、これだ! 消しても二日後にはまた現れる。いつも同じ形なんだ……
間隔は一定、深度はバラバラ……人の手によるものじゃなさそうだな。
も、もしかして幽霊が!?
……いや、機械による痕跡だな。
へぇ、わざわざ機械を使って脅しに来るとは、手の込んだ犯人だ。
な、なんだと……?
ウンは屈み込み、壁から剥がれ落ちた粉末を指先で擦る。白い粉の中には、淡い青色の粒子が混じっていた。
アが壁を撮影している間に、ウンは廊下をぐるりと見回した。
リュウさん、ご安心を。これは誰かがわざと描いたものじゃありません。傷跡に残っていた青い粉末は、乾いたクレンザーです。
それに、この規則的な間隔……おそらく、清掃業者のポリッシャーが壁に接触した痕でしょう。
根拠は?
そこにタイヤ痕がある。ほら。
ウンが指差した先を見ると、傷跡の真下の床タイルに、かすかなゴム跡が残っていた。
本当にそれだけか? タイヤ付きの乗り物で、この記号を付けに来たんじゃねえのか?
ひぃっ……
大丈夫ですよ、リュウさん。壁の傷跡の件はただの事故でしょう。何なら「深夜の囁き声」も調べましょうか。お邪魔しても大丈夫ですか?
あ、ああ、どうぞ!
(小声)でも昨日、ドアを開けた瞬間に誰かが走り去る音がしたんだが……あれも清掃業者なのか……?
夜は更け、リュウの部屋は、小さなランプがいくつか点いているのみで、ブラインド越しに外のネオンの光が赤く明滅していた。
ウンはドアに耳を当てて外の気配を探り、アは窓際に寄りかかり懐中電灯で外を照らして監視しつつ、時折シャッターを切っていた。
リュウは毛布にくるまり、懐中電灯を握りしめて震えている。室内には微かな風の音と、カメラのシャッター音だけが響いていた。
廊下に人の気配はありませんね。聞こえるのは遠くの車の音だけです。ア、何を見ているんだ?
……ああ、この団地の人たち、優しいんだな。こんな時間なのに、野良の雲獣にエサをやってる人がいるなんて。
俺たちも夜中に寝転んでたら、誰かがエサくれるのかねえ?
おや、雲獣がこっちに向かってくるな……おっと、壁を駆け登ってきたぞ。元気な子だな。
一枚撮っとくか…………こいつ、野良じゃないな。首輪がついてるぜ。
ああ、ミーちゃんか。きっと迷子になったんだろうな。最近、よく下で誰かに餌をもらってるところを見かけるよ。
すごく人懐っこくてね、毎晩うちの窓辺に遊びに来るんだよ……って、そんなことより……
もうすぐだ。毎晩この時間になると、壁の向こうから囁き声が……
ジジジ――ジジ――
一瞬の静寂の直後、奇妙な音が部屋に響いてくる。
こ、この音だ!
電流のノイズか……?
リュウの額に脂汗が滲む。アも驚きの表情を見せたが、ウンは落ち着いた様子で立ち上がると壁に耳を当て、音の源を辿ってキッチンへと向かった。
数分後、ノイズは突然途切れた。
止まった? 何かの電源でも切ったのか?
空気清浄機だよ。中に異物が詰まっていた。
ファンが緩んでいて、回転するたびにその異物と接触していたみたいだ。壁越しだと囁き声のように聞こえなくもないだろう。
何が詰まってたんだ?
何かの部品のようだが……
その空気清浄機、ずっと使ってなかったんだが、最近空気が悪くてつけっぱなしにしていたんだ……まさか物が詰まるなんて。
あ、先週、配管修理に来た業者が落としていったのか? 安さにつられて都市間ネットワークで業者を呼んだのが間違いだった……
このパーツ……
はぁ……とにかく今日来てもらってよかったよ。じゃないと、もうこの家に住み続けられなかったかもしれない。
神経質になり過ぎですよ、リュウさん。龍門にも様々な問題はありますが、怪談や陰謀がそう転がっているわけじゃありません。
少し立ち入ったことを聞きますが……身の回りにこういうことがあると、不安になるのはわかります。ですが、あまりに恐れ過ぎではありませんか?
