孤島激震 MB-8・戦闘前
激戦の末
大変な騒ぎを起こしてくれましたね、ミスター・アンソニー。
もし、あなたたちの計画を事前に知っていなければ、いくら私でも阻止することはできなかったでしょう。
貴方がジェッセルトンですか?
その通りです。
この監獄内で何度かすれ違ったことはあるのですが、改めて自己紹介をさせてください。
私はジェッセルトン・ウィリアムズ、あなたの今回の脱獄における最後の障害になる者です。
ドゥーマさんは?
ここにいますよ。
……
アンソニー、ごめんなさい。
医務室であなたを待っていたら、この人が突然、囚人たちを連れて押し入ってきたの……
ドゥーマ……
こんな薄暗い場所に、美しい女性を一人で寂しく待たせるなんて、非常に心苦しいじゃありませんか。
なので、私が彼女を守ってあげていたんですよ。
ジェッセルトンさん……
ああ、ミス・ロビン……どうやらあなたは失敗したみたいですね。実に残念です。
というより、そもそも暗殺を実行していないのですか?
私は……
彼女は失敗したのですよ。彼女の力量では私を傷つけることはできません。
だがあなたは彼女を生かしておいた……本当に素晴らしい紳士だと言わざるを得ませんね、ミスター・アンソニー。
くだらない話はやめにしませんか。
わかりました。では直接本題へと移りましょう。
ミスター・アンソニー、この女性を死なせたくなければ、こちらに近寄っていただけますか?
……
ミス・カフカ、あなたは大人しくそこでじっとしていてください。
あなたは混乱に乗じて行動するのが上手な方だとお見受けします。勝手な真似をして、ミス・ドゥーマを傷つけることがないように。
チェッ。
……これぐらい近寄ればいいですか?
そうです、そこに立ってください。
君たち、彼を取り囲みなさい。
アンソニー、そいつの言うことを聞いてはダメ!
安心してください、ドゥーマさん。必ず貴方を助けますから。
危機に直面してもなお冷静さを保つとは、本当に感服致しますよ、ミスター・アンソニー。
私が何をするつもりかあなたはわかっているはずです。そして私が同情心からあなたを見逃すことなどないということも。
提案致しましょう。この女性を見捨て、その偽りの教養に満ちた仮面を外して私と殺し合う、というのはいかがでしょう。
くだらない話はやめようと言ったはずですが?
……その余裕がいつまで続くでしょうね?
それではミス・ロビン、よくお聞きください。
え?
ミスター・アンソニーを殺し、あなたの任務を完了してください。
先ほどあなたがミスター・アンソニーとどんな合意に達したのか、そしてどんな心境の変化があったのかはこちらの知ることじゃありません。
例のお金を手に入れたいのなら、お父さまを救いたいのなら、これが最後の、そして最高の機会です。
……
私は……
何をためらっているのです? 彼はあなたにどんな空手形を切ったのですか。それともここに来て情に流されましたか?
これは唯一の機会なのですよ、ミス・ロビン。
わ、私は……
あなたのお父さまのことを……哀れにも転落したあなたの生活を、これからのあなたの未来を、あなたの願いをよく考えるのです。
もし私があなたなら、何一つためらうことなどありませんよ。
貴方は一体、何がしたい?
私がしたいことですか?
そこまでわかりにくかったのですか……そうですね、ただあなたを殺したいだけなら、監獄の中でいくらでも機会はありました。
でもそれでは面白くない……全く面白くありませんよ。
人を殺すなど、私にとっては別に楽しみでも何でもないんですよ、ミスター・アンソニー。
私が最も楽しみにしているのは変化です。人が選択に迫られた時、それまでの顔を捨てざるを得なくなったその瞬間です。
だから今回、私はミス・ロビンを引き入れ、彼女の変化を、彼女の落ちぶれる様を待ち望んだ。
そしてあなたの変化も待ち望んでいます。今この時、あなたが一族のため、目的のために、これまでの紳士的な態度を捨て去り、牙を剥く姿を待ち望んでいるのです!
さぁ、何も取り繕う必要はありませんよ、ミスター・アンソニー。これ以上自分を騙すのはやめにしましょう。
あなたの一族、あなたに降りかかった災い、あなたが耐え忍んできた屈辱、あなたの脱獄の目的をよく考えるのです。
ここで、このようなところで、終わりを迎えてもよいと、本当に思えますか?
あなたは本当に、たかが知り合って数年程度の女性一人のために、命を捨てて後悔しないのですか?
立ち上がるのです、ミスター・アンソニー! ミス・ドゥーマなど見捨て、ミス・ロビンを叩き伏せ、私へ突進し、私を殺すのです!
誰もが貴方と同じような人間だとは思わないでほしいものです。
あなたこそ、自分が皆と違うなどと思わないでください。
ではミス・ロビン、あなたには五秒を差し上げます。時間切れになれば、私は自ら手を下します。そしてあなたも恐らくここで屍となることでしょう。
五。
あなたのお父さまの手術費用は、まだまだ足りていないはずです。しかし今ミスター・アンソニーは一銭も持っていない。
アンソニー、私……
四。
ミスター・アンソニー、あなたの両親は監獄内で排斥され、非常に苦しい生活を送っています。
……父上、母上。
三。
アンソニー、私に構わないで! あなたはこんなところで死んではいけない!
ふん!
ぐっ……
このクソアマ、俺が目を離した隙に自殺しようとしやがって。
ロ……ビン……ダメ……
まさかミス・ドゥーマがこれほどまでの信念を持ち合わせていようとは……尊敬に値するレディです。
しかし残念なことに、彼女が望むように事は運ばないのです。
ジェッセルトン……
今のあなたの表情――素晴らしいですよ、ミスター・アンソニー。本当に素晴らしい。
……
とても興味深いですね……あなたはどうして、そこまで固い決意をお持ちなのですか?
