火山と雲と夢色の旅路 SL-2・戦闘後
リトル・ボーイ・ブルー
今日はどこで遊ぶ? 温泉のお店で泳ぐのは禁止されちゃったし……何人か呼んでコンテナ区画でかくれんぼするのはどうだ?
けど、エニスはビーチに行っちゃダメって言ってたじゃん。あたしはまたヴォルケーノミュージアムに行きたいな、この前はパパが見つからなかったから。
もういいよ、どうせ見つからないって……そうだ、エニスは今日どこでバイトしてるんだろう?
今日は水曜日で、今が午後三時だから、多分トム爺ちゃんのお店で店番をやってるよ。
つまり、アイス屋さんだ!
僕はチョコレート。
あたしイチゴ味で。
へいへい。
待った。トム爺ちゃん、今日は新しいフレーバー作ったの? ケーキ味のアイスってどんな味? もう一個食べてもいい?
おいおい、トム爺ちゃんが言ってたろ。アイスはガキンチョ一人一個までって。
でもエニスはいつもアイス食べないじゃんか。エニスの分も僕たちにちょうだいよ。
ちょっとやめなよ。エニスだって大変なんだから……
いやいや、俺はガキンチョじゃないし。
でも今日は暑いから、アイスは食べてるうちに溶けちゃうでしょ。一個もらっても、一個分は食べれてないよ。こんなの不公平だよ。
そうだな、じゃあどうする?
今日はあちーしな、ケーキ味のアイスも美味しそうだよな?
(目をキラキラさせる)
うーん……もし夜ご飯の前に家に帰って、ヘイリーの代わりに食器をちゃんと並べるって約束すんなら、トム爺ちゃんに内緒でもう一個おまけしてやろうかな、どうだ?
分かった――
お前ら、いつも返事だけはいっちょ前だよな。晩飯の時はせいぜい上手く隠してくれよ……
コーンに乗ったアイスクリームがふわふわ浮かびながら、女の子の目の前を通り過ぎていった。少女は呆気にとられ、その間にスプーンの上のすくったばっかりのアイスは、溶けてしまった。
イチゴ味のアイスクリームが地面にぽたぽたと落ち、水たまりができる。目に見えない生き物がそれを踏むと、ピンク色の足跡がはっきりとできたのだった。
……え?
今アイスが逃げていったような。
アイスが逃げたって?
逃げたのもイチゴ味みたいだったよ。
じゃあ、もしそれを捕まえたら、もう一個食べれるかな?
私もアイスを一つもらえるかしら?
3金券です。
あら、タダでもらえないの? 残念ね。
綺麗なお姉さん、冗談よしてくださいよ。こっちだって商売なんすから。
じゃあコーヒー味をお願い。
まいどあり。
この時期に外国人観光客がシエスタに来るなんて、珍しいっすね。
単にあなたがここの魅力を過小評価してるだけかもよ。
坊やはどうして夏を楽しまないの? 私の故郷では、あなたくらいの歳の子はみんな街中を駆け回ってたわ。
みんなに好かれる良いお兄さんをやるのは大変でしょう。
生きてくためにはしょうがないっす。
何か楽器は弾けるかしら?
楽器っすか? 歌の授業も受けたことないっすね……
カリンバは……楽器って言えるでしょうか?
うーん……あなたのその雰囲気だと、サックスが似合うんじゃないかしら。
ハハ、俺の懐事情じゃ買えそうにない楽器っすね。
今日は新しい仕事が見つかって、気分が良いのよ。一杯ごちそうしたら、もう少しお話に付き合ってくれる?
すいません、もう時間なんで。次の仕事に行かないと。
もしまた俺と話したければ、うちの家の店に来てくださいよ。
つまり、物流センターが代わりに商品を国外に売ってくれるってことなの?
それだけではありません。今後の買い物も便利になりますよ。たとえば、アロマを作りたいなら、原産地から直接新鮮な原材料を購入することができるようになります。
うーん……話を聞く限りは悪くなさそうね。
では引っ越しを受け入れてくれますか? それと、今後の世論調査では是非フェンツ運輸に投票していただきたいのですがお願いできるでしょうか?
いいわよ。
ほ、本当ですか!?
どうせ元々ダウンタウンの方に引っ越すつもりだったし、今後ヴィクトリアのファッションが手に入りやすくなるなら、なかなか魅力的だもの。
ご協力ありがとうございます! それでは、ぼくはこれで失礼しますね。
ちょっとちょっと、そんなに急がなくてもいいじゃない。うちのアロマを見ていかない?
あたしが良いやつを見繕ってあげる。あなたみたいな可愛い男の子にアロマはぴったりよ!
