喧騒の掟 CB-3・戦闘後
7:22P.M.
ふあぁ——もうこんな時間か……早く帰って寝るとすっか……
ん、ここいらに海鮮の屋台を出したら、べらぼうに客入りが良さそうだな。おんや? あれは?
……
お~い。
動くな!
痛ててて! 俺だよ、俺だって! 手ぇ放せ!
なんだ、あなたがどうしてここにいるんです?
……店閉めて帰ぇるところだ。
アンタこそ、こんなところでボケっと——違うな、すぐに手を捻り上げられるんだからボケっとはしてねぇか……
先ほど、橋で交通事故があったのは知ってますか?
……アンタ、テスト勉強はどうした?
適度な息抜きがないと、明日テスト用紙を見たときに、頭が真っ白になってしまいますからね。
へぇへぇ、さいですか。
そういや、さっきお客さんが話していたのを小耳に挟んだけどよ。怪我人とかねぇといいよな。
ええ……事務所で聞いたところ、この一件には厄介な連中が関係しているとか……
先に言っておくがよ、俺ぁ、殺し屋だの暴力団だのには、一切関わりねぇからな。アンタだって知ってるだろ?
あなたがそういう人だというのは、知人ならみんな良く知ってますよ——でもね、こんな見た目だから、疑われないほうがおかしいでしょう?
……ケッ、そりゃそうか。
二時間前には龍門の外れの高速道路で、ガス爆発も起きています。
高速道路でガス爆発ですよ? ガスが原因の爆発って、おかしいと思いませんか?
おい。アンタ、まさか……
言ったでしょう。適度な息抜きですよ。
……やれやれ、分かったよ。
でもよ、それって本当に息抜きになってんのかい?
そろそろかな。ここは街の中心部だし、奴らは思うように動けないはずだよ。
ところで、さっき君が選んだの抹茶味だったっけ? じゃあこっちが君の分だね。どうぞ。私のオゴリだよ。
あ、はい……ありがとうございます。確かに怪しい奴は見ませんでしたけど。でも……ちょっとのんびりしすぎじゃないですか?
そうかな。ここのはオススメ度五つ星なんだよ。そこら辺のマフィアなんかよりも、ずっとすごいんでしょ?
ところで、君はテキサスたちと連絡とれるの?
いえ、別れたのが突然のことだったので……
なら問題ないね。急がなくても大丈夫。
……
ほら、アイスクリーム溶けちゃうよ。そんなにピリピリしないの。
あ、ぼくはただ……さっきまでカーチェイスして橋から落ちて……でもいまはアイス食べて…って状況の変化が激しすぎて、頭が追いついてないです。少し冷静になるべきですね。
遠路はるばるシラクーザからわざわざ龍門にやってきたマフィアたちだよ。単に安魂祭を楽しむためというわけではないでしょう?
(小声)……奴らにほかの目的があるとすれば、一つはぼくだ。でもそれ以上のことはまだよくわからない。
(小声)幸いぼくたちはまだ奴らに発見されていない。従って、この隠密状態を生かして、むしろ先手を打って事態の調査をすべきでは……
(小声)でもどうしたらいい?スキを狙って逆に奴らを追跡してみるとか?いや、やっぱり先にテキサスさんたちに連絡を……
フフ、なんだかテキサスたちよりも、君の方がよほど普通のトランスポーターに見えるね。
あっ、ごめんなさい。突然独り言を言い出して。
いや、君の考え方は間違ってないよ。
ただ、マフィアの連中に別な目的があると分かっているなら、確かに今は軽率に動くべきではないね。
今はテキサスたちを信じようか。あんな感じだけどペンギン急便はとても強いんだ。
「強い」って表現される運送会社があるのも変な話だけど、うん……まぁいいでしょ。どうせ私も不満を言う資格はないし。
私たちが街をブラブラしたり、風景を眺めたりしているうちに、みんなが既に敵を一網打尽にしてるかもしれないよ?
……そ、そうでしょうか?
あっ……
モスティマさん?
あの飴屋さん見える?
店というより、屋台に見えますが。
うん、とても年季入ってるよね。
何年も前、龍門に来たばかりの頃にここに来たことがある。
あの時はね……手元にお金が無くて、元気もなかったんだけど、あの飴を見たら一瞬で吸い寄せられたんだ。
そう……なんですか。
その時は長旅の途中でね。ちょっとしたトラブルに遭ってたんだからさ。まぁ、トランスポーターの仕事なんてみんなそんなものなんだけどね。
ちょっと見ていこうよ。
……
わぁ! カラフルなお星さまだ!
