聖山降臨1101OS-3・戦闘前雪と茂みの中で
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カジミエーシュクルビアリターニアヴィクトリアイェラグ
ウルサスカジミエーシュクルビアリターニアヴィクトリアイェラグ

名前

聖山降臨1101 OS-3・戦闘前

雪と茂みの中で

ペイルロッシュ使者

ラタトス様、一昨日の三家での討論について、当主からの言伝を預かりましたので、お伝えいたします。

ペイルロッシュ家は外部の人間に対して、強硬な態度を貫いて参りました。これは、信仰を持たぬ者たちをいくら警戒してもしすぎることはないと考えてのことです。

加えて、巫女様が巡礼に出られた今、イェラグの政務は一時的に三家に返され、各自が処理することとなっております。こうした時こそ、我らは一層警戒を強めねばなりません。

アークトス様も、エンシオディス様を悪人と考えているわけではありません。ですがシルバーアッシュ家がヴィクトリア人に近付きすぎているのは事実ですし、あの方のお考えはわかりかねます。

一方でアークトス様は、ラタトス様がイェラグの伝統を重んじる方であることを信じておられますので、あなたとの交流は喜んで行いたく、何かご意見があれば、ぜひ話し合いたいと仰せでした。

ラタトス

……話はそれだけかい?

だったら、私の言葉もそっくりそのままアークトスに伝えてもらおうか。

天災がペイルロッシュ領内で起きたことを、アークトスの奴が未だに根に持ってるのかどうかは私は知らないし、興味もない。

だけど、議論すべきことは前回の会議で結論が出てるはずだ。蔓珠院の指示がない限り、どの家も軽率な行動を取るべきじゃないんだよ。

巫女様不在の今、私たちがそれぞれの家の政務に気を配り、余計な問題を起こさないようにすることこそ、イェラグにとって最善の道じゃないのかい。

話は終わりだ。客人を見送ってやりな。


ヴィクトリア大使

どうやら、この手の面倒ごとはどこに居ようと避けられぬことのようですな。

ラタトス

お見苦しいところをお見せしました。ですが些細な意見の食い違いですのでご心配には及びません。

それより本題に戻りましょう――ヴィクトリアの高級ファッションブランド数社と、ブラウンテイル家の長期提携についてですが……

ヴィクトリア大使

いやいや……敬愛なるブラウンテイルさん、失礼ながらこれは、些末な意見の食い違いなどではございませんよ。

イェラグの方々が皆、ヴィクトリアに対してこうした敵意を抱いておいでなら、我々の協力関係が長続きするということをどうして信じられましょうか?

ラタトス

三大名家は時に意見がすれ違うこともありますが、当家の姿勢を決められるのは当家のみですので、その点はご安心ください。

ヴィクトリア大使

三大名家の対立ですか……ふふっ、ヴィクトリアの人間としては、そうした構図は理解しがたくもないものです。

私はイェラグへの滞在中、この国を理解しようと試みてきました。この地の文化は馴染み深くこそありませんが、興味深いものです。

イェラグの方々はイェラガンド信仰のもとに団結してはおられますが、同じ教義が各家に対して異なる指針を与えているようにお見受けいたします。

ペイルロッシュ家は勇敢で、シルバーアッシュ家は聡明、ブラウンテイル家は……申し訳ない、一言で讃えるには難しいですね。

しいて言葉にするのならば、ブラウンテイル家は「気高く信頼に足る」とでも言いましょうか。

ラタトス

……よくそこまでお調べになりましたね。

ヴィクトリア大使

十分な理解は協力関係の前提ですので、このくらいは。

公爵閣下はイェラグとの協力を非常に重視しておられます。それゆえ、イェラグを代表しうる信頼できるパートナーをお探しになられているのです。

ラタトス

イェラグを代表しうるパートナー、ですか? もしや公爵閣下はカランド貿易との提携にご不満が?

