落日の向こうへ GO-6・戦闘前
「晩餐宣言」
塔楼騎士監視塔裏庭
1098年12月22日 p.m. 5:32
貴様なら塔楼内で展示の復元の指揮を手伝うものかと思っていた。
デザイナーたちの仕事に手を出したりはしない。私も、あんたは議長放送の準備をしていると思っていた。
彼らはどう博物館を作ればいいか私よりも理解してるし、彼らが作る「塔楼騎士博物館」がどんな驚きをもたらしてくれるかも楽しみにしてるんだ。
けど記念碑を彫る作業については私がやらねばならないがな。
見てくれ、どうだ?
貴様にはこんな特技もあったのか。
小さい頃にマーシャル先生から教わってな。けど彼は常に酔って忘れっぽかったから、一番肝心な極意は学べずじまいだった。
ほら、紹介するよ。これはフィン師匠、最後の哨戒長であり、私の最も親しかった年長者だ。
こっちがファーガソン、私に酒の飲み方を教えてくれた。こっちがベイリー先生で、私が化粧の仕方を習得するまで力を尽くしてくれた。
こっちはマーシャル先生だ――私が彫ったんじゃなくて、酔った後に彼が自分で彫ったもんだ。
こっちがカール、泣き虫だ。こっちはマーティンで、毎週のようにこっそり逃げ出していたが、その後家族に送り帰されていた。こっちはカレン……
それと……それと……
……
ヴィーナがダグザをそっと抱き寄せ、彼女を慰める。
ありがとう、ヴィーナ。私はへーきだ。
ただここに帰ってくるたびに、あのぼやけていた記憶がまた鮮明に蘇る。
自分の名も刻んだのだな。「イザベル・モンタギュー」……
塔楼騎士が欠席することは決してない。皆ここにいれば、フィン師匠も喜ぶはずだ。
……実を言えば、議会は貴様らのために塔楼騎士の制度を残してやることができる。たとえ貴様が――
塔楼騎士の使命はすでに終わったんだ。
ヴィクトリアにもう国王は必要ねー、なら当然塔楼騎士もいらねーだろ。博物館によって過去が記憶されることが、最善の結果だ。
塔楼の灯火はもう王宮のために灯る必要がなくなったんなら、私の使命も完全に終わった。
今後ロンディニウムには塔楼騎士イザベルは存在しねー。いるのはダグザだけだ。グラスゴーのダグザがよ。
……
けどよヴィーナ、もし塔楼騎士が残ることをあなたが必要とするならば、私はいかなるためらいも持つことはねー。あなたが望みさえすれば。
からかわないでくれ、ダグザ……貴様もあの噂を聞いたのか?
デルフィーンと私たちとで誰が噂を広めているのか調べているところだ。けどやはり多くの人が信じきっていて、心から支持する奴までいる――
「ヴィーナ・ヴィクトリアが戴冠して王となる。」ってな。
聖マルソー学校
1098年12月22日 p.m. 5:37
エリシオさん! エリシオさん! 待って!
おや、ジェナさん、ほかに何か聞きたいことでもあるのかい?
わたしたちの新しい劇のリハーサルを見ていかないの。先生が誘いたがってたよ――
それとエリシオさん、言い負かすの手伝ってくれない?
ん?
ジェイミーが言ってたんだ、わたしとお婆ちゃんがクルビアに引っ越せたとしても、今より良い生活はできないって。
ジェイミーのお父さんが言ってたんだって、クルビアでは、わたしたちみたいな子供はそもそも学校に通えないし、あっちじゃ劇の稽古を教えてくれる先生もいない……
ジェイミーが、エリシオさんが授業で言ってたことは全部嘘だって――
……
ジェナ、あなたの出番ですよ。エリシオさんに迷惑をかけてはいけません。
わっ、せ、先生!
わたしはただエリシオさんにリハーサルを見てもらおうと思っただけだもん……
私に任せて。ジェイミーがまだ舞台であなたを待っています。あの子は泣き出しそうですよ。
あなたがいなくて、ジェイミーは一言も台詞が出てこなくなっています。早く行ってあげて。
うぅ、ジェイミー……まったくもう。分かった、すぐに行くよ……
エリシオさん、絶対わたしたちのお芝居を見に来てね!
はぁ、子供は遠慮がないもので申し訳ないです、エリシオさん。
ですが私はクルビアについてあまり理解しておらず、感染した子供はそちらではどのように扱われるかも――
ちゃんと面倒を見てもらえます!
