聖山降臨1101OS-ST-3・幕間心を求めて
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カジミエーシュクルビアリターニアヴィクトリアイェラグ
ウルサスカジミエーシュクルビアリターニアヴィクトリアイェラグ

名前

聖山降臨1101 OS-ST-3・幕間

心を求めて

ラタトス

つまりあんたは、カスター公爵がとっくの昔に大量の工作員をイェラグへ派遣してたって言いたいのかい? しかも、それが全部将来的にイェラグを併合するための準備だったって?

でも、そんなことどうやって実現するってんだろうね。

ヴィクトリアの記者

まあ、これはあくまで……私がイェラグで見聞きしたことに基づいて導き出した、合理的な推測なのですが。

ラタトス

で? イェラグに潜むヴィクトリア人どもの中で、あんたみたいな正義を追い求める記者だけは例外だってのかい?

ヴィクトリアの記者

そんな言い方はないと思います!

私はアルバータというのですが、あなたがヴィクトリアの報道に少しでも知見をお持ちであれば、新聞への掲載を禁じられた真実を私がどれだけ報道してきたか、耳にされたことがあるはずです。

アルバータ

そうでなくとも、私は自分の仕事に誇りを持って務めています。

ラタトス

ふん……

一旦あんたの言い分を信じよう。だが、それだけで嫌疑が晴れたとは思わないことだね。

あの爆発以来、ヴィクトリアが送ってきたスパイは、私が衛兵を指揮して排除してきたんだ。

今言ったことが本当だって言うなら、私たちを撮影班の駐留地まで連れていきな。こっちには、あんたの言う工作員と話すことが山ほどあるんだ。

まさかイヤだとは言わないだろうね?

アルバータ

ですが――

ラタトス

!?

デーゲンブレヒャー

避けて!

デーゲンブレヒャーがそばにいたラタトスと記者を掴み、後ろの部屋へと飛び込むと、瞬間、どこからともなく投げ込まれたスタングレネードが先ほどまでいた部屋で炸裂する。

すると、閃光をまともに受けてしまったブラウンテイル家の衛兵が悲鳴を上げた――彼の心臓を投げナイフが貫いたのだ。

ラタトス

クソッ!

デーゲンブレヒャーが戸口から身を乗り出した瞬間、再び投げナイフが飛んできた。彼女は身をひねってそれを躱し、ドア枠に刺さったナイフを見やる。

デーゲンブレヒャー

このナイフ、相手は「グレーシルクハット」ね。

あなたたちはここに隠れてなさい。私は向こうの規模と動きを確認してくるわ。

言うが早いか、彼女は腰に帯びた二本の鐧(カン)を猛然と抜き、暗がりから飛んできたナイフ二本を弾き落とすと前へ飛び出した。その勢いに、記者は無意識に目を細める。

ラタトス

ちょっとあんた――

どうなってんだい? なぜ「グレーシルクハット」にこの場所がバレてる?

まさかあんたがあの連中に知らせたのか? ずっと見張ってたはずだが……

アルバータ

いいえ、そんなことしてません。それに、持ち出した物に怪しい点がないかは一通りチェックしましたし、尾行もいませんでした。

っ、危ない!

部屋が激しく揺れ、記者はラタトスの袖を掴むと横へ避けた。すると、崩れた天井から落ちてきた瓦礫が、彼女たちのいた位置に直撃した。

ラタトス

……じゃあどう説明するつもりだい?

アルバータ

あっ……もしかして……!

首から下げたカメラを持ちあげレンズを外すと、彼女はシャッターを押した。すると、内部構造が駆動した際、そこからかすかに赤い光が放たれているのが見えた。

そこで彼女は怪しいパーツを取り外し、中を検めた。すると、中には小型の位置追跡装置が埋め込まれていた。

アルバータ

ごめんなさい、こんなところに仕掛けられてるなんて……

その時、爆発音が響き、二人の隠れていた部屋に煙が流れ込んできて、その煙の中からかすかに息の上がったデーゲンブレヒャーが姿を現した。

デーゲンブレヒャー

第一波として「グレーシルクハット」が三人いたから撃退しておいたわ。だけど、彼らの呼んだ応援部隊がもう来てるみたい。

あなたの安全のために、ここから離れましょう、ラタトス。

ラタトス

……

蔓珠院へ向かおう。この近くの山道に、蔓珠院への隠し通路があるんだ。

あの連中がどう出てくるにせよ、蔓珠院に軽々しく手出しはできないはずだ。時間は稼げるだろう。

アルバータ

私も連れて行ってもらえませんか。

「グレーシルクハット」はまだ追跡してくるでしょうし、そこで彼らがイェラグ内で行おうとしている暗殺行為を記録して、以前撮った素材と一緒に国内の知人に託して、発信してもらうつもりです。

そうすれば、ヴィクトリアのしていることを大衆の目に触れさせられるはず――

ですから、あの人たちに捕まるわけにはいかないんです!

