人々、我々PA-6・戦闘前それぞれの逃げ道
フォントファミリー

フォントサイズ

⌘/Ctrl+
拡大
⌘/Ctrl−
縮小

地図

ウルサスサーミ極東炎カジミエーシュクルビアボリバルリターニアヴィクトリアイェラグカズデルシラクーザ
ウルサスサーミ極東炎カジミエーシュクルビアリターニアヴィクトリアイェラグカズデルシラクーザレム・ビリトン

名前

人々、我々 PA-6・戦闘前

それぞれの逃げ道

ズィマー

……ミコライ、何してんだ?

ウルサス学生A

報告しにきたんだ、動きについてこれない奴がいて――

ズィマー

だからって、左翼の陣形を崩していい理由にはなんねぇだろ。やり直しだ!

よし、槍を持て。アタシは盾を構えてるから、壁際まで追い詰めてみろ。

ウルサス学生B

ソニア、報告だ。君の力が強すぎて、僕たち全員で押してもビクともしないんだよ。

ズィマー

アタシの力が強いんじゃねぇ。オマエらの息が合ってねぇだけだ。

肝に銘じろ、アタシらはただの寄せ集めじゃねぇってな。ウルサスが守ってくれないなら、一人ひとりが互いを守る砦にならなきゃいけねぇんだ。

わかったか?

全員

オオー!

リェータ

おっ、冬将軍! まだ訓練やってんのかよ。

ズィマー

戻ったか。ご苦労だったな。

今日はどうだ?

リェータ

朗報だぜ! 昨日までは見せつけるみたいに並んでた大砲も重火器も、綺麗さっぱり消えてたんだ。

ニカの方でも、武器とか弾薬っぽい荷物を外に運び出してる連中を見かけたってよ。

きっと、ナターリアたちがやってくれたんだ。

ズィマー

……さすがアイツらだ。

リェータ

それと、前に話してた通り、グロモフは毎晩封鎖エリアのどこかにある拠点に陣取ってる。外壁の上に住んでるのはパヴロヴィッチだけだ。

外壁を攻める前に、まずはチンピラどもの主力を叩き潰した方がよさそうだぜ。

ズィマー

もっと食料と物資を確保する必要がある。アイツらの倉庫は、まだ見つかってねぇのか?

リェータ

そっちはまだだ……今の備蓄で、あとどれくらいもつんだ?

ズィマー

三日が限界だ。無縛者同盟の方も底をつきかけてる。アントーシャにはでけぇ借りを作っちまったな。

食料については、前にヘマをしちまった……もう二度と――

リェータ

心配すんなって、私たちなら絶対に乗り越えられるからよ。ほら、私の手でも握りな! 

ズィマー

訓練を急ごう。これからの数日で、アタシらの運命が決まる……そんな予感がするんだ。

リェータ

それで、今のところ戦場に出ようって奴らは……

ズィマー

意外と集まった。ここ数日の行軍訓練は目に見えて効果があったからな。それ以外のヤツらも、治療や後方支援に志願してる。

アタシらの年齢なら、何より気に入らねぇのは「理不尽」を受け入れることだ……そうだろ?

リェータ

へっ、お前が優秀なリーダーだからだよ。

そういや、あのフェージャって奴は、学生じゃねーのに作戦に参加してくれるらしいな?

ズィマー

ああ……正直、信用できるかどうかはわからねぇがな。

素性は不明なままだが、覚悟は本物みたいだぜ。


「ペンだこ」

フェージャ、お肉の缶詰を見つけてきたよ! 君も食べるかい?

フェージャ

……いや、不要だ。気持ちだけ受け取っておこう。

エレメーイ

「ペンだこ」、無理に誘うなよ。まだフェージャのことをよく知らないみたいだけど、彼は孤独でいたいタイプなんだ。

「ペンだこ」

何日も一緒に過ごしてるんだから、もう他人って関係でもないさ。

ねえフェージャ、君は学生にも労働者にも見えない身なりをしてるよね。

それがどうして、こんな掃き溜めみたいな場所に辿り着いちゃったんだい?

