ツヴィリングトゥルムの黄金 ZT-1・戦闘前
衆賛歌「青空の歌」
ご夫人、もうお休みの時間です。
これで……何度目ですか? こんなに何度もお描きになっても、まだ……
美術館の方に連絡して、絵画展を延期させましょうか?
あの音楽家の女性がおいでになってから、ご夫人は普段よりも随分とお元気になられました。ですがまだ病は完治しておりせん。ずっとこの絵をお描きになっていては……この絵を……
これは……闇夜? なぜこんなにも黒いのですか、何も見えませんが……
なんとも忘れ難い夜の色ね。あなたの絵もまもなく完成かしら。
けど、あなたが今も絵を描き続けていられるのは、単純に強烈な感情に突き動かされているからであって、体はとっくに耐えられなくなっているわね。
本当に……私に演奏を続けてほしいの?
いいでしょう。あなたの答えは聞こえたわ。
それに苦痛、遺憾、悔恨、それと耽溺も響いてきた。あなたにとってリターニアは、このキャンバスに描かれた夜にあなたと共に死んだのね。
ならば私は、二十年余り遅れた挽歌をあなたのために演奏するとしましょう。
リターニア首都ツヴィリングトゥルム 都市中心
耳を澄ませてみよ。
毎日この時間、都市はいつも様々な楽の音であふれ返る。
学び舎から帰る学生たちは楽器屋の外で足を止め、どの新しい楽器がより安定した回路を備えているか話し合う。
仕事帰りの通行人たちは足取りを緩め、ストリートミュージシャンの前の楽器ケースにコインが落ち、チャリンと音を鳴らす。
レストランの若い恋人たちはグラスを合わせ、家々のキッチンでは湯気が立ち上る……
全ての音が胸を打つ。
ツヴィリングトゥルムの黄昏は、かねてより多くの大音楽家にとってインスピレーションの根源です。
ふむ……祭典にて何曲か追加するのはどうかな?
毎年金律楽章から始まり、順を追って古典的な作品が演奏されていくだけだ。民衆たちも興味が薄れていくのではないか?
祭典の曲目は、両陛下により定められるべきものです。
では後ほど指揮者と首席たちと話し合うとしよう。
そうだ、たしか若い女性を連れて会いに来ると言っていたな。
はい、陛下。
こちらがウェルナーの娘、ヴィヴィアナでございます。
ヴィヴィアナです。お会いできて大変光栄でございます。イーヴェグナーデ――女帝陛下。
あぁ、これは。予想を上回る素晴らしさであるな。カジミエーシュからリターニアに戻り、こちらにはもう慣れたか?
お気遣い感謝いたします。リターニアは……私の記憶よりもはるかに優雅で美しい場所でございます。
かしこまらずともよい。私とコーラもよくこのように女帝の塔の外で会って話に興じるのだ。
ウェルナーが去ったばかりで、深い悲しみがそなたの心を覆っているだろう。時間に余裕があれば、まずは都市内にてしばらくゆっくり休ませてやりたかったのだが。
女帝陛下は私に……
……女帝の声の役目を与える。
コーラが伝えていると思うが、これはウェルナーの願いである。
この上なく……光栄に存じます。
貴族たちは十やそこらの末子を私の所に送りたがるが、そなたは完全に女帝の声としての資質を有していると思っている。
こうして会ってみて、よりそれを確信した。
お恥ずかしい限りでございます。
謙虚は美徳だ。本音を露わにする勇気もまたそうである。
私は喜んでウェルナーの願いを叶えよう。だがそなたの考えも聞きたいものだ。
そなたは自身に対して、リターニアに対して、そして我々の目の前の未来に対して、何を思う?
……
……陛下、お客様がいたとは存じませんでした。
構わない、ブラント。この時間に来るよう言いつけたのは私だ。そなたがシュトルムで見聞きしたものを話すがよい。
シュトルム領にある金律楽章の副本が、選帝侯の高塔から盗まれました。
楽章を盗んだ者と、選帝侯を殺害した者は、同一の組織に所属している可能性が極めて高いです。彼らは自らを「ヘーアクンフツホルンの余韻」と名乗っております。
ヘーアクンフツホルン……「始源の角」。久しくこの名を聞いていなかったな。
……巫王派の残党です。
そのうちの一人を尋問したところ、楽章の副本をツヴィリングトゥルムに送ったとの証言を得ています。
ここか……
コーラ、女帝の祭典は……開催されて何年経つ?
