諸刃の剣 幕間
諸刃の剣
カルネヴァーレの喧噪の下には暗流が渦巻いている。しかし、それらはすべて、意識のないレオントゥッツォには関係のないことだった。
レオントゥッツォは夢を見ていた。
その夢の中で、彼はずっと忘れていた過去を思い出した。
過去に起こったその事件の主役は、尊敬する姉であり友でもあったラヴィニアでも、また親友のディミトリでも、あるいは父ベルナルドでもない。
その身をもって彼に道を示したカラチでも、一発の銃声でもって街中の人間の目を覚まさせたルビオでもない。
それは一人の年老いた男だった。
記憶の奥底に埋もれていた一人の老人――
その頃、グレイホールは新たな移動都市の建設決議を通したばかりだった。
その頃、ラヴィニアはまだウォルシーニに来ておらず、彼は父に言われるままファミリーの仕事を継いでいた。
その頃、シラクーザはまだ長い雨期のただなかにあった。
判決を言い渡す。エンツォ氏、無罪。
無罪だって!? その男は俺の妹の……ジュリアの声帯を潰したんですよ! ジュリアはまだ意識も戻らないってのに!
彼が犯人であることを示す直接的な証拠はありません。
犯人なら証拠隠滅くらいするのは当たり前でしょう!
その男は俺にも怪我を負わせてるんですよ!
先に挑発したのは貴方のほうだという目撃者の証言がありました。彼の行為は正当防衛と見なされるべきでしょう。
ですがエンツォ氏は貴方の怒りも理解できると……この件については、貴方の罪を問う気はないと仰っています。
つまり、あの男のほうが俺に情けをかける立場だと言ってるんですか!?
ああ、そうだぜ。なんせあんたはジュリアの兄……俺にとっても兄貴みたいなもんなんだ。
お互いに仲良くやっていきたいじゃないか。そうだろ、エンニオ?
黙れよ、この野郎――俺ははじめからお前のことが気に食わなかったんだ!
ジュリアがどうしてもって言うから、仕方なくお前との関係を許してやったってのに。
なのにお前は! お前はあいつの声を奪ったんだ!
言ったろ? その事件と俺は無関係だって。
あいつは実家に逃げ帰って来たんだぞ!
ああ、ジュリアが事件に巻き込まれたのは俺だってつらいさ。
安心してくれ。ジュリアを連れ帰ったら、ファミリーの仲間に頼んで一緒に犯人を捜してやるからな!
ダメだダメだ、絶対にあいつを連れていかせたりしないぞ。
貴方たち、どういったご用件ですか?
俺たちはエンツォの奴を迎えに来たのさ。
まだ裁判は閉廷しておりません。
それなら、いますぐ終わらせろ。
俺たちはジュリアを連れ戻しに行かなきゃならねぇ。
……そういうことでしたら――
待て。
あんたは……レオントゥッツォ!? ベッローネの若旦那も来てたのか……
理由がどうあれ、ジュリアが逃げ帰ったのは間違いのないことなのだろう。
ならば彼女が目覚めるまでは、静かに休ませてやるべきだ。
エンツォが恋人だとしても、許される権利はせいぜい彼女を見舞う程度のものだろう。
そんなやつ、家にあげたりするかよ!
エンニオ、図に乗るんじゃねえぞ。
今回はレオントゥッツォの若旦那の顔を立てて退いてやる。そうでなければお前のケーキ屋なんて、明日には廃墟になってたところだぜ!
なんだとっ――
エンニオさん、どうか判決を受け入れてください。
……分かりました。
エンツォさん、レオントゥッツォさんのご提案は受け入れるのですね?
……当然従うさ、ベッローネの若旦那の言うことだからな。
法廷が閉まったら、ジュリアの見舞いに行くとしよう。
それでは、本日はこれにて閉廷といたします。
ごきげんよう、レオントゥッツォさん。
ごきげんよう、ロッソ裁判官。
ラヴィニアがあんたに会いたがっていた。
彼女からの手紙は受け取っていますよ。どうやら、ベッローネファミリーと良好な関係を築いているようですね。
……
本日の判決がご不満なのですか。
エンツォが犯人であることは、誰の目にも明らかだった。
仰りたいことは分かっています。
ですが、彼はすべての証拠を消し去ってしまったのです。
それに、エンツォさんの事件の背後には、ファミリーの複雑な因縁があります。
今回の判決が私にできる限界でした。
……
ラヴィニアから、あんたは悪を憎む人だと聞いていたが。
時は移ろうものですよ。レオントゥッツォさん。
そして、人も変わるものなのです。
さて差し支えなければ、これにて失礼いたします。
エンニオさんは相当な不満を抱えておられるでしょう。お話しして落ち着いていただかなくてはなりませんので。
ああ。
グレイホールが新しい移動都市を作ると宣言して以来、ウォルシーニはどこも滅茶苦茶だな。
見てわかっただろ。裁判所はもう機能しちゃいない。
ウォルシーニの裁判官は頭数こそ多いが……いまだに法廷を開くことをやめないロッソはまだ度胸があるほうだな。
……分かっている。
それで、まだ戻らないのか?