フェージャ

……すまないが、それだけは絶対に話せないのだ。

「ペンだこ」

えっ?

エレメーイ

フェージャ、君は一体……

1101年12月24日

冬季舞踏会開幕三十分前

ヴィッテ

陛下、時間がございません。どうか最後にもう一度お考え直しください。

フョードル

考え? ああ――あの脳まで脂の詰まった強欲な老いぼれどもを、まとめて肉サソリの餌にしてやるべきかということか。

そうすれば、奴らの財産を没収して莫大な国家予算の足しにできるだけでなく、上質なサソリ肉まで手に入る。

ヴィッテ

陛下……お怒りはごもっともです。

しかし、忠誠心にすら値札を付ける新興の産業貴族に比べれば、彼ら伝統的な貴族の方が忠実に陛下をお支えするでしょう。そのことについては、陛下も重々ご承知のはずです。

特に、未だネヴァ湖対岸に陣取っている軍を牽制するおつもりであれば、陛下をお支えする声は一つでも多い方がよろしいかと。

フョードル

奴らはそれをもって余に駆け引きを行い、圧力をかけているとでも言うのか?

この冬は、余の宮殿ですら満足に暖炉を焚けぬ有様だ。しかし奴らはあろうことか、何の利益も生まぬカトルガ区に源石を寄こせなどと抜かしている。

奴らが真に欲しているのは、そのような些末な利益か? いや、違う。奴らはそうして己の存在を誇示し、余を屈服させようとしているに過ぎぬのだ! 決して思い通りになどさせるものか!

クライニ・セーヴェルの女大公、ウルサス軍、そして伝統貴族……

ウルサスは、いつからこれほど大量の害虫を飼うようになった? どの虫も血を吸う機会を窺い、僅かな揺らぎにも我らを無力だと騒ぎ立て、サンクト・グリファーブルクに牙を剥こうとしている!

ヴィッテよ、言えるものなら言ってみるがよい……余は奴らからの敬意を得ていると。奴らの理不尽な要求を受け入れたとて、弱腰と誹られることはないと。

そして、あの老いぼれ貴族どもを戦場へと駆り出して命懸けで戦わせ、第四軍を元の駐屯地に追い返すことも可能だとな。そうでないなら、二度とこの件で余を煩わせるな!

ヴィッテ

陛下……

フョードル

ヴィッテ、余は時折思うのだ。ウルサスは、あまりに多くの腐肉をその身に纏っているとな。奴らが死守しようとしているカトルガ区も、そして奴ら自身もその腐肉の一部だ。

ヴィッテ

おっしゃる通り、ウルサスは確かに病に冒されています。しかし、少しでも心得のある医者であれば、重病患者に劇薬を用いてはならないことは承知のはずです。

我々の源石備蓄はすでに危機的な状況です。具体的な解決策を見出すまでは、ウルサス内部でこれ以上分裂勢力が伸長することを、何としても陛下に食い止めていただかなくてはなりません。

さもなくば、外敵でも自然環境でもなく、この国そのものの矛盾によって我々は滅びることでしょう。

フョードル

はっ、結構なことだ。我らが偉大なるウルサスは、舞踏会で振る舞われるロールクッキーのように脆く、触れられるだけで粉々になってしまうというわけだ。

ヴィッテ

とはいえ、陛下のお手を煩わせることはさほど多くありません。

これまで通り、彼らの感情を宥めていただければよいのです。ウルサスは依然として彼らの忠誠を必要としており、陛下は彼らの利益を守る意思をお持ちであると、伝えていただけさえすれば。

それ以外のことは、全て私にお任せください。

フョードル

……好きにしろ。

慣れたものだ。余が行動を起こそうとする度に、勲章をぶら下げた骸骨や、顔に化粧を塗りたくった寄生虫どもが邪魔をする……奴らはウルサスを、まして余のことなど微塵も気にかけていない。

