ドッソレスホリデー DH-ST-2・幕間
インターバル
……
……
……
(!? 消えた……)
(でも、彼女に気付かれたってわけじゃないわよね。)
(となると、普段から尾行への対策を取るように訓練されているのかしら?)
(あるいは、この近くに人目を欺く秘密の入り口があるとか?)
(……まあいいわ。とりあえず、まずはチェン・フェイゼと合流しましょう。)
それじゃ最初に、第一ラウンドの通過チームを発表するよ!
今大会の第一ラウンドを突破したのは全部で十五チームだ!
一番人気はやっぱり、皆大好き『龍威鼠心』だね!
とはいえ、ほかの通過チームも要チェック! 『グレーフェザー』に『パッカーマン』、『甘い夏』、それから『ご商談は5453-46235までお電話ください』と……
お疲れ様です、D.D.D.。
今回は慣れないことをさせてしまって、本当に申し訳ありません。
大丈夫だよ。市長にもメンツがあるわけだし、オイラも、こういうことには慣れっこだからさ。
確かに初めは、MCなんてしっくりこなかったけど……やってるうちに気が付いたんだ。実はこれ、DJをやる時の感覚と結構似てるんだよね。
DJは音楽で、MCは言葉。使うものが違うだけで、皆を盛り上げるのが仕事ってところは変わらないからさ。
そう思っていただけるのなら、幸いなのですが……もし本当にやりたくなければ、そう仰ってくださいね。その手の案件は、私が全力でお断りしてきますので。
平気だって。ああ、でも強いて言えば、やっぱり、その場しのぎのパフォーマンスだからか、普段のオイラなら絶対に言わないようなことを言っちゃう時があるんだよね。
いやー、あれは危ないよ。気を付けとかないと。
ところで、話は変わるけどさ! 『龍威鼠心』の活躍は見た?
あの二人ってホントにスゴいよね! あれこそまさにスーパーヒロインだよ!
ああ、確かに。素晴らしい実力ですよね。
やっぱりそう思う? 二人を見てたら、オイラも思わずインスパイアされちゃってさ。
こうなれば、彼女たちのために一曲作るっきゃないね!
このまま二人の試合を特等席で見られるなら、まだまだ頑張れちゃう気がするよ。
あははっ、それはいいですね。
お嬢様、どうも不思議なのですが、試合が終わってからの方が、何やら落ち着かないご様子ですね。
ここ数日、熱心に歩き回っているところを見るに、単純なショッピングというわけでもなさそうですけど、一体どうしたんですか?
買い物もしてるわよ、当然、それだけじゃないけどね。
やはり何か別の目的が?
ええ。アタシ、この都市のことをもっと知りたいの。
と、言いますと?
この都市の塀を一つ隔てた外に広がっているのは、ボリバル――三つの政府によって分割された国家よね。
リターニアが支持する『シンガス政府』、クルビアが支持する『連合政府』、その二つに抵抗するべく立ち上がった、『トゥルーボリバリアン』……
今こうして、アタシたちがここに座って話している間にも、三政府の間では、大小様々な摩擦が絶えず生じているはずよ。
だけど、ドッソレスはアタシたちがここへ来るまでに通ってきたボリバルの都市なんかとは全然違うでしょ。
もう、栄えているどころの騒ぎじゃないわ。このアタシですら、これほどまでに贅沢尽くしで娯楽に満ちた都市なんて見たことがないくらいよ。
ボリバルみたいな国の中に、どうしてこんな都市があるのか、アンタは気にならないの?
気になるかと言われれば気になります。ですが、ここは龍門ではありませんし、わざわざ深掘りしようとは思いませんね。
ほんとアンタときたら。何でもわかってるくせに、龍門やチェンに関係ないことには丸っきり興味持たないんだから。
もう体に染み付いているんですよ。私のことはいいですから続けてください。お嬢様は何か思うところがあったんですね?
ここがパッとしない都市だったら、なにも不思議に思わなかったけどね、それとは真逆だもの。嫌になるほどの活気に満ちてるじゃない?
