我が眼に映るまま 幕間
思慮は此に留まらず
「Dr.」?
つまり、あなたたちはずっと前から知り合いだったの?
ああ、心配しないで。少し緊張してるだけよ。あなたが私と知り合うよりも前から、ドクターとは面識があるって言うんですもの。なら、ドクターにはいい印象を持たれたいじゃない。
本当にそれだけよ。でも……今の「ドクター」がどんな人なのかについては、あなたも分からないところがあるのよね? 全部顔に書いてあるわ。
……ねえ、ケルシー。教えてくれない? あなたの過去とも密接に関係しているという、その当時の「ドクター」が一体どんな人だったのか……私、とっても気になるの。
どのように扱い、どのように付き合い……そして、どのように私やサルカズとの繋がりを持ってもらうべきか……ドクターとの接し方のすべては、私自身が判断しなければならないけど……
私の意見も、あなたに影響を与える可能性はあるわよね?
だからケルシー、お願い。私をドクターに会わせて。
Scout、ご苦労様。
ただの偵察任務だ。このくらい仕事の内さ。
ええと……ケルシーとドクターはどこかしら?
……会議室だ。何かあったのか?
軍事委員会の密偵から報告が入ったの。どうやら彼らは、私たちに息つく暇も与えないつもりみたいね。
……残念だわ。
密偵っていうのは……あのブラッドブルードの親王か? 殿下、彼女が信仰しているのは大君だけだ。信用ならない。
彼らのほとんどは、自分の利益を追求するだけの投機家だ。必要に迫られなければ、彼女は戦争に参加すらしなかっただろう……
もちろん、あなたの懸念は理解しているわ、Scout。
でも、少なくとも今のところは彼女が私に嘘をつくことはないわ。彼女には、まだそんな勇気はないもの。
ケルシー? ドクター? 今、忙しい?
……殿下。会議はもう終わったのか?
……ええ。いい結果ではなかったけど。
あっ、もしかして仕事の邪魔をしちゃった? 久しぶりにお昼前に会議が終わったものだから、一緒にお昼ご飯でもどうかと思って来たのだけど……
……早いな。
えっ? ああ……そうね、お昼ご飯にはまだ早かったかしら。
いや、そうではない。普段に比して、君が会議を終えて出てくるのが早すぎる、という意味だ。
討論の必要がないほど悪い結果でない限り……あの議長室に座る連中が、君をそう簡単に会議から解放するとは思えない。
また、仮にそうだとしても……やはり君が来るには早すぎる。
ええ……でも、私たちはこの状況を……とっくに予想していた。そうでしょう?
つまり、話し合いは決して順調にはいかなかったということだな。その上、私の予想では、状況はより悪いものだったと思われる。ほとんど一触即発の状態だったのだろう。
……何があった?
軍事委員会がさらに多くの支持を得つつあるの。私たちのカズデルでの情報ルートは……減り続けているわ。
この秋には、きっとバベルは包囲討伐を受けてしまうでしょうね……
一部のサルカズが我々を裏切った。これは想定の範囲内だ。
……だが、バベルの準備は未だ完全なものではない。
ごめんなさい、ケルシー。どうやら私たちには、来たる日まで持ちこたえるチャンスは……ありそうにないわ。
あのナハツェーラーの王と、残りの王庭の成員たちは……
より厳しい要求を出すばかりね。でも安心して……彼らの標的は私だけよ。
けど……私たちにはもうこれ以上、質疑応答を繰り返している余裕なんてないわね……
テレジア。
何かしら、ドクター? ……あっ、そうね。まだ正式に意見を募ってもいないのに、軽々しく命令を出すのはあまりに失礼だわ。
ドクター、どうやら私たちは、カズデルを離れ、より遠くへと行かなければならないようなの。これは全面的な移転、あるいは、撤退とも言えるでしょうね。
他に道はあるかしら?