……その子たちの保護者が医療保険を支払える限りは。
……
……
そうですか。
実は子供たちはみんなあなたが大好きなんです。あの子たちに感染後にどう自分の世話をすればいいか教えていただいたことにも感謝しています。あの子たちにとってとても重要なことですから。
ご面倒をおかけします。
故郷でもよく子供たちに教えているので、面倒でも何でもありません。むしろ子供たちに授業するのを許可してくれたことに、私が感謝したいくらいですよ。
議会と我々赤心社とはそりが合わないから、てっきり私が子供たちと接触することを学校はよしとしないかと思っていました。
ですが、私たちの接触を議会が禁止したことはありませんよ? むしろ、ある程度までこうした行為を黙認していると言うべきか。
――!
あなただけではなく、子供たちに健康診断や授業をするようロドスのお医者様を招いたことだってありますし。
子供たちが助けを必要としていることを、議会はよく分かっています。
ですが単に授業や健康診断をするだけではこの子たちの根本的な助けにはなりません。彼らに必要なのは薬による治療です。
わかっています。ですが今私たちにできることは、この子たちが恐怖に打ちのめされないよう、寄り添ってあげることくらいです。
少なくともこの学校では、彼らは昔のように生活できます……普通の人のように。
……心から敬服します、モリーさん。
私の故郷では、小さな感染者がここの子供たちのように元気であれば、それは大抵家庭が子供に大金をつぎ込んだことを意味します。
しかしここでは……行き場のない子供たちも、あなたが学校で引き取っていると聞きました。彼らはあなたの教えの下で人を鼓舞するような劇を練習し、多くの市民を勇気づけてさえいます。
あなたは大変立派な方です。
ほめ過ぎですよ、エリシオさん。
私はただ二度と学校に戻ってこれない何人かの先生方を精いっぱい真似ているだけです……特に私が最も尊敬するあの女性を。
ゴールディングさんのことでしょうか? ハイディさんから彼女の話を聞きました。
はい。私たちが今お稽古しているこの劇は、彼女がこの教室で最後に書いたものなんです――
とある病の痛みを取り除ける羽獣を探すために二人の子供が冒険に出て、最後には病気の友達を救うという、可愛らしい物語です。
前にハイディさんから、ゴールディングさんがこの物語を書いている時、それを「無意味な気休め」だと言っていなかったかと聞かれました……
……そんなはずありません。
モリーさん、私も残って子供たちの稽古を見ても構いませんか?
子供たちのためにも、そしてあなたとその女性に敬意を示すためにも。
ひょっとしたら、この学校で、そしてロンディニウムで、私にできることはまだたくさんあるのかもしれません。
……ゴールディングさんに敬意を。
……ゴールディングさんに敬意を。
議員は全員そろったか?
はい。
都市全域放送まであとどれくらいだ?
二分です。
コホン――
始めていいか?
はい。
……
ヴィーナ・ヴィクトリアだ。ロンディニウム議会議長の名でもって戦争に反抗し、ロンディニウムで生活し続ける全ての市民に向けて演説をする。
二ヶ月前、我々は惨劇から抜け出した。
静かにしてくれ! 議長が演説してるのが聞こえないのかよ?
議会を代表し、戦争の中で貢献してくれた全ての英雄たちに敬意を表する。
市民、連合軍兵士、そして模範軍の戦士一人一人に――
この都市は貴様ら一人一人の貢献を深く記憶に刻み、我々のそばを去っていった全ての者を偲ぶだろう。
……
バーの中は静まり、その場にいた全員が手に持ったグラスをそっと掲げた。
みんなに……そして俺自身に乾杯。
今、ロンディニウムは長い復興期を迎えた。秩序は再建されつつあり、我々が過去に慣れ親しんだ生活も戻りつつある――
だが全てがそうではない――模範軍、特殊な時代のこの栄光ある部隊について、議会はこの部隊の過去と現在を記念し、その部隊番号を永遠に留めておくことを決定した。
子供たちの歌が聞こえます。退役した兵士たちも子供たちと共にいます。みんなご機嫌なようです。
子供たちが歌っているのはこの劇の結末――
病気の子はついに回復し、あの子たちは幸せを見つけました。
てっきり……あの帰る家のない兵士たちは議長の演説をとても気にするものかと思っていました。
もちろん気にしているでしょう。ですが彼らは議長が自分たちを見捨てることは絶対にないと信じているんです。
あらゆる苦しみの後には、幸せが必ず訪れるんですよ、エリシオさん。あなたは信じますか?