今年で二十三年目でございます、陛下。
彼が死んでもう二十三年か。
いまだ飽くことなく彼の名において惨劇を引き起こす者の中に、彼をその目で実際に見たことある者はどれだけいるであろうか?
私は常々悲しく思うのだ。彼の者たちは……今のリターニアの何をこんなにも不満に思うのだろうか?
恨みは、理性とは縁のないものです。陛下。
あるいは、今年の祭典は中止にするべきかもしれないな。
仮に彼の者どもが真に楽章を利用し、ツヴィリングトゥルムにて混乱を起こそうとしているのなら……私は、祭典のためにこの地を訪れた者たちが傷つけられるのを望まぬ。
まだ三日ございます。
私が彼らを見つけ出し、楽章を取り返します。
本来なら女帝の声を何人かこの件に送り出すべきだったが……
……私に行かせてください、陛下。
女帝の声は陛下ともう御一方の陛下の栄光と威厳の象徴です。街で頻繁に姿を現せば、住民や敵の注意を引いてしまいます。
しかし私なら……人々のよく知る私は、陛下たちとは無関係です。
面白い提案だな。
陛下、訓練を全く受けていない素人を……
ブラント、そなたとヴィヴィアナならばこの問題を見事に片付けてくれるだろうと信じている。
……はい。
それと、女帝の声がヴァッサー領管区から興味深い新曲をいくつか持ち帰ったばかりでな。ヒルデガルトに時間ができたら私の塔に聞きに来ないかと尋ねておいてくれ。
どうせ……すぐに彼女に会いに行くのであろう?
……はい、陛下。
マスター・イオレッタは、よく教え育てたようだ。そなたは私に一番近しい女帝の声となるだろう。そのような予感がある。
光栄です、陛下。
だがそれは……必ずしも今ではない。本日より、そなたが女帝の声として行動することを許そう。しかし慣例通り、新たな女帝の声は祭典後に高塔に入ることとする。
その時、先ほどの問いの答えに期待しておく。
私の本当の考え……
さて、顔を合わせる時間は、夕映えのひと時のように短いのだ。
あぁ、少し待て。
刻限だ。見えるか?
広場の……噴水ですか?
とても美しいと思わないか?
水滴はメロディーに合わせて飛び跳ねているのではない。流れる水それ自体がこの曲を奏でているのだ。
ツヴィリングトゥルムの多くの建物と街路それ自体が楽器だと伺っております。
その当時、私は数十年安定した状態を維持できる術式を編み出すために、幾ばくかの時間をかけたのだ。今こうしてみるに、効果はなかなかのようであるな。
あれらは陛下自ら設計なされたのですね。
ヴィヴィアナ、そなたが最終的にどのような選択をしようと……
私と同じように、この場所を愛してくれることを願っている。
それまで、ツヴィリングトゥルムの夕映えがそなたに慰めをもたらすことを祈ろう。
……夕映え。
彼女はかつて幾度となく想像したことがあった。ツヴィリングトゥルムとはどのような都市なのだろうかと。
彼女は、幼い頃に読んだ小説や詩歌から推測した。
彼女は、異郷の地でのテレビやニュースから理解した。
そして今この瞬間、彼女は初めてリターニアの首都の中心に立ち、この都市の光と影を、匂いと音を、感じている。
古典絵画の色彩。
アコーディオンの音色。
カレンデュラの香り。
まるで生きた詩のよう……ツヴィリングトゥルムの黄昏は、私の想像とこれほどまでに近しいものだったなんて。
この件に自分から首を突っ込む必要はなかったわ。
先ほどの謁見で、陛下は私に退出を願い出るいとまを与えませんでした。つまり、私はすでに渦中に身を置いているということです。
それに、私にも知りたいことがあります。
あなたの父の死の真相を探るつもりね。
それだけではありません。
私は、もうまもなく訪れる夜の中で、私自身を見つけたいとも思っています。
では、その夜に足を踏み入れる準備はできたのね?
