孤星CW-5・戦闘前開く活路
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名前

孤星 CW-5・戦闘前

開く活路

サリア

やはり繋がらないか……

イフリータ

サリア、誰に電話してんだ?

サリア

ブリキだ。

イフリータ

ブリキって、あの金属頭のおっさんだよな? アイツに何かあったのか?

サリア

残念ながら、そのようだ。でなければマイレンダーが我々の追跡に加わるはずがない。

軍とマイレンダーが合意に達したと考えるべきだろうが……我々に矛先が向けられたのはなぜだ? ブリキの身に一体何が起きた?

イフリータ

サリアから教わった通りの方法で周りを偵察してきたけど、兵士はみんな撤退してたぜ。オレサマたちを囲んでたエージェントも。

サリア

単にサイレンスがしんがりを務めただけであれば、追手が消えることはないだろう。

彼女が――相手を満足させるだけのものを差し出さない限りは。

イフリータ

もしかして、あの銀色の液体か? さっきサイレンスといた時に見たんだ!

サリア

……伝達物質か?

サイレンスは359号基地でドロシーと接触している。となればその伝達物質は間違いなく、そこで入手したものだろう。ドロシーがサイレンスに何かさせようとしているのか……?

いいや、まだ軍に拘束されているドロシーが、サイレンスを通じて軍やフェルディナンドと接触することはないだろう。

であれば、パルヴィスか、あるいは……

イフリータ

サリア……

サリア

慌てるな、イフリータ。

サイレンスはきっと無事だ。

イフリータ

そうじゃなくて、通信機を握り潰しそうになってるぞ。

サリア

……そうか。教えてくれてありがとう。

イフリータ

うん。オレサマは慌てたりしないぜ。サイレンスは、無謀なことなんかしねーしさ。

サリアと話した上で残ったんだから、きっとたくさん考えて決断したんだよ。

サリア

……

彼女はこれから自分が直面するだろうものを理解していない。国家機関の在り方は、彼女の想像よりはるかに残酷なんだ。

イフリータ

どうして理解してないなんて思うんだ? サイレンスも全部考えた上でこうしたんだと思うぜ。

だってすっげー頑張ってるもん。サイレンスのとこに行くといっつも仕事してるし、周りからは「見えない何かに追われてるみたいに一生懸命だよね」って言われてるくらいでさ。

もしかしたら、次に合流する頃には、サイレンスが全部きれいに解決してくれてるかもしれねーぞ!

そうなったら、こう言ってやるんだ。オレサマを置いてったのは正直ちょっとムカついたけど、サイレンスならきっとできると思ってたってな!

その時、サリアはイフリータの手がかすかに震えているのを見た。彼女は思わず、何か元気づけるような言葉をかけようとして――

何一つ、言葉が出てこないことに気付いた。

イフリータは自分を慰めようとあれこれ話しているが、彼女が語るサイレンスについて、自分は何も知らないということを、サリアはその瞬間認識したのだ。

実のところ、サイレンスはすでに十分な心構えがあって、自分が何に直面することになるのかを理解しているのかもしれない……

だが彼女は、そんなふうに考えたことなどなかった。

イフリータ

サリア、見てくれ。向こうのほう。

サリア

ん?

軍の手勢が撤退している……だが、行き先は駐屯地の方角ではないようだな……

まさか、伝達物質は本当にクリステンを見つける手がかりになるのか……?

イフリータ

なあ、こっそりついてってみようぜ。

サリア

……サイレンスは、お前がまた危険にさらされることを望まない。

イフリータ

でも、さっき一緒に行動してもいいって言ってくれたんだぜ!

それに、「サリアは目を覚ましたら、またここに戻ってくる」「サリアはそういう人だから」とも言ってたしさ。

サリア

だが、これは……

イフリータ

「理性的なやり方とは言えない」だろ? サリアがそう言いたがることくらいわかってるって。

だけどオレサマたちは危険を冒しに行くわけでも、サイレンスの勇気を無駄にするわけでもなくて、ただゴールで一緒にサイレンスを待つだけだからさ。

サリア

イフリータ……

サリアはふと、数年前に実験室から救い出した時よりもイフリータの身長がずっと大きくなったことに気が付いた。

訪れようとしている危険を前にしても、イフリータの目に映るのは焦りや無謀さではなく、勇気と賢さだった。

サリア

わかった、行こう。

イフリータ

よっしゃ!

