成長 幕間
成長
グムにはたくさんの思い出がある。
良い思い出、悪い思い出。
楽しかった思い出、悲しかった思い出。
それから、どうしても忘れられない思い出。
アイツらだ、あそこにいるぞ!
こっちだ! もう逃げ場はないはずだ……アイツら食料を持ってやがる!
気を付けてください、ラーダ!
ちっ、虫けらどもが! アンナ、ラーダ、アタシの後ろに隠れろ!
なかなかの肝っ玉じゃねぇか。上等だ、来いよ。アタシの前に出る度胸があるのはどいつだ?
痛てて……またかよ。こっちはまだ腕が治りきってないってのに。
おい、ソニア。どっちが多く倒せるか勝負しねーか?
──くだらないこと言ってんじゃねぇ……危ない!
あらあら、こんな時にぼんやりしていてはだめよ。
集中しなきゃね、将軍のお二方?
ふう……危なかったですね。
ソニア、ロザリン、背後にも気を配ってください。
チッ、悪ぃな。
不意打ちなんて、よっぽど死にてーらしいな!
うっ……怯んじゃだめよ。相手はたったの数人なんだから……
そうだ、多勢に無勢じゃねぇか! 全員でかかりゃ負けるはずねぇんだ! ビビってたら救援を呼ぶスキを与えちまうぞ。
チッ。
(小声)どうするの? 確かに数じゃ圧倒的に不利よ。
(小声)……どうにかして突破するしかありませんね。
ごめんなさい。でも……私たちもほかに方法がないの。何としてでも食料を手に入れないと……
これ以上は無理なの……こんな所で飢え死になんてしたくないの!
門を塞げ! アイツらに逃げ道を与えるな!
かかれ!
ゴホッ、ゴホゴホッ……ろくでなしどもめ、キリがねぇ!
まさかもう限界だなんて言わねーよな?
ペッ! ……くそっ、歯が一本折れちまったみてーだ。
オマエ──
待って、敵の数が合わないわ!
ソニア、危ない!!
──!
食い物を寄越せ!!
うあぁぁっ!
ゴフッ……ヴゥ……
(地面に倒れ、けいれんする)
ラーダ……?
……
ソニアお姉ちゃんを傷つけるなんて許さない。
絶対に許さない……
きゃあぁ!
あの子、く、狂ってるわ……!
アンドレイの首をへし折りやがった! ヤバい、逃げろ!
ラーダが……ラーダがみんなを守る……!
お姉ちゃんたちを傷つけるなんて、絶対に許さない!!!
グムにはたくさんの思い出がある。
良い思い出、悪い思い出。
楽しかった思い出、悲しかった思い出。
それから、もう絶対に思い出したくない思い出。
グムは人を傷つけた。
お姉ちゃんたちを守るため? それとも自分が傷つきたくなかっただけ?
グムには分からない。
だけどグムは……グムはもう二度と誰も傷つけたくない。
......
……ム。
グム?
どうしてこんな所で寝ているんですか……
起きてください、グム。
う……ふわぁ……
起きてください、グム。
顔色が悪いですよ。まだ傷は痛みますか?
悪い夢を見てたみたい……
傷はもう全然痛くないよ。心配しないで、イースチナお姉ちゃん。グムは大丈夫だから。
それならいいのですが。
……
ん? イースチナお姉ちゃん?
黙っちゃってどうしたの? そろそろ出発? グムはいつでも出発できるよ。ズィマーお姉ちゃんとリェータお姉ちゃんは?
いえ、まだ出発の時間じゃありませんから、もう少し休んでいても構いません。
彼女たちはルートの下見です。もうすぐ帰ってきますよ。
じゃあグムも手伝いに行くよ!
待ってください!
えっ?
座ってください、グム。大人しくしていてください。
傷は言うほど軽くはないでしょうし、あまり動き回ろうとしないでください。もう一度薬を塗ってあげますから。
ほんとにそんなにひどくないよ。
本当だよ! 嘘なんかじゃないんだから!
ただ、ちょっとだけ……ほんのちょっとピリピリするだけ……
良い子だから、動かないで。
うん、分かった!
……
……傷だらけですね。
以前の傷跡は徐々に薄くなってきていますが、今日の傷は跡が残らないとも言い切れません。
残らなかったらいいなぁ。
医療部のお姉ちゃんたちが、とってもよく効く軟膏をくれるから、それを毎日ちゃんと塗れば、醜い傷跡だってきっと全部消えちゃうよ!
