ウォルモンドの薄暮 TW-5・戦闘前
冬霊挽歌
……歌声?
どうして……
街中に響き渡ってますね……
青白い薄暮に覆われた街並みの、点々とした明かりの間で、人々が生活している。
二人の眼前には、人っ子一人いない街が広がっていた。朧げな歌声が一枚の網のように、通りを覆う。その向こうには、夕日が沈もうとしていた。
剥き出しになった源石群が、暴れまわる抗議者が、蒼白の星空とレンガが、静寂に沈んでいく。
歌声が……ただ歌声だけが残された……
どういうこと……今見えたのは何?
そしてこの歌は……民謡? それとも何かの詩? 夕暮れ時に歌なんて……
ウォルモンドにはそんな風習があるの?
えっ……フォリニックお姉さん、歌詞が聞き取れるんですか?
いいえ……でもこれは、リターニア語? 現代のリターニア語にはこんな曖昧な発音はないはず……
……とても、きれいな歌ですね。
初めてロドスのブリッジから大地を眺めたときを思い出します。どこまでも広がっていて……古めかしくて……
これは……アーツです……極東の古代アーツと同じです!
探せ。
わかりました。見つけた後は? 直接逮捕しますか?
ああ。
ですが……捕らえれば、何かを企んでいる奴らに、扇動の口実に使われてしまうかもしれません。
……構うな。逮捕は彼らが、感染者と非感染者の対立を煽ることを防ぐためでもある。
セベリン憲兵長! こ、この歌は一体?
……冬霊の歌だ。古代の儀式や葬儀でしか用いられないものだ。
感染者と非感染者の対立を後押しし、危険な者たちを率いて街の動力炉を破壊した諸悪の根源は、冬霊人だろう。
寛容な措置などと言っている場合ではない、これは何かの信号だ。
冬霊人が何の目的もなく身を明かすことはない。必ず裏で動いている者がいる。それも術師の素質を持った者たちだ、気をつけろ。
――冬霊人というのは一体何者なんですか?
この場所に住まうキャプリニー族だ。数百年前、彼らこそがこの群山の住民だった。
いったい、過去に何があったんですか?
……ウォルモンドと冬霊人が衝突した、それだけだ。
いいえ、違う。それだけじゃないはずです。
ただの植民地問題であれば、クルビアにもレム・ビリトンにも、その他のどの国家にも存在します。
でも今回は明らかに問題が大きい。衝突があっただけなんて……そんな簡単に話をはぐらかせると思いましたか?
……君たちに話すべきか判断できないんだ。これは間違いなくロドスが知るべき範疇を超えている……
一人の憲兵がおおっぴらに余所の企業に教えたとなれば、一部の貴族たちが不愉快な思いをすることになるだろう。
貴族……? 不愉快??
――アントはあなたたちのために犠牲になったのよ! いつまで体面を気にしてるつもりよ!
フォ、フォリニックお姉さん! 尊い犠牲を……反論するときの理由に使っちゃダメです。
セベリン憲兵長……! ひとまず今やろうとしている捜査を止められますか? 皆さんが嫌な思いをすれば、取り返しのつかない事態になるかもしれません!
――!
……いや、唯一の手がかりが目の前にあるのに、見過ごすわけにはいかないわ。
えっ……?
セベリンさん、リターニアには多くの移動都市があります。あの塔から高みの見物をしている貴族たちが、あなたたちの生死を気にしていると、本当に思いますか?
大裂溝の被害を受けたとしても、一番近くを運行している移動都市が支援に駆けつけてくれたなら、飢饉なんて起きないんです。
セベリンさん、あなたたちの本当の味方は誰か、ちゃんと見定めてください!
わかっているさ……フォリニックさん、そんなことは、私が誰よりもはっきりと理解している。
だがロドスは、今後永続的に支援をしてくれる訳ではないだろう。今回の事件が解決し、ウォルモンドがあるべき姿に戻った後、あの高い塔からの通告書を受け取るわけにはいかないんだ。
……ご理解いただきたい。
フォリニックお姉さん、私たちは――
――爆発!? また襲撃ですか?
憲兵長、憲兵長! 助けてくれ!
落ち着け、どうした?
奴らが、奴らが、あの市街防衛装置を起動させた! 爆発して、燃えて、奴らが――!
落ち着け! 冷静になれ!
憲兵長! ドデカフォニー通りを巡回していた憲兵が、全員感染者たちに捕まってしまったようです! 一切連絡がつきません!
感染者たちは、あの蓄音機を使って頑なに抵抗を続けています。もう街全体が暴乱状態です――!
……本来の彼らならば、そこまで組織的には動けないはずだ、誰が指揮を執っている?
まだわかりません――ですが多くの非感染者も抗議者集団に加わったようです! ……ウォルモンドは既に……真っ二つです!
チッ、冬霊人め……そっちがそのつもりなら。
街全体を包囲し、彼らを抑え込め。なんとしても街を取り戻す――
――ゴホッ、ゴホゴホッ!
憲兵長!
クソッ……君は先に議事堂に戻り、警報を鳴らせ。これを単なる感染者の抗議活動だとは思うな……
ウォルモンド全体に戒厳令を敷き、民兵を集めるんだ。
でも……もし殺し合いに発展してしまえば、ウォルモンドが冬を越すことは不可能になります――!
言われた通りにやれ!
はっ、はい!
……
ロドスのお二人……君たちは、自分たちが正しいと思うようにやればいい。
正直なところ、私は君たちを見張っている余裕などないのでな。
ではもっと多くの情報を――
で、でも今は先に救援のお手伝いをしないと……きっと何の罪もない人たちもたくさん巻き込まれてます……
――私たちは犯人を見つけ出します。全てが終わった後に、必ず。
……ウォルモンドは、ロドスが満足のいく答えを提示すると約束しよう。
その約束を守っていただけることを、切に願います。
それまで私が生きていればな。
……フォリニックお姉さん、セベリン憲兵長を止めるべきだったのではないでしょうか。
無駄よ、見たでしょう。彼らはみんな、私たちの話を聞く余裕なんてない。
そ……そうですが……
ですがもし憲兵長の言った通り、飢饉が目前に迫っているのなら、私たちは……
……早く犯人を見つけ出さないとマズイわね。この暴乱を抑えるためにも、手がかりは手放さないようにしなくちゃ。
そういう意味じゃありません……
……
フォリニックお姉さん、犯人を見つけたら、本当に問題が全部解決すると思っているんですか?
えっ、私は――
――お姉さん、冷静になってください。
……スズラン?
お姉さんだってわかってるはずです……今は皆さん頭に血が上っていて、いつもの皆さんとは違うって。
私はこう思います……あ、あくまで私の予想ですよ。でも私の予想は意外と当たるんです!
えっと、もしかしたら……今この瞬間、もっと悪い何かが起こり始めているのではないでしょうか。正しいとか間違っているとか、そんな言葉では説明できないような何かが……
だから、状況がもっと悪くなる前に私たちがやるべきことは、巻き込まれた罪のない住民たちを少しでも助けることなんじゃないかと思います。
フォリニックお姉さん……もし今ここでセベリン憲兵長を止めなければ、本当に取り返しのつかないことになってしまいます。
……そうかもしれないわね。
(何か言いかけてやめる)……
……はい。