そうだ、サリア。オレサマ、トリマウンツに来た時に、星が落ちてくるのを見たんだ。

サリア

星? 十三区の工場に落ちたアレのことか……

イフリータ

だから星だって!

サイレンスが教えてくれたお話では、星が落ちた瞬間にすべての隔たりが埋められる、って言われてるんだよ。

それなら、サリアとサイレンスも……きっと仲直りできるよな?

サリア

……ああ。

イフリータ

よかった!

そんなことは本当にできるのだろうか?

サリアは振り返り、慣れ親しんだトリマウンツの街路を見た。

そして突然、これから踏み出そうとしている道がどこか見知らぬ場所のように感じた。

彼女は無数の試練を経験してきたし、目の前の状況は決して最悪というほどのものではない。

だが、彼女は初めて、どうしたらいいかわからないと感じたのだ。


行く当てのない市民

ひっでえ天気だ、寒すぎるぜ!

フェルディナンド

気を付けたまえ、車が来ているよ。

行く当てのない市民

おっと危ねえ! 寒さのせいでぼーっとしてたよ、ありがとな!

なあ兄さん、信じられるか? この天気は向かいにあるあのテクノロジー企業のせいなんだぜ。

あいつらはドローンで空から薬をまいてるんだ。そのせいで俺たちは呼吸するたびに肺が凍らされちまうのさ。

連中は俺らをさらって、取り出した脳みそを水槽に浸して人工太陽の養分にするつもりなんだ!

フェルディナンド

……

行く当てのない市民

それにさ、空を見てみろよ!

フェルディナンド

何があるっていうんだい?

行く当てのない市民

あそこにある星は全部、本当は星じゃなくて、化け物が設置した監視カメラなんだ。連中は我らが大統領を誘拐して、その皮をかぶってクルビア中を支配してるのさ!

フェルディナンド

……君にこのお金をあげよう。これで暖かい場所でも見つけて眠るといい。

行く当てのない市民

いやいや、俺は金に困ってるわけじゃなく、夜明けを待ってるだけなんだ。

ここだけの話、副大統領とテクノロジー企業の連中を相手に大規模な抗議をしてやろうと思ってんだ。それで、みんなの目を覚まさせてやらねえと。

フェルディナンド

いいから、これも受け取りなさい。私の手持ちのお金は全部、君にあげよう。

行く当てのない市民

えっ!? 待てよ、あんた……


フェルディナンド

……やはりここにいたのか。

パルヴィス

おはよう、フェルディナンド。

この黒豆茶を飲み終わる頃には夜が明けるし、私も仕事へ向かわなければね。

フェルディナンド

とぼけるのはやめてくれ。パルヴィス、君はいつからクリステンと手を組んでいたんだ?

パルヴィス

ん?

フェルディナンド

君もヤラも、ジャスティンJr.もナスティもだ。クリステンはもはやお飾りで、成功まではあと一歩だと私に思い込ませたわけだ。

結局私は、初めからただの道化だった。それだけでなく、私が心血を注いできたものはすべて、彼女がさらに高みへと昇る踏み台にされてしまった!

パルヴィス

それより、熱いお茶でもどうだい?

フェルディナンド

この……

パルヴィス

腹黒ジジイめ、かな?

先に言っておくが、私はクリステンの居場所など知らないよ。彼女は私をそこまで信頼していないし、私も彼女の秘密にそこまでの興味はないからね。

だが、君も私を問いただすために来たわけじゃないんだろう。でなければヤラにそうしたように、あの血気盛んな大佐から借りた武装兵力を連れてきたことだろうから。

フェルディナンド

……

パルヴィス

しかし、開拓者に与えられた屈辱に耐え、その上自分を見捨てた大佐にへりくだるなんて実に君らしくもないことだ。

そこまでの決心をしておきながら、なぜ真相が明らかになろうという時に諦めようとしているんだい?

