緋染めのビロードAD-5・戦闘前いずれまた逢おう
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緋染めのビロード AD-5・戦闘前

いずれまた逢おう

ティッピ

ダルトンさんの死とシェリーさんが冷凍庫に入ったことはどっちも事故じゃなかった……

今度はマイケルさんとマリオンさんも亡くなった。しかもあんな惨いやり方で……

隠れている犯人は一体誰? どうしてこんなにたくさんの命を奪うの? どうしてこんな……残酷なの?

モイラ

マイケルさんはとっくに予感がしてたみたい。

殺される前の夜に私に会いに来た時、今までよりも深刻な表情だった。

きっとダルトンさんの事故の本当の原因を突き止めて、だから怖くなってここから逃げ出そうとしたんだと思う。でも……

ティッピ

マイケルさんに何か隠してたことがあったとしても、もう知る方法はないよ……

多分ここ最近で起きたことは全部、みんなが言う五年前の事故と関係があるんだよ。でもあたしがもっと心配してるのは……

犯人が殺人を事故として隠蔽することすらやめて、自分の存在を公にしていることだよ。あたしたちにこう言いたいのかな――

自分を捕まえるまでは、誰も安全じゃないぞって。

モイラ

……

ティッピ

あっごめんね、モリー。怖がらせちゃった?

心配しないで、ここに残酷な殺人鬼がうろちょろしてようが、相手が何人だろうが、あたしがあんたを守ったげるから。

モイラ

ううん、違うの名探偵ティッピ……私にも何かできることがあるんじゃないかって考えてただけだよ。

ティッピ

ん?

モイラ

マイケルさんは亡くなったけど、前に頼まれたことは、無駄になるわけじゃない。

グレータさんが言っていた脱出ポッドにある陸上艇はもう犯人に目をつけられているかもしれない……

けど、別の逃げ道を考え出せたり、地上に繋がる装置を作れたり、それか私たちが通れる排気口だけでも見つけることができれば……

どこかから私たちを見張る犯人を避けて、ピンチの時に自分を守れるかもしれないよ。

ティッピ

モリー……

モイラ

ティッピ、あなたは私がチームに加わったあと初めて話しかけてくれて、仲良くなった友達だよ。

私はたくさん失敗して、あなたにも迷惑をかけた。でもティッピはいつでも前に立って庇ってくれたよね。マリオンさんが私の名前をど忘れした時だって、ちゃんと注意してくれた。

ずっと私のことを気にかけてくれて、慰めてくれて、守ってくれた……

今度は、私があなたを守るよ。

ティッピ

……

リーベリの女の子は、チーム内で最も仲の良い友人を優しく抱きしめた。

ティッピ

この件が終わったら、モリーのおうちに行って映画を見ようね……二十四時間ホラー映画を流そう。あたしたちの大好きなドリンクと鱗獣フライをお供にしてさ。

モリーが育った場所を見てみたいな。それとあんたの優しいお姉さんがどんな人なのか会ってみたい。

モイラ

……わかった。

メラニー

温かい親友の語らいのお邪魔だったかしら。

ティッピ

あれ、メラニーさん? どうして自分で小道具部屋まで来たんですか? アシスタントさんは?

メラニー

グレータからメッセージを受け取ってないの? 彼女は全員分の報酬を支払って、制作チームを正式に解散させたのよ。

犯人を恐れている人、天災が怖い人、撮影に参加し続けたい人……今後どうするかは自分で決めていいらしいわ。各々好きにしていいんですって。

だからあっという間に、私の下にいた腰抜けはどこかへ逃げてしまったわ。

モイラ

各々好きにしていい?

これだけたくさんの人が殺されたのに……グレータさん、いえ、チームのほかの人たちは事件の裏にある本当の理由が何か気にならないんですか?

メラニー

本当の理由? こんな状況で真相を追い求めようなんて人がまだいるとでも? 移動区画から逃げ出して警察に通報した方がいいに決まってるでしょ?

それか、グレータが言っていたように――真相は探偵ごっこをしたい物好きに任せればいいわ。

モイラ

……

ティッピ

それじゃあ何のためにあたしたちの所に来たんですか?

メラニー

あなたたちじゃなくて、あなたの所に来たのよ、スプレーアーティスト・ティッピ。

ティッピ

あたし?

メラニー

天災を撮影しようとするグレータの度胸は評価するし、彼女の向こう見ずな行いも私個人にしてみればこの上ないチャンスなの。でも、映画っていうのは天然の背景だけで成り立つものじゃないわ。

ティッピ、あなたの映画に対する情熱はこのチームでも上から数えた方が早いのはよく知っているわ。あなたも、このプロジェクトが私にとってどれだけ重要か、多少は聞いてるでしょ……

だから、あなたには雰囲気作りと色彩感覚の才能を存分に発揮して、私のラストシーンに最高のセットをデザインしてもらえればと思ってお願いしに来たのよ。

ティッピ

わぁ……

すっごくやりたいです、でも……

モイラ

ティッピ、メラニーさんを手伝ってあげて。

ティッピ

あれ、モリー、レインコートなんか着て……本当に「探検」に行くつもり?

モイラ

うん。

安心して、私も小道具班に長くいるわけだし、この区画についても詳しいから。何も起きないよ。

さっき話したこと覚えてる? これは私がやらなきゃいけないことなの。

ティッピ

わかった。

メラニーさんを手伝い終わったら、探しに行くね!


ルシアン

どうぞ、ミズ・グレータ。

グレータ

扉を開けてもいないのに、私だってわかったの?