こちらに戻る前に、蔵書を全てとある友人に送りました。
彼女もかつて信念を胸に抱き、一度は自らを追放した故郷へと帰ったのです。
お恥ずかしい話ですが、過去の私は、何度も何度も彼女のその時の心情に思いを馳せ、予想をしました……
この時この場所で、やっとそれが少し身に染みて理解できたような気がします。
お前はリーゼロッテの決定に疑念があるのか。
イーヴェグナーデ様がお選びになった女帝の声はかねてより大変優れた資質を備えております。その点に関して、私はイーヴェグナーデ様の判断に疑いを抱くつもりはございません。
ヴィヴィアナ・ドロステは優秀な術師です。映像記録で彼女の操る燭火と影の能力を目にしたこともあります。
しかし……危機的状況に対処する経験は不十分である可能性が高いでしょう。彼女がこれまで経験した戦闘はすべて人為的に設けられた舞台上で起こったものですから。
ブラント・ライナー。
お前が仕えるべき相手は、とうの昔にホッホベルク家ではなくなっている。
……私以上にそれを理解している者はおりません、陛下。
でなければ、二十三年前のあの夜、なぜみすみす……
私に選択の権利はありません。それは、遠い昔に私の手から離れました。金律法衛の剣とアーツは、金律楽章とリターニアに捧げられています。
金律楽章とリターニア。
仮にどちらか一つしか選択できないとしたら?
金律楽章はリターニアを定義しました。これまで、両者が切り離されたことはございません。
楽章の旋律はリターニア人により創造されたものだ。決して不変ではない。
ヘーアクンフツホルンはまさに、かつてそれを変更した。
……
責任の一部分を引き受けるということは、他の部分を放棄しなければならないことを意味する。
しかと考えろ、ブラント。いつまでも選択をせずにいられる者はいない。
陛下のお言葉は……必ず。
それと、もう一つお伝えすることが。イーヴェグナーデ様から陛下に伺うよう仰せつかっております、女帝の声の演奏を聞きに行く時間はあるかと。
私の姿はその場に現れるだろう。
……
私が向かう時には、リーゼロッテはすでに眠りについているであろうがな。
ミヒャエル。
陛下。先に断っておきますが、僕はもう陛下に代わり隣の高塔へ夕食を食べに行きたくはありません。陛下もお分かりでしょう、あの方は僕を好いておりません。
冗談はそこまでにしておけ。
都市内の件、これまで通り目を配っておくように。
陛下は、僕と金律法衛、それとあの……非公式の女帝の声に「協力関係」を結んでほしいのですか、それともその逆ですか?
命は伝えた。
「これまで通り」、ですね? わかりました。
さっきの見たか?
ゼーマン夫人……それとあの黒い絵……
なんて恐ろしいんだ!
あれはかの陛下の呪いだって、みんなが言ってるぞ……
どけどけ、ここに散った散った。
この先の道はすでに封鎖した。美術館は今日休館とする。
ヨーゼフ伯爵に伝えておいてくれ、美術館の損失は憲兵隊で負担するとな。
はっ、ロリス隊長。
そうだ、以前ネックレスをなくしたあの夫人だが、電話番号を残しているか? 娘が『双塔芸術』の編集長をしている女性だ。
新刊でページを設けるよう頼んでおいてくれ……うむ、ゼーマン夫人の「遺作」を紹介してもらうようにな。
どのように……紹介いたしましょう?
それは評論家たちに、想像力を存分に発揮してもらうとしよう。
ゼーマン夫人は新作の創作に心身をすり減らし、不幸にも過度な疲労によって芸術に命を捧げた――彼女の最後の作品は間違いなく、いかような称賛の言葉にも値する。
「ただ残念ながら、作品は未完成であるため、夫人の生前の願いによりこの偉大なる作品は対外的に展示されることはない。」がな。
私の唯一の願いは、文中にかの陛下のことが一文字たりとも登場しないことだ。
ではあなたは……ゼーマン夫人の死は、一体何が原因だと思われますか?
