陽光が降り注ぐ前に幕間陽光が降り注ぐ前に
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陽光が降り注ぐ前に 幕間

陽光が降り注ぐ前に

「まだ動ける? 一緒にアフターグロー区をもう一周しようか?」

「……」

「あはは、ようやく私より体力ないって認める気になった?」

「もうすぐ日が暮れます。夜の風は……冷たいですよ。」

「わかってる、わかってるよ」

目の前の人物は弱々しく笑った。青白いはずの顔が、夕陽に照らされ金色に輝いている。

「でも私は、太陽が沈むまで、夜明けから夕べまで、ずっと歩き続けるんだ。」

「私を二十年間育み、二十年間閉じ込めていたこの場所の姿を、深く心に刻み込むために……」

「私がまだここを蔑み、称え、憎しみ、恋しく思えるうちにね。」

「だって、もうわかってるから。私も、私の音楽も、もうこの小さなアフターグロー区の外に出られないんだって。」

「約束して。あなたは私みたいにはならないって。このことでは、私に負けたりしないって……ね?」

ゲルトルーデ

来ましたわね。

目が赤くなっていましてよ。アフターグローホールを通ってきましたの?

ツェルニー

……

ゲルトルーデ

お悔やみ申し上げますわ。

ツェルニー

お気遣いありがとうございます、ストロッロ――失礼、ゲルトルーデさん。

ゲルトルーデ

お気になさらないで。私のこうした些細なこだわりをご存知の方など、ほとんどおりませんもの。

従者でさえ領主を名前で呼ぶことには慣れておりませんから。結局のところ、私はこの街とも、この高塔とも、よく慣れ親しんだと言えるほどの時を重ねたわけではないのですわ。

それにしても、あなたには面倒をかけましたわね。今日は皆忙しくて、クリフィーパティオ区までご足労いただく他ありませんでしたから……どうぞ、薬ですわ。

ツェルニー

感謝します。

ゲルトルーデ

高塔の守衛に意地悪はされなかったかしら?

ツェルニー

最初はそのつもりだったようですが、あなたのメモを見せた途端、「道理に背くことを」などとブツブツ呟きながら、引き下がりました。

ゲルトルーデ

ほら、私の申し上げた通りでしょう? 私はこの高塔に親しんでいないどころか、諍いさえ起きていますの。

それに、『夕べの夜明け』の楽譜をツェルニー名義でヴィセハイムの外へ広めることの方が、感染者の何人かをここに入れることよりずっと道理に背いていますわ。気に病むことはありません。

ツェルニー

ふっ、気に病む? 何も今日初めて感染者の平民になった身でもないのに……むしろあなたのような貴族の方が珍しいでしょう。改めて感謝を申し上げます。

ゲルトルーデ

そんなに慌ててお礼を言わなくとも結構ですわ。あなたを呼んだのは薬をお渡しするためでなく、私からもお願いしたいことがあったからです。

ツェルニー

私にできることであれば、何なりと。

ゲルトルーデ

私の兄の葬儀で『夕べの夜明け』を演奏していただきたいのです。

いささか難しい注文だということは重々承知していますわ。問題はフルートとチェロの二重奏をピアノソロにアレンジすることだけではありませんし……

ツェルニー

……

ゲルトルーデ

あなたが兄とまったく面識がなかったことも知っています。唯一の接点と言えば、領主と領民であったことくらいでしょうね。

だけれど、兄は……何と言ったらいいかしら。兄は父のような辣腕の領主ではなく、優柔不断な人でした。

言葉を選ばずに言えば、軟弱な人でしたわ。

けれど、ほとんど何の取り柄もないと言えるほど軟弱であったがゆえに、父と比べて、兄はずっと無害な人でしたの。私に対しても、彼の領民に対しても――

ツェルニー

ゲルトルーデさん。

ゲルトルーデ

何でしょう?

