約束されざる地UR-4・戦闘後晴天の乱流
フォントファミリー

フォントサイズ

⌘/Ctrl+
拡大
⌘/Ctrl−
縮小

地図

ウルサスサーミカジミエーシュクルビアボリバルリターニアヴィクトリアイェラグシラクーザサルゴンミノスラテラーノシエスタ
ウルサスサーミカジミエーシュクルビアボリバルヴィクトリアイェラグサルゴンミノスシエスタ

名前

約束されざる地 UR-4・戦闘後

晴天の乱流

???

すみません、遅くなりました。本日は仕事が少々忙しくて。

疲れた女性の声

マ、マーシア……どうか……

もっと……思い出さ、ないと……

マーシア

あなたの状況は極めて特殊です。

あなたの記憶は、まるで枯れ枝に辛うじて残っている枯れ葉のようで、埃をぬぐい取れば多少は色味を取り戻せるかもしれませんが、力を籠めすぎてしまうと、ただ傷つけてしまうだけです。

むしろ、いたずらに弄るべきではありませんでした。あの時……

申し訳ありません、ヴァエラさん。

ヴァエラ

私は……知らなければ、思い出さ……なければ。

マーシア

故郷を離れてからのあなたの記憶は、あなたにとって楽しいものとは言えません。ですがどうしてもというのでしたら……目を閉じてください、続けてみましょう。

マーシアは苦労しながらも、いつも持ち歩いている旧型のスライドプロジェクターを机に運んだ。

彼女が指先を滑らせると、ガラスのスライドがスロットへと落とされ、見知らぬ景色がバンシーの老いた体を包み込んだ。


ヴァエラ

……この場所を、覚えている。

マーシア

リターニアを?

ヴァエラ

あの子が……話していたわ。

あそこの、高塔……手錠に、血。

ゆっくりと、ぼんやりと、記憶の断片がプロジェクターが投影した背景に広がる。マーシアは老いた体が鎖で壁の側につながれており、長ローブを纏った数人の人影の出入りが見て取れた。

微かな血の匂い。一節のおぞましい旋律。僅かな術式の痕跡。

マーシア

リターニアの高塔、あなたはそこに閉じ込められていたことが? ……実験対象として?

あるリッチの方が助けてくださらなかったら、あわや高塔の術師たちの書物に埋葬されるところでした。


マーシア

聖都の安魂教会で、人々の葬儀を執り行ったのですか? 故郷の外を放浪する同胞のためですか、それとも一族の……敵、のためですか?

いずれにせよ、天使たちはあなたの好意を受け取らなかったのですよね? 彼らが葬式で必要としているのは笑い声であって、あなたの……慟哭ではありませんでした。

あと少しで護衛隊に逮捕されるところでした。


マーシア

あなたはクルビアにたどり着きました……どうやら開拓地を丸ごと横切って、さらには……ボーンヤードまで。

獣でさえ足を踏み入れる勇気がない、風と砂でボロボロになったあの土地を通り抜けて。


マーシア

そして、あなたはここに来ました。

なぜ、よりによってこのサイエンスパークなのですか? 一体何を探し求めて……

ヴァエラ

ここにも、ここにも……木があるの。

ここの木も、枯れて、腐って……

枯れて、腐っていくわ。

マーシア

なるほど。

確かにここには生態研究園がありますし、つい最近目も当てられないような事故が起きてしまいました。枯れて腐っていく、ええ、あなたのおっしゃる通りです。

その生態研究園の主は……

まさに、バンシーです。

もしかしたら、こちらをご存じでしょうか?

生態研究園で大きな禍を引き起こしたのちゴードンに没収された骨筆が、真っ白で無垢な姿でマーシアの手のひらに横たわっている。

ヴァエラ

……あの子よ。

あの子の気配……ここにいるのね。

マーシア

つまり、あなたは人探しにやってきたのですね。

ヴァエラ

あの子に……あの子に会いたい……


フェルネ

そんなに姿勢を低くしなくてもいいから、オークリー。背中のアーツユニットがもう偏っちゃってるよ。

オークリー

ここはライン生命の地下通路なんだ、壁の中にだってナノ盗聴器があるかもしれないんだぞ!

それに、パークの警報システムにも気をつけなきゃ……ゴードン長官の代わりに働くってのに、なんでまた警備員から隠れてなきゃいけないんだ?

フェルネ

あいつが完全に信頼できる部下ってどれくらいいると思う?

オークリー

うっ……

フェルネ

エレベーターを見張る警備員くんでさえどこかの偉い人の目である可能性があるんだよ。もし何か不備があったら、芋づる式で出てくる問題はこんなたった何箱かの禁制品よりずっと大問題になるよ。

オークリー

だから利益関係のない俺ら部外者二人が、むしろ禁制品処分を代わりにやってやれる最善の人選ってわけか?

フェルネ

そういうこと。

だけど、一つだけどうしても引っかかるのよね。

オークリー

何だ?

フェルネ

働く奴も確保できたし出迎えの協力者も事前に手配したんだから、オフィスで横になって、鱗獣に餌をやったり音楽を聴いたりしていればよかったんじゃない?