ラタトス

……そんな理屈をこねなくたって、どのみちあんたのことは、エンシオディス同席のもとで尋問しないといけないんだ。

もとより、嫌でも着いてこさせるつもりさ。


「グレーシルクハット」

……はい、ラタトスは生きていました。彼女を含む三名がすでに蔓珠院の北門に入っています。

残り二名は、逃亡した記者と、護衛として付いている、かの高名な黒騎士です。

公爵様のご指示を仰げますか?

……そんな……

……公爵様自ら、イェラグへ足を運ばれるということですか?


カランド貿易本社

及びカランド貿易前会長であり、我が姪エリザベスの息子――エンシオディス・シルバーアッシュ

並びにすべてのイェラグ人へ

これはカランド貿易及びエンシオディスの道理にもとる行いへ意見すべく書かれた公開書簡である。

私はこの書簡によって、ヴィクトリアとイェラグが共に受けている、本来避けられたはずの不公平な事柄すべてに対して、正式に抗議を表明する。

……


カランド貿易の従業員

社長! こちらにいらしたのですね!

ノーシス

何事だ? 落ち着いて話してくれ。

カランド貿易の従業員

か、カスター公爵から書簡が送られてきたのです。内容は公開されていて、すでに民衆の間にも広まっています。

イェラグについて……とりわけ、カランド貿易についてあれこれと書かれています。

ノーシス

彼女は何と?

カランド貿易の従業員

我々が信用に値しないと。それから、エンシオディスさんが――

ノーシス

書簡をこちらへ。

……

理事会の全員を集めるんだ。ただちに本社へ集合せよと。

感情的に行動するなとも伝えてくれ。


……

エンシオディスの第一の罪、すなわちすべての悲劇の元凶は、クルビアからの利益を受け取り、カランドに大穴を穿ち、観測所を建設したことである。

その後、天災が降りかかったということは、反論の余地無き事実である。

あまりの驚きに、彼は続けて第二の罪を犯した。ヴィクトリアが人道支援として届けた物資を、交渉の名目で差し押さえ、私腹を肥やしたのだ。

さらにはこの恥知らずな行為を正当化すべく、エンシオディスは故意に矛先をヴィクトリアへと向け、根拠もなくヴィクトリアの観光客や在留民を誹謗中傷した。これが彼の第三の罪である。

そして、彼の民意を弄ぶ所業の極致たる第四の罪は、ラタトスと共謀して、彼女の死を捏造することで、ブラウンテイル領民を欺き、ヴィクトリアへの憎悪を扇動しようとしたことである。


疑問に思うイェラグ人

「……ラタトスが蔓珠院内に潜伏中という証拠は掴んでいる。疑問を持つ民は確かめに向かうのも良いだろう。しかし、エンシオディスは罪を犯した後ろ暗さゆえに私兵を配置していかねない。」

こんなの……いくらなんでも誇張しすぎだろ。

苛立つイェラグ人

俺は前々から疑ってたけどな。お前たちには陰謀論呼ばわりされたけど、これで辻褄が合っただろ?

頑ななイェラグ人

なんでこれを見てそう思うんだよ。全部ヴィクトリアの一方的な言い分じゃないか。

苛立つイェラグ人

第五の罪ってのが書かれてただろ? エンシオディスがラタトスに指示してヴィクトリアの記者を誘拐させて、蔓珠院に隠したなんて具体的で真実味のある話が、作り話だと思うのか?

疑問に思うイェラグ人

それに、第六の罪ってとこには、蔓珠院を掌握するために、自分に従わない修道士を逮捕したって書いてあったが、これも言われてみれば納得だろ。

あの日、蔓珠院からは確かに、山へ登って祈りの儀式に参加してほしいって呼びかけがあったのに、俺たちは部隊を率いたデーゲンブレヒャーさんに止められたじゃないか。

頑ななイェラグ人

じゃあ、この第七の罪とかいうのは何なんだよ? どう見たって、もっと大きな利益を求めたヴィクトリアが、カランド貿易に拒絶されてるだけの話だろ。

苛立つイェラグ人

何言ってんだ! これこそ、エンシオディスがイェラグを売った証拠だろ!

カランド貿易が同盟を裏切って義理を捨てたっていうヴィクトリアの言葉も理に適ってるだろ! 俺たちは皆、エンシオディスの感情的な行動のツケを払わされてるんだぞ!

