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次なる頂へ
よいしょ……あとちょっと!
ジャーンプ!
着地~!
この岩壁、かなり登りごたえがあるね。
これで、山の中腹あたりまで来たかな。一休みしたら、山頂を目指そう。
ん? あれは……煙? どうしてこんなひと気のない場所で、昼間から火を起こしてるんだろ――
いや、待って。もしかして、助けを求めてるのかな?
はぁ……足を怪我したせいで、薪集めも一苦労だわ。猟師さんでも通りかかって見つけてくれたらいいけど、こんな山奥じゃ……
野獣を引き寄せないように気をつけないと。
――誰!?
そんなに警戒しないで。この辺りで山を登ってたら煙が見えてさ。救難信号かもしれないと思って、来てみたんだ。
ふぅ……よかった、そうだったのね。
まさか本当に誰か来てくれるなんて。
もしかして、足に怪我してる?
ええ。この山、思ったより険しくて、うっかり転んじゃったのよ。
だけど、どうしてサンクタがこんなところで山を登ってたの?
私は公証人役場の執行人でね。ある故人の遺言を執行しているところなの。
遺言書には、何年も前にラテラーノを去ったサンクタを見つけてほしいと書かれていて、調べてみると、その人がこの辺りの山に住んでいることがわかったのよ。
だから近辺を探し回ってたんだけど……結果はご覧の通り。
公証人役場の仕事ってほんとに大変そうだね。
あら、あなた公証人役場を知ってるの?
うん。ロドスって知らない?
ロドス――ああ、フェデリコのいるところね。
だったら、そっちも相当大変そうだけど。
あはは、そうでもないよ。イグゼキュターは結構面白い人だしさ。
確かに、任務で同じチームにならない限りは面白い人ね。
ところで、麓の町まで連れて行ってもらうことはできる?
そこで一休みして、また遺言の執行に戻らないと。
まだ任務を続けるつもりなの?
ええ。
……
わかった。じゃあ、手を貸すよ。
……
やはり来たか、サンクタめ。
ところでサマラさん、前から気になってたんだけど……公証人役場の人って、あたしたちロドスのオペレーターとおんなじくらい、一日中忙しく駆け回ってるよね。
どうして亡くなった人のためにそこまでするの?
彼らがラテラーノを去ったあとも、法が私たちを結びつけているからよ。
法って……『イェラガンド』みたいな存在なのかな?
『イェラガンド』? やっぱり、あなたはイェラグ出身なのね。
そうだよ。あたしたちにとっては、イェラガンドへの信仰こそが自分たちを結び付けてくれるものなんだ。
うーん……それとは少し違うかも。私の知る限り、イェラガンドの信徒は、イェラガンドが人々のあずかり知らぬところで、イェラグに住む人たちを守ってくれている、と信じていると思うけど……
私たちラテラーノ人が信仰しているのは法そのものであり、自分たちを結び付ける規則なのよ。
私たちはお互いに責任を持ち、労り合い、理解し合っているの。
公証人役場が生まれたのもそれが理由でね。私たちは同胞のためなら喜んで身を捧げるし、それが私たち一人一人の義務であるとも信じているのよ。
イェラガンドの信徒もお互いに助け合ってるけど、すべてはイェラガンドの思し召しだって信じてるから、あんまりはっきりそれを表現しないんだよね。
へぇ、そういう考え方だったのね。興味深いわ。
イェラガンドへの信仰について当事者から聞くのは初めてだし、時間があったら腰を据えてゆっくりお喋りしたいところなんだけど。
まだ任務が残ってるから、もう行くわ。ここまで送ってくれてありがとうね、エンシアさん。
遺言の執行後に、機会があればまた――
その遺言のこと、あたしにも詳しく教えてもらえないかな? もしかしたら、手伝えるんじゃないかなって思ってさ。
えっ?
この辺の山はすごく険しいから、気をつけてないとまた怪我しちゃうかもしれないでしょ。あたしのほうが山登りが得意だろうし、役に立てると思うんだ。
もちろん、機密事項って感じなら無理にとは言わないけど。
機密と言うほどのことでもないわ。
でも、あなたに迷惑かけちゃうんじゃない?
大丈夫大丈夫。こっちの任務はもう終わってるし、本艦に戻る集合時間まではまだ少し余裕があるから。今は自由時間なの。
そうじゃなきゃ、ここで山登りなんてしてられないでしょ。
……
それなら、お言葉に甘えようかしら。
この遺言はね、レイギスさんっていうすごく人望の厚い銃騎士のものなの。彼は少し前に天寿を全うしたんだけど……
遺言書には、四十年前に彼と決別し、ラテラーノを去った弟さんで学者でもあるリンギスさんを見つけてほしいと書かれていたの。
決別って?
