喧騒の掟 CB-6・戦闘後
10:26P.M.
よぉ、シラクーザの負け犬ども。もう弾切れか? 俺はまだ生きてんぞ。
流石はエンペラーだ。あんだけぶち込んだのに、まだグラス持って余裕こいてやがる。運のいい奴め。
……本気の殺し合いするなら、龍門も黙ってないと思うよ。
ゲームはルールを守らないと、強制退場させられるの知らないの?
ルールだと?
龍門の警察がここに着く頃には、テメェらはバラバラの死体になってるだろうよ。ペンギン急便。
……通りにいるのも、全部奴らの仲間みたいです。
なんや裏口までびっしりやん。こらキッツいなぁ、あのボス、よっぽど根に持っとったんやな。ホンマ、やることが徹底しよる。
カポネの腰抜け野郎は、鼠王とウェイのヤツを気にしすぎだ。確かにウェイには気をつけねぇといけねぇけどよ。
テメェや、あの鼻につくネズミのジジイは、人をイラつかせるのは一流だが、それ以外は一銭の価値もねぇ。
へぇ、お前、マジでそう思ってんのか? それとも単にイキりてぇだけか?
たりめぇよ。マジでそう思ってるに決まってんだろ、「エンペラーサン」よ。
おいクロワッサン、瓶を寄越せ! コイツの大脳皮質を治療してやろうじゃねぇか。
せやけどなぁ、ボス。ウチらもう百万もするワインをいわしてもうてんやで。
……じゃあ奴らの命の価値はどれぐらいだ?
どう考えてもそんなん釣り合わんわ。
……
本気を出すのか?
まさか。俺はウェイの坊主との約束はちゃんと守るぜ。龍門の中ではな、ガチで戦わず、命の取り合いせず、ビジネスのいざこざは、全部ビジネスでカタを付けるんだよ。
まーしっかしよ。今日は俺たち五時間も駆けずり回ったせいで、業務時間が普段の二倍もオーバーしてるんだ。二倍だぞ!
それだけじゃねぇ。まる一年分の活動物資もダメにしやがった! 車にワイン、それから俺のレコードたち!
いま、俺のこのバーの不幸な事故で死人が出たとしても、別に何の問題もねぇよな? なぁ?
了解。
テキサス、この名前を聞いただけでもムカつくんだよ。
私にお前みたいなシラクーザの知り合いはいない。だがお前は、これからこの龍門からも逃げ出していくだろう。
俺のファミリーを侮辱したことを後悔させてやるよ。テキサス。
ハッ、龍門に逃げ来た負け犬はどちらか。テメェが一番よく分かってるんじゃねぇか。お前なんざシチリア人に挑む資格すらねぇよ。
……
その顔だ、テキサス! 少しはシラクーザの人間らしくなってきたんじゃねぇか。
……ん?
これは意外だね。君も呼ばれていたの?
ええ、一応は。ですが、社交パーティーから抜け出すのもなかなか悪くないですね。
うーん、こんなマフィアの小競り合いなんて、そこまで付き合う必要あるかな?
必要性はゼロですね。なので、私はあの面倒な場から抜け出すチャンスを伺っていたんです。
クロワッサン用ハンマーのパーツ発注に、エクシアの銃のメンテナンスと、私には他にも色々とやることがありますから。
うーん、それなら私も頼みたいかな。
構いませんよ。本業の他に、同僚たちのためにちょっとした雑務をこなすのも私の職務です。
このアーツユニット、保管していてくれるかな?
白のこちらですか。なるほど。その意味、お分かりですよね。
今夜はせっかくのお祭りだしね。少しは気楽に行きたいだけさ。
それを持ってダンスパーティーの会場に飛び込んでしまったら、さすがに混乱を起こすよ。
了解しました。お任せください。これも私の職務のうちですから。
フフ、あれこれ言っても、やっぱり仕事になるんだね。君も本当に大変だね。
終わったら一杯どう? 私が奢るよ。
喜んで。同僚と杯を傾ける方が、つまらないパーティーよりもずっと面白いですからね。
でも残念ですが、このままでは「大地の果て」を守りきるのは難しいかもしれません。
……で? 君は龍門に帰ってきたばかりなの? 今夜のお祭り騒ぎはどれだけ把握している?
全て。今回の騒ぎの経緯は、別に複雑なことではありませんし、状況は一目瞭然です。
助けに行かなくていいのかい?