フェルディナンド

勝手な臆測はよしてくれ。

パルヴィス

自分の心に向き合うべきかもしれないぞ、フェルディナンド。

君は彼女に嫉妬しているんだよ。

その場にいなくてもこれだけ多くの人の注目を集め、彼らを奮闘させることができる彼女にね。

君が人の心をつかむのには多大な時間と労力を費やさなければならないのに、彼女はそれをほんの一言で成し遂げてしまう。

だから君は、彼女の人格的魅力に嫉妬しているのさ。

もしかすると、君の中にもまだクリステンに惹かれてしまう部分があるのではないかな? けれどそれを認めたくないと思うほどに、彼女が憎らしくなっている、と――

フェルディナンド

なぜ私にそんなことを言うんだ?

パルヴィス

これは私自身の気持ちでもあるからだよ。

フェルディナンド

……

パルヴィス

ほら、外を見てくれ。

子供の頃、私は毎晩こうして空を見上げていたが……その時は星なんて見えなかった。

見えるのは巨大な高塔のシルエットだけで、塔の頂には消えることなく空に輝くまばゆい巫術の光があった。

大人たちは、あれこそが巫王の目だと語ってくれてね。彼の意志がリターニアの土地を覆っていたんだという。

その時私は思ったんだ。巫王こそが運命に選ばれた唯一の奇跡であるのなら、私たちの命にどんな意味があるのだろうと。

フェルディナンド

だが、巫王の魂を呼び戻すために時間を浪費する愚昧な術師たちを君はずっとさげすんでいただろう?

パルヴィス

ああ。私は彼らの行いには反対だ。

かの流星の如き奇跡が再びこの時代に訪れるよう、祈りを捧げることだけに、私の一族とかつての同僚たちは人生を浪費していたからね。

しかし、長い研究の中で私は理解したのさ。奇跡が奇跡たるゆえんはそれが操作も再現も不可能な偶然だということにあるのだと。

そしてこうした偶然だけが、我々一人一人の頭上を覆う運命という名の檻を打ち破ることができるんだ。

フェルディナンド

クリステンの事業はまさにその「偶然」を生むものだと?

パルヴィス

彼女は奇跡を創造する可能性を持っているんだ。

フェルディナンド

君には君の夢があり、私にも私の夢がある。けれど仮に、彼女こそがその定められた奇跡だとしたら、我々は何なのだろうか? 生産ライン上の廃材か、意味をなさない騒音か?

パルヴィス

どれも違うだろう。自暴自棄になる必要がどこにある?

確かに、人類の命運というのは超越者たる一個体の身に左右されるものかもしれない。彼女はあらゆる束縛を破り、すべての人に代わる目として、我々には想像もつかないような景色を見るのだろう。

だがそれは、我々の命が無意味に終わる運命にあるということではない。

なぜなら、奇跡とは進化の旅の中で生まれるものであり、君や私、さらには外にいるあの無知蒙昧な浮浪者まで含めて、我々の夢こそがこの旅を築き上げるものだからだ。

フェルディナンド

……なぜ私にそんなことを?

パルヴィス

はは、少しは元気が出たかい? それならまずは一口お茶を飲みなさい、顔色もきっと良くなるよ。そんなに狼狽しているところを、これから出社してくる子たちに見られたらどうするんだ?

フェルディナンド

……

今の私にはほとんど何も残されていないんだ。君が気にかける価値のあるものも多くない。

パルヴィス

そう焦らなくていい。飲み終えてからまた仕事の話をしよう。

私も古い友人ともっとおしゃべりがしたいんだ。何しろ……初めは共にこの道を選び、足を踏み入れたのだから。


行く当てのない市民

おお、あの親切な兄さんじゃねえか! また会ったな!

フェルディナンド

……その拡声器とペーパーボードは?

私が渡したお金で、食べ物や布団ではなく……こんなものを買ったのか?