誰が入っていいと……待て、あなたはしょ、燭……!
引退をしましたから、カジミエーシュ騎士協会から与えられたその称号は、理論上もう私のものではありませんよ。
カジミエーシュ人たちがどう考えているかなんて、どうだっていいんです!
数年前、彼らがあなたのことを干した時、私は何通も抗議する手紙をノヴァ騎士団に送ったんです! その後あなたが引退したと知って、隊長に隠れて何日もやけ酒を飲みましたよ……
お前があの時に怠けていた理由はそれだったのか?
賓客がいる手前、その件については蒸し返さないでおいてやる。
ご機嫌よう、ロリス・ボルディン子爵。
お会いできて光栄だ。
ピム、伝えておけ、こちらの美しい女性は本日我々が美術館に迎える唯一の客人だ。全員外を見張り、彼女の行動の邪魔はしないように。
は……はい!
レーヴェンシュタイン殿が挨拶に来られた時は、まさか女帝陛下のおそばにこれほど特別な使者が加わることになるとは思ってもみなかった。
どうかご内分にお願いします。
ご安心を。
しかし……単なる不慮の事故だというのに、なぜ女帝の密使が動くことに?
不慮の事故ですか……それが憲兵隊の調査結果ですか?
法医検査の結果、ゼーマン夫人は過労死で間違いないとのことだ。
侍女の話によると、この作品を完成させるために、夫人は何日も不眠不休かつ飲まず食わずだったらしい。
これほどまでに芸術を追求する精神は、リターニアでもめったに見かけない。本当に感服の至りだ。
この作品は、彼女にとってきっととても重要だったのでしょう。
ゼーマン夫人はもう二十年以上も新作を発表していなかった。
それが突然この絵を描くことを決意し、さらには展示の初日、つまり本来であれば今日、自ら除幕を行うと事前に美術館に連絡していた。
結果はご存知の通り、観衆が着いた時に目にしたのはゼーマン夫人が絵画の前にて疲労で倒れている光景だ。
その絵は?
完成……したのですか?
非常に答えにくい質問だ。
ヴィヴィアナ殿、ご自身の目でご覧になることをお勧めする。私が言えるのは、絵の内容が……予想外であるということだけだ。
これは……絵画展のパンフレット?
「巫王の死」。作品が完成する前、画家本人がすでに名前を付けていたのですか?
正直に申し上げると、多くの観衆は、まさにその名前目当てでやってきたのだ。
私はてっきり、「巫王」の名はリターニアにおいてあまり歓迎されないものだと思っていました。
失礼だがヴィヴィアナ殿は、あまりリターニアで長く暮らしたことはないのでは?
はい、少し前にリターニアに戻ったばかりです。
では無理もない。ご存知ないだろうが、リターニアでは、かの陛下に関する作品は大変多い。女帝陛下の奇跡のような勝利を描いたオペラだけでも百に上る。
うっかりしていました。そうした物語の真の主人公は、実は女帝両陛下なのですね。
ハハ、リターニアにおいて、創作とは自由なものだ。これは恐らく……人々の心が正直に表れた結果だろう。
ゼーマン夫人も女帝の祭典を機に、この定番のテーマをもう一度取り上げて、国中の注目を集める盛大な催しに彩りを加えたかったのだろうな。
ですが、ゼーマン夫人のこの絵画は「予想外」ともおっしゃいましたね。
作品はこの先、角を曲がったらすぐだ。
ヴィヴィアナ殿も、ご覧になったらこれが単なる不慮の事故であってほしいと思うことだろう。
……
……襲撃ですか?
ヴィヴィアナ殿、この場でしばしお待ちください。
私も手伝いましょう。
酔っ払いたちが路上で新たなアーツユニットを試しているだけかもしれない、あなたの手を煩わせる必要はない。
隊長! 方向からして、襲撃者は向こうの路地にいます――
反対側へは向かわせたのか?
