十字路幕間毒酒殺人事件
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リターニアヴィクトリアカズデルシラクーザレム・ビリトン
ウルサス炎リターニアヴィクトリアカズデルシラクーザレム・ビリトンラテラーノ

名前

十字路 幕間

毒酒殺人事件

ガンビーノ

今、なんか聞こえなかったか?

カポネ

街中にいりゃ、そこら中から物音がするもんだろ。

それより俺は、匂いのほうが気になるがな。

ガンビーノ

だが、例の荷物は全部きちんと梱包して、地下の貯蔵庫に保管してあるんだぞ。匂いなんてしねえはずだが……仮に梱包漏れでもあるなら、味見したいくらいだぜ。

カポネ

変な気起こすなよ。今日届いたのはどれも上物らしいからな。

しかし、匂いを嗅いでるだけで、仕事する気が失せてくる。

ガンビーノ

働きたくねえのか? ここで働くのが嫌なのか?

カポネ

どっちも同じことだろ。

夜にやってる仕事だって、この街をあちこち走り回っちゃ、周りをきょろきょろ見回して、誰も面倒起こさないように祈るだけのもんなんだからな。

昨日だって、赤いペンキの入ったカンに車をぶつけちまっただろ。あれが洗ってもまるで取れなくてよ。今日の給料を受け取ったら、塗装に出さなきゃならねえんだ。

ガンビーノ

好きにしろ。俺の取り分は貯めておく。うちの会社も、そのうち人を雇わなきゃなんねえだろうからな。

カポネ

……

ガンビーノ

なんだよその目は。

カポネ

ヌオバ・ウォルシーニはつくづく不思議な街だな。お前みたいなシチリア人まで倹約家にしちまうとは。カジミエーシュ人はアントニオよりずっと気前がいいってのに、会社のために貯金だって?

ガンビーノ

タクシー会社を経営するのにここまで金がかかるとは思ってなかったんだよ。

カポネ

まあ、こうして通りと会場の見回りをするだけの仕事は、タクシー転がしてるよりずっと退屈なのは確かだ。

大体、「ワインコンクール」なんて暇人とバカどもが考えた大会をわざわざぶち壊しに来るような奴がいるとは思えんがな。

ガンビーノ

よし、この通りの見回りはこんなとこにして、劇場に戻るぞ。

にしても、なんだってあのカジミエーシュ人は、イベント警備の仕事なんかをわざわざ俺たちに頼んできたんだろうな?

カポネ

さあな。どっかのお人よしが推薦でもしてくれたんじゃないか。


チャレク

皆様、少しだけお時間を頂戴してもよろしいでしょうか?

劇場内の照明は異常なほど明るく、まるで参列者全員の顔を照らし出そうとしているかのようだった。ステージの中央には、スーツに革靴姿の商人が立ち、手にしたワイングラスをそっと鳴らす。

その澄んだ音は決して大きくはなかったが、周囲のゲストを静かにさせるには十分だった。

チャレク

今宵、皆様が美酒を、音楽を、記憶に残るひと時を楽しみにおいでくださったことは承知しております。

ですがその前に、これだけはお伝えさせてください――この地で本ワインコンクールを開催できたことは、我々にとって非常に特別な意味を持つことです。

ヌオバ・ウォルシーニが秩序と規則を重んじる都市であることは、我々がワインコンクールの開催地としてこの地を選んだことからも十分に証明されていると思います。

というのも、ワインとは、時間を必要とするものです。

そして時間とは、安定した環境においてのみ意味を持つものなのです。

拍手が収まると、カジミエーシュの商人は言葉を続けた。彼はヴィンテージ物のワインの話から、醸造技術の話へ移り、さらには自然な流れで都市間の協力関係や物流体制にも触れていく。