行く当てのない市民

まあそう言うなって。一時的な満足よりも、こういうちゃんとした活動のほうが大事なことだろ?

フェルディナンド

ボードを貸しなさい。

正しいつづりは「ライン生命」だ。抗議活動をするのであれば、まず会社の名前くらいは正しく書くように。

行く当てのない市民

ははっ、確かにそうだな! お陰で随分マシになったぜ、ありがとうよ兄さん!

フェルディナンド

……聞かせてくれないか。

君が夢見たもののことを。君の「活動」を通して勝ち取ろうとしているのは、一体どんな……未来なのかということを。


ミュルジス

どう? あたしの生態研究園、いい感じでしょ?

簡単には侵入されないし、それに……ロスモンティスも気に入ったみたいよ。

ロスモンティスは緑豊かなラボの中で静かに立っている。

彼女は植物の様子を一つ一つ真剣に観察し、ノートに目を落としてはその形を事細かに記録していた。

そうして、彼女の視線は再びノートの最終ページで止まった。

あなたは、そこにあの薄い手紙が挟まれていることを知っている。

ドクター

ロスモンティス、まだあの手紙を読んでいるのか?

ロスモンティス

うん。

忘れないうちに、今日のことも全部書き留めて、端末に保存しておきたいんだ。

ローキャン……ローキャン・ウィリアムズ……

あの人の言ってた「家」って、どんな場所なんだろう? ロドスみたいなところかな?

ドクター

ロスモンティス

だったら、あの人は私の家族じゃないはずだよね。

私、あの人のこと嫌い。あの人を通じて、すごく嫌な感覚にたくさん触れてしまったから。

こんな感覚、頑張って全部丸めて、触れない場所に押し込んじゃいたい。アーミヤが出発前に整理してくれたのに、今はまた湧いてきてるの。

ドクター

どんな感覚なんだ?

ロスモンティス

……失う感じ。

それと……壊れる感じ。

こんなの壊しちゃいたいけど、それは間違ってるから、Pithにすごく怒られちゃいそう……

ドクター、もうローキャンに会わないほうがいいと思う?

ドクター

君は自分の過去を取り戻したいと思うか?

ロスモンティス

記憶はとても大切なものだから、嫌なことは覚えておきたくない。

でも、自分の目でもう一度確かめたいの。私自身がどうするかを知りたいから。

記憶を取り戻すとは限らないし……もう一度捨てることになるかもしれないから。

どちらにせよ、ちゃんとさよならをするよ。

ドクター

ドクター

だがその前に、少し休もう。

ロスモンティス

うん……

ドクター

ドクター

おやすみ。

ロスモンティス

うん……ドクター……

フェリーンの少女はあなたが貸してくれたその服を抱きしめると、あなたのそばへゆっくりと横たわった。

眠る彼女の呼吸は起きていた時と同様、弱々しくも強い。

ミュルジス

本当に疲れてたみたいね。

ドクター

ミュルジス

あなたのほうは大丈夫? ドクター。

ドクター

ロスモンティスが寝ているから、場所を変えて話そう。


ミュルジス

……眉間にすっごいシワが寄ってるわよ。

ドクター

ミュルジス

……

あなたたちをライン生命に連れてきたのはあたしだから、あなたたちは正当な理由のもと、正式な手続きを経て本社ビルに入る権限を持っていて、副大統領暗殺とは無関係だと証明できるわよ。

軍が本気であなたたちに手出しすることはできないわ。安心して、ドクター。

ミュルジス

ホルハイヤは無関係な人に火をつけるのが本当に得意なのよ……つくづく狂ってるわよね。

でも、いわゆる「殺人現場」には本当の目撃者なんていなかった。

マイレンダー基金が、上級エージェントの首をはねたところで何の得もしないフードの誰かさんが犯人だと信じるか、あるいはこれが誰かの自作自演だと考えるかは何とも言えないところね。

ミュルジス

トリトンの工場は爆発するわ、副大統領の暗殺未遂が起きるわ、クリステンは失踪するわ……トリマウンツはめちゃくちゃな状況よ。

こんな言い方するのは無責任かもしれないけど、軍にしろ、マイレンダー基金にしろ、今はロドスに構ってられないはずだし、あなたたちは渦の中心にまで巻き込まれたわけじゃないわ。

まあ、そんなに緊張しないで。

ドクター

......