もし、都市に心臓があるとしたら、龍門のものは、生気に満ち溢れていることでしょう。鮮やかな赤色をした健康的な血液が絶えず心臓に運ばれて、元気に脈打っている状態ね。
だけど、それに比べてこのドッソレスの心臓はすごく変なの。汚れた黒い血液が絶えず心臓に送り込まれているのに、鼓動が衰えることもなく、むしろ龍門よりも強く脈打っている。
まさしくそれがこの都市を、龍門よりも栄えた場所であるように見せかけているの。
しかも。龍門は外部勢力からの圧力だって少ないけど、さっき言った通り、ここは情勢が複雑なボリバルの都市なのよ。
そう考えると、今の状態は本当に奇妙だわ。
なるほど。
つまり、あなたが気になっているのは、本来成り立つはずのないこの都市が、どう成り立っているか、ですね?
ええ。ドッソレスは犯罪を起こるに任せ、賭博を奨励し、結果ここでは欲という欲に溺れることができるわ。毎日、誰かが一夜にして莫大な財を手にする一方で、破滅して行方知れずになる人もいる。
それは人々に、一種の誤解を与えることでしょう――惹きつけられてやってきた観光客こそが頼みの綱で、この都市は観光業と娯楽産業を主な収入源としているんだ、って誤解をね。
でも、ただの娯楽産業じゃ、都市運営を支えることなんて到底できないわ。だからこそ、犯罪に対しても娯楽産業に対しても規制を緩和してるの。そういう政策で、その手の人々を誘っているのよ。
その結果、ドッソレスは――偽りの、崩壊しかけた繁栄を謳歌している。
こう考えると筋は通っているようにみえるけど。
でも、果たして本当にそうなのかしら?
うーん……私は、お嬢様が少々大げさに捉えすぎているのでは、と思いますが。
はあ!? 何ですって!?
まあ確かに、あなたのようなお嬢様からすれば、この都市の運営方式は珍しく、とても野蛮に見えるでしょう。
しかし私からしてみれば、それなりに親しみ深いものですよ。
何せご存知の通り、極東もボリバルのことを言えないですからね。外でドンパチやっていても、オフィスではお偉方が何事もないかのように過ごしている、というのはよくある話なんです。
詰まるところ、ドッソレスと私が知るそうした都市とは、本質的には同じようなものなんですよ。
ああ、ですが、言われてみれば、娯楽産業と観光業だけで都市を維持するのは確かに不可能です。
極東にだって、そんな都市はなかったはずですしね。段々、私も気になってきました。
お嬢様。あなたは何にお気付きになられたのですか?
アンタがあれこれ言ってくるから、言う気も失せたわ。
まあ、そう仰らずに。私が間違ってましたから……ね?
店員さん、サマースムージーを一つ、こちらのお嬢さんに。
かしこまりました。
ほら、お嬢様。機嫌を直してください。
ふん……アンタ、アタシたちがこのドッソレスに入った時のことを覚えてる?
ええ、覚えてますよ。あなたがカードを見せた途端、すぐに入ることができましたよね。
それはアタシが事前に準備してたからよ。龍門とこの都市には貿易協定があるから、アタシのカードをそのまま使えば入ることができるってわけ。
って、もう! そうじゃなくて、アタシが言ってるのは、周りにいたほかの人たちのことよ。
ああ、そちらでしたか。確か落ちぶれた様子の人たちが何人か、街の中へ入りたがっていましたね。守衛がいくつか彼らに質問したあと、入れてやっているのを見ました。
その上、守衛は親切にも彼らに道か何かを教えているようでした。
うんうん、そうよね。それと、街の中心エリアの外に工場がたくさんあるのを見なかった?
