シラクザーノ IS-10・戦闘後
「狼の主」
ザーロ……! 狼主たちには約束事があるだろう! 人間のことには干渉しないはずじゃないのか!
気が変わった! ベルナルドに計画を台無しにされたのでな!
これまで六十八年もかけて丹念に育ててやったというのに――
奴は自ら命を絶って私の勝利を葬ったのだ!
今……なんて……
親父が……自殺した……?
レオントゥッツォの脳内に、父が狼の主とそのゲームについて話した時のことがよぎった。
そして唐突に、教会でかけてもらった言葉が、自分を認めてくれるものであると同時に――
遺言でもあったということを理解した。
父は初めから死ぬつもりだったのだ。
狼主を愚弄した代償は高くつくぞ。
奴が死んでも、その血筋までをこの大地から消し去ってやる。
ベルナルドの子よ……お前には父に代わってその代価を払ってもらおう。
命を以て贖うがいい!
……
贖う……?
代償、だと……?
親父は確かに間違っていたが、その理想の根底にはこの時代を変えたいという思いがあった。
ファミリーの存在しないシラクーザを切望し、そのために生涯をかけて計画を立てていたんだ。
始め、親父は自分のファミリーを駆け引きの道具にしただけだとばかり思っていた。
この時に騒ぎを起こしたのも、偶然タイミングが良かったからだろうと……
だが今、俺は理解した。
親父はもう時間がないと思っていたんだ。この機を逃せば、理想を実現することは二度とできなくなり、お前への復讐も果たせずじまいになると考えていたんだろう。
奴の短い生涯の間に、私はすべてを教えてやった。だというのに奴は裏切りでその恩に報いたのだ!
……お前には決してわからんだろうな。
高みに座して、自らがすべてを支配していると思い込む狼主よ。
――親父は自らの命さえも、駆け引きの道具にしていた。
命を賭して、お前のような傲慢な存在に抗ってでも、己の理想を現実のものにしようとしたんだ!
代償を払うべきなのはお前のほうだ!
無知蒙昧の若造が!
テキサス! おっかえり~!
そっちは全部片付いた?
ああ。
次はこちらの面倒ごとを片付けるとしよう。
最後のテキサスか。
あの時お前がシラクーザの支配から逃れることを許したのは誰か、忘れたわけではあるまいな。
今さら私に逆らうつもりか?
ベルナルドとの約束を果たした以上、お前にはもう借りはない。
愚かな!
……ベルナルドが、自殺を……?
どうして?
ゲームは終わったんだ、ラヴィニア。
つまり……これが、あの言葉の真意だったってこと?
ファミリーの存在しないシラクーザこそ、あなたの本当の理想なのね……
どうして、それを言ってくれなかったの……
戦ってる時にぼーっとしちゃダメでしょ、裁判官さん。
ラップランド――
もう、こんなに面白そうな戦いに呼んでくれないなんて水臭いじゃない、テキサス。
どの道呼ばずとも来るだろう?
まあいいさ、その通りだしね。
幼きはぐれ狼よ、退くがいい。ここにお前の居場所はない。
一つ良いことを教えてあげようか、狼の主……いや狼の子かな? なんでもいいけどね。
この時を以て、シラクーザのすべてはボクの敵になったんだ。
人間を超越したキミみたいな存在も含めて、ね。
身の程知らずめ!
ドン……あなたも、俺の目の前に立ったら……レオンのようにはっきりと、理想を選ぶと告げたんでしょうか。
その答えすら……もう、わからないんですね。
死にたくなければ集中するのだ。
あんたは――
アンニェーゼの惰弱なる牙か。
我が牙の死を知ったとて、我が前に立つこと叶うと思うのか?
ルナカブは、ベルナルドと約束をした。奴の子供を助けると。
軟弱な。アンニェーゼの牙がこの程度とはな。
あの女にも、今日でこのゲームを降りてもらうとしよう。
――どう足掻こうと私を滅ぼすことはできぬ。
お前たちには、私を傷つけることすらできぬのだ。
人間よ……お前たちは自ら建てた都市に閉じこもり、この大地の主は自分たちだと思い込んでいるのだろうが……
道具の使い方を少し学んだくらいでつけあがるな。
お前たちが荒野を征服したことなどないのだから。
――レディース&ジェントルメン。
ここに登場いたしますのは龍門から来たスーパースター、そう――このエンペラー様だ。
ボス!?