ツェルニー

お兄様を無理に悪く言う必要はありません。大切な人を失った痛みは、私にもよく理解ができます。

ここに来る前、先生とも会ってきました。彼女も今のあなたのように、娘の話になると不平不満ばかりでしたよ。頑固だとか、言うことを聞かないだとか、運が悪いだとか……

でも最後には、いつも涙で言葉を詰まらせてしまうのです。

痛みは痛みです。それ以外の何物でもありません。故人を責めるフリをしたところで、何も隠せはしません。

ゲルトルーデ

……

ツェルニー

ですが私も率直に申し上げねばなりません。伯爵の葬儀には、きっと多くの貴族が参列なさることでしょう。常に一挙両得を狙うあなたのことですから……

ゲルトルーデ

ええ、あなたのパトロンは多くの音楽評論家を葬儀に招くつもりですわ。

今やあなたの名は確かに世に轟いていますが、まだまだ足りません……いえ、私に言わせれば到底正当な評価とは言えません。名を揚げるチャンスは何であれ逃すわけにはいきませんのよ。

ツェルニー

たとえそれがお兄様の葬儀だとしてもですか?

個人への哀悼のためであれば、私も喜んで『夕べの夜明け』を演奏いたしましょう。ですが、尊大な貴族たちや、鼻持ちならない評論家の前となりますと……

慰めが必要なのはあなたです、ゲルトルーデさん。彼らではありません。

ゲルトルーデ

あなたがこういったことを嫌っているのは承知していますわ。音楽に対して常に純粋に、真摯に向き合っていらっしゃいますから。けれども、私はあなたではありません。

富、名声、人脈……あなたが取るに足らないと感じるものを、私が捨て置くわけには参りませんの。芸術家は曇りなく純粋でいられますけど、パトロンはそうはいきませんわ。

ツェルニー

ゲルトルーデさん……

ゲルトルーデ

よく考えておいてくださいまし、よろしくって?


ウルズラ

旦那様、ご飯だよ!

旦那様――

ツェルニー

ウルズラさん、聞こえていますから、そんなに大きな声を出さないでください。

……ずっと食べずに待っていてくれたのですか?

ウルズラ

もちろんさ。

旦那様、どうかしたのかい? ここ数日、やっと少し気分が晴れたように見えたのに、また……

ツェルニー

ゲルトルーデさんから……頼み事をされましてね。お兄様の葬儀で『夕べの夜明け』を演奏してほしいと。

ウルズラ

だったら何を迷うことがあるんだい。あの人は、旦那様のパトロンじゃないか。

ツェルニー

……貴族の公葬ですよ、ウルズラさん。

私にとって『夕べの夜明け』を演奏することは……自分の殻をこじ開け、中の最も弱い部分を……他人にさらけ出し、彼らに理解と共鳴を求めるようなものです。

もし相手があなたやゲルトルーデさん、もしくはアフターグロー区の誰かのためなら、喜んで演奏いたしましょう。あなた方なら私のことを理解してくれるとわかっていますので。

しかし、貴族どもや評論家どもに……何がわかると言うのです? 演奏技術? それとも以前に読んだ『夕べの夜明け』についての妙な評論のように……

「作曲家の身分の卑しさと曲が表現する野心は、強烈な対比を成している」なんて下らないコメントでも述べるのでしょうか?

なぜ私があのような輩の前で、己の弱さをさらけ出さねばならないのです? 名声のためですか? 金のためですか?

ウルズラ

やれやれ、旦那様、ちょっとは落ち着いておくれ。とりあえず食事にしようじゃないか、え?


ゲルトルーデ

残党の活動報告に、私兵の集結地点……まったく、素晴らしい兄ですこと。

ラハマン

ミズ・ストロッロ――

何をしているんです? それって……重要な機密書類なんじゃ?

ゲルトルーデ

だからこそ、暖炉の中にしまうべきではありませんの。

それから、ラハマン。「術師さん」があなたをヴィセハイムへ寄越してからもう何年経ったのかしら?