すごく昔の話だから、具体的なことは本人たちにしかわからないと思うわ。私たちが知ってるのは、当時お二人が戦争に対する姿勢の相違で仲たがいをしてしまったってことだけなの。
当時、教皇聖下はレイギスさん側の意見に賛同なさっていたから、リンギスさんは結局、ラテラーノを去ろうと決めたんですって。
レイギスさんは、自分がいる限り絶対にリンギスさんはラテラーノに戻らないだろうと知っていたから、自分の死後、彼がラテラーノに戻れるようにと望んでいたの。
でも、もしその人も……
そうなったらどうしてほしいかも、遺言書に書かれていたわ。その時はせめて、リンギスさんの遺品を持ち帰り、兄弟同士の再会を果たせるように、自分と一緒に埋葬してほしい、って。
……
別れ別れになった兄弟がまた会うためのお手伝いか……
そういうことなら、やっぱり手伝わないと!
何かもっと具体的な手がかりはある?
ええ。この辺りで聞き込みをした時、リンギスさんのことをよく知る人はいなかったんだけど、ティアナという狩人は彼と交流を持っていたって話を聞けたの。
でも、その人がなかなか見つからなくて。いちかばちか、近くの山に来てみたところだったのよ。
狩人?
ああ……なるほど、そういうことか。
……?
(小声)君は怪我をしてるから、気付かないのもしょうがないね。実はさっきからずっと誰かにつけられてるんだ。
(小声)何ですって!?
(小声)盗賊か何かだと思ってたんだけど、今思えば……君の言ってたその狩人なんじゃないかな。
(小声)姿勢を低くして。
チッ。
ここで待ってて。
あたしが追いかけてみる!
……
これは……近くの移動都市と通信が繋がったみたいね。よかった。
こちら執行人サマラ、救援要請をお願いします。
――えっ、枢機卿!?
山を登っていったみたい。すごい身のこなしだね。
……でも、あたしだって負けないよ!
ちょっと待って!
チッ。
ティアナって、君のことだよね?
私は単なる通りすがりの狩人だ。
とぼけないでよ。ただの通りすがりなら、あんなふうにずっとつけてきたりしないでしょ。
本当は、サマラさんが何をしに来たか、初めからわかってたんじゃないかな。
……
……待って、君サルカズだよね!?
だったら何だ?
サルカズがどうして――
なっ――
悪くない動きだ。
ふーんだ、君の狙いが適当なだけでしょ!
そう思うか?
(ッ……! 今狙ってたのは私じゃない!)
(まさか――!)
もう遅い。
しまっ――!
ッ、痛った――
落とし穴? それもかなり深い……
初めからここに誘導されてたんだ……!
ついでに、お前は登るのが得意なようだし、登山用の装備も拝借しておいた。
穴の縁から顔を出したサルカズは、クリフハートに向かって、彼女が背負っていたリュックを振って見せた。
いつの間に!
安心しろ、お前を殺すつもりはない。後ほど町へ行き、山に遭難者がいるということを自警団に伝えておこう。
このリュックも、彼らに預けておく。助けが来たら、荷物を受け取り帰るんだな。
どうしてこんなことするの!?
ちょっとした要求をするためさ。
公証人役場の者に伝えろ。リンギスはラテラーノには帰らないと。
……
はぁ、もっと気をつけるべきだったなあ。
うわっ……これ、ケージになってるんだ。しかもトゲ付き……
うーん、元々は動物を捕まえるための罠みたい。密猟者がよくこういう罠を設置して、獲物が自分から入ってくるのを待ってるよね。
だけど、内側のトゲは全部取り除かれてる。あの人も、あたしを殺すつもりはないって言ってたし……
多分、こういうことに備えてあの人がトゲを取ったんだろうね。
これなら……
あのフェリーンは結構しぶとそうだし、あそこにしばらく閉じ込めたところで死にはしないだろう。
爺さんの荷物をさっさとまとめてから、町に報せに行くとしよう。
まったく、面倒なことになったな。
お前、一体どうやって!?
穴に残ってた仕掛けを足掛かりにすれば、上まで登るのは簡単だったよ。
……
この距離なら、そっちのクロスボウより、あたしのかぎ縄のほうが有利だね。
チッ。
あたしはただリンギスさんに会いたいだけなの。
あの人はお前には会わない。いいから帰れ。
……そう来るなら、こっちにも考えがあるからね!
フンッ――
えっ?
待って、危ない! そっちの岩はぐらついてるよ!
なっ――
このかぎ縄で……!