よう、テキサス。お前の休暇だが、ぼちぼち終わりだぜ。
……どうしてここに?
おいおい、それを聞くか?
お前が行ったあと、ソラたちまで追っかけて行っちまってよ。
この一ヶ月、俺がどんなふうに過ごしたかわかるか?
ありゃあ、ここ三千年で一番つまんねえ毎日だったぜ!
俺とパーティーしてくれる奴が誰一人いねえんだからよ!
……
エンペラー……
そう焦んなっての、ザーロ。
大方、このシラクーザではお前に干渉する権利はないとかなんとかまた言うつもりなんだろ?
正直、そんなんどうだっていいんだが……
よく考えてみりゃ、お前と意味のねえ喧嘩をするよりいい方法があると思ってな。
お前らのルールに則ってお前を叩きのめしたほうが良い憂さ晴らしになるだろ?
だからな――
一つ、また一つとエンペラーの足元から影が広がり、凝縮して、実体を持ち始める。
無論ザーロは彼らを知っていた。それは皆、すでに今回のゲームに敗北した狼主たちだ。
彼らがここに現れる理由はただ一つ。
ザーロがルールを破ったからだ。
彼らはザーロのやり方自体は受け入れても、それだけは決して許さない。
暇してたほかの狼主たちをわざわざ集めてやっといたぜ。
ここで素敵なお知らせなんだが――
親愛なる友よ、お前の負けだ。
それも、完膚なきまでのボロ負けだぜ。
狼の主は不滅の存在だ。しかし、長い歳月を経る中で彼らは互いを牽制し、抑圧し、さらには苦しめる方法までもをとうに見つけ出していた。
自らと同じ存在を多く前にして、ザーロは悟った。自分の行いはもはや意味をなさないということを。
彼はしばらく黙り込み、ついにその高慢な頭を俯けた。
正直言うとよ……
お前が権力を理解してると思い込んでそれをもてあそんでるのを見ると、こっちは全身むずがゆくなってくるんだよ。
それよりも今みたく逆上して、自分に逆らうすべてを引き裂いてやろうとしてるほうが――
お前の本質通りに見えるぜ。
っつーか、お前らほかの狼どもにしても、何千年もこんなくだらねえゲームやってて飽きねえのか?
龍門に来りゃポーカーくらいは教えてやるぜ。
ちなみに俺は麻雀も得意なんだがな。
ザーロがエンペラーの皮肉に構うことはなかった。
彼は最後にレオントゥッツォをじっと見つめ――次第にその姿はぼやけて、風に消えていった。
まるで初めから存在していなかったかのように。
ありがとう、ボス。
礼なんざいらねえよ。
実際、俺が動かなくても誰かが動いてたわけだしな。
彼女は俺にショーの主役を譲ってくれただけなんだ。そうだろ、美人さん。
美人だなんて言ってもらうのは久しぶりね。
よければ、シラクーザでしばらく遊んで行ってもらっても結構よ、紳士さん。
エンペラーと呼んでくれ。
興味深い名前ね。だけど狼主たちと違って、傲慢でも無知でもないし……シラクーザはあなたを歓迎するわ、エンペラー。
ああ。きっとこの国は俺の来訪に大喜びするこったろうな。
ミズ・シチリア……!
ごきげんよう、ベルナルドの息子――レオントゥッツォ。
狼主たちのゲームときたら、つくづく時代遅れのお笑い種ね。
だけど安心していいわ。彼はもうあなたに迷惑をかけたりなんてしないから。
……!
