喧騒の掟 CB-10・戦闘前
1:11A.M.
ネズミのおじいちゃん~!
おや、お主か。ここに何しに来たのかね?砂埃まみれの顔をして。通気口でも通って来たのかのう?
えへへ、これ正門の何おじさんからもらったの!何おじさんはね、わたしが小っちゃくて、駆けっこ早いから、これ十五分で渡せたらヨーグルトくれるんだって! ちゃんと間に合ったよって言って!
ああ、ちゃんと言っておくからのう。もう行きなさい。
ありがとうおじいちゃん! バイバ~イ!
……
ご老人。どうしました?
ワシらを探していた、あのシラクーザ人たちを覚えているか? 彼奴らの「ファミリー」は、完全にシラクーザから龍門へ移ってきたようじゃぞ。
連絡担当者に知らせましょうか?
必要ない。こちらが動かなくても、彼奴らの方から訪ねてくるのだろう。
何のためにです?
ここで生き抜くためにだ。
それだけでしたら、別に誰かの同意が必要なわけではないと思いますが。もし誰かに伺うとしたら、それは「天災」ってやつですね。
もし天災に口を利けるなら、殺し合いなぞせんでよいだろうよ。
——アンタの言う通りですよ、鼠王さん。
龍門には龍門のルールがある。ウェイが十数年も前に黙認したこの掟を、我々は決して破ってはいけない。
しかしその執行者はアンタだ。これが俺らが今日訪ねてきた理由でもある。
……お主らはペンギン急便を一掃し、取って代わりたいのだろう。
その通りだ。
お主らは彼らへの理解が足りないのう、シチリア人よ。こんな取引では、お主らは何の得も得られぬぞ。
チッ。
(ガンビーノ!)
テメェは俺たちが勝てないとでも言いてぇのか?「鼠王」さんよ?
「勝ち負け」というのは、取引で口にする言葉ではないな。どおりでお主がシラクーザから追い出されるわけだ、確かにあの女の相手にはならん。
俺のファミリーを侮辱すんのか?
おい黙れ、ガンビーノ! 俺たちに必要なのはペンギン急便に対しての——。
ルールさえ守ってくれるのであれば、ワシにはペンギン急便をかばう理由はない。
——つまり何だ?
ペンギン急便は皆に知られている合法的な会社であり、彼らを庇護しておるのは、龍門の鉄の法律だからな。
だが彼らは、たびたび各方面で問題を起こす。しかも、やらかした事に対し、なんとも思っていない顔をしておる。
だがくれぐれも覚えておけ、シチリア人よ。くれぐれも、一線を越えてはならぬと。
ここの秩序は変わっておるが、決して無秩序ではない。シラクーザ人なら最も理解しているはず。この老いぼれの手を煩わせることはもう二度とないと、約束するんだな。
——わかった。
……龍門のこの時期の星は、思っていたより多く出ているのう。
テーブルに置いてきた茶も、冷めてしまったのかのう。
これは旦那の……おい、仕事だぞ。
聞こえてるっての。さっさとやれ、終わるころにはヤムチャにちょうどいい時間だ。
俺たちの番が回ってきたようだな。
挨拶も済んだし、やるか。クロスボウを下ろせ、間違えて無関係な人間を傷つけないように注意しろ。
……新しいルールには慣れてかなきゃな。
ウチら、なんやぐるっと囲まれてるやん。内側に三周、外側に三周みたいな?
あ、ロールケーキかな?
鼠王はスラムの意思決定者だ。彼の爪牙が届かない場所はない。
……どうしてそれを早く言ってくれないんですか?
ただの都市伝説だと思っていた。それにまさか本当にネズミだったなんて。まったく誰がこんなあだ名を付けたのか。
こんだけぎょうさん人がおったら、手ぇ出すの無理とかいうて、どこに罪もない民衆ちゅうやつがおんねん! 全員敵やないか!
うーん。全然身動きが取れないよ。
どうしましょうか?
キミはいつも人に聞いてばかりだな。自分で考えてみたらどうだ?
……
来るぞ。
……来たか。ここは下の様子がよく見える。
お主のお友達はだいぶ苦戦しておるが、手助けに行かなくても良いのかのう?
貴方がこんなに厳しい仕打ちを下すなんて知らなかったよ。
ワシとて何事も若者と誠実に語る、というわけではないのだよ。
そうだね。私もすっかり忘れてたよ。貴方がそういう人物だと。
多くの人は、この事を忘れ無様に死んでいくだろう。まぁお主は既に特別優待枠に入っているがのう。
貴方がボスを殺したんだね。今回のこと、タダで済むと思う?