構うな、お前では支えきれん!
やだ!
見捨てるなんてできないよ!
ッ、引き上げられない……衝撃に備えて!
ぐっ――
大丈夫?
……私のことなど、放っておけばよかったものを。
君もあたしを殺そうとはしなかったわけだし、こっちだって君が死ぬところなんて見たくないと思うのは当然でしょ。
どういう理屈だ。
ところで、さっきはごめんね。サルカズだからどうとか言いたかったわけじゃなくて、ちょっと驚いちゃっただけなんだ。
……気にしてなどいない。知れば誰でも驚くだろうさ。
それで、リンギスさんにはお兄さんがいるって話は知ってるかもしれないけど――
レイギスのことだな。つまり、兄が死んだ今、お前たちは弟のほうをラテラーノに帰そうとしている、というわけだろう?
うん。
あの人は帰らない。
何十年も経った今になって、あの人を探したいなんて虫のいい話だろう。
だけど、これはレイギスさんの最期の願いで――
それに、家族同士なら、どんなに深い溝があっても、解決する方法は必ずあると思うから!
なぜそう思う?
あたしのお兄ちゃんとお姉ちゃんも、訳あって仲が悪いんだ。
でも……でも、結局は兄妹だしさ、お互いに心を開いて話す機会がないだけなんじゃないかなって。
お前自身、確証は持てていないのだろう。それでもなお、私を説得しようというのか?
だって、あたしまで諦めちゃったら、うちの家族は、本当にもう一緒にいられなくなっちゃうから。
それと、お兄ちゃんもお姉ちゃんも、心の中ではずっとお互いを思いやってるってこと、あたしは知ってるしさ。
……
お前がどんなに努力をしても意味はない。
どうして?
リンギスは……
とっくに死んでいるんだ。
けほっけほっ、すごいホコリ……
あの人が死んでから、ここには来ていないからな。
ええと、君とリンギスさんって――
私は実の両親を知らず、町にいたとある物乞いに育てられた。その人が父のようなものだったんだ。
町に住んでる奴らは悪い連中じゃないが、サルカズを進んで引き取ろうとする奴はさすがにいなかった。だから育ての父が亡くなったあと、私は生計を立てるために狩人になったんだ。
そんなある日、山でとんでもない大物に遭遇してな。私は死を覚悟したが、そこを通りかかったサンクタの爺さんが助けてくれた。
あの人は、私に肉を分け与えるとこう言った。「お前の射撃はヘタクソすぎる。」
あははっ。
実を言うと……私は今も覚えているんだ。あの人が私を助けたあと一瞬呆然としてこちらを見つめてきたことを。
初めはその意味がわからなかった。だが、ずっと後になってようやく理解したよ。彼は私がサルカズだと知って、私を殺すべきなのではと葛藤していたんだ。
けれど、私は田舎育ちの単なる野生児で、当時は種族間の確執のことなど知らずにいた。
正直に言うと、今でもよくわかっちゃいないがね。
っていうのも、私はその時までサンクタに会ったことなんざなかったし、頭の上に光輪があるだけの連中を憎まないといけない理由なんてわからない。町のお偉方のほうがよほど嫌な連中だと思うね。
……歴史っていうのは、複雑なものだから。
お前、意外と学があるな。あの爺さんも同じことを言ってたよ。
褒め言葉として受け取るよ。
とにかく、私はあの人の実力を知った。それで、射撃を教えてもらおうと思ったんだ。
でも、向こうは私を近づけようとはしなかった。だから、寄っていくたびに銃で追い払われたもんさ。
今考えると少し笑えてくるな。当時あの人が幾度私を殺そうと思ったかわからないくらいなのに、私はそれを知らずに、からかわれてるとさえ思ってたんだ。
しかし、最終的には向こうも音を上げて、私たちの間には暗黙の了解が生まれた。あの人の家のそばに私が隠れている時は、わざと技を見せてくれるんだ。まるで教えるようにな。
それで、リンギスさんは……
三年ほど前、この辺りにサルカズの盗賊団がやってきたんだ。奴らは同じサルカズで、それなりに腕の立つ私を仲間に引き入れようとしてきてな。
ところが、それを拒否すると、連中は私を拉致して、無理やり従わせようとした。
そこへ爺さんが一人で助けに来てくれたんだ。おかげで私は助かったが、あの人は……
……ごめん、無遠慮に聞いちゃって。
――あの人が私を弟子と認めたことは一度もなかった。恐らく、サルカズの弟子など認める気はなかったのだろう。
だが、あの人が教えてくれた技術がなければ、私はきっととうの昔に死んでいた。
さらに言えば、爺さんはこの地を出ていったことなどなかったし、生前あの人を訪ねて来た者もいなかった。
なのに、爺さんの兄弟は、今さらラテラーノに戻ってきてほしいなどと言い出すのか? それがその人の遺言だろうと、私は同意できないな。
爺さんはラテラーノの人じゃない。この土地の人なんだ。
……
わかったら、諦めて帰ってくれ。こっちはあんたを片付けたって構わないんだぞ。
家の中を見て回ってもいい?
