鏡中集 幕間
邙山町
まだ足掻くつもりですか?
雷が空を裂き、少女の刀を弾き飛ばす。彼女自身もまた、巨大な力に吹き飛ばされ地面に倒れた。
頭上には濃密な暗雲が渦巻いている。より強い雷撃がいつ落ちてきてもおかしくない。
この雷を頭に落とされたくなければ、神妙に縄につきなさい。
リン天師にズオ持燭人、本当にしつこい人たちね……
すでに事態は丸く収まったし、被害だって何も出てないのよ。お二人がそこまでして私を追い詰める必要があるかしら?
あなたはただ茶番が見たかっただけとおっしゃいましたが、すでに多くの人が、その「出し物」に巻き込まれてしまっているんです……
巨獣の代理人ゆかりの品を用いて歳相を召喚するなど、常人の成せる業ではありません。禁術です。
正直に答えなさい、あなたは一体何者ですか? 先ほどの禁術はどこで習ったのですか?
ああ、なるほど。気にしていたのはそれだけだったのね。
司歳台の持燭人さん、この大地で最古の秘密が手の届くところにあるというのに、あなたたちはそれを知ろうとする者を片っ端から捕えることだけなの?
物には持ち主がいるだろうけど、知識に持ち主がいるなんて話、古今東西聞いたことがないわ。なのにどうして司歳台は知ることができて、他の者はダメなのかしら?
……あなたが邙山町でやったことを考えれば、よからぬことを企んでいないとは思えません。
一度、役所でお話を聞かせてください。あなたの知っていること、それから企みを全て洗いざらい吐いていただきます。
ふふっ、どうやら私にも生け捕りにする価値があるってことみたいね。なら、なりふり構わず逃げてしまえば、あなたたちには手出しできないんじゃないかしら?
反省するつもりはないようですね……
ならば、気絶させて連れ帰っても同じこと――
待ちなさい!
空から声が響き渡る。しかしその声よりも早く、鋭い烈火が空を裂いた。
刃のような炎が雷を切り裂く。するとリーベリの前に、ある人影が降り立った。
若いのにその雷法、なかなかサマになってるじゃないの。
あんたのアーツの技法には見覚えがあるわね。ひょっとして白定山(バイ・ディンシャン)の小僧が弟子でも取ったのかしら?
この炎のアーツは……
まさかあなたは――祖師様!?
――!?
(この子は確か大荒城の時にいたシャオマンさんの友達では……)
天師府の雷法の継承人……リン・チンイェンと申します……お初にお目にかかります、祖師様。
別にいいって、そんな堅苦しい場じゃないんだし、仰々しい挨拶なんていらないわよ。
とはいえ、そこの小娘も名前くらい名乗りなさい。
……山海衆のモー・イーよ。お会いできて光栄だわ、老天師様。
(この娘、やはり山海衆でしたか。)
その顔はなに。機会があるなら、あなたたちの蔵書閣の一番奥にある巻物を読んでみなさい。巨獣の研究については、あなたたちの方が後発なのよ。
私が見たのは、山海衆が巨獣の旗印を掲げて悪行を重ねる姿だけです。
誰かが山海衆の名前を使って好き放題に無法をしたところで私とは何の関係もないわ。他人のやることまで、いちいち私が口出ししなきゃいけない義理はないでしょ?
あなたはご立派な制服に身を包んでるけど、それを着る人が一人残らず真人間だって保証できるの?
なっ――
そのねじの飛んだやり方とよく回る口……ほんとあんたらのところの開祖の爺さんそっくりね。
あれから何年も経つし、てっきり老いぼれ大工に後継ぎなんていなくなったと思ってたけど、まさかその一人とこんなとこで会えるとはね。
千年前の狩りは、祖師の理念に反していたもの。あの方も晩年はそのことに気を落として、声を潜めていたわ……
でも戦を止めようとしたあの方の初心は、今でも覚えている人がいるのよ。
大きく出たじゃないの。じゃあ聞くけど、あんたは今この局面で、どうやって戦を止めるつもりなの?
簡単なことよ。『武典』を盗み出したのも、歳相を召喚したのも、界園の主に一目会うためだもの。
彼の庭園で、ある物を探したいの。その許可をくれれば、私がこの戦争を止められるわ。
……消えた代理人が残した、ある物をね。
!?