ヴィクトリア大使

エンシオディスさんは非常に聡明なビジネスマンですが、それが彼の欠点でもあります。彼はビジネスの領域においては、己以外の勝者が生まれることを決して許さない人なのです。

彼の隣人であるあなたは、その点をよくご存知でしょう。

ラタトス

ふっ……的を射た要約をなさいますね。

ヴィクトリア大使

そして、問題はそこにあるのです。三大名家は名目上、イェラガンドのもとに平等な民ではありますが、純粋な傍観者である私からすればそうは見えません。

失礼を承知で申し上げますが、私のような部外者から見ても、此度の天災においてブラウンテイル家やペイルロッシュ家が有効な決定をほとんど下せなかったことは明らかでした。

シルバーアッシュ家のカランド貿易は、イェラグの対外貿易をほぼ独占しているだけではなく、政治面でもイェラグの対外交流を主導しています。

さらには、理論上イェラグの真の権力者である巫女様――エンシオディスさんの妹君も、現状に異議を唱えてはおられないようです。

ラタトス

言葉にはお気を付けください。あなたの偏見でイェラグの巫女様の信心を推し量るなど、極めて不敬な行為ですので。

ヴィクトリア大使

失礼いたしました。私の物言いにご気分を害されたのならお詫びします。ですが、悪意はないとどうか信じてください。先ほど申し上げた通り、すべては部外者の目から見た状況の話ですので。

ラタトス

まあ、いいでしょう。では、率直に伺いますが――あなたのご提案とは?

ヴィクトリア大使

ヴィクトリアは友好的で対等な、真に互いに利の在る協力関係を望んでおります。

どちらかだけが利益を得るのではなく、偏狭な民族主義に縛られることもない、効率的で長期的な協力関係を、です。

そして、ブラウンテイル家、並びにあなたに対して、公爵閣下は好意的な視線を向けていらっしゃいます。私がこの場に現れたことこそ、その証明と言えるでしょう。

ラタトス

ブラウンテイル家は、外部のどなたからの評価にも価値を見出すことはありません。そうした提案こそが、ヴィクトリアの立場が揺らいでいることの証明と言えるでしょう。

仮に、あなた方が、ブラウンテイル家を「より操りやすいシルバーアッシュ家」としてしか見ていないのならば、それは大きな間違いです。

ヴィクトリア大使

いいえ、そのようなことは決してございません。

ヴィクトリアは従順な者を好むわけでもなければ、他者からの迎合を求めるわけでもなく、正しき行いを求めているだけです。

シルバーアッシュは時に開き、時に閉ざされる窓に過ぎません。その室内に何があるかは、内部に身を置く人こそが最も良く知るところでしょう。

――あなたは、この地で繰り返される無意味な家々の争いにうんざりなさっているのでは?

あるいは……ご自身の手で、まったく新しいイェラグを導いていきたいとお思いなのではありませんか?

ラタトス

……

もう結構です。この辺りにしておきましょう。

今晩はご足労いただき、ありがとうございました。ご提案は十分に理解できましたので――こちらからも、公爵閣下にお伝えいただきたいことがございます。

閣下はイェラグをまだよくご存知でないご様子ですが、いつかご理解いただけるよう心から願っております、と。

ヴィクトリア大使

わかりました。残念ながら、こうした政治的な問題が解決するまでは、我々の商業提携については一時的に保留となるやもしれませんね。

ですが、それでも構いません。あなたのような重要なパートナーのことなら、十分待つに値しますので。

いつでもご回答をお待ちしております。


親愛なるエンシアへ。

この手紙を読む頃には、あなたは私の決断を知っているのでしょう。

どうか心配しないで。少し遠出をするだけだとでも思ってくれたらいいわ。

前に、蔓珠院の厨房へ忍び込んでチーズフォンデュを一緒に食べようと約束したけれど、あれはまだ先のことになりそうね。だけど、帰ってきたら必ず約束を果たすから。

それから、エンシオディスのことも心配しなくて大丈夫よ。あの人にはあの人の考えがあるもの。ただ、しばらくはとても忙しくなるでしょうから、家のことはお願いね。

最近は色々なことが起きているから、よく気を付けてね。特に外に出る時は、くれぐれも注意してちょうだい。

じゃあ、行ってきます。帰ってきた時に、いつも通り楽しそうなあなたに会えるなら、それが姉さんにとっては何よりの幸せよ。

あなたたちにイェラガンドの祝福がありますように。

追伸:ロドスでの定期検査を忘れないでね。お医者さんの言いつけをしっかり守って、登山の時には防具を身に着けること。

エンシア

……

チェスター

エンヤからの手紙かい?