ミュルジス

だけどいずれにせよ、あなたが今置かれている状況にはあたしも関係しているし、協力関係もまだ続いてるわ。あなたはあたしを助けてくれたし、あたしもできるだけあなたを助けてあげる。

お望みとあれば、今すぐあなたとロスモンティス、それからイフをトリマウンツから逃がせるように手配するわよ。

ドクター

ドクター

ドクター

君という協力相手が何を考えているかわからない。

ミュルジス

ねえドクター、踊りましょ。

ドクター

......

ミュルジス

あたし、そうやって問い詰められるのは苦手なの。

ミュルジスは後ろ手を組んでゆっくりあなたと距離を取った。そうしてこちらを振り返るその表情は、珍しく厳粛なものだ。

音楽はすでにかかっていた。

それはゆったりとした伸びやかな曲だ。あなたは、すぐそばで水が葉脈から染み出し、徐々に凝縮して一滴の透き通る露になる様子をはっきり見て取った。

やがてさらに多くの水滴が現れたと思うと葉を離れ、あなたとミュルジスに追いついて、変化するメロディーに合わせて移動する。一滴一滴の表面に宿るリズムは、呼吸するように軽やかだ。

――それはまさに、メロディーそのものだった。

ミュルジス

さあ、水を感じて。あの子たちが、ステップを導いてくれるから。

ドクター

ミュルジス

あら、鋭いわね。

この研究園の照明と水の循環構造、そして空気清浄システムはどれも源石科学技術に依存してないの。つまり、ここはトリマウンツで一番きれいな場所なのよ。

この場所こそが、トリマウンツでのあたしの拠り所。ここにいられる時だけは、少し気持ちが楽になるの。

実はね、ほとんどの場合、あたしが分身で行動するのはそれが好きだからじゃないの。

そうするしかないからなのよ。

突然、あなたの手が空を切り、ミュルジスが視界から消えた。

水滴は水のリボンとなってあなたを優しく引っ張ると、生態研究園の一角へと連れて行った。


自動音声

ペールシダーは極めて限られた環境でしか育たない植物です。そのため源石工業の発展による土壌汚染が原因で、現在はクルビアの一部山岳地帯にわずかに分布するのみとなりました。

水滴が飛び散って砕けていき、ペールシダーの木々とあなたの間には霧が立ち込める。

うっすらと見えているのは……墓石だろうか? そのそばに静かに座り、黙って周りの雑草を取り除いているミュルジスの姿もある。

あんなにも悲しげな彼女を見るのは初めてだ。

あれは、過去の投影だろうか?


ミュルジス

あたしは、トリマウンツの付属区画のトレントンという町にある孤児院で育ったの。

院長の話では、ある夜孤児院の玄関に捨てられていて、両親が誰かはわからなかったそうよ。

だけど小さい頃から、自分は周りと違うと感じてた。

あたしの術はとても特殊で、アーツではないものだったし、あたしの身体は普通の人より十倍も源石に敏感で、源石濃度が少しでも高い環境では、身体に負担がかかってしまうの。

自分が一体何者かを知りたくても、誰もそれを知らなかった。

だからあたしは小さい頃から答えを探し続けたの。こう言うのも変な話だけど、あたしの成績がずっと良かった理由はそれよ。

そうしていくうち、ついにあたしは、古い本の片隅にその馴染みない言葉を見つけた……

ドクター

「エルフ」か。

ミュルジス

知っているのね……やっぱりあなたも秘密をたくさん抱えてるみたいね。

ドクター

......

