マリア・ニアール MN-7・戦闘前
ミェシュコグループ
……もう試合が始まってる頃ね。
必ず……え?
ちょっと、どうして私の剣がここにあるのよ?
それは、マリア様が持ってこられたのです。
刃先を研ぎ直し、柄とのバランスも調整したので、真新しく生まれ変わっているはずと仰っていました。
……はぁっ!
うわっ――!
これ……すごく軽くなったわ。まるで貰ったばかりの頃のよう……
お、お気を付けください! あぁ、また手すりを壊しましたね! 去年彫刻師に頼んでリフォームしたばかりの、ヴィクトリア調の装飾が――
いっそのこと、ほかもまとめてもう一度リフォームしたらいいじゃない。手配は任せたわ。
えっ、またそんな適当でよろしいのですか?
住めなくならない程度にお願いね――
……
お嬢様?
えっ!? ああ何でもないわ。ただ……突然懐かしくなっただけ。
この剣は……マリアのお祖父様にいただいたものなの。
ああ、マリア様はお嬢様を「おばさん」とお呼びになりますね――
ちょっと複雑な関係なのよ。マーガレットが、「彼女は……まぁ、おばとでも呼べばいい」って紹介したのを今でも覚えているわ。
二人とはそんなに歳も離れていないのよ? それなのにおばはないでしょう?
お嬢様はお若いですよ。そのお歳でこれだけ事業も成功させているなんて、とても素晴らしいことです。
あの時、こんなに大きなお屋敷を買ったのは自分を証明したかったからなのかしらね。「ニアール」という名前、そして「耀騎士」の側に仕えるのに相応しい存在だということを――
いえ……今は過去を思い返している場合じゃないわね。
お車の用意はすでにできておりますが、お急ぎでしたらご自身の足で走られた方が速いでしょう。いかがなさいますか?
それはもちろん――
左腕騎士はマリア・ニアールに何度も立ち上がる機会を与え、そしてその度に打ちのめしています! まるで獲物を弄ぶかのような残酷さだ――!
……
マーティン! 今戻ったぞ、どうなっとるんじゃ!?
なぜ、マリアがあんなレベルの相手と戦っているんだ? 騎士協会は気でも狂ったのか!?
話せば長くなる……あの子たちはもう安全なのか?
とりあえず今のところは、としか言えんな。あいつらの正式な騎士の身分だって剥奪されちまった、畜生め。
まさかここまで大事になるとはな……
灰毫に焔尾――それとまだ正式な騎士には任命されていない二人の感染者に、奴らが全財産を投げうって競技場から引き取った感染者たち……
あやつらは――あの感染者たちは人々の娯楽のためだけに売り買いされておるんじゃ! 大きい子でも二十歳そこら、小さい子に至っては――!
……
あんな下水道に隠れていても安全とは言えん。人数も人数だ。この都市を離れるしか他に方法はねぇ。
わしの友人が世話を焼いてくれるはずじゃ。しかし、どこへ行こうとも結局は感染者たち……この先も平穏無事とはいかんじゃろう。
……となると、敵は企業だけではなくなってくるな。
なんじゃ、怖気づいたのか?
怖気づく!? ウルサス人に槍を口に突っ込まれたときでさえもビビらなかった俺だぞ? 俺だって一介のウルサス人だ!
ほら吹きめ、職人団がこの街の外に出たことなんてあったか?
あぁ!? 工房を投石機で潰されちまった後、戦わねぇでそのまま殺されるのを待つ職人はいねぇんだよ!
……
……マリアの勝ちはない。
確かにな。あんな奴が相手じゃあ、マリアは勝てんじゃろう。
いや、違う。勝ってはいけないんだ。
騎士協会は手段を選ばないつもりだろう。先日店にやってきたチャルニーもそうだ。もし万が一勝ってしまえばマリアが危ない。
うっ……!