レオントゥッツォは動けない。
老婦人が現れた瞬間、彼は――終わりを悟った。
狼主がもたらした茶番劇だけでなく、彼らの抵抗も含めたすべてがここで終わったのだ。
彼女は穏やかで優しげに見えるが、彼の中には予感があった――下手に動けば次の瞬間、最も悲惨な方法で死ぬことになるという予感が。
しかし、それと同じように、ここで怯めば、これまでの努力と信念が何もかも水の泡になってしまうことも理解できていた。
ラヴィニアのほうを見やれば、彼女の目にも同じ考えがあるのが読み取れた。
……申し訳ない。あなたとの対面はいくつも想定してきたが、このような形でお会いするとは思ってもみなかった。
あなたはすでに何が起きたかをご存知なのかもしれないし、すでに決断を下しているのかもしれないが……
それでも、俺とラヴィニアにチャンスを与えてくださると嬉しい。
チャンスというのは、どういうものを?
対話するチャンスを、です。
俺たちが最終的に死ぬことになるのだとしても、その前に考えを聞いてもらいたいんだ。
……
ふふっ。
アグニルはいつも、もっと若者の考えに触れてほしいと言ってくるけれど……
彼は自分を老人扱いしすぎてると思うのよね。
ついてきなさい、若人たち。あなたたちはもうその機会を勝ち得ているわ。
……すみません、その前に少しだけ待っていただけますか?
どうしたの?
ベルナルドに一目会いたいんです。
構わないわ。
エクシア! テキサスさん!
二人とも、なんともないか!?
へーきへーき!
……ああ。
お前たち、なぜここに?
やっぱり二人のことが心配で……ジョヴァンナさんの容体も安定してきたので、クロワッサンと一緒に駆けつけてきたんです。
せやねんな。けど、こっちはもう一件落着ってとこ?
そんなところだ。
ふぅ……なんか物足りなくはあるけど、これでやっとパーティーができそうじゃない?
そうだな。
どんなパーティーにするかはお前たちで決めておいてくれ。
テキサスさん、どこへ行くんですか?
手洗いに行ってくる。
こっちのほうにトイレはないよ。
わかっている。
一仕事終えて、やっと一息つけそうってところかな?
目の前にまだ大きな面倒ごとが待っているように思うがな。
アハハッ。それじゃ、ちょっと歩こうか?
そうしよう。
そうだ、テキサス。
実は、キミがシラクーザに戻る前、ミズ・シチリアから手紙が来てたんだよね。
そうか。
なんて書いてあったと思う?
興味ない。
ほんとつまんない反応だなあ。正解は、あの人直々に「巨狼の口」にお誘いしてくる内容だよ。
巨狼の口……
まあ、ボクを子飼いの狼にしたいだけだろうね。
だからその手紙は燃やしちゃったんだ。
それで最初は、しばらくシラクーザからのお客さんに手間をかけさせられそうだって思ってたんだけど……
キミが突然シラクーザに帰っちゃうとはね。
もう出て行ったって知った時、ボクがどんなに驚いたと思う?
はぁ……
それで、結論は出たの?
ああ。
私はここに残って、ラヴィニアとレオントゥッツォを手助けする。
お前は?
ボクも考えがまとまったところでね。
自分のファミリーで大きな騒ぎを起こしたと聞いたが。
ただお父様にお別れを言ってきただけだよ。
……テキサス……ボクがキミに何を求めてるのか、本当はわかってないんじゃない?
……時折、わかっていると思う時もあった。
だが、わからないと思う時も同様にある。
何にせよ、前よりも吹っ切れたように見えるな。
あれ? ボクのこと気にしてくれる時もあるんだね。
さてな。私にとってお前は単に少し面倒な奴くらいのものなんだ。
肩を並べて歩いていた二人は、言葉なく通じ合ったかのように、それぞれ広場の両端へと歩いていく。
ここまで色々あったけど、結局ボクらはこうでないとね。
まあな。
ねえ、覚えてる?