頑ななイェラグ人

だったらお前は、ヴィクトリア人の出した条件を全部飲むべきだってのか? 連中はカランド貿易と前に契約した採掘場の共同計画を承認しろだの、エンシオディス様の罪を裁けだの言ってんだぞ!

苛立つイェラグ人

言っとくが、ヴィクトリア側が蔓珠院との共同審理を要求して来てることは何の問題もない! エンシオディスの犯した罪は追放程度で済むようなものじゃないからな!

頑ななイェラグ人

あの人に罪があるとすれば、この新しくできた酒場でお前が無責任に好き勝手ほざけるようにしちまったことくらいだ!

苛立つイェラグ人

じゃあ功績は全部あいつのもんで、犯した罪は全部他人のもんだって言うのか? バカげてる!

疑問に思うイェラグ人

……俺には判断がつかないが、結局苦しむのは俺たちだろうってことだけはわかるぞ。

頑ななイェラグ人

兄弟、エンシオディス様を信じろよ。俺はあの人に助けられたことが――

苛立つイェラグ人

なんだ?

イェラグの酒場店主

そ、外で……


ノーシス

……ここへ来る途中、煽動的な言葉ばかりを聞いてきた。

このような時に、まだ雪を眺めるつもりだとは言わせないぞ。

エンシオディス

……

ノーシス

こう尋ねるべきではないのかもしれないが――

こうなることも、君の想定の内か?

エンシオディス

……そうだと言ったら、信じるか?

ノーシス

信じるさ。

我々は準備を怠っていたわけではないからな。つい先日訪れたイェラグ発展の好機にも、カランド貿易は――

エンシオディス

今度はお前のほうが私より楽観的だと言えるかもしれないな。

知っての通り、どれほど万全の備えをしても、世の中には常に予測を超える部分があるものだ。

まずは三家、次いで蔓珠院、そこからすべてのイェラグ人へと影響を広げようとするヴィクトリアのやり方には、その手腕の一端が窺える。

ノーシス

賭けをするたびにチップをすべて注ぎ込んできた君は、リスクを恐れたことなどないだろう。

エンシオディス

だからこそ、今こうしてその結果に向き合わされているとも言う。

暗雲垂れ込める曇天の下、ヴィクトリアの鋼鉄の巨艦が白い大地を踏み越えてくる。

ノーシス

あれがカスター公爵の艦隊か……

エンシオディス

聞くところによると、ロンディニウムの戦場で、カズデルのサルカズたちをヴィクトリアから追放したのは、まさしくあの艦隊だそうだ。

カスター公爵は戦後、その「栄光」を伝えるべく、旗艦をわざわざ修復している。

この大地において、あのような力に対抗できる者がどれほどいるだろうか?

……我々はより困難な道を自ら選んだ。その終着点に直面する時が来たのだ。

ノーシス

……


エレナ

ふぅ――

イェラグの山って、どうしてこんなに登るのが大変なのかな……

エンヤ

我慢してください、エレナさん。蔓珠院を避けて進むにはこの道しかないんです。

裂雲獣が不意に現れ、エレナの肩によじ登ったあと、再びジョアンナの懐に戻っていった。その鳴き声はひと際高いものだ。

ジョアンナ

ほら、裂雲獣に笑われてるぞ。

エレナ

笑いたければ笑ってよ……ここ数日で、今までの二十数年分の運動量と同じくらい動いてるんだから……

うなだれるエレナを見て、エンヤはくすりと笑ってから、山道の曲がり角を進んでいく。

少し先、道端に簡素な野営地が見えた。

そこでは、蔓珠院の修道士が大勢暖を取って休んでいた。その人だかりの中に、エンヤは人目で見覚えのある姿を見つけた。

ジョアンナ

エンヤ様、どうして止まるんですか?

……あれは、アドソ長老?

エレナ

誰?

エンヤ

まさか……このような場所でお会いするとは思いませんでした。

アドソ

何しろ、あなたはここに居られるべきではありませんからな、巫女様。

ジョアンナ

巫女様に対してそんな口の利き方――

アドソ

承知の上だ。巫女様が道を間違えておられることもな。

エンヤ

……身共がイェラガンドを探すべくここを訪れたのだとしても、ですか?

アドソ

人々は皆、何かを求めるがゆえにこそ主を探し求めるもの。

あなたは何をお求めなのですか?

