相見歓OR-8・戦闘前黄玉蔵心
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ウルサス極東炎カジミエーシュリターニアヴィクトリアカズデルシラクーザレム・ビリトン
ウルサス極東炎リターニアカズデルシラクーザレム・ビリトン

名前

相見歓 OR-8・戦闘前

黄玉蔵心

グー・チュエン

桔紅酥を一人前……持ち帰りでお願いします。

小さな料理長

おっ、いらっしゃい。

今回もヴィクトリアに送るの?

グー・チュエン

いいえ……送りはしません。もうすぐヴィクトリアに戻りますので……実際に帰れるかは何とも言えませんが。

今回は――ごほごほっ、ごほごほごほっ! 点心を買い求めて、途中で食べようと思いまして。

小さな料理長

ちょっとちょっと、咳がひどいじゃないか。

そんな様子なら、甘いものはよした方がいいよ。びわを煮出してきてあげる。

グー・チュエン

いえ……大丈夫です……肺の病ではありませんので。

小さな料理長

肺じゃなくったって気をつけなきゃ。お医者さんには診てもらったの?

グー・チュエン

はい。お医者様曰く、もう長くはないということでした。

ですので、食べたいものを避ける必要はありません。

小さな料理長

……え?

グー・チュエン

なに、大したことはありません……人はいずれ死ぬものですから。

私がすべきことも、そろそろ全てし終わりますしね……

小さな料理長

な……なんだってそんな風に考えるんだ!

あんた、ヴィクトリアに家族がいるって言ってたでしょ。か、彼女たちは、まだあんたを待ってるんだよ。

グー・チュエン

そうですね……私も家族にまた会えたらと願ってやみません。ですが、おそらく――ごほごほっ……願いは叶わないでしょう……

私はこの生涯で、何かを為せたわけではありません。しかし、ただ一つ心中に抱いた理想と道義に背いたことだけはないと自負しておりました。

それが命の果てまで来てようやく気付いたのです。彼女たちに対して、してやれなかったことがあまりにも多いと……

小さな料理長

何言ってるの……人っていうのはそういうものでしょ? 貸して借りて、それで成り立ってるんじゃないか。誰に対しても心の底から胸を張れるって思うような人がいれば、それこそ人でなしだよ。

たとえほんとに義理を欠いていたとしてもさ、それで家に帰るのを諦めるなんてのは筋違いでしょ?

グー・チュエン

彼女たちには会いたいです。ですが会わない方が、彼女たちは平穏に暮らすことができます。

人とはそういうものでしょう……何かを手放してこそ、何かを叶えることができる。

彼らはみな手放しました、私もそろそろ、そうすべきです……

小さな料理長殿、ここ数年は大変お世話になりました。最後の最後に語る夢のような戯言すら、あなたくらいにしか言えません。

小さな料理長

ならあんたは……

……何かまだ願いがあるの?

グー・チュエン

願いですか……


ニン・シュー

丁寧に、丁寧に掃かんか。お主が掃いた場所を見てみい、まだ埃まみれじゃないか。

隅々まで掃き残しがないように、全て綺麗にしておくんじゃ。引っ越すにしても、この家の次の主に迷惑をかけてはならん。

ニン府家令

旦那様、このような夜更けにどちらへ行かれるのですか?

ニン・シュー

気にするな。わしに構わんでいい。散歩に行ってくる。

ニン府雑役

どうも今日は旦那様のご様子が妙ですね。

中秋節だというのに、部屋で月を愛でずに、どうして掃除の見張りなんてしてるんでしょう。

ニン府家令

余計なことは考えないでよろしい。掃除に集中しなさい。

今夜は月がここをこんなにも明るく照らしているのだ。地上もきれいに掃いてやりましょう。


ニン・イン

なぜ……ここは……

お爺様の書斎?

意識が朦朧として頭が重い。何か重要なことを忘れてしまっているような気がする。

一冊の古い書が静かに机の上に置かれている。

ニン・イン

『炎史百二十四巻十七策・補』……1062年……太史閣のどこにこの一巻が?

