テラ飯 DT-1・戦闘前
オリジムシの田舎風
兄さん……逃げて!
――ッ、ファリン!
……なんだ、夢か……
ライオス、やっと目が覚めたんだ!
気分はどう? めまいはしない?
めまいはしないが……なんだか少し腹が減ったな。
ここは……?
空、太陽、森……それに……
迷宮の外みたいに見えるけど、私もセンシもチルチャックも、こんな場所見たことないよねって話してたの。
それに……ほら。何度も試してるんだけど、精霊がちっとも反応しなくて。
珍しいこともあるもんだな……センシ? 何をしてるんだ?
ここの土を調べていた。
見てみろ。この土は湿り気を帯びていて色が濃く、手の平でこすって温めれば臭いがする。これは腐植質を多く含んでいることの表れであり……
つまり、どういうこと?
つまりは、栽培に適した土壌だ! ゴーレムの身体の土に酷似している!
そんなことが聞きたかったわけじゃないんだけど!
おいマルシル、鳥を脅かすなっての! 危うくぶつかるとこだっただろ! ったく……
良い知らせと悪い知らせがある。周囲を一通り見渡してみたが、魔物の姿がまるで見えなかった。その点では、この辺りはかなり安全そうだ。
なるほど。それで、良い知らせっていうのは?
魔物がいないのは良い知らせのほうでしょ!
じゃあ、悪い知らせのほうは?
この空間はかなり広そうだ。しかも、周りの環境は俺の知ってるようなものとはまるで違ってる。
上から見た限り、ここは森の端っこでしかないみたいだな。
地下一階から五階までの間で、こんな場所は見たことがないし、こういった場所を発見したという話も聞いたことがない。
……ということは……
ということは……?
まさか、また迷宮の形が変わった……!?
空を飛んでいる鳥はどれも見たことのない種類ばかりだ。迷宮の中のどこかというよりは、別の空間のようにも思えるな。
もしかすると……生ける絵画の中みたいな場所だったりして。まったく別の空間に連れてこられたって可能性は?
ってことは、未知の魔物がいるかもしれないな。
食べられる魔物ならいいんだが。
なにバカなこと言ってんの!
私たちの目標は一刻も早くファリンを助けに行くことでしょ! 今はこんな知らない場所で時間を無駄にしてられないよ!
それと、大事なことだから伝えておくけど――さっきから何度も試してるのに、ここでは簡単な魔術しか使えないみたい。
……それは確かに深刻な問題だな。すると……
加えて言うとすれば……
ん?
この森と土地は奇妙だ。まるで植物を成長させるために、誰かが開墾したように見える。これはわしもよく知る方法だ。
人里が近くにあるかもしれないってこと?
あー、そういうことなら……実はさっき森の外に妙な小屋を見つけたんだ。中に誰かいるかもしれないし、関係あるかもな。
とりあえずそこを目指してみるか? 何かわかるかも。
話が通じる相手だといいけど。
妙な小屋……?
わかった、とにかく行ってみよう。
賛成。
こういう知らない場所では、いつもより慎重に動かないと。
この小屋だって何がいるかわからないし、万が一それが狂暴な新種の亜人だったりしたら……
まずは俺が……っておい!
この小屋、そう大きくはないが、多くの柵で囲まれているな。柵の杭は頑丈そうだ。深く打ち込まれている。
とはいえ、それほど高さはないし、トールマンであれば簡単に乗り越えられるだろう。となれば、人間の侵入を防ぐためではなく、中にいる生き物が地面を掘って逃げるのを防ぐための物かもしれん。
地面の至る所に黒い石が落ちているが、これは何かの目印か?
ああもう、勝手に動くなよ! 罠があったらどうする!
(小声)ケン助?
(ケン助は近くの魔物に反応することがあるが、まさか……)
え?
だから無暗に動くなって言ってんだよ!
――ぎゃあああ!
う、動いた! 石の下に、な、なんか柔らかいものがいる!
うわっ!
こ、これは石を甲殻にした昆虫型の魔物か? この硬い殻は防御手段にも、攻撃手段にもなっているのか……!
感心してる場合か!
この硬い殻が一番柔らかい腹部を守っているようだ。通常なら神経が集中しているだろう首も、この殻で隙間なく覆われている……
俺たちの武器では大した損傷は与えられないな。
マルシル、魔術を使ってくれ!
強い魔法は使うでないぞ! ここの生態系を壊してはならん!
そもそも今は強い魔法なんて使えないんだってば!
ふぅ、これなら歩き茸(きのこ)レベルね。
やっぱり見たことのない魔物だ! マルシル、ケガはないか? 攻撃されてみてどうだった?
だいじょーぶ。お心遣い、どーもありがとー。
うーむ……硬いな。鉱物のような殻で覆われている……
じゃ、じゃあほかの部分は?
(斧でオリジムシをひっくり返す)
うわっ!
どれどれ……
あまり近付きすぎるな!
こうした未知の生物には、無暗に直接触れてはならん。
地面を這って生活しているものは、その多くが腐植質を食して生きている。ゆえに通常は多くの細菌や寄生虫を宿しているのだ。直接触れれば感染する可能性もある。
確かにそうだな……
(ん? ……ケン助がまだ反応しているな。虫はもう倒したはずだが……まさか他にもなにかいるのか?)
……まずい! この辺りの石、すべて「生きている」ぞ!
だったら、一気に片づけるしかなさそうね!
はぁ、はぁ……これでどう?
危ない!
色々な種類がいるようだ! 液体を吐くものもいた! 気をつけろ……触れれば溶けるぞ!
そ、そんなのまでいるとは……! すごいな!
だから感心してる場合じゃないんだって!
こりゃ俺には手に負えねえ。お前ら、任せたぞ!
ひとまず、あの小屋で態勢を整え……
……えっ……?
……
キャァァァァァァァー!?
妙な鎧を着込んでるが、オークか……!? おいセンシ、あいつ知り合いだったりしないよな!?
ふむ。わしの知る限り、あそこまで重装備のオークは見たこともないが……あの小屋の主人だろう。道でも尋ねてみるか?
尋ねる!? と、とりあえず逃げようよ!
おい、いい加減下ろしてくれ!
あ、あいつまだ追いかけてきてない!?
あれは本当にオークなのか?
本当に話を聞きにいかんでいいのか?
あの変な大きい刃物見た!? 友好的な人があんなもの振り回したりしないって!
お前の爆発魔法に腹を立ててたのかもな! 試しに謝ってみたらどうだ?
だって、あの状況で魔術を使わずに虫を追い払えたと思う!?
うーん、やはりここは来たことのない場所らしいな! 見たこともないものにたくさん出会えるぞ!
それとセンシ! 自分で走れるから下ろせっての! おいこら――
本には書いていなかったが、素晴らしいな……
ライオス!!!
いやあああああああ!!