ラハマン

……まさか!?

ゲルトルーデ

心配なさらないで。「術師さん」は私の父の指示役でしたわ。それから兄の指示役になり、今は私の指示役。それを変えるつもりはありません。

ラハマン

……あなたの寛大さに感謝します、ミズ・ス――いえ、ゲルトルーデ様。

ゲルトルーデ

次の行動に移る前に、まずは葬儀をきちんと執り行わねばなりませんわ。まだ足りないものは何かあるかしら?

ラハマン

問わずともおわかりでしょう。

伯爵の葬儀に参列できるとなれば、あなたが招いた評論家たちはさぞかし驚き喜んでいるはずです。ですが、もし奏者が欠席するようなことがあれば……

ゲルトルーデ

フフ、そうですわね。

あれは愚かな男です。目先の名誉を一顧だにしないほどに。

けれども、彼が愚かだからこそ、『夕べの夜明け』はファニーを想う彼の手によって書かれたのです。愛しの兄を思う私ではなく。

ラハマン

ああいう情を重んじる男をがっちり手中に収めておきたいのなら、プライベートでの関係ももっと深めるべきでは……

ゲルトルーデ

……

くだらない提案はおよしなさい。彼は私に対してそんな気はちっとも抱いていませんわ。気前のいいパトロンであり、最も頼れる友人だと思ってくれれば十分でしてよ。

ラハマン

しかしそれでは……

ゲルトルーデ

万一来なければ、私の努力がすべて水の泡になると危惧しているのでしょう?

彼は来ますわ。

ラハマン

奥の手をご用意されていると?

ゲルトルーデ

そんなものはなくってよ。ただ彼の人となりを理解しているだけのことですわ。

あるいはこう言うべきかしら。彼は、あまりにも純粋すぎる男ですの。少し関わっただけで、その本質を見抜けてしまうほどに。


ウルズラ

「以前は私を待たずに先に食事を済ませていた」ってどういうことさ。いつだって旦那様の帰りを待ってからご飯にしているじゃないか。

ツェルニー

いまだに覚えていますよ。前に一度ファニーが訪ねてきて、対位法の課題を間違えたのが私だと言うものだから、フォークを放って家から飛び出し、先生の家で彼女と夜中まで口論していました……

そして、お腹を空かせて帰ってきた頃には、テーブルの上は綺麗に片付いていて、何も残っていなかったのです。

ウルズラ

まさかファニーたちが一日中何も食べてなかったなんて思わなかったのさ。それに、夜通し料理を作ってあの子の家まで届けてやったじゃないかい。

ツェルニー

……ファニーは舌をやけどしていましたけどね。

ウルズラ

人のことが言えるかい? 旦那様だってベイクドポテトを床に落としかけてたよ。

ジャガイモのスープがまだ温かいうちに、おかわりはどうだい?

ツェルニー

ええ、いただきます。

ウルズラ

誰だい? 開いてるから、入りな。

ああ、これはこれは、いらっしゃい!

露店の主人

ウルズラさん、新しい家はずいぶんと見つけやすくなったな。

ウルズラ

旦那様が頑張ってくれてるおかげさ。

露店の主人

ははっ、こいつが頑張ってるおかげで鼻が高いのはウルズラさんだけじゃないぜ!

新居への引っ越しおめでとう。それとツェルニーさんもな。こないだまでほんの坊主だったのに、少し見ないうちに立派になって、俺たちにゃ想像もできなかったことを成し遂げちまったもんな!

いやいや、ずいぶんと広い家だ……こりゃなんだ、バスタブか?

こんなの見たのは久しぶりだ。ウルズラさん、こいつの使い心地はどうだ?

ウルズラ

聞かなくたってわかるだろ。前までは雨の日になると、関節が痛くてかなわなかったけどね。旦那様のおかげで、今はお湯に浸かればすっかり良くなるのさ!