……お爺様?


監獄衛兵A

五層目には随分長いこと囚人が入ってきてなかったろう。今夜入れられた奴は何者なんだ?

監獄衛兵B

陛下の御前で暗殺を企て、禁軍に捕らえられた犯人だ。

監獄衛兵A

なんてことだ――!

監獄衛兵B

シッ!

余計なことは考えるな、聞くな、黙って見張っていろ。少しでもヘマをしたら、俺たち二人の首を飛ばしたって足りない大ごとだ。

私が百灶に帰ってきてから、起こることすべてが計画されているかのようだ。

目の前に置かれた一連の手がかりはまるで餌で、食いつけば、どれも最終的にはなすすべがない局面へとたどり着く。

チェン・チョー

実行犯は武術に優れているだけでなく、大理寺の事情にも相当に詳しい。そのうえユー・チェンと早くから繋がっていたはずです……

……

チェン・チョー

ユー・チェンは審理の記録の作成者としてあなたを指名しました。これが今あなたがここに立っている原因であり、これ以上関与させられない理由でもあります。

ユー・チェンにどんな計略があるにせよ、あなたは必ずその中に組み込まれているんです。


仮面をかぶった人物

……そのような質問をしておきながら、まさか答えを持ち合わせていないとでも?

リン少卿は果たして真相が見えていないのでしょうか。それとも見るのを恐れて、見えていないふりをしているのですか?


リン・チンイェン

シエ・ジェン御史はなぜユー・チェンの事件に限って、それほどまで気にかけていらっしゃるのですか?


月が徐々に西へと沈み、月光りが鉄格子の窓を抜けて監房に降り注ぐ。夜気が凝って雫となり、リン・チンイェンの眉間に落ちた。

???

かび臭ささえなければ、この監獄は静かに考え事ができる良い場所なのですがね。

リン・チンイェン

同意します。ここに少し留まっただけで、すでに多くのことに思い至りました。

文書保管庫の火はあなたが放ったのですね。

???

私がここに現れたことがリン少卿に答えを与えたのですか、それとも、とうに答えにたどり着いていたのでしょうか?

シエ・ジェン

またお会いしましたね、リン少卿。


ホァン

ねぇ、今は君と点心について話してる場合じゃないんだ。助けに行かないと!

小さな料理長

焦らないの。あんたのやってることは焦ればなんとかなるものじゃないでしょ?

ホァン

君は何を知って――

小さな料理長

私が知っているのは、火加減が十分じゃないなら、蓋を取っちゃいけないってことだよ。

ホァン

……

小さな料理長

あのね、どんなとんでもないことが起きたってご飯はちゃんと食べなきゃだめだ。ご飯が喉を通らなければ、何をやっても全部無駄なんだから。

とりあえずほら、食べてみて。あんたが探してた桔紅酥は、これでしょ?

ホァン

百灶中を探しても私が探してる味は見つからないってずっと言ってなかった?

小さな料理長

そうだね。でも、百灶で一番すごい料理人はこの私だとも言ったよね。この世に存在したことのある味ならば、どんなものでも再現できるよ。

待った。これは私が自分で作ったものだから、あの賭けは無効だからね。

ホァン

これって君が前に作った桔紅酥じゃないの……

ホァンは半信半疑ながらも点心をつまんで口に運んだ。

ホァン

――!

ここ数日、彼女はたくさんの美食を味わい、料理の良し悪しを評価する方法をそれなりに学んだ。その評価基準から言えば、目の前に置かれた点心は美味だとは言えなかった。

シィンズゥの言う通りだ。砂糖を入れすぎると柑橘の皮の香りを損ねる。多すぎる油も本来はサクサクとするはずの皮の食感を台無しにしていた。

これは美味しい点心ではない……

しかし、これこそがまさに彼女の記憶の中の味だった。

ホァン

どうして……

どうして……この味を作れるの?