ディーマ、おかしいと思わないか? エンツォは恋人を見つけることに躍起になりすぎている。
「色恋沙汰」などという言葉では説明がつかないだろう。
奴はあせっている。
……つまり、ジュリアは知るべきでないことを知ってしまったと?
そうだ。エンツォはそう簡単に諦めないだろうな。
あの男はストラッチファミリーの人間だ。奴らは近ごろ怪しい動きを見せている。お前も前々から目を付けていたな?
……どうやら、我らがレオントゥッツォの若旦那は正義の代理人を演じるつもりじゃなかったらしいな。そういうことなら、こっちにも面白い情報がある。
ほう?
ウォルシーニのカタギ連中の間で流れている噂だが。
ここ数年、法廷に立ったことのあるファミリーの連中が次々に不審な死を遂げているそうだ。
カタギの連中が言うには――天罰が下ったとか。
……実際のところは?
もちろん根も葉もない噂話に過ぎないさ。
連中の死はたしかに少し奇妙ではある。だが、おおかた敵対ファミリーによる暗殺といったところだろう。
背後に何者かがいる可能性は?
だとしたら、そいつは痕跡を残さないだけじゃなく、あらゆるファミリー間の関係を知り尽くしていなきゃならない。
ウォルシーニにそんな奴はいやしないさ。
……そうかもしれないな。
奴らが動き出したようだ。続きはまた後で話そう。
チッ、まさかベッローネの若旦那まで来てやがるとはな。
まあいい。見舞いだろうとジュリアには会えるんだ。
ジュリアとの間に一体何があったんだ?
なんでもねえよ。ただのちょっとした行き違いさ。お前は先に戻ってろ。俺はジュリアに会いに行く。
それから、ドンには俺から直接説明すると伝えておいてくれ。
ああ、分かってんならいい。
ふぅ……
その前に、ジュリアに会わねえとな……
ほう、仲間を追い払ったか……面白い。
ジュリアに会ったら、あいつに……
ん? 誰だお前は。邪魔すんじゃねえ。
あの格好は……イベリア人か?
……
ぐっ――
死ね。
まさか殺す気か!? チッ、間に合うか――
おやめなさい!
で、ですが――
その男は私が連れて帰ります。
後のことは私に任せておきなさい。
……分かりました。
……ディーマ、どうやらお前の読みは外れたようだぞ。
ぐっ――
何があったんだ……?
たしか……ジュリアに会いに行く途中で……公園で妙な格好をした奴が飛び出してきて――
そうだ! 俺はあそこで殴られて気を失ったはずだ!
ここはどこだ……誰かが助けてくれたのか?
いいえ、貴方はここで死ぬのです。
て、てめえら、一体何者だ?
俺はストラッチファミリーの人間だぞ。手を出してただで済むとでも思ってんのか!?
ストラッチファミリー?
貴方はサルッツォファミリーと結託し、ストラッチファミリーが保管していた源石武器を密かに売りさばいていた。
ストラッチファミリーのドンが貴方を呼んでいるのは、その件について問いただすためではないのですか?
まさか。ジュリアが目を覚ましたのか!?
可哀想なジュリア。彼女は貴方とサルッツォファミリーの裏取引を目撃してしまったせいで、貴方に声帯を潰された。
あいつは俺を告発しようとしたんだ。
俺はあいつを殺したくなかった。あいつを愛していたんだ。
この野郎、よくもそんなことが言えたもんだな!?
お前は……そうかエンニオだな! そうなんだろう!?
ようやく合点がいったぜ。お前は腹の虫が治まらずに、俺を脅そうと仲間と茶番劇を演じてやがるんだ。そうだろう?
……いいや、お前はここで死ぬんだ。
お前……自分が何を言ってるか分かってんのか?