露店の主人

ほらな、ツェルニーさん。ウルズラさんの生活が良くなったのは、全部あんたのおかげだよ!

ツェルニー

は、はい……

露店の主人

ほれ! こいつはクリフィーパティオ区のお偉いさん方お気に入りの銘酒だ。喫茶店の店長に譲ってもらうのに、ずいぶんと骨が折れたぜ。

ウルズラ

そんなに気を遣わなくたっていいのに。今ちょうど食事中なんだ、一緒にどうだい?

露店の主人

いや、遠慮しとくよ。

一昨日のことだが、いきなり団体さんがやって来てな。「大作曲家ツェルニーの出身地を巡礼してる」って言うんだ。

ちょうどアコーディオンを弾きながら呼び売りしてたおかげで、ようやくザワークラウト屋をオープンできたんだぜ。今日も同じようなチャンスがあれば、逃すわけにはいかないのさ。

ウルズラ

そりゃよかった。じゃ、しっかり稼いどいで!

旦那様、さっきはどうしたんだい。せっかくお祝いに来てくれたってのに、挨拶の一言もないなんて。

ツェルニー

少し前に大変迷惑をかけてしまったので……少々気まずかったんです。

ウルズラ

迷惑? ああ、あの喧嘩のことかい。

ツェルニー

ええ、まあ。

ウルズラ

とっくに済んだことじゃないか。旦那様は謝りに行ったし、向こうだって気にしちゃいないって言ってただろ。旦那様は心配が度を超すと、冷静でいられなくなる性格だからってね。

ツェルニー

それは……

ウルズラ

旦那様が口下手だってことは、アフターグロー区のみんなが知っていることだよ。

だけど、たしかにそそっかしいところはあるね。

ファニーが料理の味がわからなかったのを、自分への嫌がらせだと思い込んだのは、病気で頭がぼんやりしてたからだよ。なのに、なんで旦那様まで一緒にカッとなったんだい?

店に駆け付けた時にゃびっくりしたさ。あんなに怒った旦那様を見たのは初めて――

ツェルニー

……

ウルズラ

……

……すまないねえ。とりあえず、ご飯にしよう。

ツェルニー

ウルズラさん。

ウルズラ

なんだい?

ツェルニー

その、もし私が例の葬儀に参列したら、店主殿が先ほど言っていたような商売チャンスは……もっと増えるのでしょうか?

私が己の弱さを、我々の運命など毛頭すら気にしていない連中にさらけ出し、奴らに品定めをさせれば、アフターグロー区に……浴槽付きの家を増やすことができるのでしょうか?

ウルズラ

旦那様。

ツェルニー

いや、だめだ。音楽とはそういうものではない。少なくとも私の音楽はそうであってはいけないんだ。

しかし……


「だって、もうわかってるから。私も、私の音楽も、もうこの小さなアフターグロー区の外に出られないんだって。」

「約束して。あなたは私みたいにはならないって。このことでは、私に負けたりしないって……ね?」


ツェルニー

……

ウルズラ

旦那様、どこへ行くんだい。

ツェルニー

ゲルトルーデさんのところへ。

彼女への返事が早いほど、私も『夕べの夜明け』のピアノソロの編曲に早く取りかかれますので。


時が経つのは実にあっという間である。

先代ストロッロ伯爵の葬儀は中盤に差し掛かっていた。間もなく演奏が始まろうとしている。

ツェルニーは遠くを見やる。その目に映るのはクリフィーパティオ区にそびえ立つ建物だが、脳裏に浮かぶのは、あの日ファニーと何度も通りかかったアフターグローホールの午後だ。