小さな料理長

あんたずっと言ってたじゃないか。私の作った桔紅酥は甘さが足りないって。それで考えてたんだ。一体どこの料理人がそんな桔紅酥を作るのかってね。

それで考えてるうちに、もしかしたら、この点心をやたら甘くした人は、美味しくするためにそうしたわけじゃないんじゃないかって思ったんだ。

ホァン

美味しくするためにそうしたわけじゃないって……

小さな料理長

ヴィクトリアでこの点心を食べたって言ってたよね?

それで思い出したんだよ。何年も昔、店にいた常連客が国外にいる娘に送りたいって言っていつも桔紅酥を注文してたんだ。

もちろんヴィクトリアは遠すぎるから送ったところで傷むよって忠告した。

でもそいつは頑固で言うこと聞かなくてね。自分で手を加えて、包装の上から便箋を何枚も何枚も重ねて包んでたよ。一体手紙を送ってるのか点心を送ってるのか分かんないくらいだった。

ホァン

親父を知ってたの!?

親父はここに来たことがあったんだね……ずっと探してたんだよ……

それじゃ、君は親父が誰なのか知ってたの……

小さな料理長

そんな深い知り合いとまでは言えないね。この店の何年も前の常連客と店主ってだけの間柄だから。

辛うじて覚えてるのは、朝のまだ暗い時間からやってきては、一番安い朝食を注文してたことくらいだよ。それから決まって窓際の席に座ってた。まるで誰かを待ってるみたいにね。

ホァン

誰を……?

小さな料理長

知らないよ。自分で見てみれば。


わずかに白んだ空。

かすかに見える満月は未だ空の果てに懸かり、良夜は終わろうとしている。多くの者がまだ一家団欒の夢の中にいる頃だろうか。

勤勉な物売りは早くから通りに屋台を出し、よく通る呼び売りの声が朝の空気を突き抜けて、この広い都市を目覚めさせる。

ホァンは、街角に見覚えのある人影を見た。

普段、この小さな飯屋ともの静かな屋敷の間に街角一つ分ほどの距離しかないことに気づく者はいない。

こんな光景を、彼は何年も見ていたのだろうか?

ホァン

君は……

本当に君なんだ……


ニン・イン

……こちらにいらしたのですか。


ニン・シュー

よもや生きているうちに、またお主に会えるとはのう。

部屋の隅にもたれかかる人物はぼろを着て、手には月餅を持っていた。顔中に食べかすをつけて来訪者には目もくれない。

天井の鉄格子の窓から光が漏れ、囚人のやつれた顔を照らす。

ユー・チェン

大理寺も随分と親切なものですよ。監獄で裁判を待つ囚人にも、中秋節には月餅を分け与えるのだから。

なかなかに旨いですよ。お一ついかがですか?

ニン・シュー

いらぬ。今貰わんでも直にこの監獄にてしばらく食事をすることになるからのう、間に合っておるわい。

ユー・チェン

それは残念だ。お互い話すことはたくさんあるのに、茶菓子もなしでぺらぺらと言い合うのは味気ないでしょう。

老人はその言葉に乾いた笑いで応えると、なんと囚人服を着た男の対面に座り込んだ。

ニン・シュー

お主は何十年もの間、ずっとこの老いぼれを問い質したいと思っていたな。今日ようやくその願いが叶ったか?

ユー・チェン

ニン様は、さぞ私を骨の髄まで恨んでおられるでしょう。

あと一歩で、故郷に帰り、子や孫と共に晩年を安穏と過ごせたというのに。

あと一歩のところで……はははははは。

ニン・シュー

そのように言われると、わしはお主を恨むべきなのじゃろうな。飛びついてお主に噛み付いたとて、おかしくはない。

しかし翻って考えてみれば、お主はこの老いぼれのために何十年もの時間や、大理寺少卿の官位を費やし、その上この監獄で余生を過ごすしかなくなった――

どう見てもお主の方が、このわしを恨むべきじゃろう。

ユー・チェン

ははははは……ニン様の考えすぎですよ。

とうに伝えたはずです。私は良吏でも、ましてや善人でもございません……グー・チュエンとは違うのです。

ただの食い意地が張った人間です。匂いを辿って隠された真相を暴くのを好み、殻を剥いた中の味を覚えているからたまらない。たとえ両手が血に塗れようと歯が抜けようと得られるなら本望です。

あなたこそが、この数十年来、私が狙ってきた最も大きく肥えた甲獣です。なぜ恨むことができましょう?

