生存航路 BP-1・戦闘前
ファーストコンタクト
……地質条件だけを見れば、可能性を秘めた火山ではあるが、位置があまり適していないな。
どんな手段を用いるにせよ、シーボーンの包囲に抗い長距離のエネルギー輸送線を確立するのは難しいだろう。
技術アカデミーの報告書は、もうご覧になりましたよね?
海水の水素エネルギーであれば、軍団の艦隊を安定稼働させられますが、ビーコン塔のエネルギー供給に問題が生じないという保証はできません。
稼働以来、あの塔は都市すべてのエネルギーのほぼ半分を消費しています。
資料によると、昔は今よりはるかにエネルギー消費量が多かったらしいぞ。先人たちはあれのために、十数都市の協力を得てようやく維持できるような生物エネルギー供給システムまで設計したとか。
だが残念ながら、今の時代にそれほど大規模な生物エネルギー供給システムを作れば、恐らく起動する前にシーボーンの包囲網を惹きつけてしまうことだろうな。
話を戻しましょうか。やはり、ビーコン塔にエネルギーを安定供給する方法を見つけなければなりませんね。
アッピウスなら、解決策を知っているかもしれないな。連絡を……おっと、そうだった!
お忘れではありませんよね? アッピウスはまだ本つ域におりますし、この都市はすでに通信封鎖しているんですよ。
シーボーンによる包囲下では、もはやこれまでのやり方で大々的に光通信ケーブルを敷設することは困難です。
はぁ、やはりかつてのような、全国のどこからでも、いつでも集まれるホログラフィック会議を開けていた時代が恋しいよ。
そうだ、今思いついたのですが……
エネルギー変換施設の、出力パターンを改良してみるのはいかがでしょう?
我々には、似たような経験はこれまでほとんどないだろう? やはり安全面の潜在的リスクは確実だと思うが。
あなたが精神連結の操作を担当するからには、リスクはそこまで高くはないと信じているわ。
私が操作するからこそ心配しているんだよ。シーボーン化した同胞と精神連結を確立し、長時間の対話を行うなど、双方にどのような影響を与えるかはわからない。
関連研究はすでに十分なされているのよ。臨床操作中に緊張で手が震えさえしなければ、問題ないわ。
だが、本つ域でも、シーボーン化した同胞のために臨終対話を提供したケースは極めてまれだ。ほとんどの場合は、通常の安楽死措置しか施してやれないんだぞ。
はぁ……クレメンティア執政官の考えは、相変わらず過激だな。
だからこそ私は、彼女についてここへ来ようと思ったの。
今回の対話を通じて、滅茶苦茶になった理性の糸を解いて整頓してあげられたら、シーボーン化した同胞たちにもまだ、この世に自分の思考の痕跡を残す機会があるということになるでしょう。
最期に思う存分思考してもらうことこそ、彼らを見送る上で最良の方法じゃないかしら?
ただ、残念なことに、海巡隊が連れ帰った生存者のほとんどは人の形をとどめていないから、都市に戻って最期の対話を行うチャンスのある人自体がごくわずかしかいないのよね……
思うに――
ん?
我々は歴史の目撃者となっているのかもしれないな。
あるいは、単にいつも通り、本来の職務を全うしているだけかもしれないけどね。ともあれ、展望研究所があなたを選んだことは正しかったと信じているわ。さあ、準備を進めてきて。
その言葉に感謝するよ。隔離室で会おう。
あの、そちらの方々、よろしければお伺いしたいんですが――
うわっ、何だろう? 天災……!? 海の中でも起こるのかな?
完全に無防備だった彼は、勢いよく地面に倒れこんだ。そこへ、さらに奇妙な光景が、彼が上げかけた叫び声を押しとどめた。
さほど遠くない辺りで、通行人が次々に浮かび上がり、まるで水中を泳ぐ鱗獣の如く宙を浮遊したのだ。彼の身体の下では、都市が急激に傾いて揺れ動いていたが、人々は無関心な様子である。
しばらく経てば、すべては正常に戻った。地面に降り立ち雑談をしつつ立ち去る人もいれば、そのまま宙を泳いで進み、下りてこない人もいる。
彼はふと、幼い頃グランファーロの町民たちがもっともらしく語っていた、エーギルの邪教の儀式のうわさを思い出した。
……
さっさと起き上がりなさい、ジョディ。
はっ、はい!
って、アイリーニさん?