分かっているとも。
先生……では、後はお願いします。
てめえら……狂ってやがる。こんなことをしてただで済むと思ってんのかよ!
……!?
裁判官が持つのは他人の罪を裁く権限だけだ。他人の命を奪う権利などない。
それに、今しがた聞いた話がたしかなら――エンツォの罪にはまだ再審の余地がある。
そうだろう、ロッソ裁判官。
……
……
チッ、いまのうちに――
この場から逃げることを許した覚えはないぞ、エンツォ。
くっ……
貴方にはいつも驚かされてばかりです、レオントゥッツォさん。
驚いたのはこちらのほうだ、ロッソ裁判官。
表向きの慇懃さだけでも十分驚くに値したが。
まさかあんたが、裏では法を蔑ろにするような人物だったとは。
その振る舞いだけを見れば、あんたは裁判官として失格だ。
ですが、レオントゥッツォさん。このシラクーザにおいて、マフィアへの裁きが法に則っていたことなどあったでしょうか?
証拠など誰も気にしていません。
判決についてもそうでしょう。
そんなことを許すつもりはない。
貴方がなんと言おうとも、そういったことはこれまで何度も私の目の前で行われてきたのです。
一つの罪では死に値しないとしても、それが十も重なればどうですか? あるいは百も重なれば?
ファミリーの構成員は自らの波乱万丈な人生を好んで吹聴しています。
その波乱に満ちた人生の中で、これまでどれだけの血が流されてきたのでしょう? 普通の暮らしを営む人々がどれだけ犠牲になってきたのでしょう?
彼らは本当に……死刑に値しないのでしょうか?
あんたの言い分に従うなら、すべてのファミリーの構成員が死ぬべきだろうな。
いかにもその通りです。
……
すまないが……
奴を殺させるわけにはいかないんだ。
他者の命を奪う権利など誰にもない。
裁判官が法を無視するようになれば――より多くの人々が進むべき道を……未来を見失うことになる。
未来ですって? 周りをよくご覧なさい、レオントゥッツォさん。
シラクーザには未来などありません!
そんなことはない。ただミズ・シチリアに、十二家に、この降りしきる豪雨に、覆い隠されているに過ぎないんだ。
……
ラヴィニアは貴方に影響を与えているようですね。ですが、それでもファミリーの跡継ぎとして貴方が見聞きしてきたすべてを揺るがすことなどできはしないでしょう。
組織化された暴力、生まれついての傲慢さ、虚飾に満ちた偽善。
しかし……レオントゥッツォさん、貴方はたしかに私が知る連中とは違うようだ。
貴方は公正さの価値を心から認めておられますね。
一人のファミリーの跡継ぎが、法の尊厳を守るためにここに立っている。
分かりませんか、それこそが――
我々に対する最大の侮辱なのです。
チッ、ひとまずエンツォを連れて退くか。
待て、奴はどこに消えた?
悪く思うなよ、レオントゥッツォの若旦那。
ここに残れば俺は死ぬ。だがあんたとファミリーへ戻っても、俺に待つのは死だけだ。
俺はまだ死にたくない。
*シラクーザスラング*、あの裁判官……マジでイカれてやがる。
ファミリーの構成員に手を出すとはな。
ベッローネの若旦那が飛び出してこなけりゃ、俺はあそこで殺されてた。
だがな、レオントゥッツォの若旦那。
あのクソったれな裁判官の手から逃がしてくれたことにゃ感謝するが、あんたも俺の裏切りの件を知っちまった。
あんたと一緒に戻ったところで、どのみち死ぬのは変わりねえ。
……一体これからどうすりゃいい?
いっそサルッツォファミリーを頼るか?
奴らが俺を受け入れる保証はねえが……そうだ!
考えようによっちゃ、ロッソの野郎の正体はサルッツォファミリーにとっても一大ニュースじゃねえか。
ファミリーの目の前で、カタギが構成員を殺してまわってるなんてよ。
まったく肝の据わった連中だぜ!
サルッツォファミリーの中にも殺された奴らがいるに違いねえ。
きっと興味を持つはずだ。
……
……レオントゥッツォさん。
慌てるな、エンニオ。
お前に会いに来たのは、報復のためでも、ロッソ裁判官の件について問いただすためでもない。
一つだけ聞かせてほしいことがある。
……ええ、構いません。
なぜロッソ裁判官を信じることにした?