商人が口にする言葉はすべて的確で、無駄は一切なかった。

チャレク

無論、ヌオバ・ウォルシーニのシティホールのご支援がなければ、このワインコンクールをこれほど早く開催することは叶わなかったでしょう。

共にこの場を実現できたことを光栄に思います、市長さん。

レオントゥッツォ

この都市の規則を遵守してもらえるのなら、ヌオバ・ウォルシーニは、シラクーザの外から来た方々のことも心の底から歓迎する。

真っ当なビジネスに、参入の障壁を設ける必要はないからな。

チャレク

はは、仰る通りです。

しかし、私は何もお世辞を言っているわけではないのですよ。

実際この都市では、どこかのファミリーが突然介入してくる心配もなければ、すでに成立した商談の裏に「別の意図」が隠されていないかを考える必要もないのですから。

こうした明快な取引を行える環境は、ビジネスにおいては何よりも貴重なものなのです。

レオントゥッツォ

あなたは、ヌオバ・ウォルシーニを随分と高く評価してくださっているようだ。

チャレク

はい。だからこそ、我々は最高のワインと、最重要となる提携関係をこの地に託すと決めたのですから。

レオントゥッツォ

我々としても、実に光栄な話だ。

ゲストの声

もう長話は十分だろ。コンクールはいつになったら始まるんだ?

そうだそうだ! カジミエーシュワインの実力を確かめさせてもらおうじゃないか!

場の空気にそぐわない声が群衆の中から上がり、どこから聞こえたともわからないまま消えていく。しかしこの明るい照明の下でも、カジミエーシュの商人の顔に不快感は微塵も浮かんでいなかった。

チャレク

ははっ、失礼いたしました。私の話が長すぎて、皆様をお待たせしてしまったようですね。

では、ヌオバ・ウォルシーニの人気楽団にご登場いただき、その演奏を以てコンクール決勝の開幕を飾っていただきましょう!


照明が落とされると、カジミエーシュの商人はレオントゥッツォと共にステージを降り、会場の隅へと移動して、演奏の始まりを待ち始める。

しかしレオントゥッツォは、ステージには目を向けていなかった。まばゆい照明が消えたことで、落ち着いた足取りで近付いてくる人物の姿が、かえってはっきりと見えていたからだ。

ディミトリ

先ほどは失礼しました。部下はこうした場に慣れておらず、少しはしゃいでしまったようで。

レオントゥッツォ

大丈夫だ。とはいえ、ヌオバ・ウォルシーニでは今後、こういう場が増えていくとは思うがな。

ディミトリ

であれば、早いうちに慣れさせないといけませんね。

チャレク

こちらの方は?

レオントゥッツォ

この地でワイナリーを営むディミトリさんだ。今回のコンクールにも参加している。

チャレク

ああ、お噂はかねがね。将来有望なサルッツォ酒造の若きオーナーだと伺っていますよ。

ディミトリ

光栄です。時に、失礼ながら一つだけ確認させていただきたいのですが――今夜のコンクール、競うのはワインの味ということで間違いありませんね?

チャレク

ええ、もちろんですとも。

結局のところ、ワインの善し悪しは味で決まるものですからね。

ディミトリ

それは良かった。

私は危うく、誰がよりクリーンな経歴を持っているか、あるいは誰のエピソードがより魅力的かを競う会なのかと勘違いするところでした。

チャレク

確かにエピソードも大切な要素ではありますが、お酒そのものに魅力がなければ、どれほど感動的なエピソードがあろうと長くは通用しませんからね。

ディミトリ

仰る通りです。最後には、味だけで勝負できるワインが選ばれるものと信じていますよ。

レオントゥッツォ

サルッツォ酒造のワインは決勝には進んでいないというのに、まだ負けていないとでも言いたげな口ぶりだな。

ディミトリ

市長殿は手厳しいですね。

レオントゥッツォ

もうすっかりビジネスマンだな。

ディミトリ

そうなってほしいとお思いだったのでは?