次に外出する時は、昨日船を降りた時に海巡隊から配られた装置をきちんと身に着けておくようにね。
この状況って……確か、何本目かの紹介映像でもありましたよね……
四本目よ。ポートターミナルに着いた時、そこの技術員も親切に教えてくれたじゃない。
さっきのは都市が行っている重力パラメータ調整。ミリアリウムは長期にわたって人工の低重力環境を維持しているから、こうして定期的に調整する必要があって……
ええと、簡単に言えば、鱗獣が自分の浮き袋を調節するようなものだと……彼は言ってたわ。
急に姿が見えなくなったのは、港を見学なさっていたからだったんですね。
ええ。彼らの船や港、それに武装がとても気になったものだから……あの壮大な船ときたら、岩礁と絶壁の間を自由に飛ぶ羽獣みたいにすいすい行き来していたわよ。
私はそこに「狂人号」の影を見たわ。やっぱりブレオガンは、エーギルの技術をイベリアで再現していたのね……
もしかすると、私たちがかつて誇った艦隊は本来、公爵やパーディシャーを震え上がらせるべく黄金のコートを纏って内海を巡航するのではなく、より広い海域に到達すべきだったのかもしれないわ。
ブレオガン……
なんだかぼーっとしてるわね。ジョディ、あなたすごく不安そうに見えるわよ。
あ、いえ、ただ、少し慣れないだけで……
ここは想像以上に未知の場所でした。息が詰まるほど空気が重いですし、海水が頭上にあるのを見ると背筋が寒くなって。道端に生えているこういう光る植物も、見ていると頭がくらくらしてきます。
それに、さっきの重力調整も……
身体が慣れないという部分はまだ克服できますが、未知の物事をたくさん、一から理解していかないといけないとなると大変ですね。
エーギル側が提供してくれたあの映像で、色々な物を詳しく紹介してはもらいましたが、何度見てもわからないことがたくさんありました。
ナイフとフォークを使わなくとも食べ物を浮き上がらせて口まで運べるとか、衣服を脱がずともそのまま綺麗にできるとか――その手の簡単なことなら、まだ理解できます。
ですが端末にあった「食用叙事詩」や「チューイング定理」なんてものは、さすがにどう食べればいいのやら……僕には、直接栄養補給ができる緊急装置をプリントアウトするしかできませんでした。
僕はグランファーロで生まれ育ち、あの場所から離れたことなどありません。もしかしたら、僕は……
いいえ。これほどの環境の変化は、イベリア人が辺境の小さな町から栄えた港町へ来た時に味わうようなものとは違うわ――まあ、その港町、壮大な黄金の都はとっくに滅びているわけだけど。
とにかく、これは文明が栄えているか否かによるものではなく……別の文明のもとを訪れたからこそのものよ。
さっきは前を歩いていた人たちに道を聞こうとしていたんですが、会話の内容がまったく理解できなくて、いつなら話しかけても大丈夫なのか、話の切れ目もわからなくて……
それに何より、彼らが僕を、エーギルにまるで馴染めていないエーギル人をどう思うのかがわからなくて。
私も似たような懸念は持っているわ。
あなたも……そうなんですか?
大いなる静謐の後、イベリアがエーギル人に何をしたかはあなたも知っているわよね?
私には、エーギルがどんな国家なのかはもちろん、この国の人々がイベリアの血なまぐさい歴史や、私のような手を血に染めた使節をどう思うのかはわからないわ。
でも、あなたはそんなことしていないじゃないですか……
だけど、今の私はイベリア裁判所を代表する立場なの。関連書類にはすべて目を通したけれど、一つ一つは大した厚みじゃなくても、重ねていけば驚くくらいの分厚さだったわ。
潜り込んでくる深海教会を排斥する過程では、正当な手続きの欠如や過度に高圧的な手法が用いられたことが原因で、多くの冤罪が生まれていた。真っ先に矢面に立たされたのは、島民だったわ。
「裁判」とは本来、最も冷酷な道徳的立場を前提としている言葉。ゆえに裁判所は、必ず厳格な行動基準を設けなければならないの。国家の均衡が崩れた今、それを和らげれば崩壊は加速してしまう。
非常事態において、我々はイベリアを存続させるためにあらゆる手を尽くす。これが裁判所の決定であり――
否定できない罪でもあるのよ。
思うに、そんな心配をする必要はないだろうな。
巨大な小胞構造を広げることにより、第Ⅲ級兵器の砲撃を防ぎ、ほかのシーボーンが海溝深くに移動するのを援護した、か……
小型特異点による激しい断裂に、生物組織をもって抵抗できようとは……一体どういう原理なんだ?