壁の傷跡や空気清浄機の異音だけで、そこまで命の危険を感じるものでしょうか。何か心当たりがあるのでは?
それは……
……
実は……先週、会社の同僚を内部告発したんだ。密輸と横領の件について。
会社に多少グレーな取引があるのは知ってたし、あいつが裏の仕事に関わってるって噂もあった。何より出世が早くて……正直、嫉妬もあった。
それで、勢いで告発しちまったんだが、報復に来るんじゃないかと怖くなって……
しかもこの一週間、彼の姿を会社で見かけないんだ。だから、私を消す準備をしているんじゃないかと思って……
なるほど、そういうことでしたか!
誤解は早めに解くべきですよ。放っておくと、小さな火種が大火事になりかねませんから。
もう遅い時間ですから、今日は休みましょう。明日、事務所に来てください。全て解決してみせますから。
本当かい!? ありがとう! で、報酬は――
それも明日で構いません。では、おやすみなさい。
報復か。面白ぇ……
で、なんで「明日全て解決する」なんて言ったんだ? 自信満々だな?
だって、誤解を解くだけだろ? それくらい、俺にもできるさ。
明日の報酬が入れば、久しぶりにまともなものが買えるな。殻獣肉のコーン炒め、カボチャとスペアリブの煮込み、あとはキュウリとキクラゲの和え物……ア、何かリクエストは?
……
献立を考えるくらいで、どうしてそんな怖い顔をしてるんだ?
やっぱり何かおかしい。こんな偶然ってあるか? あの「ミーちゃん」が毎晩決まった時間にリュウの家の窓辺にやってきて、そのタイミングで異音が鳴るなんて。
それにあの首輪のタグ、光ってたぜ! ほら、写真見ろよ。雲獣に光る首輪なんてつける奴がいるもんか。どう考えても怪しすぎるだろ……
最近の流行りかもしれないじゃないか。夜道で目立つようにっていう、飼い主の配慮だろう。ミーちゃん、全身真っ黒だったし。
真っ黒い野良の雲獣、毎晩の定期巡回ルート……首輪の発光タグ、エサをやる人物……壁の傷跡と異音、そして空気清浄機に詰まってたパーツ……
ハッ、リュウを監視してる奴が誰なのかわかったぜ!
何だって?
この写真を見ろ。下にいるこいつ、何かを手にしてこっちを見上げてる。
ミーちゃんを見てただけじゃないのか?
ミーちゃんは、リュウの家の窓辺にいたよな?
ってことは、こいつはミーちゃんを使ってリュウを盗聴――いや、監視してたってことだ! あの光るタグはカメラだろ!
その推理、リュウさんの前で披露しなくて良かったよ。あの人、本当に卒倒してたかもしれない。
彼の目の下のクマを見ただろう? あの様子じゃ、まともに眠れてないんだろうな。これ以上彼を追い詰めるのは毒だ。
龍門で生きるのは楽じゃない。リー先生はいつも難しいことに巻き込まれるし、話し合いでどうにもならないことも確かにあるけど……
ただ、俺はこう思うんだ。最初からみんなが正面から向き合っていれば、複雑な話にはならなかったんじゃないかって。誤解があるなら、言葉を交わす余地はある。試してみる価値はあるはずだ。
結局のところ、どんな揉め事も……突き詰めれば人間関係だろ。誰かが気に入らない、誰かが妬ましい……そんな感情をぶつけ合っていたって、キリがない。
だから明日、問題の根源を絶つことができれば、リュウさんの不安も全部消えるさ。
珍しく意見が合ったな……
そう、根源を絶たないとな。黒幕のアジトを突き止めて、何を企んでるか暴いてやる……
アジトって、なんのことだ?
何でもない。それより早く帰ろうぜ。明日は早いんだ。
アのやつ、朝からどこへ行ったんだ……?
まあいい、俺一人でもなんとかなるだろう。この程度の場数、踏んでないわけじゃないしな。
もしもし? あ、リュウさん。今、商店街に着きました。
いえいえ、お気になさらず。こちらもあらかた買い出しは済みましたから。
……あ、それとなんですが、報酬の前払いについて少し相談できませんか?