ルシアン

ああ、君を待っていたんだ。

グレータ

……

あの日あなたが密かに探り出した手がかりのせいで、予定よりも早く全メンバーに本物の天災を撮影する計画を説明するはめになったわ。

望ましいタイミングじゃなかった。アブナー、それと他のメンバーは元から私に不満を抱いていたから、あまりにも重大な決定を急遽下すしかなくなったのよ。

ルシアン、私がその気になれば、他人の財物を占有した罪であなたを訴えられたわ。

ルシアン

しかし?

グレータ

しかし、私は自分の体面を保ったり感情をぶちまけるためだけに自分のスタッフを罰したりはしないの。あの時あなたの過ちを追及したところで何の意味もなかったことだしね。

その後でまた殺人事件が起き、犯人は自分の凶行を隠さなくなった。みんなが気を動転させる中で、あなたはいつもと変わらず、一人離れた場所から冷静に傍観している。

この状況になって、ようやくわかったわ、あなたがここに来たのには別の目的があるって。

ルシアン

……

グレータ

でも、今となっては些細なことね。チームは解散したし、ここを離れるのも、契約満了まで残るのも、あなたの自由よ。

あなたはもうクランクアップしてるしね。

ルシアン

いいや。

ミズ・グレータ、君がこうして私を訪ねてきたことが、私の芝居はまだ終わっていないことを証明している。

グレータ

……もう一人の「ミズ・デュポン」を今から見つけることも、三人の「ロックフェラー」を死から蘇らせることもできないわ。

時間も人手もほとんど残っていないのよ。限られたリソースの中から最適解を見つける必要がある。

ルシアン、これから、あなたには主演を務めてもらいたいの。


深夜の仕事部屋に荒々しいタイピングの音が響く。

憔悴しきった顔のペッローがタイプライターの前で縮こまっている。彼は最新の脚本に目を通すと、タバコを押し付けた。

スティーヴン

結末、結末、結末……

ミズ・デュポンは最後に死ぬべきだ……

「彼女はロックフェラーの次男と駆け落ちし、二人は外との一切の繋がりを断って、詩に詠われるような田舎暮らしを始めた。」

「しかし、ロックフェラーの身には貴族生活が色濃く染みついており、彼は最終的にミズ・デュポンの偽りの姓を辱めた後、彼女のもとを去った。その後ミズ・デュポンは絶望の中で自害する……」

これではあまりに写実的すぎる……

贅沢な生活から離れたら罰を受けなければならないのか?

これはクルビアの歴史において、富が最も美徳であるとされていた時代だ。俺がやりたいのはそれを再現し、観客に評価させることであって、映画の中で自分がそれを批判することではない!

押し付けたタバコによって空いた穴が瞬く間に紙のページ全体を呑み込む。スティーヴンは脚本だった灰を思い切り吹き飛ばした。

スティーヴン

「ミズ・デュポンは結局どのロックフェラーも選ぶことはなかった。彼女は恋人という名を借りて偽りの運命から逃れようとしたが、愛の持つ毒性を見誤ったのだ。」

「ロックフェラー兄弟はまるで示し合わせたかのように、それぞれが復讐を企て、最終的にミズ・デュポンは三人の手によって同時に命を奪われる……」

あまりに低俗だ……

選択をしなかったにも関わらず愛の泥沼に陥るのは、一見ある種の因果と宿命のようだが、実際は機械的に当てはめているだけだ。

最終的にミズ・デュポンが無残にも死ぬ姿は確かに衝撃的なシーンになるが、展開があまりに雑だ……

「ミズ・デュポンの一族がヴィクトリア貴族になりすましていたという真実が遂に白日の下に晒された。三人のロックフェラーの愛がどれだけ深かろうと、彼女を制裁から守ることは叶わなかった。」

「ミズ・デュポンが人生で唯一、貴族の待遇を受けたのは、本物のデュポン家が彼女を死刑に処す時だった……」

だめだ……まとまりすぎている!

プロットを練りに練って、象徴性を追い求めた挙句、『ミズ・デュポンの死』に宿るべき狂気とロマンが消えてしまった……!

チッ、また原稿用紙がなくなった。棚まで取りに行かなきゃ……

うわっ!

スティーヴンは自分が床に投げ捨てた紙くずに足を滑らせ、ひっくり返って倒れた。

その時になってようやく、彼は仕事部屋が捨てられた脚本の紙くずで埋もれて足の踏み場もないことに気づいた。

涸れ果てたインスピレーションの中央で寝転び、顔を両手で覆うと、彼は絶望の叫びを上げた。

スティーヴン

スティーヴン・クウェイ、*ランクウッド現場用語*目を覚ませ! 丸々二ヶ月結末を書き直しておいて、今になってもなんとか使える展開の一つすら思いつかないのか!

これはお前のオリジナルの脚本だろうが。お前が一文字一文字ひねり出して作り上げた物語だろ。まさか自分ですら何を書きたいのかわからないってのかよ!

苦しみこそが名作を生み出すというなら、今が傑作に近付く時なんじゃないのか?

撮影が終わろうとしているプレッシャーも、天災を撮影すると聞いた衝撃も、連続殺人犯がもたらす恐怖も……全部揃ってるだろうが! まだ何か足りないっていうのか?

「インスピレーションの神」だって? ハッ!

あんなのただグレータへの言い訳だろうが……お前の神は来やしない。もう繋がりを失って長いだろうが!

……誰だよ……

……結末を思いつかせてくれるなら、誰だっていい。