海巡隊がその小胞構造の組織サンプルを持ち帰り、物流ケーブルを通じて貴殿の研究所へとすでに送り届けております。
確かに、Ⅰ、Ⅱ級兵器による攻撃時と違い、一定時点でのシーボーンの大規模な集団的適応は起きていないようだな。
これは、第Ⅲ級兵器の殺傷性能が飛躍的に向上したことを証明しています。
ですが、シーボーンは第Ⅲ級兵器への対応を主眼に置いた個体へと独自の進化を遂げました。これがさらなる懸念点です。奴らは以前より、はるかに……組織的な行動を取っています。
ミリアリウム出航以来、貴殿は各兵器に対するシーボーンの適応状況解析を担っておられると存じます。現在のこうした傾向については、ある程度想定なさっていましたか?
……
ブランドゥス顧問?
完全に想定外というわけでもないが、検証にはまだ時間が必要だ。
ご苦労だった、セクンダ。
しかし、君の報告書は相変わらず細かいな。まばたきすらできないくらいに情報が詰まっている。リトル・ハンディ、人工涙液を持ってきてくれ。
行かなくていい、リトル・ハンディ。今のはつまらない冗談だ。
では、ほかに何もなければ、小官は失礼します。なにぶん先ほど戦闘を終えたばかりで、これから海巡隊の船を点検し、技術員と共に被害状況を確かめなければなりませんので。
そうして急ぐ理由が、さっさとひと眠りしたいというようなものであれば、少しは安心できるのだがね。休息が必要なのは、船よりも君のほうだろう。
貴殿のような、健康状態に不安要素を抱えていながら医師の助けを借りようとしない方には、そんなことを言う資格はありませんよ。
……まあいい。だが、私の話はどうか最後まで聞いてもらえると助かるな。あまり時間は取らせない。一つ確認したいだけだ。
君もグレイディーアの報告書は読んだだろう。
はい。
であれば、ウルピアヌスの状況は把握しているな。君ならば、何かしらの反応を見せるものと思ったが。
五年も音信不通だったアビサルハンターが、航路計画の重要段階で突然、何人も姿を現したとなれば、関心を払わない者はいないと思いますが。
中でも異常な動きを見せているウルピアヌスは、特に注視しておくべきでしょう。
彼がグレイディーア一行と接触し、ミリアリウムの存在を認識しているのは明らかですが、そのうえで彼はエーギルに対し、いかなる形の接触をもしてきません。
加えて、イベリア側の情報によると、彼はイベリアとの協力も拒んだとのことです。
ウルピアヌスは傲慢かもしれませんが、愚かではありません。彼が単独行動を選ぶのは、抗えない外的要因か、あるいは人には言えない目的あってのことでしょう。
どうあれ、彼の動向を早急に把握する必要があります。
その性急な功利的判断ときたら……今の君は、本当にウルピアヌスによく似ているな。我々は皆、君がそうならないよう願っていたのだが。
彼を追跡する際には、今のような判断に頼らずいてくれることを祈ろう。
いずれにせよ、彼の行方が判明したらすぐに連絡をくれ。
何を仰っているのですか?
貴殿も小官も、とうにアビサルハンター計画からは離れた身です。
そのうえ、今の貴殿は航路計画の兵器技術顧問でしょう。今仰っていたような「性急な功利的判断」というのは、貴殿の職責のほうにこそ密接に関係しているのでは?
ミリアリウムによるウルピアヌスに関する調査の結果は、公報を見ればわかるはずですよね? なぜ急いで小官から聞く必要が?
そうだな、君の言う通りだ。
少々うっかりしていたよ。君には海巡隊長官としての職責があるのだから、この件でとやかく言うべきではないな。
私はただ、君に覚えていてほしかったのだよ。ウルピアヌスがかつて、我々エーギルのために何をしてくれたのかをな。
ああ、私だ。何だと? 失踪!?
わかった、すぐに向かう。
失踪だと?
航路計画のとある技術者が、職場から忽然と姿を消し、行方不明になったとのことです。
あなたは、どなたですか?