……ほらほら、ミーちゃん、こっちおいで。
我慢して俺のカップ麺から取ってきたチャーシューだぞ? 食いたきゃ、首のソレを寄越せ――
――よし、確保!
やっぱりな。タグの中は……小型カメラか。
最近のマフィアは随分と回りくどい手を使うねぇ……いや、マフィアじゃなくて企業の陰謀か、私怨の線か……?
これ、もしかしたらリュウが言ってた、告発した同僚が――
待て、あの男、昨夜ミーちゃんにエサをやってた奴じゃないか? リュウの家のドアをノックしてる?居留守してるのか? ……いや、ウンが先に来てリュウを連れ出したんだな。やるじゃねぇか。
あの男、誰と電話してやがる……おいおい、行っちまうのか? 追わないとな……リュウの居場所を突き止める気かもしれねえし。
ちょっ……邪魔しないで、ミーちゃん! しっしっ! もうチャーシューはねえんだよ!
はぁ、はぁ……足の速いやつだな……
商店街の中に入っていく……ちっ、尾行がバレたか? 週末の人混みじゃすぐに見失っちまうぞ!
え……? あれって……ウンとリュウか? あいつら何で買い物袋なんか抱えてるんだ? まさか自衛用の武器とか……
どうすりゃいい、近衛局に通報するか? いや、ウンまで捕まったら事務所が……
いや、今はとにかく、あいつを追わないと。
ちょっと、押すなって、通してくれ!
ただのマンション? ずいぶんと地味なアジトだな……
あの男……荷物が増えてやがる。商店街で仲間から受け渡されたんだろうが、中身は何だ……凶器か? 賄賂の金か?
ウンに知らせた方がいいのか? それとも近衛局か? いや、弱そうだし、ウンなら勝てるか。
……こっちを見てる? まずい、気付かれた!
おいおい、近づいてきやがる! バッグに手を入れやがったぞ――
……
……
えっと、ワンくん……? なんでそんな格好してるんだ?
あはは……実は先週、うっかり転んで入院してしまいまして……
それは……災難だったな……
薄暗い廊下で、リュウとワンという二人の男が顔を見合わせる。その場の空気は非常に気まずいものだった。
その横ではウンが満面の笑みを浮かべ、果物が詰まった袋を提げたまま、期待に満ちた眼差しをリュウに向けている。
(小声)告発した同僚の住所を聞いたのは、こうするためだったのか!?
(小声)そうですとも!
(小声)それなら……先に言ってくれよ! 心の準備ってものがあるだろ!
え? でも昨夜、「誤解は早めに解くべき」とお伝えしたと思いますが?
(小声)いや、それだけでわかるわけないだろ――
……
お二人とも、一体何のご用で? 特にないのなら、僕はこれで……
お待ちください! リュウさんから大事な話があるんです!
大事な話?
はい! とても重要なことです!
(小声)リュウさん、ほら早く!
(小声)わ、わかったよ……!
……
その、なんだ……先週、君を告発したことだが。あの時は、頭に血が上っていたんだ。実はここ半年、仕事が上手くいかなくて、君ばかり昇進するのが妬ましくて……
でもそうする前に、ちゃんと君と話すべきだったんだ! 会社のグレーな取引なんて私には関係ないし、本来なら私が出しゃばるべきじゃなかった……
だから……今日は君に謝りに来たんだ! 心ばかりの品だが、受け取ってくれないか!
リュウは一息にまくし立てると、果物の入った袋をワンの前に差し出した。
ワンは、まるで今世紀最大のニュースでも聞いたかのように口を半開きにし、その袋を受け取るべきか迷っているようだった。
すると、ウンがさっとワンの手を取り強引にリュウと握手させ、その流れで果物の袋をワンの腕に抱え込ませた。
事の経緯はこんな感じです。リュウさんはこの一週間、罪悪感で食事も喉を通らない様子でして。「告発はあまりに軽率だった、ワンさんに詫びを入れたい」ということで、こうして参った次第です。
みんな仲良くするに越したことはありませんからね。
ワンさん、いかがでしょうか?
……
リュウさん……気に病むことなんてないんですよ。実は、告発されたおかげで、ようやくグレーな取引があることに気付けたんです。僕はただ上の指示に従ってただけで、中身を把握してなくて……
部署も異動することになりましたけど、正直ホッとしてます。リュウさんが告発してくれなかったら、今ごろ会社から濡れ衣を着せられていたかもしれませんし。
え? そうだったのか……!