まさかあなたは、自分が死ねば私が残った方たちに手を出さないとでもお思いですか?
あなたにとってのポリシーは、それほどまでに重要なのですか?
それとも、まだ何か他に策があるのですか?
……私はこの監獄の中で、自分のポリシーに背く多くのことをしてきた。
看守たちに媚びへつらい、バートンの味方につき、殴りたくない者を殴り、送りたくもない生活を送ってきた。
だが今の行動は私のポリシーとは関係ない――
私自身の選択だ。
単純な話だ。私は自分の目的のために、ドゥーマを犠牲にしたくはない。
たとえまだ、家族があなたを待っているとしても?
お前に私の家族を語る資格はない。
たとえまだ、あなたに解き明かすべき真実と果たすべき復讐があるとしても?
一人の友人の命と比べれば、そんなものは重要ではない。
たとえ、そのためにあなたが多大な犠牲を払うことになっても?
たとえ、そのために私が命を失うとしてもだ。
アンソニー……
辛いでしょうが、貴方は自分で考え、選択し、その選択に責任を負わなければなりません。
でなければ、貴方は自分の運命の手綱をとることはできません。
貴方はもう一度自分を見つめ直し、自分が一体何をしたいのかを考えなければなりません。
アンソニー……
そうですか。実に残念です。
ではカウントを進めましょうか……二。
一。
ミス・ロビン。あなたの苦しみは痛いほどわかります。それでもあなたは選択しなければならないのです。
アンソニー。
どんな選択をしようと、後悔しないでください、ロビンさん。
うん。
グハッ!
アンソニー、ドゥーマは任せて!
チッ! させるか!
へへ、ようやく動けたよ!
いつの間に!?
……ぐわぁっ!!
アンソニー!
おう!!!
これが残しておいた策なのですか?
ミス・ロビンがあなたの味方をすると確信していたのですか?
いや、単にお前の提示した条件が魅力的ではなかっただけなのかもしれないな。
本当にこれでいいのですか? ミス・ロビン。
あなたが選んだのは、私から見れば全く未来のない道ですよ?
父さんが今のようになったのは確かに最初はサイモン家が原因……でもそのあと、あそこまで落ちぶれてしまったのは彼自身の責任だと思う。
私はこのことをずっと知っていながら、認めようとしなかった。
そして私自身も……アンソニーを殺したくなかった。
アンソニーは、脱出したあとに父さんの医療費を何とかするって約束してくれた。
でも、そんなの本当はどうだっていい。
私はもうアンソニーを殺さないって決めた……たとえ彼が助けてくれなくとも、私は別の方法を考える。
もしそのせいで父さんの病を治せなかったとしたら……
私は自ら命を絶つ。あっちで父さんに「役立たずの娘でごめん」って謝る。
これが私の選択。
……
素晴らしい、実に素晴らしい。
まさに感動的。涙を誘う覚悟です、ミス・ロビン。
あなたがそのような覚悟を持って、我々が交わしたとるに足らない取引に背くことを選択するというのなら――
私はあなたを責めはしません。むしろ拍手を送りたい。
しかし私も一つ指摘しておかなければなりません。
さっき私が言った「未来がない」とは、あなたたちの「脱獄成功」後の未来のことではありません。
今、まさにこの瞬間のことについて言ったのですよ。
あなたたちに「脱獄成功」の未来はありません。
やってみなけりゃわからないことだ!
残念ながら。
ミスター・アンソニー。あなたの実力は、予想をはるかに上回るものであったと認めざるを得ません。
しかし私にとっては、殺人のみならず、暴力も特に面白いものではありません。
ですからあなたが「やってみない」ための、一つ目の手段として私はミス・ドゥーマを用意しました。
そして二つ目は――
ううっ……ぐあ……!
うわぁっ! 拘束具が!
アンソニー、カフカ、大丈夫!?
大……丈夫だ……
まさか、自分の体に枷がついていることを忘れていたのですか?
くそっ、こいつ、なんて用意周到なんだ。
お褒めの言葉感謝いたします、ミス・カフカ。
お前、最初からロビンを騙してたんだな!
何を仰いますか、私は常に次善の策を用意しているのですよ。
もしミス・ロビンが首尾よくやり遂げていれば、私は手を出す必要もなく、めでたしめでたしだったのです。
ですがもし彼女が失敗した時のために……ご覧の通り、私は次の手も用意していたのですよ。
私が彼女を騙していたなんて言いがかりはやめていただきたい。
口先では綺麗に言ってるけど、彼女を巻き込んだのはお前だ。
ハハハッ! 言ったじゃないですか。私の目的は彼女のもがく姿を見ることだと。
しかしミス・カフカ、あなたも自分でビジネスをしている方です。よく考えてください。もし私がミス・ロビンを巻き込まなければ、彼女はお父さまの医療費を集める方法を見つけられるでしょうか?
その可能性は実に低いと思いますよ。
チェッ。
反論できませんよね、そうでしょう?
フー……確かにロビンがお前に協力すれば……もっと楽になるだろうな。
だが、彼女はそうしなかった。
それで、充、分、だ!
フンッ!!!
この期に及んで、まだ抵抗する力があるとは。
やむを得ませんね。では私の手であなたの最後の幻想を打ち消して差し上げましょう。
アンソニー、私も手伝う!
クッ、カフカじゃアンソニーみたいな力尽くの方法は無理だよ……
えっ……? みんな気を付けて! あいつの手が――
あいつの手が、黒くなっていく!
あぁ、なんと涙を誘う一幕に仕上がったことか!
そしてこの舞台を私自ら打ち崩すことができると思うと……
とても幸せで堪りませんよ、アンソニーくん!