エンシア

うん……

いつもこうなんだ。

お兄ちゃんだってそう。うちはただでさえがらんとした家なのに、あたしが旅行から帰ってきたら、お兄ちゃんまで家の中からいなくなっちゃってさ。

チェスター

今は非常時だからね。二人も、イェラグを守るために全力を尽くしているのさ。

だから、私たちにできるのは、二人を信じて応援してあげることだけなんだよ、エンシア……

エンシア

わかってるよ……でも、ちょっとムカッときちゃってさ。

二人とも、いつまでもあたしを子ども扱いして、何も教えてくれないんだもん。それで結局、余計な心配する羽目になるでしょ。

あたしだって力になりたいのに……

使用人

エンシア様、チェスター様……

エンシオディス様はご不在ですか……?

エンシア

この時間なら会社に行ってると思うけど、どうかした?

使用人

蔓珠院からの使者が到着されまして、本日はペイルロッシュ家と鉱山業務の分担について会議があるので、旦那様に関連書類の事前提出をしていただきたいと仰っていたのです。

チェスター

会議書類ならこちらにあるが……事前提出だって? それは緊急の通達なのか?

使用人

具体的なことは、使者の方からも説明がありませんでしたので……

チェスター

わかった。車を出してくれ。私が向かおう。

彼がそう言い終わらないうちに、エンシアはその書類を奪うと扉の外へと駆け出した。

エンシア

チェスター叔父さんは家で休んでて! この件はあたしが片付けてくるから、任せといてよ!

チェスター

エンシア……! 戻りなさい!

旦那様から、勝手に外出しないようにと言われただろう!

エンシア

大丈夫だって! きっとお兄ちゃんが忙しすぎてうっかり忘れものしただけだから! 後で笑ってやらなきゃね!

よーし、出発!

チェスター

どうしたものか……

まずは旦那様に連絡せねば……


早朝、蔓珠院へと続く山道を、茶色の車が走っていた。後部座席に座るアークトスは、自分の首筋をさすっていた。

アークトス

はぁ……

この早朝から会議に呼び出されるとは、鉱区管理の分担の件はそこまで急ぐ話だったか?

グロ

聞いた話じゃ、最近のエンシオディス様は徹夜してカランド貿易で過ごしてることも多いらしいですから、あの人の生活リズムに合わせて朝方の会議になってるんじゃねえですかね。

アークトス

ふん――

そうは言っても、話し合いは大体済んでいることだ。シルバーアッシュ側が書類をまとめたら、俺が署名して終わりだろう。

グロ、前回の議事録を出せ。もう一度目を通しておこう。

グロ

わかりました、旦那。

助手席に座っていたグロが書類を取り出して、アークトスに手渡そうと振り向いた瞬間、突然車が揺れた。

アークトス

クソッ! 何事だ?

ペイルロッシュの運転手

や、や、山からの落石が! 危うくぶつかるところでした!

グロ

落石だと? なんだってこんな場所で?

その言葉が終わるより早く、車体が再び激しく揺れ動き、落ちてきた石がトランクを叩いた。

グロ

旦那! 車内は危険です! 前の道も岩で塞がれてますし、すぐ降りてくだせえ!

アークトス

*イェラグスラング*!

三人は車を捨て、山のほうへと駆け出したが、凄まじい量の落石を前に成すすべもなかった。

グロ

旦那、あぶねえ!

アークトス目掛けて岩が落ちてきたのを見るや、グロは全力で彼を突き飛ばして庇い、その岩は彼の額に直撃した。たちまちそこから血が噴き出して、グロの巨体が地面にどさりと崩れ落ちる。

突き飛ばされたアークトスは、倒れたグロのほうへと身を低くしたまま這っていき、彼の腕を掴むと、山のほうへと引きずっていく。そのあとには、血の痕が長く残された。

そのすぐあとから、落石が血痕を覆い隠していく。

アークトス

グロ! しっかりしろ!!