……
模範軍のメンバーたちは「家に帰る」というこの素朴な理想のために集まった。身分も、地位も関係なく。
今、模範軍の理想はついに実現し、我々は家に帰り、終点まで辿り着いた。
フッ、「終点まで辿り着いた」だと。
どうやら議長サマは、結局あの部隊を解散させることに決めたらしい。本当に愚かだな。自分の忠実な部下を自ら解体するなんてよ――
ならあなたは、あの複雑な背景を持つ構成員から成る軍隊をどうすべきだと思うのかしら?
サルカズたちを追って殺し続けろって? それとも公爵たちを追い討ちしろって?
それは……
模範軍の件については、私たちが気にかけることではないわ。
今は、私たち自身の力をできるだけ早く回復させることが大事よ。
現在、すでに多くの模範軍メンバーが都市防衛軍に加入し、変わらず我々の故郷を守っている。
そして武器を掲げることをもう望まないメンバーも、家庭に帰って安らぎを得る権利がある。
議会はここに、模範軍の仲間全員の今後の生活を保証すると約束する。これには時間がかかるかもしれないが、議長室の扉は永遠に我が戦友たちに開かれている――
……恐らくそれには何年もかかるだろうね。あんたはまだ長い道を歩かないといけないよ、ヴィーナ。
キャサリン、夜飯に来るか? 何人か退役したばかりの老いぼれが工場に帰ってきたぞ。
あんたに会ったらきっと喜ぶぜ!
あんたらはただあたしが苦労して貯め込んだタバコが欲しいだけだろ?
へへ。
行くよ。そうだ、ついでにみんなに伝えときな。そろそろ、少し人を引っ張って来いってね。
議会がさらに多くの工場を再開をするよう言ってきたら、今の人手じゃ足りないからね。
そして私、ヴィーナ・ヴィクトリアはまた、全ての市民に約束しよう。国王が存在しない未来において――
放送が唐突に終わった。ダグザはあちこちから起こるどよめきが突然都市上空に響き渡るのを聞こえた。
――!
放送が切断された? 議会で……何が起きた?
議長、デルフィーンさん、放送システムのメンテナンスをしている時にこんな古い部品を発見しました。
これはアリステア陛下の在位時に取り換えられるべきだった廃部品です……
まさかこんな目立たないものがまだ使われていたなんて! 師匠からも聞かされていません!
つまりただのハプニングということか?
メンテナンスの確認リストになぜ以前にはなかった項目が突然追加されたのですか?
わ、私はただシステムに従っただけで――
皆さん、議会の討論を傍聴してよろしいでしょうか?
……マーチ伯爵……
エレノアです。私の名前はそれほど覚えにくいものではないと思いますよ、ヴィーナさん。
私がここにいることに皆驚いているようですね。まさか誰も事前に知らせていなかったのですか?
どうやらあなたの諜報員は最近少したるんでいるようですね、デルフィーンさん。
……
なぜロンディニウムで諜報員を用いて客人を招待する必要がある。この都市はこの土地を愛する全てのヴィクトリア人を歓迎する。
それはそれは。
ではきっと集まっていただくために、他の公爵たちを招いても構わないということですね?
――?
時間からして、彼らも到着する頃でしょう。何しろデリケートな身分のため誰の家に客として向かおうにも公爵はためらいましてね。ゆえに私の一存でお膝元を借りざるを得ませんでした。
どうか、議会には我々の苦しい心中をご理解いただけると嬉しい。あなたの参加も歓迎していますよ、ヴィーナさん。もちろんあなたも、デルフィーンさん。
間もなくウィンダミア領へと出発されると存じていますよ。何人かの古い友人は、あなたの母上へのお悔やみの言葉も共に持ち帰ってほしいと望んでおられます。
エレノアは帽子を脱ぎ、微笑みながらデルフィーンに挨拶をする。
そしてヴィーナのそばに歩み寄り、声を低めた。
良い演説でしたよ、賢い決断です。ですが……
焦りすぎです。私たちの前では話してもいいですが、平民たちに公に言うべきではないこともあるのですよ。
彼らのためにも、あなたのためにもね。
つまり、貴様は意図的に我々の放送を切ったということか。
私たちは王立科学アカデミーで集まることになっています、ヴィーナさん。それほど長くは続きません、遅れないでくださいね。
それと、自分が至らないと思う必要なんてない時もあるのですよ。この都市の変化は、すでに私の想像をはるかに超えています。
……
王立科学アカデミー応接ホール
1098年12月22日 p.m. 7:32
ゴドズィン公爵、あなたのお口には合わないと思っていましたが。
エレノア、私はかねてより現実主義なのですよ。
ロンディニウムの状況は我々の皆がよくわかっています。こうした薄い酒とパンですでに議長の誠意を示すに十分ですよ。
ウェリントン公爵はやはり欠席ね。
はぁ、どうやらあなたとウェリントン公爵との盟約も想像していたほど堅牢ではありませんね。
ゴドズィン公爵、そんなの建前にすぎないと皆がわかっています。ウェリントンがここに現れることは決してないでしょう。
ヴィーナさん、我々はウェリントン公爵とどう付き合っていくべきだと思いますか?