わ、分かりました……
おい、小僧。
エンペラーさん!? バカンスに来ていたんですか?
バカンスっつーのは一種の心理状態のことだ。俺は毎日バカンスを過ごしてんだよ。だがな、こんなハッピーな夏に、いつもと同じ場所でじっとしてられる奴がいると思うか?
ま、それは別に重要じゃねぇ。俺はこの場所に自分のものを取り返しに来たんだ!
身の程知らずの羊のガキどもが俺の大事なアルバムを盗みやがったんだよ! 俺が初めて黒曜石祭に出演してグランプリを取ったアルバムだ! ナンバー000001だぞ!
ドリーの奴が、俺から見ても音楽について分かってて語り合える数少ない存在だってのは認めるがよ。分身を世界中にばらまいたことは、絶対に許せねぇ!
まさか、あいつはあの羊のガキどもが俺の音楽と同じようにソウルをぶち上げることができると思ってやがるのか?
エンペラーさん、一体何の話ですか。ドリーというのは……?
はぁ、まあいい、重要じゃねぇ。こいつはお前らじゃ理解の及ばないくらいレベルの高ぇ衝突だからな――話を戻すぞ。お前はここで何してんだ?
お前、随分と匂うがどうしたんだ? サルゴンのジャングルの泥水に三度漬けられた後でカクテルパーティーのシャンパンタワーの中に倒れ込んだみてぇな匂いだな。
そんなにひどいですか……
フェンツ運輸はこの商店街の再建プロジェクトを請け負いたいと考えているんですが、いくつか競合相手がいましてね。
ほーん、これがお前らの縄張り争いごっこってわけか。
ピーターズは? あのジジイ、仕事を全部お前にぶん投げて自分はバカンスを楽しんでるなんてこたぁねぇよな。
そういう言い方は……
まあどっちだっていい、幸運を祈ってるぜ、小僧。あいつがうかうかしてるうちに、持ってる株を全部奪って、夏のサプライズにしてやりな!
そうすりゃあ、次のパーティーで俺はあいつと少しは話の合う話題ができるさ。
おっと、おしゃべりは終わりだ! 見つけたぜ――おい! そこの焦点の合ってねぇ羊のガキ、俺のアルバムを返せ!
ひつじが……何だって?
(さっきのちびめーちゃんは、まだこの辺にいるかな?)
(あんなにゆっくり歩いてたし、遠くまでは行ってないはず……)
あれ? あっちの標識も……
……封筒の住所をかじったのは、きっとあなただよね?
もこもこの生き物は通り沿いを進みながら、標識を一つ一つ食べていく。
ちびめーちゃん……待って……!
博物館に届いた写真入りの封筒を食べちゃったの?
ちびめーちゃん――!
通行人がみんな振り返り、走りながら何もない場所に向かって声を上げている女の子をいぶかし気に見た。
だが当の少女の足取りはよろよろとしていて、周りの目を気にしているどころではなかった。
ちびめーちゃん――待って!
ようやく配達終わった……やっぱ適当に代わりの人に頼むのはダメだな。誤配がいっぱいあったうえ、代わってもらった分の金もたくさん払うことになったし……はぁ、次の場所は……
ん? どれも封筒の住所欄がない……誰かが破ったのか?
何の音だ?
あれ、住所は? さっきまであったよな、ちょっと出てった隙に全部消えてる!?
端末に記録が残っててよかった、けど……めんどすぎるだろ!
まったくツイてねぇ……!
……
まあいいや……とにかく全部取り出して、一個一個確認するしかない……次のバイトまでもうすぐだ、急がないと……
走れ……エニス、走れよ! 頑張れ、お前は金を稼がないといけないんだ、じゃなきゃ……
ふぅ……じゃなきゃチビたちの面倒を見れないだろ……!
……!
うわ、そこのお嬢さん! ちょ、よけてくれ! 荷物が重くて、止まれない――!
おい!
ああ――!
うっ――
ゴホゴホッ……ッ……足が……!
お嬢さん! 大丈夫っすか?
……
大丈夫っすか? お嬢さん、もしもし、起きて、起きてください!
……い、医者……
お医者さんはいませんか!?
エニスさん、先に決めていただけますかしら。貴方は一体いつ専門家の治療をお受けになるの?
それは……この忙しい時期が終わったら、アンタと一緒に、そのロドスってとこに行きますよ。でも今うちは俺がいなきゃダメなんすよ……
患者が病を隠すのを手伝うことは、医師の使命に背くことです。貴方の大変さは理解できますが、自らの命に責任を持つことこそ、ご家族に対して責任を持つことですのよ。お分かりになって?