彼は参列者に向かって軽く会釈をすると、腰を下ろし、演奏を始めた。

冷酷な貴族

感染者に葬儀の演奏を任せるとはな。

辛辣な貴族

おおかた兄の死に乗じて、レコードを多めに売りつけてやろうって魂胆なんだろう。


饒舌な評論家

ピアノソロだと? ピアノ一台でフルートとチェロの雰囲気を同時に表現できるとは思えんがね。

寡黙な評論家

……

音楽家はとても耳が良い。演奏が始まってもいない内から、悪意に満ちたその声をすべて聞き取っていた。

彼は悔しげに唇を噛んだものの、演奏はすでに始まっている。

何もかも聞こえているのに、何も聞かないようにする他なかった。

旋律がゆったりと広場を漂う。喧騒は鳴り止まなかったが、彼の元からは次第に遠ざかっていった。

夕べの夜明け。

夜明けと夕べ。

仮にフルートの明快で伸びやかな澄んだ音色が、山頂から一望する日の出ならば、ピアノの奏でる朝日は、出だしから薄霧に覆われているだろう。

陽射しは平等に大地に降り注ぐ。渇きゆえに束の間弱まることもなければ、暗雲に遮られたことで光を強めることもない。

早朝の肌寒さは、ある種の無情をさえ感じさせるほどだ。

寡黙な評論家

……大胆なアレンジだ。

饒舌な評論家

やはり何か違う気がするね。こんなものが朝日と呼べるのか? こんな朝日が、一体何を照らせるというのかね?

寡黙な評論家

あるいは何も照らせないかもしれんな。

冷酷な貴族

なかなかに没頭しているじゃないか。

辛辣な貴族

これだけ多くの貴族の前で演奏するのは、彼の生涯ではこの一度きりだろう。チャンスを掴まないわけにはいかんだろうさ。

しかし私に言わせれば、ストロッロ――人だかりを出入りしている彼女ではなく、棺の中のストロッロだが、本当に不運な男だ。

ずっと父親の陰で生きた末、ようやく権力を手にしたかと思えば、すぐに急病で世を去った。その上、葬儀の演奏を任されたのが感染者ときたものだ。

夜明けと夕べ。

たとえ低音域をどれだけ長く響かせようと、ピアノの鍵盤ではチェロの弓のように、血のごとく暗く沈んだ夕陽の緋色で聴衆の心を揺さぶることはできない。

ゆえに、彼はごくありふれた夕焼けを奏でることに決めた。

もうすぐ日が暮れる。そろそろ眠りにつく頃だ。

短い呼吸音、ベッドのにおい、天井の茜色、紺色の空にかすかに見える星明り。


真っ黒に染まった夜が死者を強く抱きしめ、かすかに残った光がなおも去ることを拒む中、音楽家はそれら一切を顧みることなく、闇と光の境目に揺らぐ青緑を奏でる。

激しくも穏やかで、奥深くも無意味な、ごくありふれた生き別れと死に別れ。

辛辣な貴族

ストロッロ伯爵は、本当に……はぁ。

おどおどした男だった。ひとこと話すたびに何度も愛想笑いを浮かべていてな、爵位を継いでからもそれは変わらなかった。

最後に会った時、用意する贈り物を間違えてしまった彼を、私は思いっきり嘲笑ってやった……なのに今、彼がまだ目の前で笑っているかのようだ。

あんなことをすべきじゃなかった。本当に――

冷酷な貴族

……静かにしたまえ。

辛辣な貴族

(鼻をすする)

夜明けと夕べ。

朝日が最も高いところまで、ぐんぐんと昇り続ける。息を呑むほど高くまで昇りつめると、それからゆっくりと落ち、夕陽となって大地へと沈みゆく。

太陽と比べれば、我々はあまりに小さく、あまりに脆い。我々の喜怒哀楽はかけがえのないものでありながら、取るに足らないものでもある。

もし我々がこの世にもう少しだけ長く、長く留まれたなら、痛みが消え、皺が伸び、失われた愛が東から昇る夕陽と西に沈む朝日の狭間で若返る様を目にすることができたのだろうか?