ヴィッテ

では、舞踏会にご出席の際に、陛下のお考えを彼らにお伝えください。

フョードル

……舞踏会は、お前と副議長に任せられぬのか? 今日はひどく疲れているのだ。

ヴィッテ

陛下、それでは礼を失します。

二年連続で冬季舞踏会を欠席なさるわけにはまいりません。まして人心が揺れ動いている今、民衆は誰もが陛下による激励のお言葉を望んでおり――

フョードル

わかった、行けばよいのだろう。だが少し時間をくれ! これ以上くどくどと鬱陶しく申すな。この冬は、ただでさえ苛立つことばかりなのだ。

下がるがいい、ヴィッテ……すまないな。

*過激なウルサススラング*……

フョードルは部屋の窓から外を眺めた。サンクト・グリファーブルクの街中は、例年の賑わいとは程遠い様子だった。

フョードル

この凍てつくような冬には……火が必要だろう。


フョードル

なんだ……停電か?

激怒した学生

*ウルサススラング*皇帝をぶっ倒せ! *ウルサススラング*皇帝をぶっ倒せ! *ウルサススラング*皇帝をぶっ倒せ!

吸血虫ヴィッテを引きずり出せ! 能無しフョードルを引きずり出せ!


フョードル

よし、望み通り出てきてやったぞ。

しかし、実に賑やかなことだ……

怯えた学生

やめて、もう殴らないで! お願いだから許してください!

背の高い警官

黙れ! 陛下を侮辱するこの売国奴め!

警棒が幾度となく学生の背中に叩きつけられる。乱暴に振り下ろすあまり、警棒は警官の手を滑り抜けていったが、それでも警官は攻撃を止めず、拳を振るいながら革靴で学生を足蹴にする……

フョードル

おい、もう十分だろう! 彼は許しを乞うてるじゃないか。これ以上痛めつける必要はない。

背の高い警官

おっと、見逃すところだった。ここにももう一人売国奴がいやがったか!

フョードル

はっ! お前に売るとして、いくらで買い取るつもりだ?

背の高い警官

減らず口を叩きやがって! お前も痛い目に遭いたいらしいな!

フョードル

この無礼者が!

背の高い警官

ぐはっ――! よくも殴りやがったな!

フョードル

ああ、殴ってやったとも。自分の子供に自慢してやるといい、皇帝に殴られ――


そう言い終わるより早く、重い拳がフョードルの頬骨に叩き込まれた。

イヤホンからの声

ザザッ……目標……逃走……捕獲完了! こちらアウト!

陛下……ザザッ……ために! こちらアウト!

フョードルは這い上がると、身につけていたはずの隠し通信機が地面に落ちているのを見つけた。彼は確認する余裕もなく、通信機を拾い上げるとイヤホンを耳に押し込んだ。

イヤホンからの声

……

…………

フョードル

……なんということだ。

イヤホンからの声

ザザッ……

状況がまずいわ! 誰か聞こえる!?

学生連合大会の全メンバーへ通達! 今すぐ脱出手段の確保を! 先行車両は郊外に向かってるわ!

聞こえてる人がいたら応答して! こちらボタニ、オーバー!

フョードル

待て――

数名の警官がフョードルに詰め寄り、有無を言わさず彼を混乱する群衆の中へと押し込み、そのまま狭い移送車へと詰め込んでいく。

恐怖とパニックに泣き叫ぶ声を乗せて、移送車はカトルガ区へと向かっていった。


イヤホンからの声

そうして……私たちは、全員捕まってしまった。

何の説明も、約束もなく。食べ物も、雪や風を凌げる場所すらも与えられずに。

私たちはゴミのようにカトルガ区に捨てられたの。


緊張した学生

怖がらないで、僕が守ってあげるから!

少し小柄な学生はフョードルを背後に庇い、得体の知れない動物の脛骨を握り締め、迫ってくる牙獣に向かって必死に振り回した。

緊張した学生

後ろに隠れて! 僕は父さんとクライニ・セーヴェルで狩りをしたことがあるんだ。任せてくれ、これくらいなら追い払えるから!

あっちに行け!