ええ、見ましたが。
でしょう? つまりね「そういうこと」よ。
ははあ、なるほど。ボリバルのような場所は政治情勢が目まぐるしく変化しますから、生活必需品の供給を貿易頼りで賄うのは危険が伴いますしね。
詰まるところ、この都市は、自分たちのライフラインを自分たちで握らなければならない、と。
そして、それらを賄う工場で働いているのが、あの貧しい人たちというわけですか。
そうよ。この前の夜、バーでちょっと聞いてみたんだけど、ここの工場労働者の給料はすっごく高いんですって。
だからこそ、ほかの都市からたくさんの人が野を越え山を越え、戦火の中に飛び込んででも、ここで働こうとするのよ。
もし、この都市へ根を下ろすことができれば、外と比べたらいくらか経済的な余裕も持てますからね。
そうよ。連合政府やシンガスの下で戦争をして稼ぐ金額には遥かに及ばないでしょうけど、でも、ここの仕事には安全面でのメリットがあるもの。
ははっ、路地裏で殴り殺されるリスクと戦場で死ぬリスクでは、どちらがマシかなんてわかりませんがね。
ちょっと、水を差さないでよ。それで、ニュースも調べてみたんだけど、この都市は娯楽産業以外にも、お酒、コーヒー、それと砂糖の分野でも、ボリバルで一流だって有名なんですって。
三政府のどの陣営だろうと関係なく、とにかくボリバル全土の大物たちがこぞってドッソレスから、こうしたものを買い入れる必要があるそうよ。
もちろん、お客はボリバル国内だけじゃないわ。アタシの家でもボリバル産のテキーラやコーヒーをよく見かけるの。生産地まで覚えていなかったけど、ここの工場のロゴは絶対見たことあるのよね。
お金持ち御用達というわけですか。その上、守衛たちも活力に満ちていて、装備も優れたものですし……
つまり、この都市に娯楽産業と観光業に加えて、誰もが無視できないほどの嗜好品産業をも手中に収めているんですね。
お嬢様の言いたいことは分かりました。この都市は表面上混乱しているようで、その実、基礎がしっかり整っている。さらにいずれ龍門のような秩序立った都市になり得る可能性すら秘めている、と。
面白い。私も興味が湧いてきましたよ。
大げさに捉えすぎだとか言ってたくせに。
スワイヤーお嬢様は大変見識が広いお方です。小官のようなしがない下っ端が、どうして同じ目線に立つことなどができましょう? どうぞご容赦を。
ほんと、口だけはよく回るんだから。
しかし、お嬢様。私の経験から考えるに、あなたが求めている答えというのは、実のところ非常に単純なものかもしれませんよ。
何しろ、制御不能な不安要素の存在などを許しておく支配者はいませんからね。
ドッソレスが今の姿を維持し続けられるからには、我々が混乱状態と捉えているものは、この都市の支配者からすれば問題にもならないということなのでしょう。
言い換えれば、この都市には強大かつ狂気的な支配者がいるに違いないということです。
そうね。そこはアタシも同じ結論だわ。
ここの市長は、カンデラ・サンチェスという人なの。
龍門とドッソレス間の貿易には、アタシの家も関わっているけど、アタシ個人としては、今までこの都市についてあんまりよく知らなかったのよね。市長についてもそう。
でも、こうなるとすごく気になってきちゃうわ。自分の都市をこんなふうに築き上げた彼女って、一体どんな人なのかしら。
直接伺ってみてはいかがです? あなたほどの身分であれば、向こうもきっともてなしてくれるはずですし。
ダメよ、言葉は人を惑わせるわ。けど、結果は嘘をつかない。
行きましょう。まだまだたくさん回りたい所があるんだから。
ほら、早くしなさい。今日は郊外の工場を見に行くわよ。
お客様、お待たせしました。スムージーでございます。
もう行くんですか、お嬢様、スムージーが来ましたよ。
……まったく、あの人ときたら。チェンと同じで、時々やたらせっかちになるんだよな。
仕方ない、自分で飲むとするか。
――お嬢様、待ってくださいよ!
……
(緑の髪に、あの角……ホシグマ、か?)
何? どうかした?
いや、何でもない。昔なじみを見たような気がしただけだ。
どこ? 龍門の人?
人が多すぎてすぐに見失ってしまった。まあ、あまり気にするな。あいつがここにいるわけがないし、多分見間違いだろう。
そんなことより、お前。ここで落ち合おうと自分から言い出しておいて、なぜ遅刻してきた?
ちょっと寄り道してただけよ。ほら、中に入りましょ。
このバーは……あの日お前が騒ぎを起こした店だろう? 大丈夫なのか?
今はもう私のシマだから平気。いいから、早く入って。
姐さん、お帰りなさいませ! 何かご用ですかい?
…………
彼女と話があるの。人払いをしてちょうだい。
かしこまりました! そいじゃ、何か飲まれますか?
そうね、ウイスキーを出して。
……私は炭酸水でいい。
承りました!
それで? お前は理由もなく私を飲みに誘いはしないだろう。
話というのは一体何だ?
