シラクザーノ IS-7・戦闘後
忘れえぬ記憶
ほかのどこよりも目立たない部署の……
評判はいいが軽んじられている部長か……
今となっては、カラチの時のようにファミリー同士の均衡を保つための人選を行う必要はありません。
あなたにも、安全で扱いやすい操り人形がご入用のはず……
違いますか?
そんな操り人形が自分からそう名乗ることはないが。
ほかの人よりも自分の立場をわきまえているだけですよ。
はっはは……わきまえている、か。
君の言う通り、後任の最有力候補が君であることは確かだ。
だが、そこまで率直に話してもらったからには、私からも伝えておくとしようか。
ぜひとも、何なりと。
カラチを殺したのは私の部下だ。
……
君は勇気ある人だし、そういう人間と話をするのは嫌いではない。
だからチャンスをやるとしよう。
この部屋を出て、今の話を忘れたまえ。そうすれば、君は無傷でいられるだろう。
そのあとは家へ帰って妻や娘と和やかに過ごし、この都市最後の平和な時間を楽しむといい。
――あなたの目的を思えば、なおさら私のような操り人形が必要ではありませんか?
ほう。
目下、あなたは混乱をお求めのはず。
ミズ・シチリアが定めた秩序を覆そうとお考えなのでしょう。ですがあの方の統治下にせよ、それ以前にせよ……
ファミリー間の闘争はずっと、一般市民には無関係なことでした。
何かが起きたとして、我々にはただその結果を待つことしかできません。
つまりその点で言うと、この国を治めるのがミズ・シチリアであろうが、あなたであろうが、私たちのような普通の人間からすれば何一つ変わらないということです。
しかし、どうあれ最後の勝者には、表面上の秩序を保たせる誰かが必要になるでしょう。
ドンであられるあなたなら、この道理をよくおわかりのはず――
一般人はマフィアがいなくとも生きていくことができますが、逆はそうとも限りません。
強者は自分たちのほうだと言いたいのかね?
弱者が自らを正当化しようとしているだけのことですよ。
大した「正当化」があったものだな。
だが、それは真の目的を語るものではあるまい。
敬愛なるドン・ベルナルド……私は権力が欲しいのです。
私は幼い頃より、この顔とひ弱な体格を理由に、周りから見下されてきました。
マフィアから受けた抑圧よりも、そうした周囲から受けた抑圧のほうが、私にとっては大きなものだったのです。
これまで耐え忍んできたのは、このチャンスを得るためでした。
ですから、あなたがカラチを殺させたと仰った時……今日来たことは正しかったと思いました。
大変失礼ながら、あなたがミズ・シチリアに勝とうとなさっても、それは恐らく難しいことでしょう。
ですが、どちらが勝つかはさておきとして――
私に権力を与えてくださるとすれば、それはあなたなのです。
君は実に正直だな、ルビオ。私はそういう人間を友とするのが好きでね。
おや……
ドン、失礼します……(耳打ちをする)
……
では、今日は引き上げるように伝えたまえ。
はい。
わっ、今の何!?
向こうの部屋……揺れてへんかった?
へえ? テキサスはキミたちを選んだみたいだね。
えっ……?
この震動はジョヴァンナのアーツだよ。
二人は決裂したんだろうね。
うわ!? 見て、テキサスが窓から飛び出してきたよ! あたしたちも行こう!
うん!
……
ねえ、テキサス……もしもの話だけど。あの時、キミと友達になってたら、シラクーザに引き止めることもできたのかな?
アハッ、ううん。無理だろうね。
ボクたちは、死ぬまで殺し合うしかないんだから。
頼むよ。俺に……手を下させないでくれ。
こっちにも仕事があるんだ。
……
……
あんたが来世はシラクーザに生まれずに済むよう祈ってる……
待ってください。
……あんたは?
そちらは……サルッツォファミリーの方ですね? 今回の件は……もう終わりましたよ。
ドン・ベルナルドが撤退命令を出したんです。
……
ラヴィニア、君はここにいるべきではないだろう。
あなたには関係ないでしょう。
君がサルッツォの仕事を邪魔したとあれば、両家の関係を壊すことになる。
……ふ、ふふっ……
だったら、私の首を手土産に、アルベルトにお詫びでもしたらどうかしら?
……
お待ちください、監督……いえ、ドン・ベルナルド……
無理を承知でお願いしたいことがあります。
何かね?
レオントゥッツォさんは、今後ご多忙になるでしょう。以前カラチを手伝ってくださっていたように、私にお力添えいただくことは現実的ではないと思います。
つきましては、新しい助手をつけていただけませんか。
こちらの裁判官さんであれば、申し分ない人選かと。
なるほど、それもありだろうな。
……何の話ですか?
おっと。すみません、ラヴィニアさん。ご本人の意見も聞かず話を進めるところでした。
つい先ほど、ドン・ベルナルドのご決定がありまして。不肖私――前食品安全保証部長のルビオが、カラチに代わり建設部長に就任することになりました。
ですが正直なところ、私には関連業務の経験があまりなく……
そこで、豊富な経験をお持ちのあなたに、ぜひお力を貸していただけたらと。
……
(ソラたちは無事だろうか……)
!?
……なぜお前……いや、あなたがここに?
