紅炎遣らう落葉 CF-9・戦闘前
決戦!燃える狩猟魂!
彼は膝をつく。右手は変わらず、地に刺した矛を強く握っていた。
体は傷だらけだが、彼は痛みを少しも感じなかった。あるいは痛みがそこら中から伝わってくるせいで、衰えた神経がそれを処理しきれなくなったのかもしれない。
出血はないが、汗は一瞬にして熱で蒸発し、肌は痛覚を失うほどに焼かれ、黒いかさぶただけが残っている。
喉の深くから痛みと共に、甘い生臭さが伝わってきた。突然、胃が激しく収縮して、何かが押し上げられてくる。
ぐっ――おえっ――
っ……はっ。畜生め、虫酸が走る……
轟く咆哮のせいで、耳鳴りが止まない。彼はそれでも、汚れた泥の中から己の意識を取り戻した。
顔を上げ、彼は再び立ち上がろうとしているその巨大な怪物を見つめる。
彼らは互いに見つめ合っていた。
ああ……お前か。
そうだ、思い出した……
数分前の記憶が蘇る。彼は炎が吹き出された瞬間――僅かに生じた隙を捉えて、矛先をリオレウスの頭に放つ。
しかしその代償として、次の攻撃は避けきれない。
はっ……はははは!
血を――流させてやったぞ!
どうだ、この俺に傷を負わされた感想は!?
こっちはとっくに気付いてたのさ……頭の鱗は脆いってことにな。見ろ、俺の目は誤魔化せんぞ!
お前だって無敵じゃない。怪我をするし、倒れもするんだ!
チッ……待ちやがれ!
どこに行くつもりだ!
今始まったばかりだろうが! 逃げるんじゃない!
俺はまだ戦える! 決着はついてないんだぞ!
彼は矛で体を支えようとしたが、膝をまっすぐに伸ばすことすらできなかった。
矛はより深く地面に突き刺さり、その影は震えている。
絶対に……お前を逃がしやしない……!
何せ血を流させることができたんだ。次は……
この矛先を、心臓に突き立ててやる!
――これが最後のひと時だからだろうか。矛を高く掲げると、衰えた身体からとてつもない力が湧いてきた。
彼は走り出す。もう一度、あの仰ぎ見ることしかできない生命へと突撃する。
うおおおおおおッ!
ぐ、ごほっ……!
俺は……生きてるぞ……
かかって、きやがれ……!
爪が手のひらに食い込むほどに、彼の右手はなおも強く矛を握る。
彼は必死に己の足を叩くが、筋肉はそれに応えることなく、震えるばかりだった。
身体に残った最後の力までもが、消え去ってしまったのだ。
矛が手から滑り落ちる。
立て! 立つんだよ!
……クソッ……!
立ち上がれ……!
彼は目を見開く。
その目は、見た。
幼子が弓を高く掲げて、リオレウスを狙う様を。
その細腕は震えていたが、視線は揺らぐことなく真っすぐに怪物と向き合っていた。
か、怪物め! おじいちゃんに近付くな!
ぼくは……ぼくは和也だ! この村の、狩人なんだぞ!
これ以上お前に村を壊させたりしない! 僕らが止めてやる!
ノイルホーン!
おう、待たせたな!
安心しろ、和也は無事だ!
学者先生、爺さんと和也を安全な場所まで送ってやってくれ!
わかりましたニャ!
荷車に乗せるニャ!
リオレウスが……部位破壊されてるニャ……? テラのハンターさんがやったのですかニャ? あの矛だけで……?
あんなに身体が軽いのに……そんな力がどこから湧いてくるんですかニャ?
……お兄さん……
偉いぞ和也、もう立派な狩人だな。だけど、今日のところは俺たちに任せといてくれよ。
火焔が煌々と輝く。
その時、傷だらけのもう一人の姿が、リオレウスの前に現れた。
彼女は腰をかがめると手を伸ばし……地面に落ちていた矛を拾い上げる。
そしてその矛を、強く地面へと突き刺した。
天に向かって、真っすぐに。
柏生さん。時間を稼いでくれてありがとう。
今はゆっくり休んでいてくれ。
この先は……
……私たちに任せろ。
準備万端だぜ!
決着をつけようぞニャ!