デーゲンブレヒャー

……

朝霧が晴れていく中で、エンジンの唸りが雪山の静寂を打ち破る。その静寂は、今のデーゲンブレヒャーが望むものではなかった。

彼女がオートバイのアクセルを全開にして駆け抜ければ、山道両側の景色は目まぐるしく流れていったが、彼女の探している姿はなかなか目に入ってこなかった。

それでも山道の上には、まだ二筋の轍がくっきりと残されており、追跡している相手はそう遠くないだろうと思われた。

デーゲンブレヒャー

この先ね――

デーゲンブレヒャーが身を翻してバイクを降り、山道の角を曲がると――


デーゲンブレヒャー

……

少し先で、衝突したらしき二台の車が燃え上がっていた。凄まじい煙と、それに伴う焦げ臭いにおいが周囲に広がっている。

デーゲンブレヒャーはすぐに腰から武器――鐧(カン)を抜くとそれを振るって、雪を纏った強い風を起こし、火を消した。すると、見慣れたシルバーアッシュ家の車がそこにある。

彼女の鐧が軽々と車のドアを割り開く。彼女が何より恐れていた光景はそこに広がってはおらず、車内はもぬけの殻だった。

その時、崖のほうから石がぶつかり合う音が聞こえてきた。


デーゲンブレヒャーが音のしたほうを見下ろせば――顔こそ煤まみれにはなっていたが、探していたその人物がそこにいた。

エンシア

ブレヒャーお姉ちゃん!

……

エンシアはフックで岩肌にしがみついたまま、デーゲンブレヒャーを見上げ、この気まずい状況を和らげるにはどのような表情をしたものか、と一瞬戸惑うような顔をした。

エンシア

ごめんなさい、やらかしちゃった……あはは……


エンヤ

……「主の国は未来を約束するものにあらず。」

「また、過去のために築かれたものでもない。」

「たゆまず歩み続ける者こそ、主に最も近き者と心得よ。」

「主の恩寵は、常に旅人の足元にある。」

……

白い毛皮の襟に雪の結晶を貼り付かせたまま、孤独な旅人はフードを深く被り、森を抜ける寒風に逆らい、山の上へと向かっていた。

森に落ちた枝が積雪に混ざり、マントをしっかりと身にまとうエンヤの足取りを妨げてくる。

修道士たちは、「吹き荒ぶ風雪はイェラガンドが信徒に与える試練である」と常々言っていたが、エンヤは「主」がこうしたやり方で自分を苦しめるはずがないことを知っていた。

エンヤ

ヤエル……

幸いにして、森の中には、巫女が休息を取れる場所があるようだった。森の奥から、焚き火の煙が立ち上っているのが見えたのだ。その場所で足を休められそうだ。

エンヤが歩みを進めれば、そこにはまだ燃えている炎があり、周囲に貴重な温もりをもたらしている。彼女は思わず焚き火のそばへと歩み寄り、それに両手をかざした。

その場に吊るされた獣の皮は、ここが狩人の野営地であることを物語っている。茂みに囲まれ、ぽつんと立っている木の小屋には、人の気配はなかった。

その時、近くの茂みが揺れて、かさかさと音を立てた。金属の矢じりが葉の隙間からのぞき、焚き火に向けて狙いを定めて――

エンヤ

どなたですか?

エンヤは素早く身を翻したが、高速で飛んできた矢はその右足を直撃した。鮮血が分厚い服の上に滲み出す。

反射的に鈴を掲げても、激しい痛みに足元がふらつく。襲撃者はすでに茂みを抜け出し、二本目の矢をつがえて、巫女の心臓に狙いを定めていた。

――鋭い風音がした。

鈴の音が鳴り、風雪が倒れた襲撃者を飲み込んで、雪上は次第に赤く染まっていく。だがそれは、決して聖鈴の力ではなかった。

エンヤが目を凝らせば、襲撃者の喉には短い矢が刺さっている。

そして突然、小さな手が力強くエンヤの腕を掴んで、彼女を勢いよく引っ張った。

空を切る矢音がかすかに聞こえて、遠くでは新たな襲撃者が倒れこむ。それでも、森に潜んでいたその仲間たちは次々と姿を現し始めていた。

小さな猟師

*イェラグスラング*、どこの奴だ、この野盗ども! あたしのいない間に、勝手に野営地を利用して強盗を働こうだなんて!

猟師らしき格好をした少女は、薬草と雲獣の匂いをまとい、その体躯にはやや大きく見えるクロスボウを掲げたままエンヤの前に立った。

小さな猟師

いつまでぼーっとしてるんだ!?

……

あんたシルバーアッシュ家の奴か……どうしてこんなとこに?

……とにかく、あたしについてきて!