お断りです。肉体労働は血気盛んな子たちに任せますよ。私はあなたたちの荷物を預かりながら、お茶でも飲んで、事態が終息するのを待ちますよ。
鼠王が貴方のことをお待ちである以上、少しは楽しめるかと思いますが。
君もね、イース。
せっかくの安魂夜なのに、そこまで根詰めて仕事する必要ないよ。
じゃあ、私は先に行くから。
……安魂夜ですって?
なんてこと、安魂夜は休みになるはずでしたのに。
つい働いてしまったようですね……うーん。これはいけません。
幸い、彼女が貴方を私に預けていきました。珍しく思い出話に花を咲かせられるかもしれませんね。古き友よ。
ふむ、貴方がこの手に収まる感じはなかなか悪くないですね。ふて腐れていても無駄ですよ。
もうお前に逃げ場はない。
ハア、ハアッ、テキサス、テメェの腕前だけは名に恥じないようだな……だからお前のファミリーは——。
黙れ。
テキサスさぁ~ん、あたしの方が一人多く倒してますよ~。
でもリーダーを倒したのはテキサスさんだよ。少なく見積もっても三人分にはなるでしょう。
え? そうなると、もしかしてあたしの負けってこと?
誰もあんたはんと競争してせえへんって。
おっと、まだこないなところに無事な瓶があったわ。お値段見てみまひょか。
ゼロが、一、二、三、……な、七つ? はぁぁ、神様おおきに! 感謝いたしますよって。
ビビるな! こいつらたかだか五人だけじゃねぇか。
そんな月並みな台詞は要らねぇよ。ホァタァ——!
ま、また頭を殴……うっ……
俺を頭数に入れろっての。六人だろうが。
たった六人の運送会社と、武装マフィアが正面から戦って、まさか前者が勝つなんて……
これ、どう考えても変ですよね?
なんもオカシイことあらへん。乱闘ならウチらは龍門のトップやさかい。
——っ!
お前らの負けだ。投降しろ。
負けだと? 投降だぁ? ハッ、お前は本当にあの「テキサス」なのか?
一度剣を抜けば、シチリア人には「勝ち負け」なんぞ存在しねぇ! あるのは「生か死か」のみだ!
とどめを刺さなかったことを後悔するんだな!
爆破しろ!
——! 隠れろ!
うわっ――また爆弾か――。
——。
……チッ、また逃したか。
追いかける?
いや。私もほんの少し、敵を甘く見ていたようだ。
……龍門に逃げて来た、ただの没落者だろうと、曲がりなりにもシチリア人気質があるマフィアということか。
テキサスさん、怪我してる!? わ、私が手当てします。
傷は深くない。そう慌てるな。
ダメです! とにかく座ってください! 薬箱を探しに行かなきゃ……
シチリア人……シチリア人とはどういう意味ですか? シラクーザ人の別名ですか?
シラクーザ十二家の起源のひとつがシチリア連合だ。このシチリア連合は、最初に武力で戦果を挙げた都市国家なんだ。
これがシラクーザ語の「シチリア人」の語源でもある。
しかし今は……この言葉は別の意味も含んでいる……もう「シチリア人」を自称するシラクーザ人は少ない。
色々事情があり、没落していってるようだが……奴らがこの名を自称する以上……うっ。
もういいよ、テキサス。そんなに一気に喋ると疲れるでしょ?
つまり! 奴らは自分たちが強くて危険なマフィアだって、言いたいだけでしょ?
……そう。
なら、なおさら奴らの襲撃を阻止しないと。このままだと、損害は増えていく一方ですよ。
ぼくたちは反撃すべきです。そして必要なのは——。
……まぁちょっと待てよ。ところでお前らさ、あのアルコールアレルギーの間抜けバーテンダーにどんな言い訳すりゃいいと思う?
言い訳する余地なんてあらへんやろ……あっ!
ボスが座っとるバーチェア、コイツにはキズ一つあらへん。
唯一の生き残りはこのバーチェアだけ?
……はい、このバーチェアだけです。
おお、割れた酒瓶に荒れ果てた店内、これはこれでまた違った美しさがある。間違いねぇ。これぞまさしく俺流のアレンジの結果だ!
いやいや、さすがに強引すぎるよ。
こら全額賠償せなアカンのとちゃう? うひゃ~。ペンギン急便の財布が寒なってまう。
酒の匂いは酷いし、体もベタベタだが、傷口の消毒にはちょうどいいか。
いやいや、ワインで消毒なんて無理ですよ。ここに医療用アルコールが……って、なんでストローが刺さってるの? ま、いいか。テキサスさん、私が消毒しますから。
……気が変わった。
奴らがここまで頑なに安魂祭の日に喧嘩を売ってくる以上——。
いっそ奴らを永遠に安息させてやろうじゃねぇか。