しかし我々は時間に縛られたほんのちっぽけな生き物に過ぎず、いつかは別れを迎えるのだ。

ゆっくりと語られてゆく別れを。


その場の一同

……

最後の音符が夕暮れの風の中に消えていく。

風が音符を乗せてヴィセハイムを吹き抜け、目の届かぬ彼方へ飛び去ると、ささやき合う声が再び響き始めた。

音楽が始まる前に比べ、その声は厳かで控えめとなり、中には低いすすり泣きも混じっていた。

冷酷な貴族

……私が誰を思い出したと思う? 叔父のことさ。戦場を経験した老兵で、ひどく怒りっぽい人だった。私ともあまり交流はなく、やがてボケてしまった。

亡くなる前に、一度会いに行ったのだが、叔父はその時ちょうど花園で何かを燃やしていたんだ。紙の灰が、まるで地面から天へと降る雪のように、風に吹かれて舞い上がっていた。

辛辣な貴族

ツェルニー、ツェルニー……

人の運命とはまったくもって不公平だ。彼はなぜこんな場所で生まれ、よりにもよって感染者になってしまったのか?

寡黙な評論家

君、静かになったじゃないか。

饒舌な評論家

(鼻をすする)私が……はぁ……私がこれ以上何を言える? 何を言う資格がある?

家に帰って落ち着いたら、温和な批評を書くとしよう。それが私からの最大の賞賛だということは、君も分かっているだろう。だが今は――

ふぅ……

話は変わるが、エーデさんを見なかったか? 彼はミズ・ストロッロが今回招いた最も人望の厚い評論家なんだが、さっきから姿が見えないんだ。

寡黙な評論家

ミズ・ストロッロが先ほど葬儀場で彼を探していたぞ。

饒舌な評論家

先ほど? ツェルニーさんが演奏していた時か?

寡黙な評論家

ああ。

ツェルニーは長らくため込んでいた息をゆっくりと吐き出した。

彼はとても耳が良い。先入観に囚われながらも、芸術に……自らの弱さに心を揺さぶられた声を、すべて聞き取っていた。

顔の涙を拭うと、ふとゲルトルーデの姿が目に入った。

ゲルトルーデ

エーデさん、アフターグロー区の路地裏で迷子になってしまったなんて、何事もなくて本当に幸いでしたわ。

人望の厚い評論家

わざわざご案内いただき、ありがとうございました。私のせいで、ツェルニーさんの演奏を逃す羽目になってしまうなんて、どう詫びればいいのか……

ゲルトルーデ

とんでもございませんわ。あの場所からでも聞こえてましたでしょう? これ以上なく美しい音楽でしたわ。

ゲルトルーデは振り返る前に、顔に貼り付けた作り笑いを隠し、悲しみに満ちた表情に切り替えることを失念したまま、ツェルニーと視線を交わしてしまった。

音楽家の赤くなった目と自分の笑顔とがあまりに不似合いだと気づいた時、彼女はようやく、己が大きな過ちを犯したことを悟った。

まだ挽回できるといいのだが。そう願った彼女は、笑顔を保ったまま、傍の評論家を放って、足早に歩みだした。

彼女の予想通り、ツェルニーは正面からこちらに向かって歩いてきた。

饒舌な評論家

ツェルニーめ、どうしたというんだ。聴衆に挨拶もなしに、ミズ・ストロッロの方へ歩いて行くぞ?

……だが、そうだな。二人には積もる話もあることだろう。


ツェルニー

……

ゲルトルーデ

……

ツェルニー

それが……お兄様への追悼ですか?

ゲルトルーデ

……芸術家は曇りなく純粋でいられますけど、パトロンはそうはいきませんわ。

夕陽が西に傾いていた。二人はあえてお互いの顔を見ようとはしなかった。

ゲルトルーデ

よしてくださいまし。

ツェルニー

……ならば、今度はあなたが彼を悼む番です。

ツェルニーはアフターグロー区の広場を足早に去って行った。挨拶もせず、留まることも、誰を見ることもないままに。


ウルズラ

旦那様、手紙が届いてるよ。

ツェルニー

誰からですか?

