陰謀幕間陰謀
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陰謀 幕間

陰謀

焦っている男

いや違う、君たちは全然わかってない! このままじゃ……

わ、私は、殺されるかもしれないんだ……!

ア

あぁ?

なら近衛局へ行けばいいだろ?

焦っている男

行ったさ! でも、考えすぎだって追い返された。君たち「探偵」なんだろ? 誰が私を狙っているのか突き止めて、守ってくれよ!

それに……疑ってるんだ。近衛局の奴らもグルなんじゃないかって……

だから通報しても動かないんだ、そうに決まってる!

ア

へぇ? 近衛局が絡む陰謀だって?面白ぇ。その話、乗ったぜ。

通常料金は1時間あたり1000龍門幣だが、特別に30000龍門幣ポッキリでどうだ?

ウン

ア、少し黙っていてくれ。この人の話を聞こう――

ア

(小声)毎日カップ麺ばかり食べ続けるのは御免だね。最近アンタが引き受けた仕事で、報酬もらったことあるか? このままじゃ、リー先生が帰ってくる前に干からびちまう。

ウン

まあまあ、落ち着いて……っと。

ウンは先ほど男から受け取った名刺に視線を落とす。龍門の有名企業で、肩書きもかなり立派だ。

報酬の心配はなさそうだと、心の中で安堵する。

ウン

……劉(リュウ)さん。

先ほど、尾行されている気がすると仰っていましたが、何かの間違いということはありませんか?

私も先日、市場からの帰り道に視線を感じて振り返ったら、野良の雲獣がついてきていただけだった、なんてことがあったんです。

リュウ

そういう話じゃないんだ! 聞いてくれ……

リュウは怯えたように周囲を見回し、声を潜める。

リュウ

家の玄関の壁に、毎日奇妙な傷跡が増えているんだ。都市間ネットワークで調べてみたら……それは「処刑のマーキング」だって!

それに、確かに不審な視線を感じるんだ! 通勤中も、会社にいる時ですら、誰かに監視されているようで……

うう、思い出すだけでゾッとする……

ウン

だから、それは野良の雲獣かもしれ……

リュウ

高層ビルのオフィスに野良の雲獣がいてたまるか!

何より、一番恐ろしいのは……夜なんだ。壁の向こうから、何かが囁く声が聞こえて……

ウン

リュウさん、この通りを抜けた先にアロマショップがあります。あそこの安眠用オイルは効きますよ。

少し神経過敏になっているだけかもしれません。一度試してみたらどうでしょう。

リュウ

君たちまでそんなふうに……

ア

まあ、確かに誰かに狙われてる状況と似てはいるな。

理由もなく視線を感じ続けるなんてこと、あるわけがねぇ。

俺の経験から言わせてもらうと、あんたに尻尾を掴ませてるってことは、相手は怖いものなしって感じだな。あんたに見つかろうが、どう足掻かれようが、痛くも痒くもないってわけだ。

リュウ

そう! その通りだよ!

ウン

……ア、君のケースと一緒にしちゃいけないよ。

ところでリュウさん。その玄関の傷跡、まだ残っていますか?

リュウ

あ、ああ! 一度消したんだがすぐにまた傷が付いて、怖くてもうそれっきりで……数日おきに新しい傷が増えてるんだ。

ア

なら、今すぐ現場を見にいくぞ。

ウン

今すぐ?

ア

当たり前じゃねぇか。俺が犯人なら、夜中に忍び込むね。

ウンは端末の時刻を確認し、困ったように頭を掻いた。

ウン

まだ本当に「犯人」がいるかどうかもわからないけどな……

まあいいか。リュウさん、今からご自宅へ伺ってもいいですか? 現場を確認すれば、少しはあなたが安心するような助言ができるかもしれません。

リュウ

か、構わない! 頼む!

ア

ちょっと待ってくれ。カメラを取ってくる!


街灯が一つ、また一つと灯り、車の往来もまばらになる。リュウは二人を先導しながら、頻繁に背後を振り返っていた。

ア

どうした、また視線を感じるのか?

リュウ

いや……今は感じない。おかしいな、君たちの事務所に向かう途中では、確かに視線を感じていたのに……

ウン

緊張のせいですよ。事務所の下にいる売店のお爺さん、暇つぶしに通行人を眺めるのが趣味なんです。珍しい客だと思われたんでしょう。

リュウ

そ、そうか……

……着いたよ。ここの二階だ。


リュウの住む団地は古い商店街の中にあった。外壁の塗装はところどころ剥がれ落ち、階段は湿った空気が淀んでいる。

リュウは震える指で玄関横の壁を指差した。そこには確かに、交差する三本の鋭い傷跡が刻まれていた。

リュウ

見てくれ、これだ! 消しても二日後にはまた現れる。いつも同じ形なんだ……

ア

間隔は一定、深度はバラバラ……人の手によるものじゃなさそうだな。

リュウ

も、もしかして幽霊が!?