そうですね。元々あった体の傷は、この一年あまりでほぼ治りましたし。
ですが……
ですが?
グム……さっきバウンティハンターの襲撃を受けた時、本当は負傷せずに済んだはずでしょう?
どうしてすぐに倒してしまわなかったんですか?
最後の一撃の時、急に手を止めましたね。あの状況で躊躇するなんて……とても危険ですよ、グム。
でも、でもグムは……
グムにもどうしようもないの……
……グム……
実は、ジュナー教官にもあなたの習慣について尋ねられたことがあるんです。
教官が……
怖いんでしょう、グム?
……うん。
グムは怖いの。
三発目は、自分をコントロールできなくなっちゃうから……
そしたら、学校でのことを思い出しちゃうし、夜中に悪夢も見ちゃうよ。ベッドライトを点けたまま寝たってダメになっちゃうんだ。
それは……知っています。グムは眠れない時、絶えず寝返りを打ちますから。
ズィマーも知っていますよ。ですがそれは自分自身で克服するしかないことなので、何も言わないようにしていますが……
うん……
ですがグム、私たちは心配なんです。
……
グムは頑張ってるよ……
ええ、頑張っていますね。
私たちの中で一番たくましいと言っても過言ではないでしょう。
グムは今ではもう、ベッドライトを点なくても眠れるようになったでしょう?
まだ時々、私やズィマーの所へ来ることはありますが。
うん……
グムは頑張って成長して、悪い習慣を全部直したいの。
アーミヤとケルシー先生に聞いたんだ。グムのお父さんとお母さんは危険な仕事をしてて、会うのはとっても難しいって。
ご両親を探しに行きたいのですか?
うん。でも今はまだダメなの。
グムは、お父さんとお母さんに今のグムを見せたくないの。二人に再会した時に、グムは悪い子になったって思われたくない……
だから今はまだダメなんだよ。
グム……あなたは悪い子ではありませんよ。いつも私たちを守ってくれているんですから。
でも、でも──
やっぱりうまくいかないの……
自分をコントロールできなくて、人を傷つけちゃうんだ。
イースチナお姉ちゃん、グムはどうしたらいいのかな?
……きっと解決方法はありますよ。
今すぐに変えられなかったとしても心配はいりません。私たちが側にいますから、グム。
皆がついていますから、安心してください。
……イースチナお姉ちゃん……
うん! お姉ちゃんたちがいれば、グムは何も怖くないよ!
その意気です、勇敢な小熊さん。もう怪我しないでくださいね!
痛ててっ、つっつかないでよイースチナお姉ちゃん、痛いよぉ。
やっぱり痛いんじゃないですか。痛みに後悔したなら今後は気をつけてくださいね。
薬は塗り終わりました。ズィマーたちもそろそろ帰ってくるはずですよ。
見に行ってみましょう。
うん!
オマエら、ちゃんと休めたか?
ズィマーおねえちゃん、グムはもう大丈夫だよ!
傷口の処理は済みました。作戦に支障はないでしょう。
そちらはどうでしたか?
この先の村は様子がおかしい。静かすぎる。
あのバウンティハンターどもが、また何か企んでるんだろうよ。みんな気をつけろよ。
こんなことになるなんて思わなかったわ。迷子の子供を探すだけの簡単な任務だったはずなのに──
まさかバウンティハンターに目を付けられるなんてね。
あ? あっちが先に喧嘩を売ってきたんじゃねぇか!
それに子供を二人も誘拐しやがったんだぜあのクソ野郎どもは! 子供捜しをしてんだから手を出さねーわけにはいかないだろ。
その辺にしとけ。見ちまった以上放っとく道理もねぇだろ。
さっきはうまく逃げられたが、次はそう簡単にはいかねぇぞ……
慎重にいきましょう。彼らは手強いですよ。
向こうは子供を人質に取っています。あまり刺激しすぎないようにしましょう。
また悪い奴が現れたら、グムがお姉ちゃんたちを守るよ!
安心して、グムが悪い奴を全員こてんぱんにしちゃうんだから!
けれど、万一向こうから現れなかったらどうするの?
うーん……引きずり出す?
めんどくせぇな……
……
私に考えがあります……
ごめんください──
誰かいますかぁー?