人間、老いると悠々自適に暮らせる場所を求めるものでね。
……
いたぞ! あそこだ!
取り囲め!
道を譲る気はないようだな。
あの一件以来、彼女は今でも君のことを大層心配しているんだ。
私はというと、歳を取ってからは若い人の世話を焼くのが何よりの楽しみでね。
この年寄りとここでお喋りでもしていきなさい。
……またの機会にさせてもらおう。
クロワッサン!?
あっれ~、こんなところで一匹狼気取ってんのは誰かな~?
……お前たち、なぜここに……
あたしの観察によると――シラクーザマフィアさんは社風として集団戦がお得意なんだと思うんだよね。
一方でうちの社風は――
パーティー大好き?
いや、この場合は――
顧客に合わせた「おもてなし」ならお任せ、だろう?
大正解!
ねえおじいちゃん、マジメな話、同族のよしみで大目に見てもらえたりしない?
アホ言うてる場合かっちゅうねん。
......
ふむ、一理ある。
シラクーザの雨期は長い。若い時はどうとも思わなかったが、今では節々の痛みもあるしな。
若人たちよ。闘争心を持つのは結構だが、健康にはくれぐれも気を付けなさい。
えっ、ほんまに退いてくれるん?
やーりい! ありがと!
そういえば、おじいちゃんとお喋りしたくなったら、どこに行けばいい?
君が救済を求めるのなら、私になすすべなどないが……
君が秩序を求めるのなら、私はどこにでも在るだろう。
……よし、この場を離れよう。
オッケー!
……
ドン……
状況は?
ベッローネの連中は撤退しました。
そう、よくやってくれたわね。
チェリーニアはどうしました?
行ってしまったわ。
行ってしまった……?
彼女には私を殺せないし、私にも彼女は殺せないもの。
……
戻って事に備えましょう。ベッローネはこのまま引き下がったりなんてしないわ。
……わかりました。
……
あんたの勝ちだな、レオントゥッツォ。
ウォラックを引き込むのはドンの考えじゃないんだろう。
だが、あの状況では最善の選択だ。
……げほっ、ごほっ……まあ、否定はしないさ。
もう喋るな。車まで連れて行ってやる。
レオン、お前はまだ諦めてないんだな?
この程度の挫折、ラヴィニアが向き合っている困難に比べれば何でもない。
……お前はいつか大きなことを成し遂げられる人間だ。
いつか本当に、お前の理想をこのシラクーザで実現できる日も来るかもな。
その時は俺の右腕になってもらうぞ。
俺はラヴィニアさんとはそりが合わないんだが。
お前と彼女では、任せるべき内容が違うだろう。
ははっ、お前ってやつはもうそんなことまで考えてるのか。
……ディーマ。俺はまだ、お前と親父の策略には怒りを覚えてる。
親父がどうしても今、事を起こすのにこだわっている理由もわからないしな。
それでも、結局俺はこのファミリーの一員なんだ。
無事とうちゃ~く!
はぁ……はぁ……やっぱり自分たちの拠点のほうが落ち着くね……
ふぅ……あの人たちしつこかったね。お陰でへとへとだよ……
ソラ、大丈夫?
うん、ドレスが少し破けちゃったけど……
えっ、それめちゃめちゃ高いやつだよね?
あはは、まあ何とでもなるよ。
それじゃ、はい。一人一本ね!
……
ほら、そんな顔しないでくださいよ。
あたしたちは偶然この街へ旅行に来てただけ、とでも思ってくれたらいいですから。
……それにしても、なぜ役者をやっているんだ?
あー……ついでに仕事を開拓してみようかなーと思ったんです。
それに、このほうがテキサスさんを見つけやすくなる気がして。
結果的に、目標は達成しとるしな。
確かに。
一瞬、その場に沈黙が落ちた。
避けられない問題が頭に浮かんだのだ。
――この先どうするべきか?
テキサスには、それを口に出すことができなかった。
なあ……
――テキサスさん。あたし、監督と約束したんです。
……
というと?
あなたを見つけたあとも、引き続き役者としての契約を終えるまで舞台に立つ、って。
だが――
監督と直接やりとりしたんですよ。今考えると少し怖い気もしますけど、あの人はあたしたちを人質にしてあなたを脅すような人じゃないと思うんです。
確かに、あのおじさんにその気があれば、あたしたちもうとっくに捕まってるもんね。
うわ、やめーや……聞けば聞くほど怖なってくるわ……
とにかく、あなたを探すついでに観光するつもりだったので……こういう危ない状況じゃなければ、案内してもらいたかったんですけど……
……ああ、事が終われば、必ず。
何はともあれ、まずはお祝いしようよ! ペンギン急便四人組の再会を祝って!
乾杯!
そんで、一番大事なことやけど――
ん?
知らない番号からだ……
ここの番号は誰にも教えてないはずなんだけど……
はい、もしもし……
ソラ君か。無事でよかった、安心したよ。
……テキサスさんのこと、お耳に入ってますよね?
落ち着きたまえ。
おそらく、ペンギン急便の面々は今再会の喜びに浸っているところだろう。
私もそれを邪魔立てするつもりはない。
ただ、君から私に聞きたいことも色々とあるだろうと思ってね。
――明日、劇場で待っているよ。
……わかりました。