ああ、私がもっと早く君と話していればこんなことには……!
いえいえ、そんなに自分を責めなくても……
よかった、これで一件落着ですね。腹を割って話せば、人と人はわかり合えるものですよ。
リュウさん、これで尾行の心配もなくなりましたね!
尾行……?
そうだ、お二人の和解を祝して、うちで食事でもどうですか?
あ、いや……待てよ。
二人が答えるよりも早く、ウンは何かを思い出したかのように首を振ると、ポンと手を打った。
外で食べましょう。ちょうどいい店があるんです、お二人ともどうですか? まだ混む時間帯じゃないから、それほど並ばずに入れると思います。
あ、そうだ。リュウさん、例の報酬の前払い、お願いできますかね……?
ははっ、そんなこと気にしなくていいさ! 私も腹が減ったし、タクシーで行こう。ここは私の奢りだ!
ちっ、結局ただの誤解ってことかよ……つまんねえ!
信じられるか? 俺が半日張り込んだ重要参考人が、ただのスポーツジムの勧誘員だったなんてよ!?
なぜリュウの部屋をノックしたのか問い詰めたら、そいつ何て言ったと思う?
「リュウさんとプール体験に行く約束をしてたのに、すっぽかすなんて酷いじゃないか」だってよ!
まったく……酷いのはどっちだよ!?
まだ根に持ってるのか? ただの誤解でよかったじゃないか。
リュウさん、帰り際に言ってたよ。ワンさんとちゃんと話したら、もう誰かに見られてる感じもなくなったって。お勧めしたアロマオイルも買って帰ったし、今夜はぐっすり眠れるだろうな。
俺はむしろ、大したこともしてないのに報酬をもらい過ぎたんじゃないかって、気が引けてるくらいさ。
俺は大したことをしたつもりだけどな。けど、俺の読みが外れてるとは思えねえんだが……
おかしいだろ。ただの誤解だったら、あの勧誘員とこそこそ話してた連中は何者なんだ?
ただの立ち話かもしれないだろ。
この街には、俺たちみたいな人より、普通の人の方がずっと多いんだ。みんな、平凡に暮らしてるんだよ。
ほら、肉ばかりじゃなくて、青菜もキノコも食え。今回の油燜筍(ユーメンスン)は会心の出来なんだ、一口どうだ?
あんたは人を善人だと思い過ぎなんだよ! 今回は無事だったからいいけど、無防備に依頼人を連れてドア開けた途端、百人のギャングが飛び出してきたらどうするつもりだったんだ?
リー先生は計算高いから心配ねえけど、あんたはすぐ人を信用するから危なっかしいんだよ。
俺は断言するね。あのリュウって依頼人も、そいつを尾行してたやつも、依頼人の会社も間違いなくクロだ!
はぁ……俺がいなきゃどうなってたことか。俺が気張って目を光らせとかないと、この事務所はお終いだぜ……
はいはい、頼りにしてるよ。さ、冷めないうちに野菜を食べな。
とりあえず、協力に感謝するわ。
夜食の最中にまで仕事の話?
……アンタに話すプライベートの話題なんてないの!
でも今日はホントに危なかったわ。組織が動き出す直前であの「親切な市民」がターゲットを連れ出してくれてなきゃ、死人が出てたかもしれない。
二人もね。
え?
彼らが謝罪に行った相手は、私の情報提供者だったの。あの退院したばかりのお馬鹿さん、自分がマークされてるとも知らずに自宅へ戻ってたのよ。
へえ……そんな偶然もあるのね。
偶然かしら? あの探偵事務所の大男……のんきそうだけど、実はかなり鋭いんじゃない? わざわざ人目につく場所を選んで移動していたし……
どこかの誰かさんの手際はまだまだのようね。テロリストが一般住宅に潜伏してることに気付かないなんて。
告発者名簿の漏洩を許した誰かさんよりマシだと思うけど。
うるさいわね! 今その件は調査中よ!
隙あり。
(モグモグ)
あっ!? 最後の鱗獣団子が! ネズ公、アンタやったわね――