すみませーん。
うーん。
誰もいないみたいだね……
ああ。どうやら調べても成果は得られなさそうだな。
もういいだろう、帰るぞ。
これじゃあ完了報告ができないわ。もう一度他のオペレーターに頼んで来てもらうしかなさそうね。
ふぅ……次はきっと百戦錬磨の先輩たちが来るでしょうね。
き、きっとそうだぜ!
たしか、何だっけ……そうだ、超絶強くてぇ、バウンティハンターもやってた先輩で、ビ、ビルを素手で壊せるらしいぜぇ!
(ため息)
(小声)ロザリン、演技が下手すぎますよ……
(小声)こういうのは苦手なんだよ!!
帰ろ帰ろ!
先輩たちが絶対に悪い人たちをみーんな捕まえてくれるもん!
──!
(小声)物音がした、来るぞ!
グム、危ない!
ふん!
防いだもんね!
……
あまり首を突っ込むんじゃねぇぞ、ガキども。
後悔することになるぞ。
はっ、今まで後悔したことなんざ一度もねぇんだわ。腕に自信があるんなら掛かってこいよ!
くだらねえ話してんじゃねぇ。
おい、答えろ。ここにはオマエらしかいねぇのか?
ここの村人たちをどうした。オマエらに誘拐された二人の子供は今どこにいる!
……
……
……
……
(小声)……全然しゃべらないね。
どうやら無理矢理口を割らせるしかなさそうですね。
お! やっちまうか!
簡単に言うけれど……模擬訓練と違うってことは、みんな分かっているわよね?
大丈夫だよ!
グムがみんなを守るから!
うっ!
重い……! だけど、グムは耐えられるよ!
はあっ!
それっ!
(攻撃の手を止める)
──!
ううっ!
グム!
チッ、どきやがれ!
う……
くそっ、もう少しで……
もう少しでアタシがこのヤローを倒せたのに!
よそ見してちゃだめよ。
うっ!
イースチナお姉ちゃん! グムの後ろに隠れて!
グムの守りを……突破できるなんて思わないでよね!
気を付けて、グム!
私が彼らの動きを抑えます……
ズィマー、今です!
ああ!
チョロいもんよ。
大口を叩くものじゃないわ。息が上がってるじゃない。
ズィマーお姉ちゃん!!
ケガしてるよ! も、もしかしてさっきグムを庇ってくれた時に?
グムのせいだ……
うるせぇな、めそめそすんなって。
そうだそうだ。どう見たってコイツが油断したからだ。グムのせいなんかじゃねぇぞ!
……
でもっ……!
それよりも、今は他に解決しないといけねぇことがあるだろ。
おい、どうする? 残りはもうオマエだけだぞ。
……
早く答えろ。この村はどうした。それとあの二人の子供はどこだ?
言わねぇんなら──
言わないなら、き、君の歯と髪の毛を全部引っこ抜いちゃうよ!
(……そこまでする必要はねぇだろ。)
ふんっ、このクソガキどもが……
口には気をつけやがれ!
せいぜい数人に勝ったから何だってんだ?
目的はあのガキどもか?
そうだよ!
早く白状して!
ハッ、そう簡単に言うわけねぇだろ。
残念ながら、ガキどもの行方を知っているのは俺だけだ。
俺が口を割らなけりゃ、お前らは絶対あいつらを見つけらんねぇってことだ……
隠していても、損をするだけですよ。
思うに、こういう場合は、交換条件を出すものではないかしら?
……
まずは俺たちを解放しろ。
そうすりゃガキどもは村に連れ戻してやる。だが、それ以外の奴らについては、お前たちが関わることじゃねぇ。
言いたいことはそれだけか?
悪いが──断る。
てめぇよ、自分の立場がわかってんのか? なんでそっちが条件を出すんだよ!
そうだそうだ!
……
(小声)この人まで黙っちゃった……
(小声)まさか本当に死んでも言わないつもり? どうしよう……
(小声)参りましたね。本当に拷問するわけにはいかないですし……
もう何発かぶん殴ってやりゃいいんだ!
あ、声が大きいってば、ズィマーお姉ちゃん!
……
なめやがって……
──くそったれの熊どもが!
危ない!
ズィマーお姉ちゃん!
あっ──!? ぐあっ……!
卑怯モンが……!
卑怯?
卑怯だろうが勝てりゃいいんだよ!
死ねぇっ!
ソニア!
──
くそっ! このガキ!