なかなか肝の据わった小娘ね……
そこのまん丸頭!
横でずいぶん長いこと聞き耳立ててたけど、客人がここまで来てるのよ。迎えるのかどうか、はっきり返事しなさい!
今日の来訪者は賓客ばかりだね……
そこのお客さんの提案には、私も全身に冷や汗をかくほど驚いてるよ……
無駄口はいいから。この話に一番関わりが深いのは、あんたらなのよ。一体どうするつもり?
実は先ほど主にも話しておいたところでね……今日は折よく、老天師と司歳台の持燭人もここにいらっしゃっていることだし。恐れながら、一つ提案させてほしい……
せっかくの縁だ。今年の鎮撫の儀式に、こちらの客人たちを招いて協力していただくというのはいかがかな?
鎮撫の儀式?
司歳台では毎年、眠っている歳獣の状態の確認と、歳の陵墓の封印装置の補強を行います。それを鎮撫の儀式と呼んでいるんです。
ですがこの件は、昔から司歳台でも一番に古参の持燭人が務めるのが決まりです……
数日前にかの反逆の代理人が歳の陵墓に入ってから、いまだに何の音沙汰もないわ。今年の鎮撫の儀式をどうするかは、司歳台も決めあぐねているんでしょう。
事は重大です。上にご指示を仰がなくては――
よしなさい。こんな大事な時に、のんびり上に報告してる時間なんてあるわけないでしょ。
あんたたちはとにかく中に入ればいいわ。太傅のジジイに聞かれたら、私が許可したって言っときなさい。
はい……
それと、そこのあんたは、私と一緒に来なさい。
私が……?
持燭人の小僧と一緒に入ったら、そりが合わずにケンカになるのがオチでしょ――あんたの探し物は、その子に探させればいいわ。
あんたのところの開祖の爺さんについて、もう少し話がしたいの。
言うとおりにすればいいんでしょ……
……我々はどうすれば?
難しいことはない。界園に入ったら、道なりに上へ進んでくれ。周囲の風景に気を配っていれば、探し物はきっと見つかるだろう。
それと気をつけてほしいのは、界園内の収蔵品たちだ……主の所蔵物が化けた器鬼たちは、町で見たのとは比べ物にならない。全員くれぐれも注意してくれ。
上に進む、ですか? しかし我々はもう山頂にいるのでは?
あなたがおっしゃる「界園」とは、どこにあるのですか?
主人の庭園は遥か彼方にあるようで、実はすぐそばにあるんだ……君たちがいるこの山は、界園に隣接しているんだよ。
君たちを界園に入れることは造作もないが、奥へ進みたければ、多少の縁が必要となる――録武官殿、君が持っているその碁盤を、私に預けてくれないか?
もちろん構いません……どうぞ。
それからそこの娘さん。君が持っている秘伝書もいいかな。
……どうぞ。
ありがとう……
さて、それでは通路を開こう。そこを通れば、君たちには界園の禁足地に入るための縁が生じることとなる。
兵戈縦横し、乾坤序を承く。起きろ――
碁盤と書物がリャンの手の中で果てしなく広がり、一つの天地を支えた。瞬きの間に、山頂の景色が平坦な田畑に変わっていく。一行がその異様な空間を通り抜け――
その天地を抜けると、目の前には屏風で隔たれた門の入り口が現れた。
ようこそ、界園へ。
……ここだ。
うっすらと覚えている。あの災いが降りかかるまで、ここは活気に満ちた町だった。立ち並ぶ何百もの家々、広がる田畑、交錯するあぜ道……
あれから長い歳月が流れ、今やここに残ったのは――
皆、出てきなさい。
……
……
君たち。
リャンさんのご指示の通りに。
全員ここに集まっているか?
(辺りを見回す)
崩れた壁の中に未だ瓦礫やレンガがいます。彼らはどれも目覚めて間もなく、まだあなたのお言葉も理解できません……引きずり出しますか?