……好きにしろ。
この本は――
爺さんは読書が好きだった。その辺の本は全部、あの人が自分で集めたものだ。初めはそれを使って私に何か教えるつもりだったらしいが、私に読ませたところで無駄だとわかって諦めたようだった。
……どれもサルカズとサンクタの歴史に関する本だね。
詳しい注釈までついてるみたい……
あれ? 何か紙が挟まってるよ。
これって……手紙?
……
ティアナさん、見て。
……
リンギスさんは……レイギスさんのことも、ラテラーノのことも恨んでなんかいなかったんだ。
彼はただ選択をしただけであって、ラテラーノに戻らなかったのはその選択のためだったんだよ。
……だったら何だ?
いずれにせよ、ラテラーノに戻るつもりはなかったんだろう!
戻るとか戻らないとかの話じゃなくてさ。
もっと簡単な話だよ。兄弟の間に溝なんてなかった。そうでしょ?
……
サンクタが共感能力で感情を共有できることを知ると、多くの人は無意識に、サンクタの間には意見の相違や衝突が存在しないのだと思い込むの。
でも、実際はそうじゃない。感情を共有していても相手がどんな気持ちに基づいて考えを述べているかがわかるだけで、それはその考えに理解を示し賛同しなければならないということではないから。
無論、些細なことであれば、共感能力を通じて和解や譲歩に至ることはできるわ。
けれど、重要な物事の場合は、サンクタ同士であっても譲歩できない一線はあるの。
そうしたものについて、サンクタ間で最終的に至る共通認識は「分かり合えない」ということになる。
誰!?
教皇庁の枢機卿、ヴェルリヴよ。
枢機卿!?
どうして――
銃騎士レイギス閣下は尊敬する先輩だったの。それで、たまたま近くの都市を訪れていたところに、彼の遺言の執行が難航しているという話を聞いたものだから、様子を見に来なければと思ってね。
元々は私が直接事に当たろうと思っていたのだけれど、まさかこんな面倒ごとの解決を手伝ってくれる人がいるなんて。
……
そう構えないで。さっきからしばらく、外であなたたちの会話を聞いていたの。問題は解決したと考えていいようね。
誰がいつそんなことを――
銃騎士だったレイギス閣下と、その弟であり学者だったリンギス氏の間の相違は、戦争に対する姿勢に由来するものだったの。
ヴェルリヴは、黒い銃口をサルカズに向けた。
……ふざけやがって。
思い通りになると思うなよ、サンクタめ!
ティアナも負けじとクロスボウを構え、それをサンクタに向けた。
戦争に関して、レイギス閣下と教皇聖下はより穏健な態度を取っていらしたのに対し、リンギス氏はより積極的かつ急進的な見解をお持ちだったのよ。
そしてそれが、最終的に二人の決別に繋がった。
――レイギス閣下の遺言に従い、リンギス氏がすでに亡くなられていた場合は、彼の遺品をラテラーノに持ち帰る必要があるの。
残念ながら、サルカズ一人は「遺品」のうちには入らないわね。
待って!
これは一介の登山家には手出しできないことよ。
だったら、ロドスに彼女の身柄を引き取るように申請するよ!
私の記憶違いでなければ、ロドスは国際問題に対して積極的には干渉しないのが原則だったはずよね。
それがどの程度守られているかは判断しかねるけれど、この件については彼らも首を突っ込みたくはないでしょう。
だ、だったら彼女を……イェラグに向かわせるからさ!
あら、イェラグに?
エンシアさん。ここでシルバーアッシュの名を用いることがどんな影響を及ぼすかは、よく考えたほうがいいわよ。
……君は最初から、あたしが誰なのかを知ってたんだね?