アウィトゥスだ。科学アカデミー先史研究所で、先史文明が残した文献や資料の研究をしている。
私はイベリア裁判所の使節、アイリーニです。
僕はジョディ、ジョディ・フォンタナロッサです。
お目にかかれて光栄だよ。
講義をしにきたわけではないのだから、そう緊張しないでくれ。私は単に、陸からの客人に無用な心配をかけるのは、エーギル公民として見過ごせないと思っただけだ。
「無用な心配」と仰るのは?
ああ、つまるところ、エーギルは貴国の非常時における特殊な行動について理解があるということだよ。
多くの歴史を紐解けば、エーギルのみならず、輝かしき先史文明においてすら、同様の時代を経験している記録を見つけることは難しくない。
異分子の排除を社会秩序の維持に必要な手段と見なすことは、人類文明の進歩の過程において必然的に経る段階なのだろう。
加えて、我々は離れていった同胞が海へと帰ってくるならば、そのすべてを歓迎する。一方で各人の考えから去っていくのもまた尊重しよう。
陸へと向かう選択をした同胞は、ただその選択の結果を負っただけのことだ。
本来なら、そうしたエーギルの寛容さに感謝を表するべきなのだと思いますが、彼らにとって、その選択の結果というのは……
いいえ、何でもありません。ご説明いただき、ありがとうございます。
どういたしまして。
アウィトゥス様、および陸からのお客様方。当エリアは先ほど、捜査の対象エリアとなりました。
当エリアでのご用事がお済みでしたら、ほかのエリアへのご移動をお勧めいたします。
これは……聖徒の御手?
懲罰軍の仲間たちが、これでシーボーンの残滓を片付けているのを見たことはあるけれど、まさか言葉を話せるだなんて!
どうやら、これを陸へ持ち込んだ同胞は、すべての機能を披露する暇がなかったようだな。
この総合補助機械を、我々は通常「リトル・ハンディ」と呼んでいるんだ。リトル・ハンディのそれぞれ異なる機能を備えた拡張パーツは、すでに淘汰されたものを除いて972種類に及んでいてね。
パーツと塗装を見れば、そのリトル・ハンディがどこの組織のものかを推測することもできる。たとえば、目の前のこれは海巡隊のものだな。
ええと、何か返事をしたほうがいいでしょうか?
リトル・ハンディさん、ですよね? すみません、すぐにここを離れますから……って感じで伝わるでしょうか?
特段返事をしなくともいい。発話が可能とはいえ、知能が搭載されているわけではないからね。先ほどの音声はリトル・ハンディの数多ある情報出力手段の一つにすぎないんだ。
てっきり、あなたたちの技術水準であれば可能だとばかり……
確かに、多くの人間が疑似人格についての研究を重ねてきたのは事実だ。
最古の擬似人格は二百三十年前に誕生し、今現在も正常に稼働している。もし交流をお望みなら、私が申請しておこう。
だが、神経科学や心理学、あるいは社会学や人類学、それぞれの観点から見ても、擬似人格は理想的な研究ツールとは呼べない、ということはすでに実証されている。
すまない、ややこしい言い方だったな。簡単に言うと、擬似人格は特定の学問による研究の産物でしかなく、大規模に投入して活用する理由はない、ということだ。
結局のところ、科学技術の発展における最終目標は人をより良くすることであり、機械を人にすることには何の意味もないのだから。
なるほど、ご説明ありがとうございます。
そういえば、先ほどこのリトル・ハンディは海巡隊のものだと仰っていましたよね?
ああ。この手の大音響拡声器をリトル・ハンディに搭載しているのは海巡隊だけだ。彼らがもっと静かな連絡方法を選ばなかった理由が、レトロ嗜好にあるかどうかまではわからないがね。
海巡隊がどのような組織かを教えていただけませんか? 普段からこうした形で捜査を行っているんでしょうか?
彼らは軍の下部組織だ。作戦における補助的な役割以外にも、日常業務として偵察やパトロール、警備、災害対応を担っている。
こういった緊急捜査は滅多にないが、航路計画が重要段階まで進んでいる今、海巡隊が警戒を強めるのも当然だ。彼らであれば、適切に対処してくれるだろう。
リトル・ハンディ、このままここに居てもいいかしら?
お勧めはいたしませんが、禁止行為ではありません。
だったら、しばらくここに残らせてもらいますね。海巡隊とお話しできたら、それもいいと思いますから。
どうぞご随意に。ジョディ君はどうする?
僕はここを離れることにします。それであの、いくつかお聞きしたいことがあるんですが、いいですか?