ウン

……いや、機械による痕跡だな。

ア

へぇ、わざわざ機械を使って脅しに来るとは、手の込んだ犯人だ。

リュウ

な、なんだと……?

ウンは屈み込み、壁から剥がれ落ちた粉末を指先で擦る。白い粉の中には、淡い青色の粒子が混じっていた。

アが壁を撮影している間に、ウンは廊下をぐるりと見回した。

ウン

リュウさん、ご安心を。これは誰かがわざと描いたものじゃありません。傷跡に残っていた青い粉末は、乾いたクレンザーです。

それに、この規則的な間隔……おそらく、清掃業者のポリッシャーが壁に接触した痕でしょう。

ア

根拠は?

ウン

そこにタイヤ痕がある。ほら。

ウンが指差した先を見ると、傷跡の真下の床タイルに、かすかなゴム跡が残っていた。

ア

本当にそれだけか? タイヤ付きの乗り物で、この記号を付けに来たんじゃねえのか?

リュウ

ひぃっ……

ウン

大丈夫ですよ、リュウさん。壁の傷跡の件はただの事故でしょう。何なら「深夜の囁き声」も調べましょうか。お邪魔しても大丈夫ですか?

リュウ

あ、ああ、どうぞ!

(小声)でも昨日、ドアを開けた瞬間に誰かが走り去る音がしたんだが……あれも清掃業者なのか……?


夜は更け、リュウの部屋は、小さなランプがいくつか点いているのみで、ブラインド越しに外のネオンの光が赤く明滅していた。

ウンはドアに耳を当てて外の気配を探り、アは窓際に寄りかかり懐中電灯で外を照らして監視しつつ、時折シャッターを切っていた。

リュウは毛布にくるまり、懐中電灯を握りしめて震えている。室内には微かな風の音と、カメラのシャッター音だけが響いていた。

ウン

廊下に人の気配はありませんね。聞こえるのは遠くの車の音だけです。ア、何を見ているんだ?


ウン

……ああ、この団地の人たち、優しいんだな。こんな時間なのに、野良の雲獣にエサをやってる人がいるなんて。

ア

俺たちも夜中に寝転んでたら、誰かがエサくれるのかねえ?

ウン

おや、雲獣がこっちに向かってくるな……おっと、壁を駆け登ってきたぞ。元気な子だな。

ア

一枚撮っとくか…………こいつ、野良じゃないな。首輪がついてるぜ。

リュウ

ああ、ミーちゃんか。きっと迷子になったんだろうな。最近、よく下で誰かに餌をもらってるところを見かけるよ。

すごく人懐っこくてね、毎晩うちの窓辺に遊びに来るんだよ……って、そんなことより……

もうすぐだ。毎晩この時間になると、壁の向こうから囁き声が……

ジジジ――ジジ――

一瞬の静寂の直後、奇妙な音が部屋に響いてくる。

リュウ

こ、この音だ!

ア

電流のノイズか……?

リュウの額に脂汗が滲む。アも驚きの表情を見せたが、ウンは落ち着いた様子で立ち上がると壁に耳を当て、音の源を辿ってキッチンへと向かった。

数分後、ノイズは突然途切れた。

ア

止まった? 何かの電源でも切ったのか?

ウン

空気清浄機だよ。中に異物が詰まっていた。

ファンが緩んでいて、回転するたびにその異物と接触していたみたいだ。壁越しだと囁き声のように聞こえなくもないだろう。

ア

何が詰まってたんだ?

ウン

何かの部品のようだが……

リュウ

その空気清浄機、ずっと使ってなかったんだが、最近空気が悪くてつけっぱなしにしていたんだ……まさか物が詰まるなんて。

あ、先週、配管修理に来た業者が落としていったのか? 安さにつられて都市間ネットワークで業者を呼んだのが間違いだった……

ア

このパーツ……

リュウ

はぁ……とにかく今日来てもらってよかったよ。じゃないと、もうこの家に住み続けられなかったかもしれない。

ウン

神経質になり過ぎですよ、リュウさん。龍門にも様々な問題はありますが、怪談や陰謀がそう転がっているわけじゃありません。

少し立ち入ったことを聞きますが……身の回りにこういうことがあると、不安になるのはわかります。ですが、あまりに恐れ過ぎではありませんか?