第一ラウンド中に、あるチームの後をつけてみたの。そうしたら、そいつら、試合の騒ぎに紛れてあの住宅地に爆弾をいくつも仕掛けてたのよ。
彼らの会話から推測するに、少なくとも3、4チームは同じことをしていると思うわ。
お前、さっきは収穫なしだと……
ああ、なるほど。エルネストを疑ってのことか。
あなた、少しも疑ってなかったの?
まあ……言われてみれば、確かにな。相手の動きは規模の大きなものだ。カンデラさんの耳に届いたのが、たった一度の密輸事件だけというのはおかしな話か。
彼女に知らせが届くまでの間に、情報操作をした人物がいるだろうと考えると、エルネストはかなり疑わしい。仮に彼が犯人でなくても、必ず誰かそれを実行していた奴がいるはずだろうな。
そうね。さっきは一人だったから、あなたが推測してるようなところまでは深く調べられなかったわ。ただ少なくとも、仕掛けられてた爆弾なら、実物が一つ私のカバンに入ってる。
どう? 触ってみる?
……いや、やめておく。
爆弾を仕掛けていたというのは、どのチームだ?
『グレーフェザー』よ。
あのチームが?
ええ。私も驚いたわ。
……つまり、彼らは組織的かつ計画的に、何らかの企てを実行に移しているというわけか。
その上、爆弾まで使用しているとなると、だいぶ大がかりな計画のようだな。
それで、どうする?
まずはカンデラさんに知らせるべきだろう。
本気でそうするつもり?
何が言いたい?
この都市の華やかな姿が、一体何によって支えられているのか、あなたも気付いてないわけじゃないでしょ、チェン・フェイゼ。
しかも、ここの市長であるにもかかわらず、カンデラさんはすべてわかった上で放任している。
こんな都市を、人を、助ける価値なんて本当にあるのかしら?
……爆弾を仕掛けた連中の肩を持つつもりなら、もう一度やり合っても構わんぞ。今度は決着が着くまでな。
あら、そんなつもりないわよ。それどころか……
私はこの都市の在り方にも、この先ここがどうなっていくのかってことにも、大して興味ないもの。
ウェイ長官の代理としてここにいる以上、私が気にかけているのは長官のイメージなのよ。
言うなれば私には最初から、カンデラさんの依頼を完遂するという選択肢しかないの。
でも、そこへ来て気がかりなのがあなたの存在よ。その溢れんばかりの正義感のために、私との対立を選びはしないかが懸念点。
不意にチェンが顔を上げ、リン・ユーシャへとまっすぐに視線を向けた。
それはどういう意味だ?
見つめられたユーシャに怯んだ様子はなく、同じように、まっすぐ視線を返した。
「会ったこともない人たちに対して、関心を向けてるフリをするのはやめなさい」って意味よ。
あなたにはこの都市に関することについて、首を突っ込む資格は一切ないし、私を非難する資格だってないんだから。
…………
…………
――私に資格がないと言ったところで、自己弁護にはならんぞ。
自己弁護なんてしてないもの。
いつかお前に縄をかけてやるからな。
ふっ。
私を捕まえるだなんて、一体どこの縄を使うおつもりなのかしら?ねえ元・龍門特別督察隊隊長、チェン・フェイゼさん?
私が用いるのは「公正」だ。
ふうん。「正義」よりは多少いい響きね。まあ、本当にそんな日が来るのなら、首を洗って待っててあげる。
他にまだ何かあるか?