フォッフォッフォ、無論わかっておるとも。
ペンギン急便と彼らの主人は、傍若無人に振る舞い過ぎたのだ。龍門は常に変化しておる。いつまでも彼らの好き放題にされては困るのでな。
彼らには罰が足りなかったのだ。少し厳しい罰がな。
恩を仇で返すようなことをやりすぎるとバチが当たるよ。
貴方はペンギン急便の手を借りて色々してきたでしょう……
待って、もしかして最初からこうするつもりだった?
それはどうかの。
ありえないよね、貴方は自分の役どころを把握してるはずだから。うん、少なくとも私よりはね。
フォッフォッ……お主は本当に賢いな。
その火炎がお主の意志に反応しているのは、ワシを墓地送りにしようとしているからかな?
それはないよ。
私は老人を敬っているからね。
モスティマ!
待て、エクシア。私たちはまだ囲まれているんだ。陣形を乱すな。
ちぇーっ! ちょっと待ってて! すぐ行くから!
コイツら、一般市民の中に紛れるんがうますぎて、こんなんで戦うんは無理やで。
もうなにがなんだか……
バイソンはん、ボケっとしとらんと、ちょいとそこ邪魔やで! 退いてくれんか?
誰もが自分のことばかり。こんなんじゃどうすれば……
……もういいや。
いつもこんなことになるなら、それで行こう。
ねぇ、聞こえてる?
通信? 誰に向かって?
気を付けろ。
集中しろ、ソラ。
わ、わかりました!
いるんでしょ? ずっと。分かってるよ。
バイソン様……私は……
知ってるよ。責めたりなんかしない。どうせ父さんからの指示なんでしょ。だけど今は、ぼくの指示を聞いてもらうよ。
……承知いたしました。どうぞ何なりとお申し付けを。
こんな状況なんだから、言うまでもないよ。
奴ら全員ぶっ飛ばせばいいんだ!
まさかバイソン様の口からこのような命令をお聞かせ頂けるとは。
旦那様の代わりにお聞きしましょう。「理由は?」と。
……理由なんかどうでもいいよ! クロワッサンさん、ちょっとどいて!
なんや?
おっとっと——。
はあ——っ!
おっ、敵をどつき飛ばしたんか!? ええで、ウチの立ち位置奪ってみい!
フム……結果から言えば、旦那様は満足されるでしょう。ただ、バイソン様がこのままですと……ペンギン急便色に染まる可能性がありますな。
いえ……もうこれ以上、バイソン様の妨害をしてはなりません。バイソン様が良いと仰ればそれで良いのです。
このチビめ! 大人しくやらればいいものの! 野郎共、かかれ!
——!
かわされた!?
うわっ、いてぇ! 俺の棒が何かに弾き飛ばされた!
気をつけろ、スナイパーがいる!
そこを退いてもらうよ!
……手加減してるとはいえ、貴方はここで微動だにしないなんて、さすがにちょっと理不尽じゃないかい?
なに、立ってるだけだといっても、楽だとは限らないのじゃよ。
この龍門で貴方を打ち負かせるものなんて、本当にあるの?
無論だ。「龍門」なら。
あー、ずるいね。
ワシとて毎日公園で早朝トレーニングを続けておる。歳を取ったら健康維持は重要だからのう。
早朝トレーニングって、こんな効果があるの?
ちょっとした人生経験を足せばな。
あの二人のシラクーザ人はどうしたの?
どうしておるのじゃろう。
……本当にね、毎日このように闇に葬られた事がいくらあるのか、知りたいものだね。
それとも「龍門に手を出そうと画策した人同士が殺し合うように仕向けるのは、今回で何回目?」って聞いた方がいい?
はっきりとは覚えとらんよ、お嬢ちゃん。ワシが知っているのは、生き抜くために努力を惜しまない奴が、下水道の死体より遙かに多いということだけさ。
モスティマさん! 今助けに——
それ以上近づくのは許さない。お前たち、ボスを助けに行け。
はっ!
させるか!
スナイパーだと? この坊主のボディーガードか?
どけ!
お前はただのトランスポーターだろうが。余計なことに首を突っ込むな。
トランスポーター? そう、ぼくはただのトランスポーターさ。だけどね、ぼくたちの周りにいるあの一番騒がしい人たちも、みんなトランスポーターみたいだよ。
テキサスたちとお前は違う。今この戦場から引けば、まだお前は無事で済むぞ。
……それはあなたが決めること?
うっ――! お前、少しはやるようだな!
思いきってやればいいよ!
——はい!