否定はしないわ。
……
それなら、きっとうちのお兄ちゃんとお姉ちゃんのことも知ってるよね。
蔓珠院の巫女エンヤ氏に、カランド貿易の社長エンシオディス氏。昨今はますますその名を馳せているお二人よね。
でも、あたしの中では、いつまで経っても二人はただのお兄ちゃんとお姉ちゃんなんだよ。それも、お兄ちゃんの選択のせいで十年以上もプライベートで一緒に食事してないような、ね。
本当はあたしも、心の中ではある程度わかってるんだ。
レイギスさんたちと同じで、お兄ちゃんとお姉ちゃんは、分かり合えないわけじゃないってこと。
むしろ逆に、お互いの立場のことも、お互いが絶対に意思を曲げないことも、お互いにしかできないことがあることも分かり合ってるんだ。
だからこそ、二人は昔みたいには戻れない。
わかってるのに、あたしは諦められずにいるの。
そんな時に、あたしは似たような境遇に直面しているサンクタの兄弟のことを知ったんだ。
二人は分かり合えないことを分かり合って、決別を選択した。
だけど最期の瞬間は、昔と変わらずお互いのことを思い合っていたんだ。
確かに感動的だけれど、それと私を止めることにどういう関係があるの?
お兄ちゃんとお姉ちゃんの相互理解は、お互いの行動を容認することだけにあるわけじゃない。何よりも――
二人は、お互いの選択に正しい部分があるということを信じ合っているんだよ。
それに、自分の選択が最終的には相手にもいい影響を与えられるってこともね。
そして一番重要なのは――二人が最後に行きつくところは同じだっていうことなんだ。
……
素晴らしい言葉だったわ、エンシアさん。
ヴェルリヴはそう言うと、銃を下ろした。
お前――
もとより、あなたたちのことは少し脅して追い出して、見逃がすつもりでいたのよ。結局のところ、視界に入ったサルカズを何もせずに放置することは原則的にできないから。
けれど、彼女がより良い案を提示してくれた以上、喜んでそれに従うわ。
見逃すだと……!? 私ではお前に敵わないとでも!?
あなたもそう感じていたんじゃないかしら? 難しいことかもしれないけれど、これは善意だと思ってちょうだい。
クソサンクタが……
エンシアさんが言ったように、レイギス閣下は決してリンギス氏が間違っていたとお思いにはならなかった。
けれど、いつの時代も、正誤だけが物事を決める要素となるわけではないの。
私も、ここにあるすべてを持ち出すつもりはないのよ。遺品を少し分けてもらうだけでいいの。たとえば本や、原稿などがあればいくつかいただきたいのだけど、それで手を打ってもらえない?
……はぁ、勝手にしろ。
それで――あなたの誠実さにはとても感動したわ、エンシアさん。
あなたの言葉を聞いて、私は確信を持つことができた。私たちは信仰も生活環境も違うけれど、直面する問題には常に共通点がある、ということにね。
……うん、あたしもそう思うよ。
今までは、サンクタは皆エクシアみたいな性格なのかと思ってたけど……サンクタの間であっても、色んな問題が起きるんだってことがわかったから。
それを理解してくれたことは、あなたがラテラーノを真に理解する第一歩となることでしょう。
ところで、確かもうじき、イェラグが三年かけて建設したイェラガンド像が完成するはずよね。イェラグに戻って落成式に参加すべきではないの?
よかったら、送っていくわよ。
……
それなら、ちょっとお願いしたいことがあるんだけど。
何かしら?
あたし、サマラさんについていって、もっとラテラーノとサンクタのことを知りたいんだけど、そうさせてもらってもいい?
あら、帰らなくていいの?
うん、今はね。
今回の件で、やっとわかった気がするんだ。二人を引き合わせても意味がないってこと。
それに、案外あたしがいない間に、二人は同じテーブルでご飯を食べてるかもしれないしね。
二人がお互いに分かり合っていて、常にイェラグのことを思い続けていて、そして、別々の道を歩んでも、最後に行きつくところが同じである以上……
あたしも前を向かないと。
……
枢機卿のお姉さんは、本当はあたしが目当てで来たんじゃない?
……ええ。サマラからあなたの名前や、話した内容を聞いて、自分の目で確かめてみたいと思ったの。
万国サミットのおかげで、イェラグとラテラーノの間にはすでに交流があるけれど、イェラガンド信仰とラテラーノの教えの間には対話のきっかけがなかったから。
だったら、あたしがきっかけになるよ。
……
文化交流は今のイェラグにとって非常に重要なものでしょう。そしてこれは、教皇聖下にとっても歓迎すべき対話となる。
けれど、最後に一つ尋ねておかなければいけないわね。
――エンシア・シルバーアッシュ殿。あなたはご自分が何をなさろうとしているか、よく理解しておられるのですね?
……
うん。
では、ラテラーノを代表してあなたを歓迎しましょう。
ありがとう。
あっ、でもその前に、まずは近くにあるロドスの事務所に行かないとね。
ティアナさんの受け入れを手配してもらって、それから、ドクターにはお兄ちゃんへの伝言を頼んでおかないと。