レオントゥッツォ

……

ディミトリ

カジミエーシュの方々は、「フェアプレー」精神をお持ちだと聞いています。今夜はそれを拝見させていただきたく。

それに、本当の結果は、じきに自ずとわかるでしょうからね。

チャレク

ははっ、これはますます楽しみになってきましたね。なんと言っても、我々がこのヌオバ・ウォルシーニへ来たのは――

こうした古い規則に縛られぬ都市でこそ、フェアな戦いを見届けられると思ってのことなのですから。


ガンビーノ

なあ、今なんか聞こえなかったか?

カポネ

劇場の前でもそんなこと言ってたな。

酒を盗みに来た奴でもいない限りは、この地下貯蔵庫で物音なんかするわけないけどな。

ガンビーノ

コンクール用の酒は、目の前に並んでるこの列だけで合ってるんだよな?

カポネ

ああ。コンクールが終わったら、会場にいるゲスト全員にワインが振舞われるらしいし、こんなタイミングでこっそり盗み飲みしにくるような頭のおかしい奴なんていないと思うが。

ガンビーノ

全員って、俺たちの分もあるのか?

カポネ

ないに決まってんだろ。

ガンビーノ

つまんねえな。

カポネ

お前、味見したいとか言ってたよな。ここで一杯注いでも、黙っててやるぞ。

彼がそう言った直後、曲がり角の向こう、貨物棚の間から足音が聞こえてきた。

かと思えば、フードで顔を隠したキャプリニーがうつむいたまま貨物棚の間を通り抜け、上へ続く階段へ向かい、そのまま貯蔵庫を出ていった。

カポネ

……

ガンビーノ

……

カポネ

出て行ったか。

ガンビーノ

今の話、聞かれてねえよな……

カポネ

距離も離れてたし、俺たちがいること自体気付かれてないはずだ。角を見た感じ、十中八九キャプリニーだから、多分オーケストラの人間だろうな。

ガンビーノ

オーケストラの奴が、このタイミングで何しに来たってんだ? あいつらの出番はこの後だろ……

カポネ

本番前に緊張をほぐしにきたんじゃないか? お前だって気を紛らわす妙なクセがあっただろ。銃を握るたびに、安全装置を爪でカリカリ引っ掻いてよ。

ガンビーノ

ふざけんな、大昔の話なんざしやがって――

そこへ、せわしない足音が聞こえて、ガンビーノはとっさに口をつぐんだ。

すると物陰からキャプリニーがもう一人現れて、先程の人物の後を追うように、足早に貯蔵庫を出ていった。

その金髪の少女が浮かべる困惑した表情は、カポネにもガンビーノにもはっきりと見えていた。

ガンビーノ

……

今の、オーケストラの団長の娘だよな。今使ってるカードキーも、あの子から渡された覚えがあるぞ。

カポネ

シラクーザで、キャプリニーをこんだけたくさん見るのはいつぶりだろうな。

ガンビーノ

あのオーケストラの連中は、全員リターニアから流れて来たらしいな。

カポネ

それが何だ? 「シチリア人」と同じだってか?

ガンビーノ

いや。ただ、この街は本当に人が多いなと思っただけだ。クランタだのキャプリニーだの……この調子じゃ、いつかはエーギルに出くわしたって不思議じゃねえな。

カポネ

個人的には、妙な見た目の乗客はもう少し減ってくれると助かるけどな。

ほら、行くぞ。貯蔵庫の見回りをもう一周やっとかねえと。そろそろ上じゃ演奏が始まる頃だしな。


オーケストラの登場と共に、劇場の照明がさらに暗くなる。

最初に弦楽器の穏やかな抑えた音が響き、続けてそこに木管楽器が加わっていく。その旋律は強く主張することなく、しかし確かに届くように響いていく。

ゲストたちはグラスを片手に、音楽に乗って身体を揺らし始めた。レオントゥッツォは最前列に座っており、隣にいるディミトリが給仕の差し出すワインを再び断っているのを見た。

レオントゥッツォ

酒の席だぞ。飲まないのか?