七年前、炎に包まれた屋敷の前で、このすべてから逃れるために、キミはボクのほうへと向かってきた。
そしてあの日、ボクは完全に敗北したんだ。
あれから七年……今度は霧雨の降る公園で、シラクーザという国に無謀にも立ち向かうために、キミは再びボクのほうへと向かってくる。
今日ここで、ボクはキミを殺すよ。
その言葉、そっくりそのまま返すとしよう。
それぞれの手にした武器がぶつかり合う音が響く。
二人の動きに派手さはなく、そのどれもが相手の命を奪うためのものだった。
詩的な比喩を用いるなら、キミはボクの過去なんだ。
ボクは、この泥沼からは誰も逃れられないと信じているからね。
かつて過去から逃げたキミは、シラクーザに戻り、その過去との因果をすべて断ち切ろうと決意した。
この泥沼から抜け出す能力と資格があることを皆に証明したんだ。
その上キミは、あの若い狼がこの場所を変えるのを助けるために、自発的にここへ留まることまで選んだ。
私はお前が言うような立派な人間ではない。
初めから、仲の良い友人たちと共にごく普通の暮らしを送るという夢を追っているにすぎないんだ。
誰かがそれを壊そうとするなら、私が守る。
簡単なことだ。
私は……これまでずっと、あなたのことを本当の意味で理解できてはいなかったのね、チェリーニア。
シラクーザに嫌気が差していたことも、クルビアに嫌悪感を抱いていたことも、少しも気付いていなかった。
今にして思えばこれは、おばあちゃんと同じだわ。
実際、おばあちゃんはサルヴァトーレおじいちゃんが振り向いてくれるのをずっと待っていたけれど……
そうしてもらえるようにアプローチすることはしなかった。
私もそれと同じだわ。かつてのような楽しい時間がいつまでも続くものだとばかり、当然のように思い込んでいたんだもの。
こうしてみると、なんて傲慢だったのかしら。
……あなたはきっと私がそばに留まることを何とも思わないでしょうし、私自身またソラとお喋りがしたいけど……
今の私には、そんな資格なんてないわ。
だからせめて『テキサスの死』の第三幕――チェリーニア・テキサスの結末に、ピリオドを打つことだけはさせてちょうだい。
だって、あなたはこんなにも自由なんだもの。
あなたを定義できる人なんて誰もいないわ。
だから、別の言い方を選ぼう。
キミはボクの悪夢なんだ。
いつもボクの予想を超えてくるし――
いつだってボクの一歩先にいる。
キミはボクにできなかった決断をすべて下していった。
そして今、キミのようにその一歩を踏み出して初めて、ボクはついにこの言葉を口にすることができるんだ。
キミの言う通り――
簡単なことだった。
ボクはシラクーザのすべてを憎んでいるんだから、何もかもぶっ壊してやるべきなんだ。
結局、最後にこの一歩を踏み出させたのはやっぱりキミだった。
だから父親に別れを告げ、私の前に現れたのか。
お前は過去との因縁にケリをつけようとしているんだな。
そうさ、キミと同じでね。
……
私たちは殺し合う必要などなかった。
だけどそうなってしまったんだ。
ボクたちはもう理解している。この殺し合いは、相手を殺すことで自分自身との決着をつけるためのものだってことを。
これはお互いへの贈り物で、最高のお別れなのさ。
そうして、生き延びたほうはより強くなるんだ。
ラップランドがテキサスより強くなったわけでもなければ、決してテキサスが弱くなったわけでもない。
七年前の対決でラップランドがテキサスに惨敗した原因は、その力量にはなかった。
二人の実力は、初めから互角だったのだ。
勝負の行方を決めるのは、運を除けば――意志だけだ。
七年前、ラップランドはその意思によって負けた。
だが、ファミリーと決別した今、彼女はその点でもテキサスに劣ることはない。
ゆえに、どちらが勝ってもおかしくない状況にあった。
ッ……
これで終わりだ。
テキサスさん!
……来るな。
テキサスはソラを一瞥し、ゆっくりと目を閉じた。
――ラップランドは、テキサスのことをすでに十分理解したと思っていた。
彼女について知らないことなど、ほかに何があるだろうかというほどに。
そのシラクーザへの嫌悪を目の当たりにし、この国と戦おうと決心した瞬間までもを目撃してきたが……
彼女の選択はいつも、ラップランドの予想を超えるものだった。
けれども、今回ばかりはほかの結末など――
生きるか死ぬか以外の結末など、ありえないと思っていた。
しかしこの瞬間、テキサスの目に名残惜しさを見た時、彼女はまたも気付いたのだ。自分が間違っていたことに。
最後の最後に、ラップランドが自らのために作り上げた結末の渦中にありながら――テキサスはまたしても想像を超えてきた。
……アハッ、なるほどね。
ラップランドはこの殺し合いを、ある種の決別と解放として見なしていた。
負ければ自らの死を受け入れ――
勝てば、これきりあらゆる心配と制約から解き放たれる。
「テキサス」というくさびが心の中から引き抜かれた瞬間、「ラップランド」という狂人が完成するはずだったのだ。
けれども、そうはならなかった。
なぜなら――
結局、キミはただのテキサスだったんだ。
無論、私はただのテキサスだ。
それで、お前は?