ウルズラ

……ストロッロ伯爵さ。

二人とも、もう一ヶ月も連絡を取ってないじゃないか。ひょっとして……

ツェルニー

招待状に……直筆の手紙?

まだ私に二度目の誘いをかけるつもりですか、ゲルトルーデ……いえ、ミズ・ストロッロ。

いいでしょう。まずは文面を確かめましょうか。

時候の挨拶ばかり……実にくだらない。

いや、最後のこれは……

「私は先の葬儀についても、兄を悼んだことのない自分自身についても、お詫びするつもりはございません。ただあなたを騙したことに対して、謝罪を申し上げます。」

「信じていただけるかしら、あの後、私が成し遂げられたのはたった一つのことに過ぎないと気づいたのです。」

「一人の感染者にストロッロ伯爵の葬儀で曲を演奏させることで、親愛なるストロッロ家に……『最も誠意ある祝福』を送ることになりました。本当に、おかしな話だと思いませんか?」

「……つい、また失礼な話を書いてしまいました。」

「どうやら、私たちはやはりまったく違う人間であるようです。」

「ごめんなさい。」

ツェルニー

ゲルトルーデさん、あなたは……

……

招待状は……彼女自身のものではありませんね。これは……リサイタルツアー?

ウルズラ

リサイタルツアー?

ツェルニー

あの葬儀以降、多くの評論家や貴族たちから、私に彼らの都市で演奏会を開いてほしいとの声が上がっています。そこで彼女はいっそのこと、「リサイタルツアー」を計画した……

「芸術家は曇りなく純粋でいられるが、パトロンにはそれができない」でしたか?

……はぁ。

ウルズラさん、ツアーについて、あなたはどう思いますか?

ウルズラ

感染者のツアーだなんて……どうなるのか想像つかないけど、きっと楽じゃないだろうね。

ツェルニー

それどころではありません。恐らくは珍奇な動物の展示会と大差ない扱いになるでしょう……

ですが、私は行かねばなりません。

ウルズラ

どうしてだい?

ツェルニー

ただ、信じているからです。私の音色は、感染者の音色は……どのような隔たりすらも越えて、貴族たちの心に響くのだと。

たとえ報酬がなくとも、彼らから珍奇な動物のように見られようとも、檻の中にピアノさえあるのなら……

いえ、たとえ一本の鉄の棒しかなくても、鉄格子を叩いて音を鳴らせるのならば、私は喜んでそうしましょう。


ツェルニーの予想通り、感染者音楽家のツアーは珍奇な動物の展示会と大差ないものだった。

まさに今、このツアーの最終地点でも……

感染者である彼が自らの両足で演奏会場へ向かえるよう、通りは人払いされていた。不満そうな看守を除き、誰も感染者と共に歩こうとする者はいなかった。

ふと、彼の耳に極めて繊細で、馴染みのある音色が聞こえてきた。道端の花園の中からだ。

ツェルニー

『夕べの夜明け』!?

冷淡な貴族

止まるんじゃない、さっさと歩かんか!

ツェルニー

すみませんが、そこの花園は……

冷淡な貴族

そこは侯爵様一族の墓地だ! ほら、さっさと歩け!

ツェルニーは足を踏み出すと同時に、空を見上げた。

都市のどんよりした空では、ほとんど明暗の見分けがつかない。ツアー以降極めて不規則になった生活リズムで彼の昼夜は逆転しており、常に深い眠気に襲われるようになっていた。

体力はもはやほとんど底を尽いている。

それでも病身を押して、生活という名の巨大な大地に沿って、何周も何周も歩み続けねばならない。

蔑み、称え、憎しみ、恋しく思いながら……

夜明けから、夕べまで。