おじいさん、おじいさんはどうしてお星さまをとれるの?
それは秘密だよ。みんなにそう簡単には言えないんだ。
これのどこがお星さまだよ! ただのフルーツキャンディーに色をつけただけじゃんか!
えー、でもこんなにきれいなキャンディー、ぜんぜん見たことないよ……ほしくないの?
う、うるせー! なぁ! マシュマロある?
もちろんあるとも。さぁ、手をお出し。
え——こんなマシュマロよりも、わたしはあっちのほうが……
フルーツキャンディーはきらいなんだ! 甘すぎんだもん! それにベロが変な色になるだろ!
欲しいなら二つとも持って行きなさい。せっかくの安魂夜だ、お金はいらないよ。
もう夜も遅い。すぐにおうちに帰って寝るんだよ!
ありがとう、おじいさん!
おじぎしてんなよ! 早くあっちのおもちゃ屋さん見にいこうぜ! 今日限定の騎士だってよ!
最近の子供たちは本当に元気だのう。
さて君たちも何か欲しいものはあるかね? ヴィクトリアから輸入したフルーツグミがおすすめだよ。安魂夜のロウソク飾りも付けてあげよう。
うーん……
まだ大丈夫だよ、おじいさん。長くて深い夜は、今始まったばかりだしね。
おお、その通りだとも。君たちのような若者だと、繁華街のお祭り騒ぎに行くのだろう?
(モスティマさん、この方は……)
……おじいさんも今夜のイベントに参加するの?
まさか。わしはもう骨と皮ばかりの老いぼれだ。だが代わりにわしのキャンディーたちが参加してくれるだろう。
今年の式典は特別かな? 外国からのお客様までいるみたいだね。
この街も長い時間寂れているからな。たまにはこういうドンチャン騒ぎも必要だろうて。
ドンチャン騒ぎにもっと多くの客人が参加して、色々な事が起きてくれると、とても面白いと思わんかね?
確かにそうだね。
安魂夜は本来、亡者の魂を安らかに送るためのもの。生きている人間が楽しむのが何よりの供養になる。
ところで、本当に何も要らんのかね? 昔の君はショーケースを外から食い入るように見入っていたものだが。
覚えていてくれたんだね。ちょっと恥ずかしいな。
はは、忘れられるわけなかろうて。
残念だけど、仕事の前にオヤツを食べすぎるのは良くないからね。
そうかい……なら達者でな。若者たちよ。
暇になったらで構わないから、またおいで。
うん、きっとね。
……
ドンチャン騒ぎか。今日はここ数年で龍門の一番盛大なイベントと言われてるみたいだね。
……バイソンくん?
ごめんなさい、ちょっと考え事を……
この状況だもんね。君が何を考えてるかなんてバレバレだよ。
バイソンくん、考える事も大切だけど、たまには直感で動くのも大切だよ。
直感……モスティマさんみたいなトランスポーターでも、直感を信じるんですか?
正確に言うなら「臨機応変」ってね。例えば、私たちはいま橋の上に立っていて、下には小型の貨物船がやってくる。
はい?
そして、前後には三人ずつ、変装したマフィアが、ゆっくりと近づいてきている。
——!
カムフラージュしようとしても遅すぎるかな。奴らはだいぶ前から私たちを狙ってる。
さっきの飴屋さんから。
ぼ、ぼくたち、囲まれてるんですか?
そうだよ。でもこの辺は観光客が多いからね。私たちがここで戦ったら巻き込んでしまう。
しかし残念ながら、相手はその辺の配慮はしていないようだ。
……この状況、どうすれば?
じゃあ、跳ぼうか。
えっ、なんて?
だから跳び降りるよ、さぁ今だ!
また橋の上から——?
だから君は考えすぎだ。柵を跳び越えて、全力で下に飛び降りるんだよ。こう・やっ・て——!
ま、待って——
ぷはっ! 橋の上から一日に二度も落ちるなんて……
これは……キャンディー? どうして船を使ってキャンディーを輸送してるんだろう?
だけど、どうにか奴らを振り切れましたね。モスティマさ——
——。
モスティマさん?