塵影に交わる残響 LE-5・戦闘前
月光
ご気分はいかがですか? もう大丈夫ですか?
ああ……
問題ない、大丈夫だ。君も私もきっと大丈夫なはずだ。
少し出かけてくる、君はここで待っててくれ。
まだ調子が戻ってはいないでしょう、どこへ行くんですか?
……やることがある。
何をするにせよ、回復してからにしましょうよ、ね?
心配はいらない。
ハイビスカスさんも仰っていましたよ。目が覚めても、しばらくは休んで様子を見た方がいいって……
急用なんだ、とても急ぎの。いいな?
でもコンサートまで時間がありません。今最も重要なのは、身体を休めて練習に力を入れることだと思います……それこそ、あなたが望んでいることじゃないんですか?
今はそういうことを言って煩わせないでくれ。
え……その、気に障ることを言っちゃいましたか。
……君を責めているつもりではない。
だが、どうしても行かないといけないんだ。止めてくれるな。できるだけ早く戻ってくる。
本当に……何をしに行くかすら教えてくれないんですか?
すべてがうまくいけば……じきに知ることになるさ。
そうだ、衣装。
衣装?
今日の午後に取りに行く約束だったはずだ。一緒に行けなくなったから、一人で行ってくれ。
チェロも持って行くんだぞ。試着した時に軽く弾いて、着心地を確認しろ。
では行ってくる。
またあなたですか?
……はい。
今回のコンサートを中止していただけるよう、お願いに来ました。少なくともエーベンホルツさんとクライデさんは、コンサートで合奏をさせないでください。
何を言っているのですか?
もし二人に合奏させてしまったら、アフターグロー区は大変なことになるんです!
先日あなたは確か、最近私の体調が良くなった原因は、彼らが引き起こした「疑似回復」によるもので、その疑似回復期が過ぎると、私は重症患者となり、命が危なくなると言いましたよね?
そうです。あなたは彼らとの接触が多いので、それによる症状がより顕著に見られます。
もしこのまま演奏をさせれば、彼らとの接触が少ない方でも影響を受け、誰かが亡くなる可能性があると?
はい。原因はまだ定かではありませんが、あの二人が合奏すると、周囲への影響が高まる可能性が大きいです。
どれほどの影響が?
まだわかりません……
今、それによって私以外に命の危険に晒されている人はいますか?
……アフターグロー区の十名以上が、すでにクリフィーパティオ区の病院に運ばれています。
クリフィーパティオ区……つまり、その方たちはすでに彼らの影響範囲から離れているのですね?
多分そうだと思います。
仰りたいことはわかりました。
では……
お断りします。
え!?
コンサート自体を取りやめるよう求めているわけではありません。ただ、あの二人の演奏をやめさせるだけでいいんです! それか、演奏者の変更でも構いません!
もし彼らの演奏が、私以外の人に必ず害を及ぼすということをあなたが証明できれば、すぐにこのコンサートを中止しましょう。
ですがあなたは彼らの演奏がもたらす結果すら、明確に説明できないようだ。そのようなあやふやな「可能性」だけでは、アフターグロー区全体の努力と希望を無駄にするわけにはいきません。
アフターグロー区全体の努力と希望?
このコンサートをとても重視しているのはわかります。でも――
いいえ、あなたはわかっていません。
本当にわかっているのなら、「でも」などという言葉は軽々しく口にできないはずです。
残念ですが、あなたの言い分だけではコンサートの予定を変更することはできません。
ツェルニーさん、教えてください。このコンサートの一体どこが、感染者の命よりも重要なんですか?
どういう意味でしょうか。
私が命を軽視していると仰りたいのですか?
私はただ――
ハイビスカス、ハイビスカスや!
ウルズラお婆さん?
ちょいと風にでも当たりに行かないかい?
でも――
ほら行くよ。
外に出て頭を冷やしてから話を続けたって遅くはないさ、ね?
(ゲルトルーデの話がすべて本当なら、クライデは生き延びることができない……)
(いや、きっと何か方法があるはずだ……どちらもうまくいく方法が……)
(ツェルニー……そうだ、ツェルニーなら何か知っているかもしれない……)
(いや、彼はただの音楽家だ。あてにはできない。)
(クライデに真実を告げるか――)
(しかしそれでどうなる……)
(あるいは、ロドスなら……)
(いや、ハイビスカスのような奴は、私をウルティカへ送り返して閉じ込めるだけだ!)
(「女帝の声」?)
(いやいや、一体何を考えている、自殺の計画か!?)
(ダメだ。ずっとここをうろついていると怪しまれる。人のいない場所に行こう……)
(ん? あの男には見覚えがあるな。)
……慎重に。
……人々……保証がある。
(そうだ、噂――あの予言の噂!)
(噂の内容をはっきりさせれば、何か手がかりが得られるかもしれない。それを広めた者が何を発信しようとしているかわかるかもしれない!)
(今は自分で動くしかないな……)
本当に?
今が絶好のチャンスだ。
これ以上先延ばしにすれば、時間はどんどんなくなっていく。いざその時になったら厄介なことになるぞ。
そうですか。では存分にやってください。上には私から報告をしておきます。頑張ってください、ミスター・ラハマン。
はぁ、この仕事はほんと身心共に疲れるな。
噂を広めるだけならまだしも、こんな場所にまで行かなきゃならんとは……
(下水道? 彼は下水道へ入るつもりか?)
(後をつけて入りたくはないな……やるか。)
そこで止まれ。
誰だ!?
振り返るな。
言え、アフターグロー区で噂を広めたのは誰の差し金だ?
誤解だ、俺も他の人から聞いただけなんだ……
君をずっとつけてきたぞ、ミスター・ラハマン。
それに今気づいた。この前ハイビスカスが取り囲まれた時、そばで声高に噂を広めて、煽り立てていたのも君だな。
いい記憶力だな。
言ってみろ、誰の指示でこんなことをしている? 下水道に入って何をしようとしていた?
ちょうどいい、私も興味があったのですよ。ミスター・ラハマンが下水道へ入って何をしようとしていたのか。
!?
振り返らないでください、でないと……
どうなるでしょうね?