ディミトリ

あのカジミエーシュワインは香りが好みじゃなくてな。

レオントゥッツォ

それにしても、案外到着が早かったな。お前はもう少し遅れて来るかと思っていた。

ディミトリ

招待されたからには、ギリギリで来るわけにもいかないさ。そんな真似をすれば、俺がまだ古い慣習に縛られてるように見えるだろうしな。

その点は、市長殿も同じだろう?

レオントゥッツォ

お前の口から「古い慣習」という言葉を聞くと、自分の成長を誇示しているようにしか聞こえないがな。

ディミトリ

誉め言葉として受け取っておくよ。知っての通り、俺は昔から善意の言葉から、言外の叱責を読み取るのは得意じゃないからな。

レオントゥッツォは返事をせず、ただ視線をステージからディミトリのほうへと移した。

彼らが顔を合わせるのは本当に久しぶりのことだった。ディミトリが今見せている態度の中に、どれだけ本心が含まれているのかは、レオントゥッツォにはわからない。

レオントゥッツォ

先ほども言ったが、実際今日のお前は、真っ当なビジネスマンに見える。

ディミトリ

お前の望み通りだろう?

レオントゥッツォ

俺の望み通りになったものは多くある。ただ、望み通りに見えるからと言って、それで安心できるわけではないがな。

ディミトリ

だったら、今のヌオバ・ウォルシーニはどうだ? ここはお前の望み通りか? この都市と、そこを行き交う人々に対しては、安心感を抱けてるのか?

レオントゥッツォ

この都市は、俺が望んだ方向に成長しているさ。

ディミトリ

相変わらずだな、レオン。秩序がどうとか語っておいて、お前自身は他人の動向から目を離さない――ほら、俺は何も持ってないぞ。何か盗むとでも思ったのか?

レオントゥッツォ

お前がこの都市を我が物顔でひっくり返して、その気まぐれにすべてを巻き込んでしまわないかを心配しているだけだ。

ディミトリ

だったらしっかり見張ってろよ。お前が目を光らせてるとなれば、俺もトチらずに済むからな。

言葉を交わす二人のそばにいるカジミエーシュの商人は、明らかに上機嫌に見えた。

演奏が終わると、彼は立ち上がって軽く手を叩き、給仕に合図を出して次の準備を始めさせた。

チャレク

いやはや、素晴らしい。私がこの都市を気に入っている点の一つとして、ここでは、いつ拍手をし、いつ静かにしておくべきなのかを誰もが心得ているということがございます。

これは実に珍しいことなのですよ。大抵の場合、静かにしておくべき時に騒ぎ、騒ぐべき時に黙ってしまう人が大勢いるものですからね。

素晴らしい演奏をご披露くださったオーケストラの皆様に、心より感謝いたします。さて、素晴らしい音楽の後は、本日のコンクールを見届けてくださる特別審査員をご紹介しましょう。

リターニア出身の音楽家にして、この都市を訪れた客人たるパオラさんです。

彼女はいかなるワイナリーにもファミリーにも属しておられぬ方ですから、これ以上審査員に相応しい方はいないでしょう。

紹介を受けて、ステージ上にいた指揮者が優雅な動作で周囲に会釈をすると、給仕の案内でステージを降りて、予め用意されたワインテーブルの前へと進み出た。

パオラ

皆様、こんばんは。

私には演奏と指揮のほかに取り柄がなく、誰かを賛美することも、美しい言葉を用いて何かを紹介することも得意ではありません。ですが今回、決勝の審査員を務めるからには――