まずは私がここへ来た理由を説明させてくれ。
よく聞いてくれ。君たちはここを離れなくてはいけない。
(ひそひそと話す声)
歳の陵墓のかの異変により、ここの住民たちはあるいは死に絶え、あるいは散り散りになり、もはやこの場所での人の営みは絶えた。
だが元々俗世の器物である君たちは、ここに留まれた。異変の影響を受け、長い時の中で次第に意識を持ち始め、辺りを彷徨うようになった……
君たちも気づいているのだろう。あの陵墓の真上には、我が主人の易(イー)によって「界園」と名付けられた、とある庭園があることを。
炎国も、我らの兄弟姉妹も、界園の近くに器鬼が彷徨う廃墟が存在することを看過できない。
分かりました。
ですが、リャンさん、我々はどこへ行けばいいのですか?
主いわく、形や質の良い者は、庭園内に居場所を見つけても構わないそうだ。残りの者は、すべて処分せねばならない。
まだ一ヶ月の猶予が残されている。それまでに、この地に災いの痕跡が一切残らないようにしておいてほしい。
……
東側の区域はすでに片付いています。
もう少し草の種をくわえて、ここに撒いてから西側の区域の作業に向かいます。あそこはかつて町を流れる川だった場所で、今はヘドロだらけですから、片付けるのに手間がかかります。
……ご苦労。
リャンさん、あなたが持ってきた図鑑と照らし合わせると、要求を満たす器鬼は……ごくわずかでした。ここにいるので全部です。
君たちは、まずは彼らの手伝いをしてくれ。もう少ししたら、私と共に界園へ戻ろう。
賑やかだな。
ああ。
イーは?
出かけているよ。
庭園の東屋の傍が少し寂しいから、飾りに良さそうな物をいくつか探してくるそうだ。
どうも、私が来る時はいつも君しかいないようだが。
それこそまさに、彼が私を作った理由さ。
主は気さくな男だが、それは自分が興味を持った人や物に限った話だ。
石ころ一つを求めるために子供と三日三晩語り合い、怒られようと追い出されようと何も気に留めないくせに、君たちのような輩の傍には、線香一本が燃え尽きるほどの間すら居続けられないんだ。
……そうか。私も奴の社交辞令は好かないな。
本題に入ろう。リャン、君の仕事はいささか遅すぎる。丸々七日も経って、まだこの廃墟の半分も片付いていないではないか。
遅い?
瓦礫の撤去自体はさほど難しくないが、ここには鬼気にあてられた器物が何百といる。それを適切に対処するためにどれだけ手間がかかるかは、君たち司歳台の方がよく知っているはずだ。
もっと手っ取り早い方法があるだろう?
さっき聞いた話が確かなら、君は界園内にいくつかの器鬼を連れ帰るつもりだそうだな……
つまり司歳台は、鬼気にあてられた器物をすべて、レンガや草木、椅子や茶碗に至るまで……界園の中に持ち込めと言っていると?
そうだ。
そんな場所の余裕はない。
おっと、確か先ほど、イーは庭園が寂しくて困っていると言っていたようだが。
はて、そんなことを言ったか?
……
あの歳の覚醒によって、百灶全体と周辺の大地は危うく滅びかけ、君たち兄弟姉妹も痛ましい犠牲を払うこととなった。その上……
やめてくれ。
イーは、その件はもう終わったことだと言っていた。兄弟姉妹の間でさえその話に触れないんだ。君たちと語る気はない。
とにかく、界園はその構想から建設に至るまで、民草に関わる存在だ。
陵墓の真上に鎮座するあの庭園は、眠れる存在を悪夢の中に縛り付けておくための釘だ。邪なるものを鎮め、百灶の安寧を保つためのものであり、したがって……
司歳台は一つ誤解しているようだ。
なに?
界園とは、何よりもまずイーの庭園だ。
田を去ること十里にして即ち八方に至り、古今の趣を収め、稀なる物を集める。主は天下の美景全てを界園に移すことを望んでいる。石一つの位置のため庭園全体の造りを何度も変えるんだぞ……
あの庭園は司歳台の法器ではないし、ましてや歳の陵墓のゴミ捨て場でもない。
陵墓付近の器鬼は私が対処しよう。その他のことについては、司歳台には口を出さないでいただきたい。
……
……
東側はもう片付いたはずだろう。器鬼はなぜまたあちらへ向かっていったのだ?
……
……
……誰か来た。君たちはひとまず隠れてくれ。
そうそう、ここだ……
ついに……
ああ、すいません、人がいるとは気づきませんでした……ひ、人で合ってますよね?