どうやら、ボクもただのラップランドだったみたい。
ラップランドがテキサスに手を差し伸べた。
テキサスはその手を取る。
ボクはキミの友達なのかな。それとも、敵なのかな。
お前は私の友でもあり、敵でもある。
じゃあ、行こうか。
ボクに友達らしいことをさせてよ。
テキサスはほかの三人に向かって頷いて見せ、ラップランドと共にグレイホールへと向かった。
本来そうあるべきだったとでも言うように、すべてはとても自然なことだった。
教会に足を踏み入れ、長椅子に静かに座る亡骸を目にして初めて――
ラヴィニアは、ベルナルドの死を現実のものとして受け入れた。
……
自分の人生に影響を与え続けてきた厳格なる父のようでもあり、世話になった叔父のようでもあるその人のそばに座って、彼女はしばらくの間沈黙した。
何一つ言葉を口にすることなく過ごして――
最後に、彼女はベルナルドの力なく垂れ下がった手を握り締めた。彼に何かを伝えるように、そして何かを受け取るように。
そうして、踵を返して去っていった。
彼は逝き、彼女は前へ進むよりほかにないのだ。
あなたがしたことについては、友人から聞いているわ。
そこで、あなたに聞きたいことがあるの。
今日この大地にある多くの国は時代に順応し、変革を求めている。
でも、それを求める理由というのは、足りないところに気付いたからか、あるいは突破口を探しているからよ。
であれば、シラクーザに変化は必要なのかしら?
あなたは……ファミリーの存在を当然のこととお思いなのか?
あって当然のものなんて存在しないけれど、ファミリーの存在は私が生まれる何千年も前からこの地に根差していたのよ。
私たちに歴史を否定することはできないし、すでにそこにあるものを軽率に打ち壊すことだってできないでしょう。
それが、グレイホール設立時、あなたがマフィアの体系を維持することを選んだ理由なのだろう。すべてのファミリーがあなたの支配下に置かれる必要はあるが……
そのことを否定するつもりはない。
むしろ、当時の選択としては正しかったと思っている。
今は正しくない、と?
ああ。
クルビアにいたファミリーの帰還は、先進的な技術と思想をも持ち込んだ。
そうして少しずつ、ファミリーによる統治の形は揺り動かされてはいるが、多くの人間はまだそれを認識していない段階だ。
親父のやり方が極端なものだったことは、俺も認めざるを得ない。
その考えの原点は俺とは違うし、だからこそ、アプローチにも大きな違いが生まれている。
だが、共通する部分もあるんだ。
俺たちはどちらも――
シラクーザにファミリーはもはや必要ないと思っている。
だったら、どうするつもりかしら?
……一番簡単なのは、ここであなたと命を懸けて戦うことだろう。
だが、それは親父がやるような選択だ。
俺は……
あなたから、都市を一つ借りたいと思う。
とても魅力的な提案ね。
確かに、新しい都市には新しい血を注ぐべきだわ。
だけど、今のあなたはたった一人でしょう。
それが実現できるということを、どう信じればいいのかしら?
彼女がそう言い終えた瞬間、グレイホールの扉が開かれた。
あら?
最後のテキサス……チェリーニア。
おいでなさい、よく顔を見せてちょうだい。
……お祖父さんにそっくりね。
……どうも。
どうやら、ジョヴァンナは私があげたネックレスをあなたに渡していたようね。
あなたの望みは何かしら?
龍門に帰りたいというのなら、シラクーザは二度とあなたの生活を邪魔立てしないと約束するわ。
……
ロッサティファミリーを見逃してほしい。
まあ、意外な答えだこと。
ウォラックはジョヴァンナを殺そうとしたし、幾度となくあなたの命を狙っていた。
それでも彼を見逃すというの?