恐らく、それが唯一の選択肢だろう。
……できることなら、みんなにはより多くの選択を与えてあげたいけど……今は時間がないわね。
軍事委員会の考え方は過激で直接的すぎるわ。だからこそ私は、断固彼らの理念に反対する。でも、カズデルが不必要な犠牲を払うことを防ぐためには……ここを立ち去るしかない……
私は……今でも信じているわ。私たちは、いまだ同じ心臓を、同じ血を共有していると。でも……混ざり合った血は一度、ここで別れることになるの。それがいつまた混ざり合えるかは分からない……
少なくとも今は……別れが最も痛みの少ない選択なのよ。
すべてのサルカズが己の信念に従うことを望んでいる。だからこそテレジアについていくサルカズも多くいるし、自分もテレジアの理想に共感できる。
だが、君に代わって選択をするつもりはない。君の選択をただ、見届けるとしよう。
……
ええ。今はそれが一番よ、Dr.。
さあ、ぐずぐずしてられないわ。二人ともすぐに荷物をまとめて、出発の準備をして!
どれくらい持っていける?
残念だけど、多くは無理でしょうね。アスカロンが時間を稼いでくれているとはいえ……たくさんの施設を放棄することになると思うわ。
それで十分だ、テレジア。これ以上我々のために人を手配する必要はない。私がドクターを連れて、君と無事合流しよう。
では、事前演習の通りに。ケルシー、担当者は後で到着するわ。
二人とも……急遽、撤退することになってしまって……本当にごめんなさい。
この研究たちも、しばらくはお預けね……私自身、これらがもたらす実りある成果を目にしたいと、どんなに願ったことか……
また研究が再開できるよう、何とかしてみせるわ。それと……
きっと事態は好転すると……私は信じているから。
十三日後
カズデル辺境 バベル駐屯地 「Dr.のキャンプ」
……誰だ?
動くな。
他のバカどもはまだ迷っているようだが……お前が一人で行動している時を……手を下せる唯一の機会を逃すわけにはいかねぇ。
……
サルカズ。こんなことをするべきではない。
ハッ……この状況でそんなこと言ってられんのか、お前?
俺はな、もうとっくに我慢がならねぇんだよ。殿下はお前を壇上に上げ、俺たちへの演説を見物させた……
だがお前は、俺たちのために何もしたことがねぇ! お前は、俺たちがやってることを少しも理解してねぇんだ!
お前と、あのフェリーン……お前たちはサルカズですらねぇし、カズデルに属してるわけでもねぇ。
そんなお前らが殿下を取り囲んでやがる……その誰より親密な距離こそが、殿下の作ろうとしている「バベル」みてえな幻想を見せてやがるんだ。
ほんと馬鹿げた話だぜ。堂々たるテレジア殿下……百年の時を生きるあの大英雄が、異族からあれこれ教えてもらう必要なんかねぇだろうによ!
無関係な異族どもがしゃしゃり出てきやがって! 俺はお前らを信じねぇぞ……!
なぁ、「ドクター」さんよ。殿下は異族のお前をかなり信頼してるが……当のお前は傍観に徹してやがるときた。ってこたぁ、殿下とテレシス、どっちの勝算が高いか……本当は分かってんだろ?
自分を守ることしか考えられないとは――
可哀想な人だ。
……ッ! この、野郎――
言いたいことはそれだけか?
なっ……お、お前は――
……Scout……なぜここに!?
アスカロンを甘く見るなよ、裏切り者。殿下のことは尚更だ。
殿下の選択は実に慈悲深いものだった。ただ一度であれ、人々に自由という権利を持つことを許したんだからな。
……だが、お前はその自由を、こんな汚らわしいことに利用した。
殿下がドクターを尊重していることは知っているだろ。そして、ドクターの公的な発言をお前は確かに聞いたはずだ。……そう、この人は俺たちの「内戦」とは無関係なんだよ。
なのに、お前は……殿下の優しさを……ドクターの寛容さを利用したんだ。
裏切り者が……お前には裁判すら必要ない。判決を待たずして、この場で裁いてやる。
Scout!
ドクター。俺はただ、やるべきことをやるだけだ。
分かっている、Scout。
だが、彼は答えを求めているんだ。
ただ自分を殺したいだけであれば、彼は迷うことなく手を下すことができた……違うか?
しかし、こうなったからには……
……いや、分かった。あんたに従うさ。
では、彼と話をさせてくれ。
テレジアなら、怒りはしないはずだ。
お前ら……首に刃を突きつけてきておいて、まだ俺と話し合うつもりか?
馬鹿げてるな……ゴホッ……くそが。
君の殿下は、なぜ二人の異族を信じていると思う?
ハッ、ハハ……なぜお前を信じているか、だって? そりゃお前が耳ざわりのいいことばかり吹き込むからに決まってんだろ。
笑えるよな、まったくお笑いぐさだぜ……俺たちの殿下が、理想に満ちたあの殿下が、素性の知れない道化の戯言に耳を貸すとはな!