気にしないでくれ。
あんた、その、妙な見てくれをしているが、その格好を見るにもしかして、この山の見回りをしている役人ですか?
……そんなところだ。
この辺は道の悪い僻地で、ひどく荒れているから、普通の人はもう何年も寄り付かなくなっている。君は?
あんたもご存知でしょうが、ここにはかつて小さな町があったんですよ。俺はそこに住んでたんです。
ずいぶん昔の話だ。
ええ。
昔、ここには災いが降りかかりました。誰にも説明のつかないあの恐ろしい災いによって、町はすっかり滅びちまった……
あの頃の俺はまだ何も分からない子供で、家族は皆……幸運にも生き延びたのは俺だけでした。
それから姜斉へ行き、新たな生活を始めて今になってようやく戻ってこられたんです。
姜斉からここまでは、遠かったろう。
まったくそうなんですよ。とても長い道のりでした。
長いこと歩き続けて、ははっ、ここ数年貯めてきた金も道中で使い果たしちまいました。
それだけ苦労してここに……ただ廃墟を一目見るためだけに?
ああ、いえいえ、まずは何日か休んで、体力が戻ったらこの家を直して、周りの畑でも耕そうかと思ってるんです……
俺は、もうここを離れるつもりはないんです。
……
分からないな。姜斉で落ち着いて新たな生活を始めた君が、なぜこんな瓦礫の山にこだわるんだい?
ここはあんたにとっちゃ、折れた梁だとか壊れた瓦礫、伸び放題の雑草があるだけの、ただの廃墟にしか見えないと思いますが……
俺は何年経ってもいまだに覚えてるんです。子供の頃、行商人が来た時に甘酸っぱい糖葫芦(タンフールー)の串を買おうと思って、貯めた小遣いをこの家の隅に隠しておいたこと……
隣の家の子とケンカしたことや、その子と一緒に田畑で働く両親に飯を届けたこと、町の西の私塾で勉強したこと……
ここは俺の故郷なんです。たとえもう滅びちまってたとしてもね。
君の言う通り、ここはもう滅びた。
あの災厄をまだ覚えているなら、もう一度同じことが起こるのが怖くはないのか……
この大地はどこもかしこも天災だらけです。一度も災禍に見舞われたことのない土地なんてどこにもありゃしません。
災いが起きればそこでの俺たちの生活は一旦中断して、そいつが過ぎ去れば、俺たちはまた戻ってくる。家を直して、土地を耕す。何度も何度も……何千何百年の間、ずっとそうやってきたんです。
旅立つ前にも、別の場所に疎開した奴らに何人か会いましたが、みんな帰りたがってました。多分、そう遠くない内にきっと……
……
昔からこう言うでしょう。長く過ごせば、物でさえその土地への愛着が湧くって。まして人間なら、なおさらです。
だが、君はここに留まってはいけない……少なくともここ数日は。
え?
役所がこの山地一帯に別の計画を立てていてね。近場の宿場に身を寄せて、様子を見るといい。
……分かりました。
いたっ――変だな、今何かにつまずいたような……
……
気にするな。送っていこう。
出てきなさい。
しかし、声に返事はなかった。
これ以上隠れるつもりなら、穏便にはいかなくなるぞ。
隅の方からカサカサと物音がする。しばらくすると、花瓶の形をした器鬼がゆっくりとリャンの前まで寄ってきた。
……
……君か。
司歳台の者が来た時、あちこち走り回っていたのも君だね?
この辺りはもう片付いているが、なぜここに隠れていた?
……
処分されるのが嫌なのか?
(上下に揺れる)
では一緒に界園に来る気は?
(左右に揺れる)
ここに留まりたいのか?
(上下に揺れる)
なぜだ?
あの、僕は、人を待っているんです。
人を?
僕を作ってくれた人を。
ここがまだ町だった頃、ラン・カという書生とバイ・ジンという女性が僕を作ってくれたんです。僕のことを、新しい家の最初の飾りにすると言っていました。
正式に結婚した暁には、僕を客間の一番目立つ場所に置くと約束を交わしました。それから毎日花を生けるって、どちらも絶対忘れたりしないって。
一緒に泥をこねて、窯に入れて、焼き上がるのを待つ間に、二人はそれぞれ別の用事で出かけていきました……
それから、あの災いが起こって、二人は二度と戻ってきませんでした。
ぼ、僕はずっと二人を待ってて……
どこにも行かないつもりかい?