二隊が向かいました。しかし誰もそちらには来ていないようです。
……まだその場にいるのか?
こんな奇妙な奴は見たことありません。きっと我々の足音は聞こえているはずです。ですが逃げようともせず、美術館に押し入ろうとしてくるんです。
何か大きな問題にはならないでしょうか? 隊長、もっと人数を連れて向かいますか?
必要ない。
言っただろう、恐ろしい事件でも何でもない。頭のおかしい連中や若者たちが、我々に迷惑をかけることで不満をぶちまけているだけだ。
そうだ、お前の好きなあの……競技騎士のお嬢さんだが、彼女の姓は何だ?
しょ……燭……ドロステさんです!
……聞いたことがないな。
他の者に引き続き追わせろ。我々はまず美術館に戻り、ドロステ殿に危険が及ばないようにする。
彼女のような貴族のご令嬢、さらには女帝の腹心ともなれば、美術館に収蔵されているどの作品や秘密よりも貴いからな。
……
足音……?
この先にまだ人が? 美術館はすでに封鎖されているのでは?
これがあの絵……
描かれているのは……巫王?
いいえ、これは『巫王の死』じゃない……
これは……うぅ……
黒く、乱れた、尽きることのないねじ曲がった線。
その線が塗りたくられているのは『巫王の死』と名付けられた中央の作品だけではない。壁に掛かっている全ての絵が、同じように何度も何度も塗りつぶされていた。
ぐちゃぐちゃに引かれた黒い螺旋は、まるで渦のように一つ一つ、絵から抜け出し、空間全体を埋め尽くそうと言わんばかりに広がっている。
線は生きているかのように、ねじれながら見ている者の目の奥底までに入り込み、脳の奥深くで次々と爆ぜて凄惨な泣き声となった。
人の意識は引っ張られ、変形し、ひび割れ、そして混沌に陥る。
影がヴィヴィアナの背後で揺らめいている。アーツの制御が利かなくなりそうで、彼女は身を守るために逃げ出したくなった。
この恐怖の力は、あえて伝えられるまでもないものだ。いかなる文字も、絵も、音も必要ない。
それはあの名そのものであり、直接的かつ強引に観衆の認知の中に割り込んで、自らの意義を示してくる――
「巫王」と。
本当に美しい作品ね。
穏やかな声が、突如として展示ホール中央で響いた。
雑音は止み、荒れ狂う黒い螺旋はまた絵画の中に戻っていった。
この絵……
アーツは感じないのに……でもなぜ……
精神に影響を与えるのはアーツだけではないわ。
十分に真実でありさえすれば、絵や旋律も心の琴線に触れることができるのよ。
恐れないで……感じて。
……とても激しいです。
豊かで、深い感情が……ともすれば乱雑にも見える筆致の中を流れています。
目を逸らさずにいることは……難しいです。
なぜなら、あなたが見つめているのは、一人の人間の魂だから。
彼女は心の中の巫王を、そして自らの命を、余すことなく絵に移したわ。
ゼーマン夫人は……かの陛下と、どのようなご関係が?
巫王の死が彼女の一生を変えたの。
まだ少女だった頃、彼女は玉座の上の男性を、まるで象徴や神を愛するかのように深く慕っていた。
そして神は彼女の目の前で倒れた。
彼女はとても困惑したわ。彼女にとっての巫王は、凡人のように倒れるものではなかったから。だからこそ愛情を失い、心のうちにある最も純粋な感情をなくし、創作能力をほとんど喪失したの。
彼女は……閉じ込められてしまったのよ。
命が尽きようという時に、彼女はようやくそのことに気付いたの。
あなたの口ぶりは、あたかも自分が彼女であるかのようですね。
彼女の心の奥深くにある感情は、かつて私の旋律と共鳴したわ。私は彼女の魂の内に入り、彼女の救いを求める声を聞いた。
救いを求める声……?
至るところから響いてくるわ。
ここでは、多くの人が閉じ込められている。ある運命の転換の瞬間に閉じ込められ、永遠に果ての見えない螺旋階段を歩いているの。
まるで……
……あなたの父、そしてあなた自身のように。