壁の傷跡や空気清浄機の異音だけで、そこまで命の危険を感じるものでしょうか。何か心当たりがあるのでは?

リュウ

それは……

……

実は……先週、会社の同僚を内部告発したんだ。密輸と横領の件について。

会社に多少グレーな取引があるのは知ってたし、あいつが裏の仕事に関わってるって噂もあった。何より出世が早くて……正直、嫉妬もあった。

それで、勢いで告発しちまったんだが、報復に来るんじゃないかと怖くなって……

しかもこの一週間、彼の姿を会社で見かけないんだ。だから、私を消す準備をしているんじゃないかと思って……

ウン

なるほど、そういうことでしたか!

誤解は早めに解くべきですよ。放っておくと、小さな火種が大火事になりかねませんから。

もう遅い時間ですから、今日は休みましょう。明日、事務所に来てください。全て解決してみせますから。

リュウ

本当かい!? ありがとう! で、報酬は――

ウン

それも明日で構いません。では、おやすみなさい。

ア

報復か。面白ぇ……


ア

で、なんで「明日全て解決する」なんて言ったんだ? 自信満々だな?

ウン

だって、誤解を解くだけだろ? それくらい、俺にもできるさ。

明日の報酬が入れば、久しぶりにまともなものが買えるな。殻獣肉のコーン炒め、カボチャとスペアリブの煮込み、あとはキュウリとキクラゲの和え物……ア、何かリクエストは?

ア

……

ウン

献立を考えるくらいで、どうしてそんな怖い顔をしてるんだ?

ア

やっぱり何かおかしい。こんな偶然ってあるか? あの「ミーちゃん」が毎晩決まった時間にリュウの家の窓辺にやってきて、そのタイミングで異音が鳴るなんて。

それにあの首輪のタグ、光ってたぜ! ほら、写真見ろよ。雲獣に光る首輪なんてつける奴がいるもんか。どう考えても怪しすぎるだろ……

ウン

最近の流行りかもしれないじゃないか。夜道で目立つようにっていう、飼い主の配慮だろう。ミーちゃん、全身真っ黒だったし。

ア

真っ黒い野良の雲獣、毎晩の定期巡回ルート……首輪の発光タグ、エサをやる人物……壁の傷跡と異音、そして空気清浄機に詰まってたパーツ……

ハッ、リュウを監視してる奴が誰なのかわかったぜ!

ウン

何だって?

ア

この写真を見ろ。下にいるこいつ、何かを手にしてこっちを見上げてる。

ウン

ミーちゃんを見てただけじゃないのか?

ア

ミーちゃんは、リュウの家の窓辺にいたよな?

ってことは、こいつはミーちゃんを使ってリュウを盗聴――いや、監視してたってことだ! あの光るタグはカメラだろ!

ウン

その推理、リュウさんの前で披露しなくて良かったよ。あの人、本当に卒倒してたかもしれない。

彼の目の下のクマを見ただろう? あの様子じゃ、まともに眠れてないんだろうな。これ以上彼を追い詰めるのは毒だ。

龍門で生きるのは楽じゃない。リー先生はいつも難しいことに巻き込まれるし、話し合いでどうにもならないことも確かにあるけど……

ただ、俺はこう思うんだ。最初からみんなが正面から向き合っていれば、複雑な話にはならなかったんじゃないかって。誤解があるなら、言葉を交わす余地はある。試してみる価値はあるはずだ。

結局のところ、どんな揉め事も……突き詰めれば人間関係だろ。誰かが気に入らない、誰かが妬ましい……そんな感情をぶつけ合っていたって、キリがない。

だから明日、問題の根源を絶つことができれば、リュウさんの不安も全部消えるさ。

ア

珍しく意見が合ったな……

そう、根源を絶たないとな。黒幕のアジトを突き止めて、何を企んでるか暴いてやる……

ウン

アジトって、なんのことだ?

ア

何でもない。それより早く帰ろうぜ。明日は早いんだ。


ウン

アのやつ、朝からどこへ行ったんだ……?

まあいい、俺一人でもなんとかなるだろう。この程度の場数、踏んでないわけじゃないしな。

もしもし? あ、リュウさん。今、商店街に着きました。

いえいえ、お気になさらず。こちらもあらかた買い出しは済みましたから。

……あ、それとなんですが、報酬の前払いについて少し相談できませんか?