ふぅ……やっと逃げていった。危なかったね。

学生は息を切らしながら、積もった雪の上にへたり込んだ。

フョードル

お前の腕……噛まれているぞ。

緊張した学生

えっ? あ、痛っ……! 君、消毒用のアルコールや包帯を持ってたり……しないよね。

フョードル

すまない。だがここを出たら、サンクト・グリファーブルクで一番の名医を探してやろう。

緊張した学生

そこまでしなくてもいいよ。この寒さなら、傷口から感染症にかかる危険性も低いはずだしね。

そういえば、君の名前は?

フョードル

……フョードルだ。

緊張した学生

これも何かの縁だし、フェージャって呼んでもいいかな? 僕のことは「チビ」って呼んでくれ、皆からもそう呼ばれてるんだ。

フョードル

その呼び名、気にならないのか?

「チビ」

気にしたところで背は伸びないしね……さて、君も見たところ怪我はないみたいだし、僕はもう行くよ。

フョードル

待て、外壁の方へ行くつもりか?

「チビ」

ああ、友達から聞いたんだ。ここを管理してるのは話が通じる人間だってね。なんでも、お金さえ払えば解放してもらえるんだとか。

それで少しばかりかき集めてきたんだ。足りるかどうかはわからないけど、運試しだと思ってね。

そうだ、君にこれをあげよう。乾パンだ。もし火に当たれる場所を探してるなら、南に行くといいよ。そこに僕たち学生の拠点があるから。

それじゃ、フェージャ――

フョードル

……待て。

この金貨を持って行くといい。見張りを買収するには十分だろう。

「チビ」は目まぐるしく表情を変えると、フョードルに深々と頭を下げ、外壁の方へと歩いていった。


「チビ」

すみません、僕の話を聞いて――ぐっ!?


フョードル

……

イヤホンからの声

ザザッ……こちらボタニ。誰か聞こえますか?

お願い、誰か……

こっちでは「十六人議会」と名乗る暴徒たちが、学生を殴り殺してる。救助が必要なの!

誰か応えて! どうして、どの周波数帯にも応答がないの!?

私たちはもう見捨てられたの? 私たちの悲鳴は、誰にも届いてないって言うの!?

私たちを隔ててるのは、果てしない雪原じゃなくて、たった一枚の壁なのに! どうして……

うぅっ……どうして、誰も聞いてくれないの……

フョードル

どうすればよい……

イヤホンからの声

……通信を切ります。ボタニ、アウト。


……

イヤホンからの声

(かすれ声)こちら373回目の呼びかけ、誰か応答を……

フョードル

……

イヤホンからの声

私たちはサンクト・グリファーブルクのカトルガ区に閉じ込められて、外界との連絡を完全に絶たれた。

私が把握してるだけでも、今日一日で五人の学生が暴行と低体温症によって命を落としたわ……栄光あるウルサスの首都にいるはずなのに、私たちは生死の境を彷徨ってるの。

そして私の学友を殺した暴徒たちは、今この瞬間も真上の部屋に居座ってる……

フョードル

……!

イヤホンからの声

こちら374回目の呼びかけ。どうか、どうか応答を――

……だめね。私では何も変えられない。あのクライニ・セーヴェルの声みたいにはなれないんだ。

私はどうすれば……誰か、この声を聞いて、私たちを助けてよ……

(苦しげな嗚咽)

(すすり泣き)

フョードル

374回か……お前はサンクト・グリファーブルクのどの高官よりも根気強い。

自分では気づいていないかもしれないが、お前はとてつもないことを成し遂げているのだ。

イヤホンからの声

……え?

私の声が……聞こえてるの? 君は一体……

フョードル

……私はフェージャだ。ソニアの拠点にいる。

イヤホンからの声

ソニアの拠点……聞いたことはあるけど、そこまで行けないの。怖くて足が動かない……

私は最後の車両に忍び込んで、この場所に入ったの……ここでは、学生たちが残酷な暴力に晒されてるわ。その事実をサンクト・グリファーブルクの人たちに伝えたかった。

でも、誰も応答してくれなかった。誰にも届かなかった……しかも私が隠れた建物は、よりによって暴徒の拠点の中心部みたいで……

今日、彼らはここで寝泊まりしてるわ。研ぎ澄まされたナイフが、ちょうど私が隠れてるクローゼットに刺さってて……今も小刻みに揺れてる気がする……

だから、そっちには行けない。ここを出たら捕まってしまうから。

うぅっ……私じゃ何もできない――

フョードル

ならば……

なぜお前は、声を上げ続けている?

