喧騒の掟 CB-10・戦闘後
1:11A.M.
俺ら……こうして見てるだけなんかね?
こうして見てるだけなんです。どういうことか分かりませんが。
でもどうせ無関係の人が巻き込まれることはねぇと思うけどな。
あーあー、こんなにたくさんの食いもんが、無駄になっちまってよ……
こんなに無駄になっているのを見て、私も心が痛いです。ですがなんとなくこの殴り合いも、パーティーの一部に見えませんか?
事前に仕込まれたもんかね?
でもそうは見えないですね。あ、誰か飛び出して来ましたよ。
お?
うお……! なんだよ……相手を間違えた……みてぇだな……
ここでボーっとしてんのも、あんまり安全じゃねぇ気がすっけど?
どうせ事務所に戻っても何もできないでしょうから。もうすぐ夜も明けますし。
ところで明日はテストじゃなかったか? 午後からかい?
……
……まずい。
そちらのお二方は、この茶番劇の関係者ではなさそうですね。
ここから離れるように進言するべきです。場合によっては怪我をするかもしれませんし。
……待って、あそこのお腹に穴が開いて倒れている人、ペンギン急便のエンペラーでしょ?
彼は死んだのに、あなたは慌てないの?
慌てる? 必要ありませんね。
毎月何回か自分から危ない目に遭っているのですよ、エンペラーさんは。我々にとって、もう日常みたいなものなんです。
彼が死んだとしても?
ええ。
……モスティマは、あなたたちに近づくべきではなかったかもしれない。
彼女を心配しているんですか?
私はただ、彼女が異常なことをしてないか、確かめに来ただけ。
でも、そうね。彼女は昔から演技が下手だから。あれだけ普通にしている以上、そんなに気をつけるべきことでもないかもね。
じゃあ先に行くわ。それから、私がここに来たことは彼女に言わないで。落ち着いたら私から会いに行くから。
……行ってしまいましたね。
突然現れ、突然質問し、突然去っていく。
最近のラテラーノはこんな感じに変わったのでしょうか?
……ふぅ、君のような若者が少し羨ましくなったわい。
お主らは、いつも好き勝手に自分の往く道を決めるが、自分がどんな状況に置かれているのかは、全く顧みないのう。
私だって、ちゃんと仕事はしてるよ。
だがお主の裏を探ることのできた者は、誰もおらなんだ。
もし本当に何かを探し当てたとしたら、それこそ一番面倒なことになるんだよ。
なるほど。確かに詮索すべきでないこともあるかもしれぬな。特にトランスポーター・モスティマが関わってる時はのう。
これなに? 職業差別?
ただの経験則というやつだわい。
さて、今はしばし休戦といこうかの。
うっ。
アーツが抑えられた……?
なんだ、ずっと手加減していたのは貴方だったのか。
それはお互い様だろうて。
だがお主の時間稼ぎは十分だったようじゃの。
このクソガキ、どうしてこんなにしぶといなんだ……うっ……
ハアッ、ハアッ。忍耐力なら、ぼくは、誰にも、負けない。
うん、良くやってるね。
よくもまあ、あんなにたくさんの敵をこんなに早く倒せたね。
ったく、もう一人で消えるなんて許さないから!
それにこいつが今回の黒幕でしょ? 一発殴ってやらなきゃね!
今日の運動量はホンマ想定外やったわ。うぅ……請求書の長さもやけど。
テキサスはん、今夜は清算できひんもんがめっちゃ多い気がすんやけど……
私に聞くな、ボスに聞け。
でもボスは死んじゃいました……
……じゃ後に回そう。
そういえば、ボスの死体を回収しなくていいんですか? あんな風に地面に横たわって踏まれたりして、ちょっと可哀想……
皆、揃っておるようじゃの。
……若者とは、いつも自分が正しいと思う道を選ぶものじゃ。
たとえ逆境で大変な思いをしても、いつも頑ななのじゃからな。
あの人何言ってんの?
ご老人のお小言さ。忘れていいよ。
ではそういうことにしておこう。安魂夜は楽しめているかのう?
まぁまぁやな。二日酔みたいに、次の日のことを考えたらアカン。
だからあの、ボスの様子を見に行く人はいないの?
……ペンギン急便、本当に捉えどころがない連中じゃの。
今さら気にしても仕方ないでしょう?
ペンギン急便はペンギン急便。今回の喧嘩が始まった理由も、ただボスのセンスに文句をつけた人がいたから。それだけのことさ。
え? そうなんですか?
自分の美学を守るためなら命も惜しまない、それがエンペラーって存在でしょうね。
少なくとも人を驚かせることに限っては、お主らはワシに失望させたことは一度もない。
うおわっ! どっかから砂が!