いいえ、もうないわ。あなたがどう動こうが私は構わないし、私も私のやり方でやるから。私はただ、あなたに事実を伝えただけ。
そうか。この件を知る者は少ない方がいい。だが、少なくともカンデラさんには伝えておくべきだろう。
仮に伝えたとしても、彼女にできることも多くはないわよ。
向こうの目的は今のところ不明瞭だし、しらみつぶしに調査したり捕まえたりあれこれやってみたところで、現状だと、ただ相手の警戒心を高めるだけよ。
それと、もう一つ言っておくことがあったわ。携帯端末は使わないでちょうだい。
そのくらい、言われずとも心得ているさ。
ふっ。それもそうね、盗聴なんてサツからすれば得意分野だし。
どうやら、お前はよほど喧嘩がしたいらしいな。
別に。それほどでもないわ。
話しておきたいならカンデラさんの所に行ってきたら? 私はほかにやることがあるから行かないけど。
ああ。
まさか、あなたと協力し合う日が来るなんてね。
それはこちらのセリフだ。
本当、力もないのに偉ぶったって、何の意味もないのに……はぁ。
ん……ごめんね、今日は休業日だよ。
「釣り竿を買いに来た」。
――入って。
……ね、お兄ちゃん、毎日暗号変えるのやめない? いちいち覚えるのが面倒くさいよ……
いいや、ダメだ。
ラファエラ、警戒を怠るなって言ってるだろ? この間あったやらかしだって、単なる武器の密輸事件に偽装するのにどれだけ苦労したことか……
もし、あれをカンデラさんに本気で捜査されてたら、俺たちはとっくに終わってたんだぞ。
だから、やるからには徹底的にやらないとダメなんだよ。
はぁい、わかったよ。
別に、お前を責めてるわけじゃないからな。確かにお前はぼんやりしてるけど、やるべきことはちゃんとやってるし。
俺がムカついてるのは、事態の重さを理解してないバカな連中に対してだよ。
確かにこの都市は娯楽に溢れた場所だけど、本当にそれだけなら、ボリバルでこんな上手くやってけるわけがないっていうのに。
責めてはなくても、ぼんやりしてるって言ってる……
ぼんやりはしてるだろ、可愛い妹よ。
ふーんだ。
今さっきだって、後をつけられてたのなんとなく感じたし。
本当か?
わかんない……そんな気がしただけ。
それなら、参加チームの連中に知らせておこうかな。試合中じゃなくても気を付けておけ、って。
……いや、いいか。あいつら、「仕事」の時以外なら普通の住民と変わらないし。何か気取られる方が難しいくらいだろ。
よし。一旦その話は置いとくとして、「仕事」の進捗は?
住宅地の分の爆弾は、仕掛け終わったよ。
誰にも見つかってないだろうな?
うん。途中で、お兄ちゃんのチームにいる紫色の髪の人には出くわしたけど……言われてた通り、正面からやり合わないように避けといたし。
……リンさんの反応はどうだった?
んー……向こうも、わたしたちには特別構ってこなかったよ。
なるほど。俺の方にも何も言ってこないってことは、確かに感づかれてないのかもしれないな。
いや、待った。その保証はない。彼女はチェンさんに比べて、明らかに俺を信用してない様子だし、事態に気付いた上で、あえて俺を泳がせてるって可能性もあるだろう。
だけど、たとえ気付いていたとしても、今はまだ下手に手出しもできないはず……
はぁ。あの二人、バラバラに行動したがるから困るんだよなあ。俺一人じゃ両方は見張れないってのが、ほんと面倒くさいよ。……ああそうだ、一応連絡も入れとこう……
……聞こえるか? 俺だ。
お疲れ様です。ご用向きは何でしょう。
市長がもし、競技エリアで何かしらの捜索を始めたら、すぐ、俺と親父に連絡してくれ。
了解しました。
ふぅ、ひとまず、こんなところかな。
そういえば、第一ラウンドの通過状況を確認しておいたけど、最初の40チーム中、俺たちの仲間が12チーム。そこから9チームが勝ち残った、となるとまあ、大体予想通りって感じだね。
うん。もしあの青い髪の方の邪魔が入らなければ、あと一つか二つくらいのチームを片づけられそうだったけど。
目立つ場所にある金塊を使ってほかのチームをおびき寄せ、それを片付けることで仲間の通過率を上げるなんて、もともとそんなに確実性の高いやり方じゃないしな。この結果で十分だよ。
第一ラウンドの作戦は無事に成功したんだし、次のラウンドは冷静にほかのチームを妨害していけばいいさ。
そもそも第二ラウンドでは、カンデラさんの部下たちが大量に動員されて、近道の至る所で待ち伏せしてるから、このまま爆弾を仕掛け続けるのには都合が悪いしね。
それを加味して、次のラウンドでの俺たちの目標は、試合終了後、クルーズ船に乗り込む選手がなるべく俺たちの仲間だけになるようにすることなんだ。ってのは、ちゃんと覚えてるよな?