(肩が外れそう……あの槍、正面からじゃ近づけない――)
(――いや、近づけたとしても、勝てる方法が見つからない……一体どうすれば……)
……立て。
さぁ、続けろ。
くっ……!
これで終わりか? まさに、「没落騎士の一族」にふさわしい末路だな。
さぁ、立ってみせろ。騎士を葬る最も有効な方法は、その尊厳を奪うことだ。
これは挑発だ! 繰り返される挑発の数々! 強者の眼差しで相手を見下ろしています。“レフティ”タイタス、やはり恐るべき存在だ!
賞金プールも完全に一方に傾いています。比率も金額も驚きだ! この金額は、おそらくカジミエーシュにある他の全競技場のベット額の合計に匹敵するでしょう!
おおい! 頼むぜニアール! 万が一おめぇが勝ったら、城を丸々買えるくれぇの金が手に入るんだからよ!
ちょっと、頭おかしいんじゃない? あの子に一体どんだけ賭けたのよ??
――タイタスに賭けた金の方がもっと多いぞ! でも、それじゃあ儲からねぇからな。相手にも賭けたんだ!
てやぁっ!! ――はぁ……はぁ……
……
未熟者が……無謀にも騎士を夢見るとは。
殺す価値もない、棄権しろ。貴様が諦めたからと言ってニアールの過去の栄光が消えるわけではない。己自身を諦める、それだけだ。
私に……情をかけているつもり?
そうだ、貴様など騎士とは到底言えんからな。
……
貴様の試合記録は見た。シェブチック戦から始まり、イングラ戦、続いてレース、そして団体混戦……
全神経を集中させて「ニアール家の新たな騎士」を観察してきた。しかし無駄だった……貴様が運よく勝利するなど、騎士への冒涜。貴様ごときに私の時間を浪費する価値など微塵もない!
ぐ……あ――!
立て、マリア・ニアール! 貴様と耀騎士とでは天と地ほどの差があることを、私が思い知らせてやる!
奴の光は相手の意志を砕き、その才能は人を嫉妬させ、その激昂は私をも身震いさせた。
だが貴様にはそういったものが何一つない! ――貴様に勝つことなど容易い。その意志ごと灰塵と化してくれる!
武器を弾いたー!! タイタスが再びマリアの武器を吹き飛ばしました!
あぁ、こんなに繰り返し蹂躪されるとは、身も心も締め付けられる思いです。競技場は血肉が飛び交うだけの場所にあらず! 実力をもって相手の尊厳を踏みにじることも許されているのです!
挑発! 圧力! 破壊! これこそが“レフティ”タイタス。弱者への容赦なき猛攻!
(攻撃が重すぎる……それに盾が割れるなんて! お姉ちゃんが残してくれたものなのに……)
(刃にアーツの痕跡が見える……あいつのアーツだ――)
くっ!
耀騎士は黒騎士のような強大さは持ち合わせておらず、血騎士のように他人を震え上がらせる存在でもなかった。レベルの低いシーズンのメジャーで、運よく優勝できただけ――
己にそう言い聞かせたとしても、埋められない差があることは自覚している。しかし、奴に比べれば貴様の弱さは悲劇的だ。
確かに私は、お姉ちゃんには敵わないかもしれない……
でも、私だって――ニアール家の騎士だから!
……目障りだ。
(一振りで――!?)
やめろ。イングラごときを惑わせた術で私を愚弄する気か?
うぅっ……ぐっ……
もういい。どれだけ強固な鎧でも、その苦痛は耐えがたいはずだ。
……
無言で剣を向けるその根性だけは称賛してやろう。
ごめんなさい――ちょっと、どいてちょうだい!
これで見えるわね……
……マリア。
……!
どうした、声を出す気力もなくなったか?
……
息は乱れ、足元も覚束ぬ……もはや勝機など微塵も――
――! 貴様……? くっ!
貴族騎士、上位商業騎士、メジャーの常連選手……無数の肩書を持つタイタス・トポラは、顔をしかめた――
突然の輝きに目を眩ませて。