どこにも行きません。
……
リャンさん、リャンさん……
リャンさん、こいつを怒らないでやってください。
竹簡の形をした生物がリャンの前に立ち、身体をぐっと前に折り曲げた。力がこもったためか、体が白く変色している。
それは……拱手しているのかい?
はい。
きちんとお願いをする時は礼を尽くすべきだと、以前に教わりました。
ほう?
かつてこの町の西には私塾がありました。私はその書棚の一番上、そして一番外側に置かれていた竹簡です。
先生は生徒たちに、学を修めるには、まず礼を知れと説いていました。何度も強調されていたので、すっかり覚えてしまいました。
こいつはリャンさんに逆らいたいわけじゃありません。長い間たった一つの願いだけを心の内に秘めてきたんです。
どうか聞き入れてやってはいただけませんか。お願いいたします。
竹簡の形をした生物は再びリャンに向かってお辞儀をした。
……
あんたが断ったとしても、こいつを傷つけることは俺が許さねえ!
剣の形をした生物が、花瓶状の生物と竹簡状の生物の前に立ちふさがる。リャンに向けて突き付けられた頭、つまりその剣先が、日光を反射してきらめいた。
こいつは俺の……俺の……
仲間? それとも友達かい?
ああ、それだ。
そこの花瓶の君に、いくつか聞きたいことがある。
はい。
君のその思いはいつ生まれた?
……忘れました。
疑ったことはなかったのか?
なぜ疑う必要があるんでしょうか?
あれから何年も経つけど、さっきの姜斉へ逃げた人だって戻ってきたんです。ラン・カさんとバイ・ジンさんだってきっと戻ってくるはずです。
……
リャンは黙り込んだ。風が彼の空洞の頭蓋を吹き抜け、胸部の機構を揺らして、かすかな音を立てる。
リャンは何かを考え込んでいるようだ。
私はこれまで、君たちは奴の影響を受け、おぼろげな意識が芽生えただけだと思っていた。
辺りを彷徨い、言葉も行動も器物としての性質に縛られていると……
だがまさか、これほど人間らしい感情や思いを抱いているとは……
昔からこう言うでしょう。長く過ごせば、物でさえその土地への愛着が湧くって。まして人間なら、なおさらです。
これは、面白いな。
君たちは皆、あの災厄の後にここに留まることになった器鬼だ。かつての町の様子を覚えているのか?
はい、覚えています。
それを再現できるかい?
できます。
君たち、人と共に暮らす気はあるか?
……
……
リャン、ずいぶん長いこと私に隠していたなぁ。
何のことかな?
君に頼んだのはこの廃墟の片付けと、処分すべき器鬼を処分し、残すべき者は界園へ連れていくことだったけど……
その結果、君は町を一つ作り上げてしまったのか?
まるで知らなかったような言い草だな。
イー、私は君の創造物であり、私の考えも行動も君のものに他ならない。匠の妙技とは、心が外物として形を成したものに過ぎない。
ははっ、なるほど。
……
それに、これが最善の解決策じゃないか?
歳の陵墓の近くには鬼気にあてられた器物が多すぎる。むやみに処分したり、片っ端から界園に押し込むだけではどうにもなりはしない。
それにこの町は廃墟となってなお、散っていった人々が次々に戻ってきている……
君が言っていた器鬼の変化というやつは、確かに興味深いね。
だが、器鬼と人を同じ場所で生活させるとなれば、司歳台が黙っていないはずだけど、どうやって言い包めた?
管理することを約束したのさ。
「私とイーは二人きりしかいない。あんな庭園一つでは、これだけ多くの器鬼を管理することは不可能だ。」
「もしもいつか管理しきれずに器鬼たちが暴れ出したら、かつての邙山町の時と同じように、真っ先に司歳台が、その次に百灶が襲われるだろう」と言ったんだ。
ははは、そうか。
君には、いつも安心して仕事を任せられるよ。
ありがとう。
何にせよ、いいことだ。
界園のすぐ傍にあるこの小さな町なら、悪意ある者たちの足を止めるには十分だろう。我々も予めもてなしの準備を整えることができるね。
リャン、庭園内を綺麗に掃除して、客人を迎える準備をしてくれ。