イヤホンからの声

……え?

フョードル

暴徒がすぐ近くにいる状況下。理性的に考えれば、自ら五感を絶って沈黙を選び、全てが自分とは無関係だと言い聞かせるのが得策だ……

カトルガ区の出来事が、本来お前とは無関係だったようにな……たとえ声を上げていなくとも、危険や苦痛と隣り合わせで生きる人間を誰も責めはしなかっただろう。

それでもお前は封鎖エリアに足を踏み入れ、誰かに見つかるという危険を冒してまで、届くあてもなく惨状を訴え続けた。その幾度もの繰り返しが、いつか学生たちに希望をもたらすと信じて。

イヤホンからの声

私が……希望を……? 学友のみんなに……?

フョードル

それともお前は、ほかに理に適った説明をできるとでも? まったく、勇敢な者が自分の臆病さをくどくどと語るのにはうんざりだ。ここに来てから、誰も彼もそのようなことをのたまっている。

教えてくれ。そこにいる暴徒は何人だ?

イヤホンからの声

二人。

フョードル

二人だけならお前を捕まえられないだろう。奴らが何を話しているか、どのような様子か、今いる場所から窺えるか?

イヤホンからの声

……耳を澄ますと聞こえるわ。あくび混じりに任務の愚痴をこぼしてる。なんだか、すごく疲れてるみたい。

フョードル

ならば好都合だ。疲労している人間は、警戒心も薄れやすい。奴らも人の子だ、弱りもすれば気が緩む時もある。お前であっても、疲れ切った人間を殺す程度のことは容易い。

イヤホンからの声

だけど、そんなの――

フョードル

ああ、命を奪うかどうかは好きにしろ。だが、逃げるくらいはできるだろう?

今夜奴らが眠りに就き、いびきが聞こえ始めたら逃げ出すのだ。決して途中で振り返るな。

経路がわからぬのなら教えよう。高い壁の上を通って拠点まで歩いてきたから、道中の建物の記憶も残っている。

やってみればわかる、何一つ難しいことはない。

イヤホンからの声

……ずっと話しててくれるってこと?

フョードル

それでお前を後押しできるのなら……


彼女は、ある日のことを思い出していた。自身が歩く道を決めた日のことを。

ほこりっぽい空気、過熱した電子部品の臭い……彼女は膝を抱えて椅子に座り、混線する周波数の中から、故郷であるブレスクの情報を探し求めていた。

「続いてお届けするのは、あのオペラ――」

「ザザ――」

ひたすらダイヤルを回す。故郷の声を聞かなければ。胸の奥に広がる、落ち着かない焦燥感を押さえつけるためにも、安心感をもたらしてくれる力が欲しい。ほんの一瞬だけでも……

ボタニ

――なに?

「ザ、ザザッ……」

「鉱区と都市の、仲間たちへ。」

「わたしたちは……クライニ・セーヴェルの者です。」


ボタニ

……私、やってみる。

でも、その前に聞かせて。君は学生じゃないのよね?

フョードル

……ああ。だが、ソニアが滞在を許してくれた。

ボタニ

そうだったのね……私はずっと、学生連合大会を通信で支援してきたの。私の声を聞けば、みんな「ボタニ」だって気づいてくれるはず。

上からの声

パヴァロ、ちっとは休んだらどうだ。今日も大量の物資を運んできたんだ。俺でもクタクタなんだから、あんたは余計疲れてるだろ。

パヴァロの声

いえいえ。グロモフ様のお役に立てるのなら、この程度は造作もありませんとも。

上からの声

おいおい、親父さんが買った爵位とはいえ、一応は男爵様だろ? そこまでヘコヘコする必要あんのかよ。

パヴァロの声

父はとっくに亡くなりましたからね。我が一族も……

グロモフ様に口添えしてくれませんか? 私は一刻でも早くここを出たいんです。そもそも、あなたたちに攫われてここに――

上からの声

黙ってろ。確かに俺はあんたを引っ張ってきた、ボスが帳簿を扱える奴を探してたからな。それがどうした。悪い待遇じゃねぇだろ?