まだ余力があったの? あの人……
……そう、だから真面目にやれ。今までの小競り合いとは全くの別物だ。
一瞬たりとも気を抜くな。
油断したら死ぬぞ。
せっかくの安魂夜じゃ。盛り上がらんとのう?
さて見せてもらうとしようか。エンペラーがいったいどんな変わり者たちを飼っていたのかを。
——っ。
剣が砂に触れた途端に折れた……厄介だな。
フム、そうじゃ。これのおかげで、直接ワシに剣を向けようとする者は少なくてな。
ならこれはどうだっ!
あっ、やっぱり通じないか! クロワッサン、任せた!
ダメや。ウチのハンマーも、もう砂に絡み取られとる。ビクとも動かせへん。
無駄な足掻きじゃよ。この程度かの? ペンギン急便。
まだまだ、こんなもんじゃないよ。
……フム。
砂の盾は破ったよ。今だ、エクシア。
オッケー、弾幕射撃ターイム!
……複数の守護銃だと? 本当に面倒な天使だのう。
そうはさせない!
ほう? まさかこれを防げたとは。
サンキュ、バイソンくん!
ウチもいるで! お年寄りに容赦しぃひんでも、責めんといてや。
あぁ! やっぱ当たらんかったか!! テキサスはん!
そうはいかんぞ。
あたしに任せて、テキサスさん!
ふむ、声を使ったアーツか、なかなか面白いお嬢さんじゃ。
よそ見をしている場合か?
——ほっ。
……
あの角度で、まさか避けられるとはな……
でも直立不動だったあの人を、一歩は動かせましたよ。ずっと動かないのは、ちょっとナメられた感じでしたからね。
……ふむ、ペンギン急便よ。
このコートはな。ワシの娘が贈ってくれたプレゼントなのじゃよ。
この長い間、こいつに触れられたのは、お主らが初めてじゃ。
龍門にお主らのような若者がどれほどいるかのう。果たしてお主らはこの龍門で、どんな立ち位置を望むのかの?
ありのままでいればいいんじゃない。それとも、貴方は怒ってる?
いや。ただ、複雑な気持ちではあるがのう……
さて、夜の時間はもう残されておらんからの。そろそろ——。
――!?
う、撃たれた?
……あのスナイパーだ。さっきから、ずっといる。
……目標沈黙いたしました。確認に参ります。
お前、どうして——!
……バイソン様をお守りするためです。
バイソン様と敵との距離が近すぎました。奴はアーツを発動させようとしており、この距離ではバイソン様は無事では済まなかったでしょう。
バイソン様の安全を一番に考えるのが私の使命でございます。
……まさか、ぼくはただの撒き餌だったの?
父さんはこのことを知ってて、だからお前をぼくに付けた——。
バイソン様……
……
バイソン様……事実はバイソン様が考えていることと少し異なります。いつか分かる日がくるでしょう。私が保証いたします。旦那様はそのような考え方をお持ちではないと。
もちろん、ペンギン急便の皆様にもご説明が必要かと思います。とはいえ、今は鼠王の生死を確認する必要がありますゆえ、奴の遺体を引き取らせていただきます。
……構わない。ボスは不在だし、お前の説明を聞きたいという奴はいないだろう。
ご理解いただき、感謝いたします。それでは、バイソン様、また後ほど。どうかお気をつけて。
……
——バイソン、今はまだこの件について深く追究する時ではない。
鼠王は何かプレゼントと称して、置き土産を遺していったようだ。忘れるな。
爆弾かもしれないね。あのシラクーザ人は爆弾大好きでしょう。
それちょっとまずいんじゃない?
敵も完全に壊滅したわけではありません。むしろぼくたちを待ち構えているようです。これはどういうことでしょうか?
鼠王は連れて行かれたのに、奴らはまったくそれに反応してないなんて……
……そうだ、まったく反応がない。ふむ……つまりそういうことか……
二手に分かれよう。ソラ、クロワッサン、エクシア、我々は残った敵を制圧する。
バイソンとモスティマは、置き土産を処理してくれ。
もうすぐ日の出だ、時間は限られている。
くそっ、いったいどこに——。
慌てないで。焦ってはダメ。
いま気付いたんです。ぼくは何も知らされてなかったと。
……モスティマさん、もしかしてぼくたち、前にも鼠王と顔を合わせたことがありました?
そうだね。
つまりあなたは最初から分かっていたと?
あはは——。
誤魔化さないでください!