喜んで。とはいえ、専門分野からかけ離れた質問になると、私では答えられないかもしれないな。
それを思うと、質問をするのに適した場所へ連れて行ったほうが良さそうだ。
「闘智場」へ向かおうか。
ドクター、よく眠れたか? 少しやつれているようにも見えるが。
ここは驚くほど気圧と湿度が高いな。
ああ。エーギル人は水生生物としての習性の一部をいまだに保持しているようだな。
――気分が悪いのか?
少し息苦しい。
深刻なレベルか?
今後不快感が増すことがあれば、すぐに言ってくれ。
それと……
それと?
率直に言わせてもらうと、君がそうした反応を見せることには別の原因があると考えている。
教えてくれ、ドクター。エーギルないし深海において、少しでも懐かしいと感じるものはあるか?
本当か?
君の沈黙には慣れているが、今の沈黙には少々不安を覚えるな。
困難だろうとは思う。だが、少しでも詳細を思い出すことができれば、それは誰にとっても大きな助力となるはずだ。
すまない、これ以上は思い出せない。
肩の力を抜け、ドクター。
保存者との邂逅以来、君が真実を遡る速度は格段に速くなっている……たとえ、それほど早く忘れ去ったすべてに触れてほしくないと私が望もうとも、それは避けられないだろう。
君がいつ、この苦難に溢れる道のりを歩み終えるかを知る者も、ましてやそれを左右できる者も居はしない。君自身も含めてな。これは君の責任ではないんだ。
君は確かに、かつて深海と出会った。海は、大地以外のもう一つの過去へと通じる道であり、我々はついにここへと至ったんだ。
ああ。私はこれまで幾度もエーギルに足を踏み入れようとしたが、それは長らく叶わなかった。
かつて私は、海岸で待ち、そして海上を漂ったこともある。
そして、灯台と艦隊が構想から図面へと、そして図面から国が誇る奇跡へと変じていくのを目にした。ブレオガンは、こうした手段を通じてエーギルと再び接触しようという試みを諦めなかった。
しかし、彼の努力はいずれも失敗に終わった。エーギルは故郷を離れたこの天才を再び受け入れることなどなく、ましてや部外者に門戸を開くこともなかった……今日に至るまでな。
協力を求めてくるエーギルの姿勢は、私の予想よりも意欲的なものだった。我々は、傲慢で冷淡な巨人に対して頭を下げろと説得するために、余計な労力を割く必要はなくなったんだ。
己がそれによって喜びを感じていない、とはなかなか言い難い。
そうだ。
エーギルの意欲的な態度は、彼らが陸との接触方法を計画し終えたことを意味している。
だが、エーギルからすれば最も温和な方法であっても、陸上文明にとっては過激すぎるものとなるかもしれない。彼らの友好的な接触が、陸に止めようのない荒波をもたらす可能性もある。
早いうちに、彼らと交渉する必要がありそうだ。
アビサルハンターが間に立ってくれるかもしれない。
けれども同時に、狩人たちの立場も懸念材料だ。
エーギルにとって、彼女たちは使節でも客人でもない。
エーギル史上最も過激な計画に参与していた者たちが、公式に死亡と認められた五年後、突然「生き返った」以上、彼女たちの帰郷は――
トラブルを起こすかもしれない、って?
もしくは、批判を集めそうって話かも?
グレイディーアは?
ちょっと面倒な人に呼び出されて、行っちゃったわ。
エーギルに戻ってきたからには、君たちはまず身体検査を受けることになるものと思っていたが。それ以上に優先される要件というのは?
さあ。
でも、グレイディーアとあの人の話がひと段落したら、私とスカジはあなたたちを置いて、退屈な検査を受けなきゃいけないっていうのは確かでしょうね。
私とカジキはまだいいとして、サメの身体的な変化については……ちょっとした面倒ごとになりそうね。
医学方面の論文なら、改造を受ける前に少し読んだことがあるわ。
髄質の再生と置換の研究は、当時すでに確立されていたし、きっとサメの助けになってくれるでしょう。
心配しないで、ドクター。
私、あの大船にあった鏡で、自分を真剣に見つめてみたの。あの重なり合う夢は、ここに戻ってからも、泡のように広がり、軽くなっているのよ。
何より、もし本当にあの夢がなくなってしまうなら、私としては残念な気持ちの方が強いかもね。
何にせよ、今は目が覚めてるから、あなたたちを連れて街を見学しに行きたいって思ってるくらいなんだけど。
どうかしら、お散歩しない?