……
ゴフッ、うっ……
許さない……
ソニアお姉ちゃんを傷つけるなんて許さない……!
もう一発……!
待て、グム! アタシは大丈夫だ、落ち着け!
まだ子供たちの行方を聞き出さなきゃなんねぇんだ!
──!
う、うう──
……
……
グム……大丈夫か?
……
あーあ可哀想に、死んだか?
いいえ、まだ生きてるわ。
……
ねぇロザリンさん、どうかこの方をあちらまで運んでくださいませんか? 私が止血をして、ついでに「目を覚まさせる」ので。
何だよ急にかしこまって。気持ちわりーな……別にいいけどよ。
いいからいいから。早く来て。
ズィマーお姉ちゃん、傷口……血が出てるよ。ほ、包帯を巻いてあげるから!
……ごめんなさい……
ごめんなさい、ズィマーお姉ちゃん、イースチナお姉ちゃん。グム……またやっちゃった……
バカなこと言ってんじゃねぇ。
オマエが何をやらかしたってんだ? オマエはアタシを助けてくれたんだろうが。感謝してもしきれねぇよ。
でも……
ズィマーの言う通りですよ。
グム、あなたは怖がりながらも、私たちを守ってくれました。
その通りだ。
それにな……グム。アタシはオマエの怪力っぷりを知ってる。もしオマエが本当に全力でアイツの頭をぶっ叩いてたら、アイツは今頃とっくに死んでるだろうよ。
じゃ、じゃあ、あの人は──
安心して、無事よ。
もう一発殴って、たたき起こしてやらねーか?
無事だったんだ……
ってことは、グ、グムはコントロールできたの?
そういうことだ。
最後の一発を力任せに振り下ろしたかと思えば、相手に当たる直前で力を抑え込んだ。この目ではっきり見たぞ。
……
グム。
こちらに。
それからズィマーも、こちらに寄ってください。
私たちは入れてくれないのかしら?
一体何の遊びだ?
うるせぇな、押すなよ!
まだ争いの跡が残る現場で、ウルサス学生自治団の少女たちが仲睦まじく寄り添い合う。
イースチナがグムの左手を、ズィマーが右手を取る。小熊たちは手を取り合い、額を寄せ合った。友の髪の毛が頬をくすぐっても、三人は決して離れようとしない。
グムは自分の頭を二人の頭の隙間目がけて突き出し、いつものように自分の額を仲間の額に軽くぶつけた。
それから、親しみのこもったお返しの頭突きをもらった。
グム、前に言ったことを覚えていますか?
あなたはよくやっています。
安心してください、皆がついていますから。
そうだそうだ、グムは本当によくやってるぜ! 最後に攻撃を受け止めた時なんてもう完璧だったぞ!
ふふ、そのうち、自分の機嫌すらコントロールできない誰かさんよりも強くなっちゃうわね。
は? 誰のことを言ってやがんだ!?
プッ。
ズィマーお姉ちゃん、急に動いちゃダメ! 傷が開いちゃう!
……
グム、グムは……
グムは本当に……コントロールできたの? 本当に、力を抑えられたの?
ああ。できてたよ。
さて、落ち着いたらあの人を起こして、子供たちの居場所を聞き出しましょう。
安心してください、私が白状させますから。
グム、あなたは私たちだけでなく、子供たちをも救ったんですよ。
グム……コントロールできたんだ……
……グムはやれたんだ……!
これと、それからこれも……あっ、そうだ、パンも多めに持って行こう!
ふぅ、ようやく荷造りが終わったよ。
お父さんお母さん、ラーダがもうすぐ会いに行くよ!
ケルシー先生は難しいって言うけど、やっぱり探しに行きたいの!
そうだ、ラーダね、攻撃をするたびに手を止めちゃう習慣を克服できたんだ……それに、三発目の力加減もコントロールできるようになったんだ!
もうお姉ちゃんたちを……それにお父さんとお母さんを心配させずに済むよ。
いまだに悪夢は見るけど、お姉ちゃんたちのおかげで、今はもう前みたいに怖くないんだ。
お父さんお母さん、ラーダはここで楽しく暮らしてるよ。
あ、お姉ちゃんたちに挨拶してこなきゃ。ラーダ、一人で遠出するのはこれが初めてだからね。絶対にまた帰ってくるから、ちゃんと待っててって言っておかなくちゃ。
……ふぅ。
よし、録画はこれでOK。
──それじゃあ出発!