本気でここを出てぇなら、無駄口を叩くなよ。さっさと作業に戻りやがれ。

ボタニ

……

フョードル

ボタニ、どうかしたか。

ボタニ

ううん、なんでもない。

ただ、落ち着いて彼らの話を聞いてみたら……思ってたほど恐ろしい人たちじゃない気がして。

フョードル

ふん。ウルサスにどれだけの穀潰しがいるか、私は誰よりよく知っているのだ。

ボタニ

ふふ……

ありがとう、フェージャ。

私の声を聞いてくれて、ありがとう。


深夜、建てつけの悪い窓から時折冷たい隙間風が吹き込み、古びた建物が低く軋む。

パヴァロは油汚れに塗れた机の前に座り、隣室から聞こえる仲間の雷のようないびきに顔をしかめつつ、帳簿と睨み合っていた。

パヴァロ

グロモフの奴がこれだけ物資を申請しているのに、実物は一つも見当たらない……

待てよ、市場価格と比べて、仕入れ値が高すぎるぞ。それに帳簿上の「十六勇士」の給料も、実際の支給額よりはるかに高い……

ふん。やはりサンクト・グリファーブルクは、こういう汚い仕事に事欠かないな。

彼の嘲笑と同時に、背後から聞こえていた雷のようないびきがふと途切れ、ブクブクといううがいのような音に変わった。

パヴァロ

また夢の中で肉でも食べているのか? この*ウルサススラング*間抜けめ。スープにでも落ちたような音を立てよって。

やがて「ブクブク」という音が止むと、今度は木の床に液体がぽたりと滴り落ちる音が、部屋に響き始める。

パヴァロ

……水漏れか?

彼は乾いた目を擦りながら立ち上がり、隣室に向かった。

扉を開いたパヴァロは、その光景に目を大きく見開き、手にしていた帳簿を床に落とした――寝ていたはずの仲間の首から、赤黒い液体がとめどなく噴き出しているのだ。

パヴァロ

なっ――

ボタニ

しーっ……男爵さん、あなたの命は、私が握ってるんですよ。

パヴァロ

お……お前は誰だ?

ボタニ

それって、今はどうでもいいことですよね? とにかく手を貸してください。

パヴァロ

……声が震えているな。手はそれ以上に震えている。緊張しているんだろう?

お嬢さん、そのナイフを下ろしてくれ。ゆっくり話し合おうじゃないか――

ボタニ

いいえ……

大声を出したり、時間を稼ごうとするなら、あなたも殺さないといけなくなります。

あなたの言う通り、私の手はすごく震えています。自分でもどこを刺してしまうかわかりません。

パヴァロ

や、やめてくれ……私は妻と両親を養わないといけないんだ。何でもするから、命だけはどうか――

ボタニ

……それなら、まずこのイヤホンをつけてください。

パヴァロ

これは……?

ボタニ

ずっとナイフを突きつけるわけにもいきませんから。でも、もし妙な真似をしたら……このイヤホンは第三局の最新技術の結晶。いつでもあなたの頭を吹き飛ばせます。

パヴァロ

第三局!? そんな連中を怒らせた記憶は――

ボタニ

しーっ……イヤホンの向こう側にいる私の仲間が、道案内をしてくれます。あなたは「十六勇士」の拠点を避けながら、私をそこまで連れて行ってください。いいですね?

パヴァロ

わ、わかった……


イヤホンからの声

そっちの拠点の場所を教えて。これから向かうわ……

フョードル

フッ、ククク――

イヤホンからの声

……どうして笑ってるの?

フョードル

いや、何でもない。まずは周囲の建物から教えてくれ――

まさか余に「任務」が与えられるとはな……事態は予想外の方向に進みつつあるが、悪い方向というわけではないようだ。

それより、少し考えねばな。第三局の狂人どもは、普段どういった話し方をしているのか……