ミュルジス

まあ、今はそんなのどうだっていいわ。

とにかく、あたしは調べを進めていって、実の両親がトリマウンツで住んでいた家も見つけたの。とはいえ、そこの主人はとっくに違う人になってたんだけどね。

諦めきれなくて、両親が残したわずかな手がかりをもとに探し続けて……苦労の末に、二人の居場所を突き止めることができたわ。

それが、目の前に広がってる山村よ……正直、あまりに辺ぴな場所だから何かの間違いだと思ったわ。村の建物もほとんどはひどく壊れてたし、数百年前のものかと思っちゃうくらい古くって……

誰一人、そこにはいなかった。そうして村の裏山に向かった時、かすかな予感がしたの。

その裏山にはペールシダーの木々に囲まれた粗末な墓地があって、そこに何十もの墓石がひっそりと建っているだけだった。

この村は、エルフの集落じゃなくて、エルフの墓場だったのよ。

墓石のそばにいたミュルジスが立ち上がり、あなたを見上げたかと思うと、ペールシダーの前に漂う霧と共に消えていく。

気付けば、あなたのダンスパートナーはそばに戻ってきていた。

ドクター


ミュルジス

現代文明から離れるなんてこと、口で言うほど簡単じゃないのよ?

もっと便利で先進的で彩り豊かな生活が存在するのに、自分は一生奥深い山の中でしか生きられないと言われているのと同じだもの。

長命のエルフにとって、それは受け入れがたいことだわ。

そのせいで心を病んで亡くなった人もいれば、自ら命を絶つことを選んだ人もいたの。

だけど結局、ほとんどのエルフはこの社会に溶け込むことを選んだ……あたしの両親もそういう人だったのよ。

エルフは源石との接触を避けながら、必死に文明の中で生きる方法を探して、慎重でありながらも勇気を持って生きていた。

いつか源石のせいで死ぬことになるとわかっていて、その結果を受け入れたのよ。

ミュルジス

二人は「鉱石病」にかかったの。

エルフは異常なくらい源石に敏感で、耐性も極めて低いから、一度鉱石病に感染したら、きっと一ヶ月も持たないわ。

両親はほとんどのエルフがそうだったように、奥深い山で一生を生きることを受け入れられなかったの。だからより便利で先進的で彩り豊かで、同時に危険に満ちた生活を切望した……

いつか源石のせいで死ぬことになるとわかっていて、その結果を受け入れたのよ。

残された時間は少ないと悟った二人は、やむなくあたしを都市から遠く離れた村に置いていき、かつての集落に戻って死を待ったというわけ。

ドクター

ミュルジス

……

もうちょっと踊りましょ、ドクター。

生態研究園内ではさらに水滴が舞い上がり、音楽は新たな章を迎えていた。

気付けば再び、ミュルジスの顔には笑みが戻っている。転調したメロディーで今の話題が続くかどうかあなたにはわからなくなった。

ミュルジス

ロドスにはいつもたくさんの人がいるから、時々本気で羨ましくなるのよね。

ドクター

君はロドスに来たことがあるな。

ミュルジス

あら、バレちゃった?

イフが元気にやってるかを知りたかったし、サリアがどうしてるか気になったから、こっそり船に忍び込んだことがあるの。でもたったの一、二回だけよ?

そういえばその時は……夕日が沈みかける時間で、デッキの上にぼんやり立ってる人も見かけた気がするわ。

ドクター

君が近くまで来ていたなんて気付かなかった。

ミュルジス

ほかの人には秘密でお願いね。とっても小さな分身が近くまで寄っただけで、脅威にはならないから。

それよりも、あの時気になったのよね。船の中にいたほうが楽しいでしょうに、どうしてデッキで一人、考え事なんかしてるのかなって。

ドクター

ミュルジス

じゃあ、誰かさんとの思い出は見つかった?