エンヤ

あなたが身共を「聖巡」へとお導きくださったのは、イェラグの民に代わり、主へ贖罪を請うためでした。身共の願いもまた、主を見つけ出し、赦しを請うことです。

アドソ

あの時、私はあなたを蔓珠院から遠ざけたいと思っていました。

エンヤ

……そうせねば、蔓珠院は身共の「妨害」を受けずにはいられないからですね。

アドソ

本来なら、あなたが「聖巡」に出ている間に、我々がカスター公爵を焚き付けてエンシオディスに対して手を下させ、あなたが戻る頃には彼ら両者を疲弊し焦燥させている目論見でした。

そうなれば、蔓珠院はあなたの帰還を奇跡として宣言し、真の意味で局面を掌握することができたでしょう。

ですが、あなたの兄君はあまりに早く蔓珠院へ戦火を持ち込んだ。一方で私もまた、彼や公爵の囚人あるいは傀儡に成り下がるわけにはいきませんでした。

エンヤ

あなたがここにいらっしゃるということは、かつての蔓珠院の修道士と同じように、カランドの伝説にある古代の隠れ家に向かい、その「疲弊の時」が訪れるのを待つおつもりなのですね。

アドソ

こうなれば、巫女様も無意味に彷徨うことをやめ、私と共に山の上へと避難なさったほうがいいでしょう。

時が来れば、イェラグの民は、あなたと我らの登場をこの上なく渇望するはずです。

彼の背後で黙り込んでいた長老たちは次々に立ち上がると、巫女を取り囲んでいく。

ジョアンナは不安げにエンヤを見やり、無意識にクロスボウのほうへ手をやったが、エンヤはそっと首を横に振った。

エンヤ

歩みを止めるわけには参りません。間もなく、新たな天災が訪れようとしているのですから。

アドソ

なっ……

エレナ

巫女様の話は本当です。近頃の異常気象にはあなたもお気付きのはずでしょう。

私たちはすでに、「カランドの心」にまつわる重要な手がかりを見つけました。ですから、イェラグで天災が起きる原因を――

あるいは、イェラガンドの真相をも掴むことができるかもしれないんです。

アドソ

……そのようなことは無意味だ。

エレナ

長老――

アドソ

なぜなら、イェラガンドは実在しないのだから。

エンヤ

……

ジョアンナ

……何を言ってるんだ!?

エンヤ

身共が蔓珠院を離れるその時には、長老は相反する答えを示されたはずです。

アドソ

「イェラガンド」は草木や岩、言葉や行動の中に存在しうるものですが、その真の姿をこの大地に現すことだけはありえません。

なぜなら、主は如何なる実体も持たない、我らの想像上の存在であるからです。

ジョアンナ

いくら長老でも、主を冒涜するなんて許されないことだろ!

アドソ

……私も若かりし頃は君と同じような信仰を持っていた。父と叔父は幼き私を蔓珠院へと送り、ブラウンテイル家を密かに助けよと使命を押し付けてきたが、私は主にのみお仕えしたいと望んでいた。

大長老から蔵経閣の管理を任された時には、心躍ったものだ。ゆえに私は、主にまつわるすべての文字を、断片的な言葉であれ、荒唐無稽な散文であれ、繰り返し研究してきた。

だが、そうして読むほどに気付いてしまったのだ。いわゆる『イェラガンド』とは、人々が物語を寄せ集めて作った「経典」にすぎぬのだということに。

巫女様も、否定はできぬのではありませんか? あなたも最初の原本とされる書物をお読みになったはず。そこに記されていたのはほんの数語で、今の内容とはまるで違うものであったでしょう。

ジョアンナ

そんなの嘘ですよね、エンヤ様……

エンヤ

……

アドソ

市井の噂話から、無関係の記録、果てはどこから聞いたとも知れぬ外国の伝説に至るまでを、風雪と山々に結び付けて置き換えれば、それはイェラガンドの「奇跡」となる。

私は、経典の裏付けとなるような「他とは異なる」証拠をわずかでも見つけられたらと願い、必死に調べたが、結局見つけたのは、さらに多くの原型となった物語ばかりだ。

挙句の果てには、いくつかの書物の見出しに、当時の蔓珠院の長老たちが改編の書き込みを行った痕跡までもを見つけてしまった。

エンヤ

……なぜそれを他の人にはお伝えにならなかったのですか?

アドソ

口外などできましょうか?

巫女様、あなたにとって、イェラグとは何ですか?

エンヤ

それは一人のイェラグ人に答えられる問いではないと思います。

アドソ

そうでしょう。イェラグはすでに答えを示しておりますからな。ここは信仰の国であると。

エンシオディスはそれを覆そうとし、カスター公爵はそれを飲み込もうとしましたが、それでも、彼らとて表向きはイェラガンドへの信仰に逆らうことはできません。

ジョアンナ

主が存在しないなら、誰がイェラグを築き上げたっていうんだ?