心を込めてワインを味わい、感じたことを素直にお伝えするとお約束いたしましょう。

チャレク

まさしくそれこそが、あなたをお招きした理由なのですよ、パオラさん。

美しい言葉など必要ありません。我々は、誠実なご感想のみを求めているのですから。

商人は手を挙げ、給仕に合図した。すると三つのデキャンタに入ったワインが、それぞれのグラスへと注がれていく。

チャレク

では、始めましょう。

今宵、決勝に進出した三つのワインはどれも、異なるワイナリー、異なる自然環境、そして異なる「野心」から生まれたものです。

ルールは簡単。ラベルも、誕生に至るエピソードも添えず、ただ味だけでご判断いただきます。ではパオラさん、どうぞ。

背の高い音楽家は頷くと、真剣な表情でワイングラスを手に取る。そして、香りを確かめ、少しだけ口に含んでからそれを飲み込み、しばらくの間沈黙した。

パオラ

最初の一杯は……とても几帳面な味です。

香りは強すぎず、口当たりも穏やかで、フルーティーな風味が先に来ますが、すぐに引いていきます。

このワインはミスを避けようとしている印象です。どの味にも長く主張をさせないようにしており、全体的に非常に調和が取れた印象です。

安心してお客様にお出しできる一杯かと思います。

二杯目は……ふふ、地元の方を思わせる味ですね。

口に含むとすぐにアルコールが感じられますが、それは不快ではなく、尖りすぎた感じもありません。

口当たりはやや刺激的で、酸味もダイレクトにやってきます。人の意見を聞くより先に、自己主張をしてくるようなタイプですね。

そして、パオラは三杯目を、最も時間をかけて味わった。口に含んでもすぐには飲み込まず、それを舌先にしばらく留めていた。

パオラ

三杯目は……

初めの主張こそ控えめですが、味の層がはっきりとしています。これは、好かれようとするようなタイプのお酒ではありませんね……

まるで……気に入ってもらわずとも構わない、とでも言わんばかりです。媚びることなく、己の道を最後まで貫き通しているような。

とても芯のある一杯ですね。私はこうした、芯の強いものが好きなのです。

カジミエーシュの商人はステージ下にいるゲストへと向き直り、すでに表彰台の中央に立っているかのごとく、手を上げた。

チャレク

ではパオラさん、この三杯の中から、最も記憶に残る一杯を選ぶとすれば――

パオラ

もちろん三杯目です、ミスター。

商人は、流れるような動作で三杯目のグラスの後ろに置かれたボトルへ手を伸ばした。そして、高揚していながらも、体面を重んじて節度を忘れぬ声で告げる。

チャレク

皆様、答えは出たようです。

このワインは――

ディミトリ

勝利宣言は、ボトルをしっかり確認してからのほうがいいと思いますよ。

何か間違いがあってはいけませんから。

チャレク

なんですって……?

彼は一瞬動きを止め、ゆっくりとボトルに目を向ける。そして、ラベルの文字を視認した途端、その顔に浮かんでいた笑みがわずかに硬直した。

だが、それも一瞬のことだった。ほとんどの人間が気付きもしない間に、彼は再び満面の笑みを浮かべ直していた。

チャレク

……どうやら今宵最初のサプライズは、予想よりも早く訪れたようですね。

ディミトリ

あなたの仰った通り、エピソードではなく酒の味――すなわち品質で勝負が決まったと見えます。

チャレク

しかし、不思議ですね。本来三杯目として出されるはずだったのは「ゴールデン・プレーン」です。それが、なぜ決勝選出リストになかったワインと入れ替わっているのでしょうか?

ディミトリ

おや、そんなことが? カジミエーシュの方々にも、リストへの登録漏れなどという初歩的なミスがあるとは驚きです。

チャレク

はっは、仰る通り、実に初歩的なミスでしたね!

皆様、サルッツォ酒造に拍手を!

ディミトリさん、あなたのワインは、最も厳しく、最も客観的な方の舌をも魅了したようです。

ディミトリ

祝福をいただき感謝します。確かに今宵は、「フェアプレー」がここに実在していたようですね。

誰にとっても喜ばしいことに。

チャレク

ええ、もちろんです。

勝利すらも事前に用意されてしまうものだとしたら、ビジネスは退屈になるだけです。私がこの街へ来たのは、そんな退屈なだけの商売などもう飽き飽きしているからなのですよ。

では、地元のワイナリーの勝利に――そして、この都市に乾杯!