だが、サルカズ……どんなに他人をあざ笑ったところで、最早君にはテレジアと共に歩むことなどできない。これは疑いようもない事実であり、同時に導き出される結論として――
君が信じていないのは自分ではない。君の、殿下だ。
……ッ! テメェ、何言ってやがる――!?
今の君は容易くそそのかされる。
ハッキリ言おう。君は忠臣になどなれない。理想を信じることもできない。「殿下」という言葉を用いることで、自身の行いを正統化しているだけだ。
......
デタラメを言うんじゃねぇ! テメェ、俺を侮辱する気か!? 俺が殿下の行く道を信じていないわけ――
これはすべて、君自身が言ったことだ。
このっ……汚らわしい異族が! ふざけたことぬかしやがって――
まだ聞きたいのか? では教えてやろう、サルカズ。
君の殿下への信頼は、決して我々二人の異族が原因で失われたわけではない。君は、これ以上テレジアを信じることができない自分自身に恐怖し、その罪を一方的に他人へなすりつけたんだ。
馬鹿を言うんじゃねぇ! もし俺が本気で殿下のもとを去るつもりなら、その時ゃお前の頭も道連れだ!
君がテレジアの演説に失望し、それを我々にそそのかされてのことだと考え、責め立てにきたのであれば……なぜ、まずはテレジアに問いかけようとしない?
彼女の力を恐れているのか? それとも、彼女の心を変えることができない己に嘆いているのか?
君はまだ戸惑っているし、己が運命を知らない。だから「彼」は、そこに目をつけたんだ。
「君」が何者であるかなんてどうでもいい。君のような人が常に存在し、このような橋渡しになり得る……それを、彼はよく知っている。
……誰のことを言っている?
彼が君を目覚めさせ、そしてそそのかしたのは、君にその虚勢に満ちた発言をさせるためではない。
彼はただ知りたいだけだ。テレジアが何を言うのか、そして――
……お前、何を……
委員会にとって想定外の存在である、「ドクター」という人物が……どのような反応を示すのかを。
テレジアが予期せぬ力を手に入れてはいないか……彼は、確かめずにはいられないのだから。
......
何が言いたい? そんな詭弁やデタラメ並べて、俺が裏切って逃げようとしたなんて吐かせようと誘導してくんのは、それをScoutに見せつけるためか?
いいや、サルカズ。
――君には、生きてここから出てほしいんだ。
……
なん……だと……?
おいおい……そりゃあ、どこの種族の冗談だ? 俺をからかってんのか?
「民を率いて生へと導く者こそが、民の心の王たり得る」
君のことはよく知っているんだ、「裏切り者」。
あの夜、負傷したアスカロンをキャンプまで担いできたのは君だし……戦死した最後の兵士から言伝を受け、斥候隊の位置を全軍に知らせたのも、君だ。
だから、君にチャンスを与える。
……
ありえねぇ……そんなのありえねぇだろ、おい! 何を根拠にお前を信じろってんだ!?
……この状況を見ろ、裏切り者。
ドクターが何を言おうが、今のお前には信じるしかないんだ。
そんなわけねぇだろ! 騙されるな、Scout! こいつが俺を見逃すのは、俺にさらなる汚名を着せるために決まってる。俺はどこにも行かねぇからな!
どうせ……どうせ俺のことを、テレシスのスパイとか言って侮辱する気なんだろ!? 俺が何をしてきたか知らねぇから、んなことが言えんだ! いいか、俺はな――
……もう十分よ。
殿下!
ドクター……ケガはない?
ああ。
殿下……突然の出来事だったんだ。全ての責任は、隊の状況を察知しきれなかった俺にある。
いや、こちらの判断でScoutに一度待ってもらったんだ。でなければ、このサルカズは今頃首をはねられていたかもしれない。
……分かったわ。
で、殿下……俺は……
あぁ……あなただったのね。
……そう。演説の時、あなたは下に立っていたわね。たくさんの同族の一人として……
ドクターの言う通り、あなたとあなたの傭兵は私たちのために戦功を立ててくれた。でも、それは決して……今あなたがした行為の言い訳にはならないわ。
……殿下……俺は……お、俺は……
あなたは……私を信じてくれないの? マルコ。
あれだけたくさんの同胞を救い出したあなたが……どこよりも危険な場所から私たちのために情報を持ち帰ってくれたあなたが……今は、私を信じたくないと……そう思っているの?