恨むにしても……それは、私自身に何かあったからではありませんよ。

ニン・シュー

お主は丈夫な歯をしておるのう。この老骨に噛り付いて歯が抜けもせんとは。

じゃがユー・チェンよ、お主はなぜ、今日わしが必ず会いに来ると確信しておったのか。

わしがそのまま去っておったら、お主が長年苦労して企てた計画も全て水泡に帰していただろう。

ユー・チェン

はははは……あなたのことはよく理解しているのです。理解しすぎているほどですよ、ニン様。

私は賭けをしました。あなたは官界に何十年と浸かり、手こそ汚れてはいますが、まだ人の形をしています。

何せ、グー・チュエンを自分の目の届く場所で長年の間生かして、彼の娘も育ててきたのですからね。

あなたはあの子……あの子たちの生死が気掛かりだった。生きているうちに彼女たちが太陽の下で何のしがらみもない潔白の身で過ごすのを見たかったのだ……

自分が口を緩めぬ限り、彼女たちが安寧を得られぬことをあなたは承知していたでしょう。

だからこそ、あなたは必ずや私に会いに来る。会いに来なければならなかった。

ニン・シュー

そんなことまで調べ上げておったか……どうやら、知るべきことはほとんど調べ尽くしておるようじゃのう。

一体どれほどの時をかけた?

ユー・チェン

手掛かりをおおよそ集めきり、この事件がどのようにして起きたか詳細を推理するに至ったのは昨年ですよ。かくも遅くなり、大理寺少卿を務めた身としてはお恥ずかしい限りですな。

むしろグー・チュエンの方が、恐らく何年も前に徹底的に調べ上げていたことでしょう。

ニン・シュー

それは予想だにせんかった……

ユー・チェン

そうでしょうな。当時の彼が百灶に戻り、あなたは彼を自分の目の届く所に置いた。しかしまさか彼がそのまま自分の屋敷にて十数年分の手紙を写し取っていたと予想だにしなかったでしょう。

高貴な方々の手紙を通じて、九品の奉礼郎に過ぎない者が、かの事件の中で生き残った者を全員見つけ出し、一つ一つ解き明かして最終的に真相を繋ぎ合わせたのです。

ニン・シュー

グー・チュエンという男は、実に抜け目がないな。見くびっておったわい。

ユー・チェン

事ここに至って、何かまだ言いたいことはございますか?

ニン・シュー

はははは……今さら何を言おうという? 認めるべき罪は無論認めるさ。

当時太師の事件を担当しておった刑部尚書は、確かにわしが人を送り込んで殺した。

だが、それはあやつがわしのことを太師の反逆の一派であると指摘したからではない……

太師の反逆は最初から最後まで冤罪にすぎぬからだ。


シエ・ジェン

単に気になるだけですよ。リン少卿はいつ気付いたのです?

リン・チンイェン

鼎豊楼で火災が起きた時には、下手人があなたであると疑っていました。

シエ・ジェン

なぜ? 私はあの件とは何の関係もないはずですが?

リン・チンイェン

ただの直感です。

あの時あなたは、正体が知れるような武術は使っていませんでしたが、面をかぶった姿と身のこなしは見覚えがあるものでした。

しかし、その後大理寺にあなたが自ら訪ねてきたので、一度は疑うのをやめました。

思い返してみると、私がユー・チェンを弾劾しようとした時には、すでに彼と接触していたはずです。まさかあなたが、とうにユー・チェンと協力関係を結んでいたとは思いもしませんでした。

文書保管庫の火災からニン府の掛け軸の件、さらには鼎豊楼の火災と、近頃発生した数々の事件は全て私を手がかりへと導くためのものですか?