どうすればいいかは大体理解してますって……
セイロン先生……鉱石病患者は、最終的にみんな死んじまうんですよね……?
……ええ。期間の長い短いを考えなければ、わたくしたちの命にはいずれも終点がありますわ。ですが、鉱石病患者にはその終点が、よりはっきりと見えますのよ。
じゃあ……鉱石病にかかった人は最終的にどうなるんすか?
病巣の位置によって、鉱石病の末期に現れる合併症も異なってきますわ。
たとえば貴方が運んできたこちらの少女は、鉱石病による聴力の低下を引き起こしています……補聴器がなければ、彼女は音をほとんど認識することができないでしょう。
このようなことを言いたくはありませんけれど、貴方の源石結晶の位置は心臓のすぐ近くにありますから、もし適切にコントロールできなければ、直接命に危険が及びますわ。
……ハハ、つまり、少なくとも俺は体がどこも悪くならずにぽっくり死ねるってことか。
これ以上、そのようなことをおっしゃるつもりでしたら、今すぐロドスまで無理やり連れて行きますわよ。
冗談冗談……ありがとうございます、セイロン先生。
……これは、俺の薬代とこの子の医療費っす、それじゃ……俺は失礼しますよ。
後はよろしくお願いします、先生。
日差しが窓を抜け、ベッドに降り注ぐ。耳元ではぼんやりと会話が聞こえ、アデルがゆっくりと目を開けた。
……お目覚めですかしら? 気分はいかが? 気持ち悪いところはありませんこと?
貴方は街で通行人とぶつかって、気を失っていましたのよ。その方が急いで貴方を運び込んで、持っていたお金を全部出して貴方の医療費にしてくれと言って聞きませんでしたの。
……
エイヤフィヤトラさん、お身体にはよくよく気を付けなくてはなりませんわ。
先ほど検査を行ったところ、今回の原因はただの低血糖でしたが、鉱石病関連の数値については、貴方自身もよく理解していらっしゃるでしょう……
ご忠告ありがとうございます、セイロン先生。私はもう問題ありません、行ってもいいですか?
いいえ、ダメですわ。
今日の午後はここで安静にしていてくださいな。どこへも行ってはなりません。
わたくしはまだ何名か患者の訪問診療をしなければなりませんが、おとなしくここにいらして。もし戻ってきて貴方がいなければ、本艦に報告を入れますわよ。
結局、見失っちゃった……
ちびめーちゃんは、私に何を伝えたかったんだろう……
アデルがなんとかしてベッドから体を起こす。ポケットからは写真が落ちた。
「元気かい? こちらは元気にやっているよ。」
「もう随分と顔を見ていないから、すごく君に会いたい。」
......
私は元気だよ……
二人は……元気?
お父さんお母さん、あと何年かしたら、私は二人が私を産んだ歳になるよ……
その頃の二人は、どんな生活を送っていたの?
私は……
……私は……
感謝してるよ。二人が私を……
ぽたり、ぽたり。
涙が手紙の上に落ちる。
アデルは手を止めて、書いた内容を線で消した。
……
エニス、もうすぐ仕事の時間だぞ、どこにいるんだ? 運ぶものが多いんだ、サボるなよ。
分かってるよ、今向かってますって、すぐに着きますよ!
エニスさん、以前ご相談をいただいたあの温泉旅館の店舗についてですが、現在購入可能となっております。
もしまだご興味があれば、月末までに頭金を払っていただく必要がございます……
……月末まで? あっ、了解っす、また連絡しますね……!
エニス、チビたちはあんたと一緒かい?
チビたち?
もうすぐで夜飯の時間なのにまだ帰ってきてないんだよ。早く戻るように言っておいてくれ。
いや、俺は……わかった!
*クルビアスラング*!
この車、なんでだよ――
*クルビアスラング*! *クルビアスラング*!!
えーっと……大丈夫かしら?
ハァ――ハァ――
どうしてアンタがここに?
散歩中よ。
旅行パンフレットのおすすめ観光ルートに沿ってここを一周してたのよ。でも、おすすめされてたお店は龍門のお店と大して変わらなかったから、帰ろうと思ってたところ。
それでアンタは……トラック相手に喧嘩してたの?
……
エンジンが古すぎて、すぐかからなくなるんすよ。
見てあげるわ。
排気口が紙くずで塞がれてたわよ。誰よこんなくだらないことして……ところでこの紙は、チラシ?
えーっと……多分どっかのいたずらっ子がやった悪ふざけっすね……
ありがとうございます! そんじゃ何もないなら、俺は先に行きますね!
待ちなさい。
助手席に置いてある箱とそのチラシのロゴ、ロドス製薬のよね?
――!
えーっと……