アドソ

……我らは主の骨肉の上に我らの国を築いたのではなく、我ら自身の骨肉の上に主の国を築いたのだ。

イェラグ人の祖先は、この荒涼とした雪山に、辛うじて生き延びるに足る場所を切り拓いた。

人々は常に、何故運命が自らには辛うじて生き永らえることのみを許し、他者には幸福な暮らしを許すのかが、理解できぬものだ。

この希望の見えない此岸に投げ出された者が、どこか別の場所に生きるための慰めを求めるのは必然と言えよう。

歴代のイェラグ人が、偉大なる力に満ちた指導者に憧れを抱き、崇高さと倫理に期待を抱いたことによって、「イェラガンド」は生まれたのだ……

そして、「イェラガンド」は生まれた瞬間から、イェラグの本質となり――それは信仰されねばならぬものであるがゆえ、人々は代々嘘を語り継いできた。

イェラグには道徳と法、芸術と美学、家庭と習俗が必要だった。ゆえに主は「折に触れて」我らのそばに姿を現し、いくつかの意味深長な格言を残していった。

かくして、千年以上にわたる揺るぎない秩序が成り立ったのだ。

エンヤ

あなたからすれば、どんな手を使ってでもその「嘘」を守り続けることだけが、イェラグ存続の方法なのですね。

アドソ

そうですとも。

どのような場所にも、それぞれの嘘があるもので、イェラグにおけるそれは「イェラガンド」なのです。

エンヤ

……あなたの考えには賛同できかねます。

嘘は一時の安らぎをもたらすことこそできても、永遠に生き抜くための法とはなり得ぬもの。

あなたは嘘によってある種の秩序を維持できると信じるがゆえに、人々の誠実さへの渇望を無視して、感情は人を操る道具であると見なしておられます。

ですが人々の渇望があなたが作り上げた帳を突き破った時、蔓珠院と、蔓珠院が大切にしている信仰は、取り返しがつかないほど粉々に砕け散るでしょう。

そうした観点で言うと、あなたこそが、あなたの憎むエンシオディスの最大の味方であるとすら言えます。

アドソ

……一つだけ問いましょう。あなたはイェラガンドの存在を信じておられますか?

エンヤ

身共は……

彼女は己の記憶を探ったが、あの侍女長にまつわることは何一つ思い出せなかった。過去に見ていた声と姿も、曖昧な感情も。

今や彼女を支え、励ましの言葉をかけてくれる者はいない。どんな印象を抱いていたかも覚えていない。彼女の心には何も残っていなかった。

エンヤ

……信じています。

そうしたすべてを嘘だと長老は仰いますが、その嘘と対を成す真理もまた存在するのではないでしょうか。

ゆえに身共は、経典の教える熱意と善性を、そしてイェラガンドがイェラグに存在することを信じているのです。

身共はすでに神の道を見つけました。

長老がどうしても否定なさるおつもりなら、共に見届けに参りませんか。

アドソ

……

さらなる災禍がイェラグを待ち受けている今、あなたの「信じている」というお言葉は、何の助けにもなりません。

エンシオディスの功を焦ったやり方は、すでにイェラグの信仰を揺るがしつつあります。これは、我らがイェラグを救う最後の機会なのですよ。

エンヤ

……「聖巡」が始まった時から、あなたは身共を陰謀の一部に取り込んだとお思いだったのですね。

アドソ

我々は皆、生涯を信仰に託した者。ゆえにあなたなら、私の忠誠心をご理解くださるはずです。

エンヤ

では、身共に何を望むのですか?

アドソ

適切な時期に、私と共に蔓珠院へ戻り、局面を掌握してください。

カスター公爵との交渉がどうなるかはその状況次第ですが、エンシオディスは排除せざるを得ますまい。

エンヤ

……

アドソ

心優しいあなたが、兄君に手を下すことを躊躇うお気持ちは理解できます。

ですが、エンシオディスにイェラグを去ってもらうことは最低条件なのです。

エンヤ

あなたはただ、身共に行動を迫ろうとしているだけでしょう。

アドソ

この件を承諾してくださるなら、あなたをお探しの場所へお連れします。

私は若い頃にカランドを隅々まで探し尽くしました。ゆえに真実と向き合うことをお望みなのであれば、それが最短の道となりましょう。

エンヤ

……わかりました。

エレナ

エンヤ?

エンヤ

ただし、一つ条件があります。イェラガンドの実在を確かめられた暁には、エンシオディスにまつわる陰謀すべてを捨てていただきます。

アドソ

……いいでしょう。

我らの「イェラガンド」に誓って。