シエ・ジェン

急いでいたもので、やり方が少し性急になりましたね。今振り返ると、お粗末な部分が少なくない。

リン・チンイェン

では百珍宴の火は……?

シエ・ジェン

残念ながら、あれは私ではありません。ですが図らずも、我々の目的を達成する助けになりました。

リン・チンイェン

一体何のためにこれだけのことを?

シエ・ジェン

バカげた話に聞こえるかもしれませんが、全ての始まりは、とある古い事件なのです。

私が粛政院に入ったあと、偶然関わることになった事件です。

刑部尚書が路上で浮浪者に刺殺されたのです。とんでもない大事であるはずですが、何かに追われるかのように、いつの間にか片付けられていました。

犯人は死刑に処されたものの、彼の素性や犯行の動機……資料には曖昧な点が多すぎました。

私がさらなる調査を進めようとした時、あらゆる手がかりが別のより大きな事件を指し示していることに気づきました。同時に、手がかりはその大きな事件によってことごとく断ち切られていました。

リン・チンイェン

太師反逆事件……

シエ・ジェン

リン少卿も調査したことはあるでしょう。

リン・チンイェン

三公の反逆は、天を揺るがす大事件です。何千何万もの者が巻き込まれました。真相を解き明かすどころか、当時はかの人物に言及することさえこの上ない禁忌でした。

シエ・ジェン

「太師が皇子をして君主を弑した。」と史書にはその一言のみが残されています。

しかし、前真龍が亡くなった晩、一体何が起こったのか知る者はいません。

都市を防衛していた軍隊は一体誰が動員したのか、それに当日宮殿に入った人物は誰なのか?

後になって、この事件を追っている者は私だけではなかったことに気付いたのです。

リン・チンイェン

その時ユー・チェンと知り合ったのですか?

シエ・ジェン

徒党を組んだと言うべきですかね。あるいは似た者同士で意気投合したと言ってもいいでしょう。

リン・チンイェン

手がかりが見つからないのであれば、何故太師に罪がないと分かるのですか。

シエ・ジェン

いいえ、私たちではありません……

全てを解き明かしたのは、グー・チュエンです。


ユー・チェン

何故です?

ニン・シュー

お主は本当に何故だか分からぬのか?

ユー・チェン

当然、理解していますとも。ただニン様に問いたいのですよ、この「何故」をご自身の口から発した時、果たしてどのような気持ちなのかと。

ニン・シュー

……とめどなき民意、おののいた人心。

経験した者だけが知っておる。今の平和な光景を手に入れるまでの道のりは、生易しいものではなかった。

あれはもう随分と昔のことじゃ。

先の真龍は勤勉だった。ちょうど源石工業がこの大地の構造を変えた時期であったが、彼は炎国が風雲の時代にあるテラ諸国に後れを取らないようにしたのじゃ。

しかし偉大な君主は、晩年に鉱石病に感染してしもうた。自分はもう長くないと悟った真龍は数々の政策を行ったが、それは偏ったものであった……

かの皇子が真龍を止めようと動き、太師も皇子の味方についた。

ユー・チェン

いわゆる太師の支持というのは、皇太子に簒奪をほのめかすことですか?

ニン・シュー

真龍は皇子が宮殿に入り諫言した晩に身罷られ、皇子もそれ以降行方がようと知れない。かように天地を揺るがす事件には、人々が納得のいく説明が必要だった。

ユー・チェン

……これら全ての罪名を背負う人間が必要だったと。

ニン・シュー

それを今の真龍がご存知ないとでも思っているのか……?