ディミトリ

乾杯。

給仕たちがゲストのグラスに酒を注いで回る。再び湧き起こった拍手は、先程よりも一層熱を帯びていた。

その中には、レオントゥッツォの拍手も加わっていた。

ディミトリ

俺のために乾杯はしてくれないのか?

レオントゥッツォ

知っての通り、俺はお前ほど鋭い舌は持っていないからな。乾杯をする前に、今しがた勝利を掴んだそのワインについて少し紹介してくれないか?

ディミトリ

ははっ……どうしてもって言うなら、いいだろう。

とはいえ、これは丁寧な説明なんていらない酒だ。サプライズも仕込まれてなければ、最初の一口で何かを証明しようとするようなものでもないからな。

この酒は――テーブルの料理が大体片付いて、言いたいことも言い終えたあとに、まだ一緒に時間を過ごしたいと思った時、助けになるような一杯だ。

これは、言葉が空に消えるのを防いでくれる最後の保険みたいなものでな。きっとかつての日々を思い出させて、容易に手を取り合えるようにしてくれるだろう。

もし、お前にとって、これこそまさに望んだ通りの酒だと思えたなら、その時点でこのワインは役目を果たしたと言える。

レオントゥッツォ

……野心的な酒だな。

ディミトリ

そうだな。それと同時に、さっきパオラさんが言ったように、お前の好みに合うかどうかにかかわらず、自分の道を貫き通すようなワインでもある。

レオントゥッツォ

そいつ自身が選んだ道に対して、俺が好き嫌いを語る権利などないだろう。

ディミトリは小さく笑うと、それ以上は何も言わず、ただグラスを掲げて、レオントゥッツォのグラスに軽く触れさせた。

二つのグラスが軽くぶつかるその音が消え切らないうちに、ステージのほうから微かに、この場にそぐわぬ咳の音が聞こえた。

パオラの動きが一瞬止まり、グラスがその指の間で揺れて、中のワインが不規則な軌跡を描く。

パオラ

……失礼。

ごほっ、げほ、ごほっ……!