ドクター

ミュルジス

ふーん……あなたみたいにミステリアスで博学な人にも、見つからない答えがあるものなのね。なんだか……少し公平に思えたかも。

彼女はあなたをリードしながら、再び軽やかにターンした。

ドクター

君はダンスが上手だな。

ミュルジス

そうでしょ? 大学時代はダンスサークルの中心だったし、ずっとダンスを勉強してたから。

山村を離れたあと、あたしはすべての時間をそういう「勉強」に費やしてきたの。

クルビアの子供なら誰でも知ってることだけど、自分の暮らしを変えたいのなら、科学の道に身を投じるのが最善の選択なのよ。

だからあたしは必死に学んだ。クラスで、学年で、そしてトリマウンツの大学で、ずっと一番を取り続けたの。

学業以外にも「現代的な生活」に溶け込むために相当の時間を費やしたわ。ファッションにゲーム、文学、音楽、ダンス、それから社交マナーも身につけて、たくさんの人と知り合って……

ほかの人からすれば、ただの興味でやることなんだろうけど、あたしにとっては一種の任務で、探求で、自分への試練よ。

こんなこと言うのは変だってわかってるけど――あたしが自分に求めているのは、「精一杯生きる」ことなのよ。

……

まあ。そうは言っても最後に踊ったのは……もうずっと昔のことだけどね。

ドクター

ダンスの相手はサリアとクリステンか?

水滴があなたの周りをくるりと回る。研究園に差す光は水滴を突き抜けることはなく、過去の断片が詰め込まれたそれは、柔らかく鮮やかで、それでいて触れることはできなかった。

そこに映る記憶の中、新しく改装されたばかりのラボに、ほとんど空になった酒瓶と……サリアの姿がある。そばにいるのはクリステンだろうか? そして興ざめした顔のミュルジスもいて……

三人は部屋の中央で、きょとんとした表情で顔を見合わせていた。

ミュルジス

これはライン生命設立当時の新年の夜よ……みんな喜んでたけど、中でも一番嬉しかったのはあたしだったと思うわ。

あたしは、大学を卒業する少し前に二人と知り合ったの。クリステンは普通の出資者なら絶対にパートナーにしたがらないような人でね。

一目見れば、良い意味でも悪い意味でも驚きをもたらしてくるタイプだってわかると思うわ。一方で、あたしがサリアに抱いた一番の印象は「頼もしい人だ」ってことだった。

あたしたちが出会ったきっかけは、二人が主導してるプロジェクトにあたしの先生が偶然関わることになったからでね。先生はあんまり興味を持たなかったから代わりにあたしを送り込んだわけ。

当時は、精一杯生きようって意地以外何もなくて、手あたり次第あれこれ試してたけど方向性すらない頃だった。私は二人のおかげで「卒業生」と「エルフ」という二つの混迷期を乗り切ったの。

あの頃のライン生命には、クリステン、サリア、あたし、それにパルヴィスとフェルディナンドの五人しかいなくてね。

パルヴィスは夜更かしができないからとか言い訳してさっさと上の階に引き上げちゃうし、フェルディナンドは用事があるとか言って早いうちに帰っていっちゃうし……

お陰であたしと踊ってくれる人なんて全然残らなかったのよ。信じられる?

だから結局サリアと……クリステンを引っ張ってくるしかなくなったのよね。

ふふっ、だけど三人でのダンスなんて誰にも踊れなくて。今でもあの時の二人の表情はよく覚えてるわ!

ドクター

ミュルジス

んー……夢だから。

あたしたち、約束したの。彼女はナスティが旅立つ手伝いをして、それからあたしの夢も一緒に連れて行ってくれるって。

ミュルジス

……正確にいうと、サリアとクリステンの二人が大切なのよ。

あたしはずっと信じてるわ。あの二人が力を合わせてこそ、本当に行きたい場所に到達できるんだって。

流れていた曲が終わる。がらんとした研究園で、ミュルジスはあなたの正面に立っており、その静けさはペールシダーを思わせた。

換気システムの作動音が聞こえる。

風が顔に当たり、異常な湿り気を感じた。植物の清々しい香りに柔らかな土……たった今まで踊っていた水滴も、あの曲も、あのダンスも本当に存在していたことを現実感を伴って理解した。

ミュルジス

あなたは、あたしが揺れていることに気付いてくれた。あたしは、あなたも含めて可能な限りあらゆる人を利用しているけれど……

あたしの行動のすべては、あたし自身が、そして生き残った少数の同類が、自由に呼吸し、風に当たり、駆け回り、旅をするため――

そこまで苦しい思いをせずに、生きていけるようにするためのものなの。

あたしはただ、数少ない友達を引き留めるために、あたしがこの都市であまり……

……

あたしに言えるのはこれだけ。これ以上約束できることはないわ。

ドクター

ドクター

ミュルジス

それって……

ドクター

ミュルジス、もう一つ力を貸してくれ。

ミュルジス

……?