ユー・チェン

……ふん。

ニン・シュー

朝廷が入れ替われば、人々の心には自ずと不安が生まれる。「反逆者の一掃」はまたとない名目であった。

当時まだ年若かった真龍は、良からぬ考えを抱く者たちを果断な手段により粛清し、最短で局面を安定させることで、この宮廷の災いが禁城の外に蔓延するのを防いだ。

四十年だ。真龍以外で、このことを覚えておるのは、もはやわしだけじゃと思っておった。

あの事件が起きてから十数年後に、あの若者が再びわしの前に現れるまでのう。

ユー・チェン

ニン様の物言いは少し軽すぎますな。

当時「粛清」されたのは数名の反逆者だけではなく太師一族郎党。しめて二十八名です。

その者たちは一人残らず投獄され、潔白を証明するために獄中で自死した者もいます。生き残った者も追放されました。私は彼らの痕跡を探ってみたが、一人として見つからなかった。

ニン・シュー

……

ユー・チェン

一人の子供を除いて……動乱の中で連れ去られ、当時まだおくるみに包まれていた子です。

ニン・シュー

その子がまだ生きていたとは思っておらんかったし、本当に死んでしまったと信じてもおらんかった。

ユー・チェン

どうやらすでにお会いしたようですね?

ニン・シュー

数日前にのう……顔立ちは少しも似とらんかった。じゃがあの性格は同じ型から取り出したみたいじゃった。

グー・チュエンは百灶に十数年いたが、死ぬまであの子の行方について明かさんかったわい……

ユー・チェン

これでニン様は、グー・チュエンがなぜヴィクトリアに帰る道で死んだのか理解されたでしょう。

ニン・シュー

……ユー・チェン、この老いぼれめが。

グー・チュエンに自らの死でもって、あの子の行方を何者かが見つける可能性を断ち切らせ、お主がわしを調査する機会も得られるように仕向けたか。

ユー・チェン

当時はてっきり、太師の事件を追っていたグー・チュエンは結果が得られず、落胆した末に百灶を離れる決意をしたのだと思っていましたよ。

私も何年も経った後にようやく理解したのですがね。グー・チュエンが求めていたのは真相ではなかったのです。あなたが今しがた口にした経緯を、彼はとうの昔に探り当てていました。

彼が私に望んでいたのは、別のことでした。


リン・チンイェン

分かりません……

まさかあなた方は初めから、ホァンがあの事件の遺児であったことを知っていたのですか?

シエ・ジェン

リン少卿もすでに調べはついているのではないですか。グー・チュエンとユー・チェンは実のところ早くから知り合っていました。

あの子を連れ去った後、グー・チュエンは秘密を数十年にわたり隠し続けました。しかし、死ぬ間際にその子の行方を当時彼の唯一の「友人」であったユー・チェンに伝えていたのです。

グー・チュエンの死後、ユー・チェンはすぐさまその子を探し始めました。

しかし、大理寺少卿であった彼が自分で動くには都合が悪かったのです。そこで耳目を集めないように、当時まだ朝廷中央にいなかった私にひそかに捜索を任せたのです。

ヴィクトリアで発見した時、彼女はすでに感染者でした。

そのため私もすぐに彼女を百灶へ連れて帰ることはできず、彼女を守るために、ひとまず感染者治療の医療機関へと送らざるを得ませんでした。

リン・チンイェン

あなただったとは……

あなた方は、その時にはもう繋がっていたのですね。

シエ・ジェン

リン少卿、あなたもまた早くからこの計画の一部でした。

リン・チンイェン

それはまたどういうことですか?

シエ・ジェン

リン少卿がなぜホァンの手がかりに触れることができたのか、そしてなぜ過去の文献に触れることができたのか……まさか全てが都合のいい偶然だとは思っておられますまい?

リン・チンイェン

……

シエ・ジェン

ユー・チェンは君にこうしたことを直接話さないでしょう。この件はあまりにも危険ですから、知る者が増えることはあってはなりません。

しかし彼は相応しい人物……勇気を持ち、真相の側に立つ人物を、ずっと探していたのです。

ユー・チェンは己を犠牲にする覚悟を決めていました。私も、この両手を汚して彼に代わりやらねばならぬことをしてもよかった。

しかし、それではまだ足りないのです。我々には正々堂々とした手段によって、真相を日の下にさらしだせる、清廉潔白な人物が必要だったのです。

リン少卿、そろそろ時間です。

まだ辛うじて間に合います。これが我々にとって最後の機会です……

リン少卿、あなたは真相を日の下にさらしてくださいますか?