そう言われてもね。私はあの人が何を考えていたかなんて、当てられないよ。
でも時間は残りわずか。近衛局も腰を据えたままではいられないだろうね。
このあたりはもうゴチャゴチャだね。ウロウロしている野次馬もいるし、捜査なんてできないな。
……ヴィクトリアのグミ、アソート缶、もしかしたら手がかりになるかもしれません。
でも常識的に考えれば、同じ罠を二度も使うのは、かなり愚かな行為かと。
だったら、どうして?
もし、鼠王が本当に今夜起こる全てのことを予測していたなら、ぼくたちが最初に彼と出会ったのも偶然のはずじゃありません。
最初から、彼はぼくたちと対話している。
それが彼の罠なら、どうして私たちにヒントをくれたのかな? 筋が通らないよ。
ぼくにもわからないですけど、もしかしたらぼくたち、なりふり構わずにあの人と敵対すべきではなかったのかもしれません……ただの直感ですが。
でも、ただの妄想というわけではありません。鼠王に会ってから、あの人はずっと何かを暗示しようとしていた……そう感じました。
うーん……なるほど。確かにまったく手がかりがないよりかは良さそうだね。
あった。
……これが——?
幅八十センチ、高さ四十センチってところかな。鉄の箱にまで入れてるなんて——これは、ビッグサイズのビックリ箱ってことかな?
ぶ、分解できそうでしょうか?
いや、私にもさっぱり。
今すぐテキサスさんたちに連絡すれば、もしかして皆さん——。
間に合わないかもね。多分これは時限式なんだ。
本当に爆弾なんですか!?
なんか古臭いよね。あ、この形の話ね。もちろん、今起きてるこのこと自体もだけど。
クッ……モスティマさん、先に行ってください。
どうするつもり?
一か八かやってみます。
この盾は特製なんです。ぼくの身体も、まあまあ丈夫ですし、もし間違えたとしても、生き延びる可能性はあるかもしれません。
本気?
ええ。
じゃあ私も見届けてあげるよ。心配しなくていい。本当に爆発してしまったら、私も損害を抑えられるかもしれない。
これも仕事だからね。
わかりました。ふぅ——。
——やりましょう!
……
……
どっちの配線を切るか決めた?でもこの色は、私の髪と似てるね。
うっ!も、モスティマさん!いきなり冗談を言わないでください! 危うく——。(パチン)
あっ。
カウントがゼロに! ぼくの後ろに隠れて!!
はいはい。
うわっ——。
あれ? この衝撃、どうして、熱くないんだ——。
これは? キャンディ!?
そんなことより着地の姿勢に気をつけてね。そうしないと怪我をするよ。
ねぇ、これ何の音?
なんやろなぁ。でも——うわっ! 空から人が降ってきよった!?
いたたた、これで今日何回目……あ! ご、ごめん!
まぁええわ、あんさんが無事なようでなにより……ところで何遊んでんの? 人間大砲でもしとったん?
あたっ! なんやこれ?
……飴?
空からキャンディが降ってきてる?
はぁ、甘ったるい匂いが一層強くなったな。
お前ら、もうそろそろいいだろう。
……わかった。
ん? んん? テキサス、もしかして何か知ってるの?
知らないよ。ただ大体のことは予想できる。
えっ!! もったいぶらないで早く言ってよ!
安魂夜はもうとっくに終わってたということだ。
……さて朝のヤムチャでもするか?
この時間にか? それなら屋上に登って、日の出を見ようぜ。
お前らマフィアは本当に面白いな。屋上で日の出を見るのがそんなに好きだとはな……
チッ。キャンディが頭に当たって痛てぇな——これはストップの合図だ、手を引くぞ。
手を引くって言ったってなぁ、元々俺らが一方的に殴られてただけだよな。イテッ、全身痛てぇよ……
奴らが本当に止まったみたい。どういうこと? なんか変……
なんや突然静かになりよったな? コイツらみんなアメちゃん好きなんか?
……キャンディの雨が止んだ。
本当だ。あっという間だったね。もしこの空が本当にキャンディを降らせることができたらいいのにな。
キャンディが降ってきたのはいいとしても……
ちょっと待って、結局あの爆弾は?
これのこと?
え? まるごと外したんですか?
ちょっと退いて。
モスティマさん!?
あれ、微妙にコントロールが上手くいってなかったみたいだ。焼け焦げてないといいんだけどね。
ただの鉄箱ってことですか?
……中にはキャンディーがひと握り……だったのか……うぅ、全部溶けきっちゃってる……
この便箋は? メッセージ? 鼠王が遺した……?
なんて書いてあるの?
「良い安魂夜を」……
……
……
……はぁぁぁ?