ドクター

ローキャン・ウィリアムズを見つけなければならないんだ。

ミュルジス

……

仮に……あたしが本当にそれを叶えられるとして、どうしてあなたとロスモンティスを無事にトリマウンツから逃がしてくれとは言わないの?

ドクター

ミュルジス

サリアとケルシー医師にはこの問題に関わる理由があるでしょう。でもあなたはどうなの? 軍とマイレンダーを相手に二つの勢力と同時に戦う危険を冒してまで、調査を続けるつもり?

そんなの、理性的な選択とは言えないわよ。

ドクター

ミュルジス

あの子はぐっすり眠ってるけど……

彼女が失われた過去を取り戻すのを手伝ってあげたいってこと?

ミュルジス

そんなに、クリステンの夢に興味があるの?

ミュルジス

トリマウンツにも、あなたの過去の手がかりがあると考えてるの?

ドクター

......

ミュルジス

……いいわ。

協力関係は継続よ、ドクター。


ナスティ

……

???

どなたとお電話されていたんですか?

ナスティ

仲間を見つけたいと切望する孤独な人間だ。

???

おや、いつからそこまで親密に?

ナスティ

あくまで一時的な同行者というだけの間柄だ。

君もな。いつになったら私のラボを去るつもりなんだ? 君の身体から漂うアルコールの臭いが設備の精度に影響を与えてしまうのだが。

???

やれやれ、冷たいお人ですねえ。これも、あなたとあの女スパイさんの「臨時計画」のためなんですが。

あなたが監獄に放り込まれないように、私は今晩あと十数回は電話会議をしないとならないんですよ。アルコールを頼りたくなるのも仕方がないでしょう?

ナスティ

君も相応の対価を得ているだろう。クリステンが約束した金額は、君のようなビジネスマンを満足させるだけのものであるはずだ。

???

面白い冗談ですね。もしかして、このトチ狂った計画のために私がどれだけ損失を被ったか思い出させてくださっているんですか?

ナスティ

……だったら、早々にカジミエーシュへ向かうべきだったな。

???

商業連合会に入って、騎士や投機家たちの運命をもてあそんでいたほうが良かったと?

確かに、その手の計画は端末の中で何年も寝かせてありますよ。それなら今より安全にもっとたくさん稼ぐこともできるでしょうし。

ですが、そうした壮大な計画すらも、あくまで……一つの国家、一つの時代に関わるものでしかありませんから。

それなら私は目の前のチャンスを掴んで、あらゆる人の想像を超える未来がこの手の平から空高く飛び立つところを見届けたいのですよ。

ナスティ

極度のリアリストでも夢を見るのか?

???

夢を見る権利は誰にでもあるものです。特に……最高に予測不能な運命に向き合っている時にはね。

しかし、先ほどの言葉は的を射ていましたね。一時的な同行者……ですか。

あの科学者たちもそうでしょうか。あれほどたくさん争いあって、友から敵へ、あるいは敵から友へ変わっても、結局は同じ道を歩んでいるように見えますからね。

ナスティ

彼らは皆、あの最も非現実的な未来の中に己の一部を見たんだ。

???

では、あなたは?

ナスティ

愚問だな。君がこれほど長くここにいることを我慢できるのはなぜだと思う?

???

ハハハッ。だから私は、「同行者」という呼び名が気に入ったんですよ。たとえそれが一時的なものだとしても、ね。

ジャスティンJr.

さてと、ミス・ナスティ・ルノレイ。

仮に明日が過ぎたあと、我々が軍に殺されることも、エージェントに投獄されることもなく済むようなら――

差し支えなければ、トリマウンツで一番高い場所までご一緒して、この土地を覆う永久不変の空でもじっくり眺めてみませんか?