あなたはファミリーの上層部の中でも尊敬に値する人だ。それは俺にだって分かります。
俺だってあなたを信じたい。
ですが……あなたはあまりに遠すぎるんです。
あなたの言葉が真実だとしても、それは見えない場所にあって俺の目にも、妹の目にも届かない……
マフィアの報復の流儀については聞いたことがあります。腕や足、それに耳なんかを相手の家の前まで届けるとか、そんな話を。
もしもそんな方法でしか正義を実現できないなら、せめて……
それが実現するところをこの目で見届けたいんです。
初めてあなたと会った後、ロッソさんが俺をある人たちに会わせてくれました。
みんな……俺と同じような境遇の人たちでした。
今からその人たちとの集会に向かうところです。
俺もついていって構わないか。
ええ……お望みなら。
エンニオに続いて小さなレストランに入ると、すでに何人か集まっていた。
そのほとんどが悲痛な面持ちで、中には明らかに癒えない傷を抱えている者もいる。
エンニオと共に来たレオントゥッツォを見ても、誰も特別な反応を示すことはなかった。ただテーブルを脇に寄せ、椅子を円状に並べて次々と着席する。エンニオもその輪の中に加わった。
レオントゥッツォは入口に立ったまま、静かにそのすべてを見守った。
今日、私たちがここに集まったのは同志と苦痛を分かち合うためです。
まずは俺から話をさせてくれ。
俺の妹はあるファミリーの構成員である恋人が、密かに他所のファミリーと裏取引していることに気づいちまったせいで、声帯を潰されたんだ。
私の娘は家で何度も命を絶とうとして……私は、あの子を縛り付けるほかありませんでした。それなのに加害者のほうは悔い改める素振りもなく、あの子を私の元から連れ去ろうとするんです!
あたしの弟は……
被害者たちは、自分や身近な人の身に起きた悲劇を次々と語り出した。
会合は決して静かに進んだわけではなかった。怒りを爆発させる者もいれば、大声で泣きだす者、苦痛を抑えられない者もいた。
しかし必ずどこかしらから、その苦しみを自分のことのように受け止め、慰める声が上がった。
あたしたちの友達や家族、それにあたしたち自身も、ファミリーに目をつけられて命を奪われ、重傷を負い、決して癒えない心の傷を負わされてきた。
あたしたちは悲しかった、怒っていた。だけどずっと、何もできずにいた。
そんな時、ロッソさんが希望を示してくれたんだ。
ええ。絶望に沈んでいた時、ロッソさんが教えてくれました――私たちは決して無力ではないと。
ロッソさんは教えてくれた。法に失望するべきじゃない。悪いのは法を踏みにじる悪党のほうだって。
ロッソさんはあたしたちのために、法に代わって奴らを裁くと言ってくれたわ。
そうだ、ロッソさんは俺たちに代わって罪人どもに罰を与えてくれるんだ。
なぜなら、法は正義だから。
なぜなら、私たちの怒りは崇高だから。
なぜなら――ファミリーの連中は、罰を受けるべきだから!
……
俺だ。
お前に伝えておくべきことがある。
さっきサルッツォの連中が動き出した。いきなり裁判所のほうに手下どもを向かわせたんだ。
なんだと?
内通者によれば、サルッツォのアジトにエンツォが現れたらしい。
……チッ。
裁判所へ向かうつもりか?
ああ。
お前が考えなしに行動しないように、教えてやったってのに。
俺が納得できる理由はあるんだろうな、レオン。
サルッツォが関わるとなれば、もうお前だけの問題じゃないぜ。
お前は跡継ぎだろ、レオン。
……跡継ぎでいる自信を失わないためだ。
なら、仕方ないか。
ロッソさん、何かご用でしょうか?
ええ、近頃ファミリー間の抗争がますます激しくなってきているようでして。
裁判所の皆さんにはしばらく休暇を取っていただこうかと思っています。
本気ですか?
はい。今いる方々には、帰宅するように伝えてください。
……分かりました。
まだ何かご用ですか?
まだ何一つ解決していない。
……レオントゥッツォさん。
彼は目の前の老人を見据えた。ロッソ裁判官の表情には最初に会った時のような穏やかさもなければ、昨夜のような激昂した様子もない。
ただ疲弊しきった姿だけがそこにあった。
俺を恨んでいないのか?
どうして貴方を恨む必要が?