ア

……ほらほら、ミーちゃん、こっちおいで。

我慢して俺のカップ麺から取ってきたチャーシューだぞ? 食いたきゃ、首のソレを寄越せ――

――よし、確保!

やっぱりな。タグの中は……小型カメラか。

最近のマフィアは随分と回りくどい手を使うねぇ……いや、マフィアじゃなくて企業の陰謀か、私怨の線か……?

これ、もしかしたらリュウが言ってた、告発した同僚が――

待て、あの男、昨夜ミーちゃんにエサをやってた奴じゃないか? リュウの家のドアをノックしてる?居留守してるのか? ……いや、ウンが先に来てリュウを連れ出したんだな。やるじゃねぇか。

あの男、誰と電話してやがる……おいおい、行っちまうのか? 追わないとな……リュウの居場所を突き止める気かもしれねえし。

ちょっ……邪魔しないで、ミーちゃん! しっしっ! もうチャーシューはねえんだよ!


ア

はぁ、はぁ……足の速いやつだな……

商店街の中に入っていく……ちっ、尾行がバレたか? 週末の人混みじゃすぐに見失っちまうぞ!

え……? あれって……ウンとリュウか? あいつら何で買い物袋なんか抱えてるんだ? まさか自衛用の武器とか……

どうすりゃいい、近衛局に通報するか? いや、ウンまで捕まったら事務所が……

いや、今はとにかく、あいつを追わないと。

ちょっと、押すなって、通してくれ!


ア

ただのマンション? ずいぶんと地味なアジトだな……

あの男……荷物が増えてやがる。商店街で仲間から受け渡されたんだろうが、中身は何だ……凶器か? 賄賂の金か?

ウンに知らせた方がいいのか? それとも近衛局か? いや、弱そうだし、ウンなら勝てるか。

……こっちを見てる? まずい、気付かれた!

おいおい、近づいてきやがる! バッグに手を入れやがったぞ――


???

……

リュウ

……

えっと、ワンくん……? なんでそんな格好してるんだ?

ワン

あはは……実は先週、うっかり転んで入院してしまいまして……

リュウ

それは……災難だったな……

薄暗い廊下で、リュウとワンという二人の男が顔を見合わせる。その場の空気は非常に気まずいものだった。

その横ではウンが満面の笑みを浮かべ、果物が詰まった袋を提げたまま、期待に満ちた眼差しをリュウに向けている。

リュウ

(小声)告発した同僚の住所を聞いたのは、こうするためだったのか!?

ウン

(小声)そうですとも!

リュウ

(小声)それなら……先に言ってくれよ! 心の準備ってものがあるだろ!

ウン

え? でも昨夜、「誤解は早めに解くべき」とお伝えしたと思いますが?

リュウ

(小声)いや、それだけでわかるわけないだろ――

ワン

……

お二人とも、一体何のご用で? 特にないのなら、僕はこれで……

ウン

お待ちください! リュウさんから大事な話があるんです!

ワン

大事な話?

ウン

はい! とても重要なことです!

(小声)リュウさん、ほら早く!

リュウ

(小声)わ、わかったよ……!

……

その、なんだ……先週、君を告発したことだが。あの時は、頭に血が上っていたんだ。実はここ半年、仕事が上手くいかなくて、君ばかり昇進するのが妬ましくて……

でもそうする前に、ちゃんと君と話すべきだったんだ! 会社のグレーな取引なんて私には関係ないし、本来なら私が出しゃばるべきじゃなかった……

だから……今日は君に謝りに来たんだ! 心ばかりの品だが、受け取ってくれないか!

リュウは一息にまくし立てると、果物の入った袋をワンの前に差し出した。

ワンは、まるで今世紀最大のニュースでも聞いたかのように口を半開きにし、その袋を受け取るべきか迷っているようだった。

すると、ウンがさっとワンの手を取り強引にリュウと握手させ、その流れで果物の袋をワンの腕に抱え込ませた。

ウン

事の経緯はこんな感じです。リュウさんはこの一週間、罪悪感で食事も喉を通らない様子でして。「告発はあまりに軽率だった、ワンさんに詫びを入れたい」ということで、こうして参った次第です。

みんな仲良くするに越したことはありませんからね。

ワンさん、いかがでしょうか?

ワン

……

リュウさん……気に病むことなんてないんですよ。実は、告発されたおかげで、ようやくグレーな取引があることに気付けたんです。僕はただ上の指示に従ってただけで、中身を把握してなくて……

部署も異動することになりましたけど、正直ホッとしてます。リュウさんが告発してくれなかったら、今ごろ会社から濡れ衣を着せられていたかもしれませんし。

リュウ

え? そうだったのか……!