わざわざご自身で監督役を買って出るなんて、面倒ごとに巻き込まれるよ、上官?

ゴードン

ふんっ、決まっているだろ、俺は俺のカワイ子ちゃんたちを見送りに来たんだ!

オークリー

なんて?

ゴードン

ふらふらすんな、バカタレ。アーツ再現装置の保護カバーが壁にぶつかるところだったじゃねぇか! 言っただろ、この荷物を自分の命よりも大事にしろって。

オークリー

もちろん!

長官も覚えていますよね、俺たちがこの「カワイ子ちゃんたち」を無事送り出して、きちんとお口チャックしていたら――

ゴードン

一切合切、全部帳消しだ。

オークリー

やった!

ゴードン

油断すんな。ナスティは生態研究園からの撤収を拒んで、たとえ壁中の失敗品を前にしながらでも研究を続けてやがる。しかも昼夜問わずにだ。

フェルネ

ってことは、今あたしたちの頭の上にいるってこと? なんかあの人の足音まで聞こえてきた気がするんだけど……

ゴードン

心配すんな、こんな些細な問題、マーシアが解決してくれる。

マーちゃん、マーちゃん!

マーシア

……あっ、聞こえております、ゴードン長官。

ゴードン

そっちはどうだ? 計画が失敗した場合は、面向かって無理やりでもナスティを引き留めてもらうからな。

マーシア

ご安心ください、長官。

私のミスで、これほどの予想外の出来事が起こったのですから……

必ずナスティ主任をしっかりと見張り、彼女がライン生命の生態研究園から離れるようにして、できる限り時間稼ぎをいたします。

ゴードン

それでいい。

見ろ、こういう肝心な時になればマーちゃんだって頼もしくなるんだ。

あんたらも心して取り掛かれよ、もうすぐ輸送口だ。

オークリー

了解です、長官。


マーシア

フェルネさんは本当に聴覚が優れていらっしゃいますね。

???

マーシアさん。身分がバレてしまう可能性がありますが、我々が応急対策管理監督協会として干渉しましょうか?

マーシア

マイレンダーの看板はもっと重要な所で使ってください。ゴードン長官の秘書はちょうどいい隠れ蓑です、心配はいりません。

状況の報告を。

エージェント

第二小隊が昼間に収集した情報を見る限り、ライン生命の技術者は確かに実験エリアから引き上げて、この建物に出入りしているのはナスティ主任と助手一人しかいない。だが……

マーシア

ありえないほど長い時間滞在し続けています。

エージェント

……ああ。

申し訳ない。あなたの小隊メンバーとして、あなたの判断をもっと信頼すべきだった。ライン生命は確かに展示用の建物の地下に何かを隠しているかもしれない。

マーシア

謝罪は結構です。各テクノロジー企業の監視は元から私の任務なので。

エージェント

更なる捜査を行うなら、ナスティ主任の方は……

マーシア

心配はいりません。私の計画通り、順調に進めば、最低限でも二十分間の調査時間を稼げます。

彼女が絶対拒めないプレゼントを用意しましたから。


スカイ

……

あぁー!

ナスティ

もう一度だ。

スカイ

ナスティ主任、生態研究園と浮遊プランターユニットのプログラムはこのシステムで実現しているんですか?

バンシーが直接触れずに物体を操ることに長けているとはいえ、声という媒体を諦め、呪文をモジュールに封じ込んで、自己循環で不具合を修復させるなんて、画期的な発明ですよ!

もし全部呪文で動かせたら……

ナスティ

憶測ばかりの論文はあまり見ない方がいい、スカイ。

スカイ

俺を含むほとんどの人間はバンシーについてあまり知りません。ただ河谷に住んでいて、滅多にそこから離れないと……

クルビアに来る前は、あなたもそこに?

ナスティ

私の最初の記憶はカズデルだった。その後同族に引き取られて、共に河谷に向かった。

スカイ

どういうところだったんですか?

ナスティ

争いとは無縁のいい場所だった。

川の畔の芝生も森も茂っており、花々は枯れることなく、果実も一年中成り続けていた。天災どころか、その静けさを破る雨さえ少なかった。

スカイ

でしたら、なぜそこを離れたんです?

ナスティ

……

スカイ

誰だよ、こんな遅くに?

しゅ、主任、来てください!

これ、主任が失くした骨筆ですよね?


ナスティ

ああ、その骨筆……の、一部だ。

ナスティとスカイの足元で、切断された円錐形の筆先が地面でコロコロと転がっている。

スカイ

ひどい……

生態研究園の事故は予想外の出来事でも誰かのイタズラでもなく、全部が計画的な行いだったわけです。あなたか、ライン生命を狙って。

ナスティ

一つ、状況をはっきりさせる方法がある。

(サルカズ語)導け。

ナスティの手にある残骸が呪文に応じて浮かび上がり、砕けた骨筆を白く淡い光が包み込む。円錐形の筆先は何周か回ると、ある方向へゆっくりと飛んでいった。

ナスティ

骨筆の残り部分はそう遠くない場所にあるようだ。

スカイ

主任……

ナスティ

確かに罠であるかもしれない。だが私には行かなければならない理由がある。

この骨筆には……私が良く知る呪文の痕跡が残っている。