サルッツォの連中があんたの元に向かってきている。
俺があの男を逃がさなければ――
たとえエンツォがいなくなろうと、また次のエンツォが現れるだけです。
彼の二枚舌と裏切りはシラクーザの救いようのなさを改めて見せつけただけのこと。
我々はもう、そんなことには慣れきってしまいました。
レオントゥッツォさん、貴方のほうこそ。
座して終わりを待つこともできたはずなのに、なぜ今、わざわざ危険を冒して私に会いに来たのですか?
エンニオと一緒にマフィアの被害者たちが集う……集会に行ってきた。
私も、彼らの仲間です。
六十年間、法を堅く守り続けて得たものは、玄関先に置かれた包みの中の血にまみれた妻の手だけだった……
そうして、私は彼らの仲間となったのです。
だが俺が見たのは――
彼らの代わりに凶刃を振るうあんたの姿だけだ。
法の尊厳を維持するために。ファミリーに絶望した被害者たちに、法に対する絶望まで抱かせないために――
あんたは彼らと血塗られた約束を交わした。
そうして自らの足で法の境界を超えたんだ。
現状のすべてがあんたの本意だったとは、とても信じられない。
彼らが私を巻き込んだのか、私が彼らのために正義の刃を振るったのか。その区別は、シラクーザにおいては些末なことです。
レオントゥッツォさん、貴方は――
一体、何がしたいのですか?
ここに来たのは、私の懺悔を見届けるためか……
それとも、私に施しを与えるためですか?
この老いぼれ! お前に殺された仲間の仇討ちに来てやったぜ!
エンツォ、お前の権威に尻尾を振る様子には感嘆すら覚えるぞ。
(小声)レオントゥッツォ……どうしてここに!?
……これはあんたには関係のないことだぜ。親愛なるレオントゥッツォの若旦那。
俺は陰でたくさんのファミリーの構成員を殺してきた悪党を始末しにやってきただけさ。サルッツォファミリーを代表してな。
俺たちの間の行き違いについては、また後で話し合おう。
……
つまり、今のお前にはサルッツォの後ろ盾があるということだな。
あ、ああ! だったらなんだってんだ!
そういうことなら好都合だ。
何をする気だ――!
ディーマ。
なんなりと、若旦那。
こいつらを一人残さず取り押さえろ。それから俺に代わってサルッツォファミリーへ挨拶に行ってくれ。話ができる奴を寄越せとな。
了解。
どういうつもりですか、レオントゥッツォさん?
あんたに選択肢を二つやろう。
一つ目はエンツォの事件の再審をすること。今回は俺とサルッツォファミリーの人間も立ち会う。
裁判の安全は保証しよう。
二つ目はここから出ていくこと。
法の尊厳を守るために、街の入口までは送り届けよう。だがそこから先の命の保障できない。
……本気で言っているのですか?
もちろんだ。
判決は必ず執行される。これも約束しよう。
それなら、取るべき道は一つしかありません。再審を行います。
たとえ裁判の後に死ぬことになろうと、甘んじて受け入れます。
そんなことにはならないさ。俺が、ラヴィニアに顔向けできなくなる。
それに、あんたには彼女への伝言も頼みたい――
この先、ウォルシーニに来ることがあれば、ベッローネがあんたの頼れる盾であり続けると。
では、裁判の準備を始めるとしよう。
……
今まで話してくれなかったわね。あなたも先生も。
あの頃この話をしたところで、きっとショックを受けるだけだったろう。
実はロッソさんは亡くなる前、あんたに打ち明けようとしていた。
だが俺が言ったんだ。いつか俺の口から説明すると。
ちょうどいいタイミングを選んだわね。
俺が目覚めたら、カルネヴァーレで起こった事件にショックを受けるんじゃないかと心配していたんだろう?
だが、ラヴィニア。俺は心から思うんだ――
俺は運に恵まれている。
分かるだろう、歴史はいつも繰り返している。
あの頃、ウォルシーニは混乱の渦中にあった。
ファミリーは抗争を繰り返し、普通に暮らす人々の命など気にかけなかった。だからこそ、ロッソさんは凶刃と化した。
ヌオバ・ウォルシーニには、もちろんまだ未成熟な部分があるだろう。だが、『新都市管理法』の施行は徐々に実を結びつつある。
確かに俺たちの目の届かない場所で、エイレーネが道を誤りかけたのは事実だが――
それも、未遂のまま終わった。
あなたがそう考えてくれるなら、安心だわ。
多くのことが変化を遂げた。今では誰もがそれに気づいている。
俺たちに必要なのは最後のひと押し……ただそれだけだ。