ああ、私がもっと早く君と話していればこんなことには……!

ワン

いえいえ、そんなに自分を責めなくても……

ウン

よかった、これで一件落着ですね。腹を割って話せば、人と人はわかり合えるものですよ。

リュウさん、これで尾行の心配もなくなりましたね!

ワン

尾行……?

ウン

そうだ、お二人の和解を祝して、うちで食事でもどうですか?

あ、いや……待てよ。

二人が答えるよりも早く、ウンは何かを思い出したかのように首を振ると、ポンと手を打った。

ウン

外で食べましょう。ちょうどいい店があるんです、お二人ともどうですか? まだ混む時間帯じゃないから、それほど並ばずに入れると思います。

あ、そうだ。リュウさん、例の報酬の前払い、お願いできますかね……?

リュウ

ははっ、そんなこと気にしなくていいさ! 私も腹が減ったし、タクシーで行こう。ここは私の奢りだ!


ア

ちっ、結局ただの誤解ってことかよ……つまんねえ!

信じられるか? 俺が半日張り込んだ重要参考人が、ただのスポーツジムの勧誘員だったなんてよ!?

なぜリュウの部屋をノックしたのか問い詰めたら、そいつ何て言ったと思う?

「リュウさんとプール体験に行く約束をしてたのに、すっぽかすなんて酷いじゃないか」だってよ!

まったく……酷いのはどっちだよ!?

ウン

まだ根に持ってるのか? ただの誤解でよかったじゃないか。

リュウさん、帰り際に言ってたよ。ワンさんとちゃんと話したら、もう誰かに見られてる感じもなくなったって。お勧めしたアロマオイルも買って帰ったし、今夜はぐっすり眠れるだろうな。

俺はむしろ、大したこともしてないのに報酬をもらい過ぎたんじゃないかって、気が引けてるくらいさ。

ア

俺は大したことをしたつもりだけどな。けど、俺の読みが外れてるとは思えねえんだが……

おかしいだろ。ただの誤解だったら、あの勧誘員とこそこそ話してた連中は何者なんだ?

ウン

ただの立ち話かもしれないだろ。

この街には、俺たちみたいな人より、普通の人の方がずっと多いんだ。みんな、平凡に暮らしてるんだよ。

ほら、肉ばかりじゃなくて、青菜もキノコも食え。今回の油燜筍(ユーメンスン)は会心の出来なんだ、一口どうだ?

ア

あんたは人を善人だと思い過ぎなんだよ! 今回は無事だったからいいけど、無防備に依頼人を連れてドア開けた途端、百人のギャングが飛び出してきたらどうするつもりだったんだ?

リー先生は計算高いから心配ねえけど、あんたはすぐ人を信用するから危なっかしいんだよ。

俺は断言するね。あのリュウって依頼人も、そいつを尾行してたやつも、依頼人の会社も間違いなくクロだ!

はぁ……俺がいなきゃどうなってたことか。俺が気張って目を光らせとかないと、この事務所はお終いだぜ……

ウン

はいはい、頼りにしてるよ。さ、冷めないうちに野菜を食べな。


スワイヤー

とりあえず、協力に感謝するわ。

ユーシャ

夜食の最中にまで仕事の話?

スワイヤー

……アンタに話すプライベートの話題なんてないの!

でも今日はホントに危なかったわ。組織が動き出す直前であの「親切な市民」がターゲットを連れ出してくれてなきゃ、死人が出てたかもしれない。

ユーシャ

二人もね。

スワイヤー

え?

ユーシャ

彼らが謝罪に行った相手は、私の情報提供者だったの。あの退院したばかりのお馬鹿さん、自分がマークされてるとも知らずに自宅へ戻ってたのよ。

スワイヤー

へえ……そんな偶然もあるのね。

ユーシャ

偶然かしら? あの探偵事務所の大男……のんきそうだけど、実はかなり鋭いんじゃない? わざわざ人目につく場所を選んで移動していたし……

スワイヤー

どこかの誰かさんの手際はまだまだのようね。テロリストが一般住宅に潜伏してることに気付かないなんて。

ユーシャ

告発者名簿の漏洩を許した誰かさんよりマシだと思うけど。

スワイヤー

うるさいわね! 今その件は調査中よ!

ユーシャ

隙あり。

(モグモグ)

スワイヤー

あっ!? 最後の鱗獣団子が! ネズ公、アンタやったわね――