何か言おうとしたのか、あるいは無意識に呼吸を整えようとしたのか、二度目の咳はより激しくなり、彼女はそれを押さえようとしたが、押しとどめることはできなかった。

真っ先に彼女の異変に気付いたのは、そのそばにずっと控えていた金髪の少女だった。パオラは己を支えようとテーブルのふちに手を伸ばすも、そのまま体勢を崩し――

その手から滑り落ちたグラスが鈍い音を立て、絨毯の上を転がっていく。

支えを失った彼女は、前へと倒れこみ、膝から崩れ落ちた。

それを見て、ある者は悲鳴を上げ、ある者は立ち上がり、そしてある者は反射的に後ずさる。

給仕が駆け寄った時には、パオラはテーブルの脇に倒れており、呼吸はなく、その唇は異様な色を帯びていた。

金髪の少女は取り乱した様子で、「パオラおばさん!」「誰か助けて!」と言葉を発している。

その瞬間、ディミトリの顔からは笑みが完全に消え失せた。一方で商人は、先程と同じ姿勢でその場に立っていたが、もはや口を開こうとはしなかった。

短い混乱の後、劇場は現実味のない静寂に包まれた。

つい先程まで、この場では「公平性」と「体面」、そして「勝利」のためにグラスが掲げられていた。

しかし今では、卓上のワインに手を伸ばそうとする者はいない。


それでも、騒ぎはすぐに収まった。正確には、市長とシティホールの関係者が会場に招かれていたことで、事態の収拾が迅速につけられたと言うべきだろう。

ほとんどの人間は、近付くべきか、立ち去るべきかもわからず、ただその場に立ち尽くすばかりだった。

レオントゥッツォ

皆さん、どうか落ち着いてもらいたい。

医療スタッフはすでにこちらへ向かっている。状況の確認が取れるまでは、無暗に動かず、会場内の警備員の指示に従ってほしい。

チャレク

市長さん、ならびにゲストの皆様。今宵ご提供したワインはいずれも厳格な審査フローを経ておりますことを、改めてお伝えさせてください。

このような事態など、我々は誰一人として望んではおりません。

それゆえ、不確定な憶測を広めてはならないと思います。

レオントゥッツォは、そこへすぐに言葉を継ぐことはしなかった。彼は給仕が脇に寄せたテーブルのほうを一瞥し、今もその場に立っているディミトリを見やった。

ディミトリは黙っていた。彼は近付いて来もしなければ離れもせずにただグラスを静かにテーブルへと戻した。小さな音が鳴る。

少しの静寂を経て、商人は、その動作をきっかけに言葉を続ける。

チャレク

先ほどの試飲の際に、想定外の事態が発生したことは確かです。

登録されていたものと違うボトルが置かれていたのですから。

無論、そこに悪意があったとは思いません。ですが今の状況からすると、いかなる手違いがあったにせよ、明確な説明が必要であると考えます。

その場にいる全員の視線が、自然とディミトリの元へ集まった。

ディミトリ

私の説明をお待ちなのであれば、残念ながらご期待には応えられませんね。

私も、ここにいる皆さんと同じように、この事態に驚き、困惑しております。

先ほどのボトルについても、私はただ、それを時間通りにこの劇場へと届けただけです。

それ以外のことには関わっていません。

チャレク

あなたは将来有望なワイナリーのオーナーであると同時に、ファミリーのドンでもあられるとか。となれば、直接手を下さずとも、代わりに動く人間はいくらでもいるでしょう。

先ほど、パオラさんが、予定外にステージ上に置かれていたサルッツォ酒造のあのワインを再び口にされた直後、突然お倒れになったことは、多くの方々が見ていた通りです。

彼女とどんな確執があって、このようなことをしたのですか?

私が開いたこのコンクールで優勝を飾るだけでは飽き足らず、この場を利用して私のビジネスまでを潰すおつもりですか?

あるいは、ファミリーのトップともなれば、我々のような一般人の身の安全など顧みず、当然のように何かの思惑を持ち、ファミリー同士の争いを繰り広げているものなのでしょうか?

レオントゥッツォ

……チャレクさん。

結論を出すのはまだ早い。この都市にはこの都市の手順というものがある。本件は、我々のルールのもとに調査を進める。

警察が到着次第、捜査を行う。その結果が出るまでは、個人に対してであれ、企業に対してであれ、偏見で評価するべきではない。

チャレク

それはもちろん、仰る通りですとも。

事の真相が一刻も早く明らかになるよう祈っております。さもなくば、カジミエーシュの、さらにはヌオバ・ウォルシーニのワイン全般に対する世間からの信頼が損なわれてしまいかねませんので。