もう……お兄ちゃん、わたしのことバカにしてるでしょ。
一応な、一応。
そうだ。お前が来てくれたことだし、話しておかないとな。計画に変更点があるんだ。
どうして? あの二人、そんなにすごい人たちなの?
うん。なんていうか、あの二人は……ちょっと強すぎる。
じゃあ片付けた方がいい?
いや、そこまでする必要はない。
そもそも、そんなことしたら代償が高くつきそうだし……
……それにさ、あの人たちって良い人なんだよ。
「良い人」?
そう、良い人。
もっと早く知り合ってたら俺たちに協力してもらえるように、説得したかったくらいにはね。
そしたら、あの人たち協力してくれたのかな?
どうだろうな。どの道、今となってはもう無理な話だけど。
まあ、だから二人を船に乗せちゃうのはリスクが高いんだ。親父に近付かれかねない状況は、どう考えても危険だしさ、俺は第二ラウンド中、できる限り事を起こして二人の妨害に回ることにするよ。
ただ、そうすると、結果的に俺は船まで辿り着けなくなる可能性がある。もしそうなったら、陸でやれることをやっておくから。
わたしも何か手伝った方がいい?
いや、今のところ大丈夫。必要になったら声を掛けるから、その時は頼めるか?
うん、いいよ。
よし。それじゃ、もっと気楽な話でもするか。
そうだな、ラファエラ。お前もこの都市で暮らし始めて、もう何年も経つことだし、ドッソレスの名前の由来くらい知ってるだろ?
え? 聞いたことはないけど……んー……ドッソレスは、「二つの太陽」って意味だよね……?
正解。じゃあ、その二つの太陽って、何のことだと思う?
うーんと……一つは、空にある太陽?
そう、そこまでは簡単だよな。空を見上げれば見える物だし。
それじゃ、もう一つは……水に映る太陽、かな?
大正解! つまり、この都市の海には、空の太陽が収まってるって考え方なわけだ。
にしても、よく知ってたなー。お前にはきっと当てられないと思ってたぞ。
もう……そのくらい、パパが教えてくれたから知ってたよ。
へえ? だったら、ここが実は「トレッソレス」――「三日市」に改名するかもしれなかった、っていうのは知ってるかな?
……三日市? ううん、知らない。
そうかそうか。じゃあ問題! その「三」の由来である、三つ目の太陽って何だと思う?
三つ目の、太陽……
もしかして、市長自身……だとか?
ハハハッ、確かにそうとも言えるかもな。カンデラさんは実際、この都市の太陽みたいなもんだし。ドッソレスが存続していられるのは、すべて彼女がいるお陰だ。
でも、残念。不正解だよ。
えぇっ? 違うの?
ああ。市長はすごくプライドが高い人だけど、自分と太陽を比べたりなんてしないんだ。何せ、比べるまでなく自分はそれよりも上の存在だと思ってるからね。
そんな彼女が、自分を三つ目の太陽に数えるはずがない。それどころか、「三つの太陽すべてが私のものだ」とか言うんだろうな。
じゃあ、その三つ目の太陽って何なの?
答えはすごく簡単なんだ。三つ目は、お前のパパの船にある。
お前のパパって言うけど……血の繋がりで言えば「お兄ちゃんの」パパでしょ。わたしにとっては、育ててくれたパパだし……で、それってもしかして、あの可愛い純金像のこと?
ハハッ、そういうこと。あれがこの都市の「三つ目の太陽」だよ。
改名されそうになった当時は、皆必死でカンデラさんを説得してなんとか止めたんだってさ。
……
なんか、ちょっとつまんない。
この都市には、大して面白いものなんてないだろ。
でも、お兄ちゃんはここでの生活を楽しんでるでしょ。
……楽しんでるように見えたか?
違うの?
わたしは、ここ何年かお兄ちゃんが市長のとこでお仕事してるの見てて、楽しそうにしてるなあって思ってたよ。
本当に俺がそんな奴だったら、どうして親父に協力するっていうんだよ。
わかんない。だって、ずっとお兄ちゃんは協力しないだろうと思ってたから。
……はぁ。いつもながら鋭いな、お前の直感は。
さっきは、わたしのこと、ぼんやりしてるって言ってたくせに。
ハハハッ。ごめんごめん。
まあ、今はとにかく試合の準備を進めるとしよう。