ロンディニウムとは無関係だ。私ともな。
ほう、そうでしょうか?
あなた方がどう考えているかあの人は本当に気にしているのでしょうか? 彼こそ常に主導権を握っている人物ですよ。
私の知る限り、「ガストレル」号と他の護衛艦隊のエンジンは二ヶ月前の城壁の戦い以来、一瞬たりとも止まったことはありません。
ウェリントンは、あなた方が咬みついてくるのをずっと待っています。恐らく今、彼はあなた方にがっかりしていることでしょう。
それは良い着眼点だ。
ですが、あなたが見ているのは依然として物事の一側面にすぎません、デルフィーン・ウィンダミアさん。
ウェリントンの目に映るターラーとヴィクトリアとが一体どのような関係にあるかは、今はまだ結論を下すにあまりに時期尚早です。
ここ二ヶ月、我々はずっとある種の……暗黙の了解を保ってきました。自ら率先して暗黙の了解を破ろうとする者さえいなければ、体面は保たれ続けるのです。
カスター公爵の使者が次から次へと秘密裏にウェリントン公爵領へと入っているのですから、この件に関しては、彼女の方がもっと発言権がある。そうでしょう?
私の命令に背いているのは一体誰なのか、後で調べるとするわ。
デルフィーンさん、ウィンダミア領に戻られたら、リンカルダンにおける私のワイナリーは疲弊した客人をいつでも歓迎いたしますよ――
そうしたくだらん社交辞令は省いてもいいか?
ロンディニウムは全てのヴィクトリア人を歓迎するが、各位に付き合い時間を浪費している暇はない。今はここに座っている各位よりも重要な、急いで解決せねばならない市民の問題が山積みだ。
もちろん、貴様らが突如として同時にロンディニウムを訪れたのも……フッ、その「暗黙の了解」によると理解している。
ウェリントンはただの口実で、この件は議会が介入するまでの話でもない。したがって、これからの話題も議会に関係のないものであれば、私もここで時間を無駄にする必要は――
それは違いますね、ヴィーナさん。ウェリントン公爵の今の選択は確実にあなたと関係がありますよ。より正確には、かつてのかの陛下、あなたの父上との関係がね。
……
二十六年前、あなたの父上の処罰に関する議案においてウェリントンはずっと立場を示しませんでした。彼は沈黙の中でアリステア陛下が玉座から絞首台へと歩いていくその過程を見ていた……
その後、彼は失望したのです。ヴィクトリアに、公爵たちに、あなたの父上に。
その時から、ターラーの暗流がやんだことはありません。
……そんなことウィンダミア公爵は私に話したことがありません――
それはあなたの母上は気にしていませんでした。国王を死刑に処して後悔している者などいないのです。申し訳ありません、ヴィーナさん。今の言葉に悪意はありません。
ウェリントン本人が決してロンディニウムに現れないにしても、彼がロンディニウムに、あなたに関心を払わないというわけではないのです。
彼の本当の態度については、今はまだはっきりしません。ですが玉座が長年空席だったからといって、ヴィクトリアが国王を望んでいないというわけではないのです。
ヴィーナはエレノアの言葉の意味が理解できなかった。彼女はとうにはっきりと断っていたはずだ。
国王も、王冠も、どれも彼女が必要としているものではない――
*ヴィクトリアスラング*、ヴィーナ、巡回隊がたった今お前の執務室に来て知らせてきた――
玉座の間の王冠が盗まれたってよ!
――!
……?
ん?
ヴィクトリア議長、どうやら私たちの会議は一時中止の必要があるようね。あなたの対応が必要な問題が起きたみたい。
ヴィーナさん、もし助けが必要なら、どこへ行けば私に声を掛けられるかはご存知でしょう。
フッ、どうやら我々はしばらくお世話にならなければならないようですね、議長。
……
……
この*ヴィクトリアスラング*どもが。