私が開催するワインコンクールにおいて、いいえ、いかなる場所であろうとも、酒宴で死人が出るような事態があってはならないのです。

加えて今後、このワインコンクールがファミリー間の争いに巻き込まれたなどという噂話を、街頭で聞くこともあってほしくはありません。

市長さんは良くご存知のはずでしょう。我々カジミエーシュ人が、そしてリターニアやクルビア、さらにはより遠方からやって来た商人たちが……

あなたのした約束を信じたからこそ、ヌオバ・ウォルシーニへやってきたということを。

レオントゥッツォ

……

商人はわざとらしく声を落とした。だが、コンクールの盛り上がりを記録すべく招かれていた記者やカメラマンの耳には、その言葉が届いていたようだった。

フラッシュの点滅が、明らかに勢いを増していく。

激しく明滅する光の中で、ディミトリは逆に一歩前へと歩み出た。

ディミトリ

調査協力をする必要があるなら、逃げはしません。

その結果が出るまでは、みだりに出歩かず待機していましょう。

レオントゥッツォ

……ディーマ。状況の確認が取れるまでは、この場から離れるな。

ディミトリ

現状、一番疑われているのは俺だろう。それなら、俺は大人しく、身を置いているべき場所でじっと待つさ。警察の捜査が終わるのをな。

市長殿はさっき言ってた通り、この都市の手順通りに事を進めてくれ。

レオントゥッツォ

……

……わかった。

手配しよう。

チャレク

警察の到着まではまだ時間がかかりそうですか? そうであれば、こちらで雇った警備員に、ベッローネさんをご自宅まで「護送」させますよ。

レオントゥッツォは赤髪のループスの顔を見つめ、その表情から何かを読み取ろうとしていた。

グラスが床に落ちた時、ディミトリの笑みは一度消えたが、今やその顔には、微かに笑みが戻っているようにも見える。

だが、その笑みをどう解釈すべきかはわからなかった。「お前を困らせはしない」だとか、「お前なら解決できるはずだ」なのか、あるいは「これも想定内」なのか。

レオントゥッツォが考えをまとめるより前に、ディミトリはカポネとガンビーノに挟まれるようにして連れて行かれてしまった。すれ違いざま、彼と一瞬目が合い、しかしすぐにその視線は逸れた。

記者たちのフラッシュは、ディミトリの顔を容赦なく照らし出していた。

レオントゥッツォは思わず顔をそむけ、表情を作り直すと、この機を逃さず自分に圧力をかけ、さらなる利益や譲歩を求めてくるであろう外国人へと向き直った。


カポネ

おい、何なんださっきのは。

「ベッローネさん、先程は腕を掴んでしまい、大変失礼いたしました。痛くはありませんでしたか?」だって?

笑いをこらえるのに必死で、窒息死するかと思ったよ。

ガンビーノ

あいつは、ヌオバ・ウォルシーニではサルッツォファミリーを事実上仕切ってるし、ベッローネの新しいドンでもあるからな。ちょっとくらい丁寧に接しといて損はないだろ。

おまけに、俺らにチップもくれたじゃねえか。ただの「チップ」って言うにはかなりの額だったがな。

カポネ

あんなのが何だってんだよ。ファミリーのドンだろうと、結局は外国の資本家にはめられてんだぞ。

ガンビーノ

さっきのを、カジミエーシュ人が仕組んだことだと思ってんのか?

俺はむしろ、あのクソバーテンがわざとこの状況になるように仕向けた気がしてならねえけどな。お前も見ただろ? 会場を出た後の余裕ぶった態度をよ。

ああいうファミリー育ちの奴は、策略だの陰謀だのが一番得意で手慣れたことなわけだしな。

カポネ

知らん知らん、どうでもいいだろそんなこと。

ここはヌオバ・ウォルシーニであって、シチリアじゃないんだ。俺もお前も、ファミリーのドンが転げ落ちてく滑稽なザマを散々見てきただろ。

ガンビーノ

まあな。ところで、さっきディミトリを送ってった時、会場にいた記者どもが写真を撮ってたよな。俺の背中に書いてあるうちの会社の宣伝文句、写り込んでたりしねえかな?

カポネ

明日の朝刊買って見てみろよ。

案外、「シチリア」の四文字だけ写ってるかもな。そうなったら、それはそれで面白いだろうさ。

ガンビーノ

……

カポネ

何だよ、怒ったのか? わりぃ、それなら黙っとくよ。

ガンビーノ

……ああ、いや。ただ、ふっと思ったんだよ。ヌオバ・ウォルシーニも、結局はシラクーザの都市でしかねえのかもなって。

何かが変わったようでいて、結局何も変わってねえのかもな。

それか、これまで変わらずにいた何かが、この新しい時代に踏み込んだ結果、また別の何かが生み出されるってこともあるのかもしれねえが。