彼らも、自分のやり方で生き延びようとしただけだ。
そう。元々彼らに手を下す気はなかったし、ネックレスはそのままあなたが持っていても構わないわ。
あるいは、シラクーザを永久に去る権利に換えてもいいけれどね。
……
彼女はレオントゥッツォに歩み寄り、ゆっくりと腰を下ろした。
今のところ、その必要はない。もうしばらく休暇を延長するつもりでな。
あなたはどうなの? ラップランド。
サルッツォを裏切った一匹狼さん。
ラップランドは笑って、テキサスに歩み寄る。
アハハッ、ボクの考えはそこまで複雑じゃないよ。
この子たちと同じで、今のシラクーザを壊したいんだ。
一つだけ違うのは、ボクのやり方はそこまで文明的じゃないってことだけどね。
では、ラヴィニア裁判官。私の意志の代理人たるあなたの考えは?
ラヴィニアはレオントゥッツォの後ろへ歩んで、そこに立つ。
あなたの意志はシラクーザのすべてでした。
ですがこれからは、私がそれを変えていきます。
私は間違っていると言いたいの?
人間が常に正しくあり続けるとは限らない、と思うだけです。
ミズ・シチリアは四人の若者を見やった。
一人は、シラクーザで最も強大なファミリーに生まれながら、周囲の影響で文明に憧れを抱き、しかし立場に縛られ何もできずに、自らを欺くことを選んだ。
一人は、平凡な生まれでありながら、偶然にもファミリーの後ろ盾を得て生き延び、しかしそのために自身を疑い、自らを騙し続けることを選んだ。
一人は、シラクーザで最も古いファミリーに生まれながら、自らの身に押しつけられたこの地にまつわるすべてを憎み、狂人の如く抵抗を選んだ。
一人は、クルビアで最も栄えたファミリーに生まれながら、そのあり方に嫌気が差し、声も上げずに逃げることを選んだ。
四人がシラクーザを変えたいと望む理由はそれぞれだが、それでも導き出した結論は同じだった。
私の命は永遠ではないけれど、あと数十年は残っているわ。
このまぶたが閉じられる瞬間まで、シラクーザは私がもたらす安寧を享受することでしょう。
けれど、あなたのほうはどうかしら。
父親の積み上げたものの上に立ち、より効率的で公正なシステムを追求しようとしているあなたは……
自分の選んだ道が正しいものだと思う?
仮に私があなたにシラクーザを明け渡したとして、この国は必ずより良い道を進み、より良い国家になると保証することができる?
……保証はできない。
だが、あなたが今日俺の考えを聞いてくれたように……
俺のやり方を覆そうと考える若者たちが現れた時には。
俺も、そいつらの考えを聞くことにするだろう。
ミズ・シチリアは笑った。
ほーらね、あたしの言った通りでしょ。やり合ってる音なんかしないし、みんな大丈夫だって。
そんなふうにのんきでいられるのはエクシアだけだよ。あの人はこの国のリーダーなんだから……
すまない、心配をかけたな。
大丈夫ですよ。
あれ? ラップランドは……?
あいつなら……
テキサスは視線をどこかへと向けた。
友人としての使命を果たし終えたからな。次会う時には、敵か味方かもわからない。
ただ一つ、確信を持って言えるのは――
あいつはまた、私たちの前に現れるということだけだ。
ん~、考えただけでもめんどくさいなあ。
今はほっとこう。それよりも、ジョヴァンナさんの様子を見に行かないと。
そうだな。
ジョヴァンナさん、今戻りました!
部屋には誰もいなかった。
ソラの喜びが困惑に変わっていく。
しかし彼女はすぐ、テーブルの上にきれいに積まれた紙の束に気が付いた。
それは一冊の台本だった。
ソラが1ページ目をめくってみると、そこにはこう書かれていた。
我が親愛なる旧友、チェリーニアに――
そして新たな友人、ペンギン急便の皆に捧ぐ。
これって……『テキサスの死』の第三幕? ずっと結末が思い浮かばなかったっていう……
この台本だけ残して行ってしまうなんて……
あなたが立ち去る必要なんて、ないじゃないですか……