ち、違う! 違います! 俺は……俺は、ただ……
(くそっ! 殿下を見上げることすらできねぇ……)
(俺は……何を言っていたんだ……)
殿下。
殿下が直接彼を尋問したところで、何の進展もなさそうだ。
撤退が差し迫り、状況も緊迫している。俺たちは一刻も早く、隊の中にまだ殿下に対し不満を持つ者――あるいは、カズデル側のスパイがいないか確認しないといけない。
彼の処遇はアスカロンに任せよう。
ええ……その前に、ドクター。
教えて、彼はあなたに何をしたの?
何もしなかった。
そうだな……
これは暗殺かもしれないが、そうとも言い切れない。
……ドクター!
俺は……
テレジア。今のところ、彼は最も罪なき者だと言ったなら、君は信じるか?
グァォオオ……
……Dr.。場を和ませるつもりか知らないが、この場に冗談など必要ない。Scoutも、これまでのやり取りをくだらない小芝居だとは思っていないだろうからな。
だが……テレジア。少なくともこのサルカズは、以前捕虜が自供したスパイのリストには含まれていなかった。
異族風情が! 殿下の名を軽々しく呼びやがって……!
……あなたはケルシーが憎いの? ドクターが、憎いの?
……しかも……その理由は、彼らがサルカズではないというだけのこと? 彼らの行いや、目的に対するものではなく……?
……そ、その通りです、殿下!
あなたの周りには、優秀な人材がたくさんいるはずです。なのに、なぜこの二人の異族どもに――
黙れ!
……!
……ええ、あなたの言いたいことは理解できるわ。
……もう一ついいかしら? Scout、あなたの意見を聞かせて頂戴。
俺はドクターと殿下の判断を尊重する。だが、俺の意見を述べるとすれば、すぐにでもこいつを捕らえて牢獄にぶち込むべきだな。
軍法に則るならば、死あるのみだ。
……
そうね、これは単なる選択肢の一つにすぎないわ。私たちは、常に無数の選択に直面しているんだもの。
彼がどんな企みや考えを持っていたとしても、結局はこうした、処刑を目前にして湧き上がる生への渇望に抗うことはできない……
だが今回のような行為は、これが最後ではないだろう。
テレジア。もしこれを放置して、さらなる面倒事が引き起こされた場合……それは今後、君の安全を脅かすことになる。
彼は残念な選択をした……それだけよ。
いいえ、殿下……! どうか……どうか聞いてください……
俺は……サルカズです……カズデルの、サルカズなんです……! 俺はただ……あなたが、バベルと共にカズデルから遠く離れていくのを見たくないだけなんです!
……
謀略や計略……最初はそういったものに強く抗おうとしていたわ。平和へと至る唯一の道でない限り、どうしても受け入れることができないもの……
けどね……サルカズたちはもう、あまりにも長い間……待ち続けているわ。
果てしない戦争の中で、この大地を切り拓きつつ、その感情を理解していくためには、何万もの命と共にそうした戦い方をも用いなければならないの。
ケルシー、ドクター……これが私の、あなたたちを用いる上での姿勢よ。私たちの信念は一致しているし、互いに補い合うことだってできる。だから、私はドクターの選択を尊重するわ。
ドクター、あなたの考えを聞かせて。
このサルカズは確かに裏切りと呼べる行為をした。だがそれは、彼の心の中にある……彼を失望させたテレジアのイメージに対してのものであり、我々の誰に対する裏切りでもないだろう。
故に、彼は裏切り者とは言えない。思うに、テレジア殿下があれだけ多くの人々に自由を与えることを厭わないと言うのなら――
――かつて戦功を上げたこのサルカズを追放し、彼の選択を見てみるのもいいんじゃないか?
……
彼のことは、この大地で好きにさせておけばいい。
もしかしたら、彼は新たな信念を手にするかもしれない。それがテレジアのものか、他者のものかまでは分からないが。
――お……お前……どうして……
私は反対だ。
既存の証拠が彼の軍事委員会への関与を証明していなくとも、指揮官を襲撃した兵士を見逃すことには何の利益もない。
……テレジア。
……
で、殿下……
……戦功、か。
そうね、マルコ。あなたは……サルカズの傭兵だわ。
だから、Scout。彼をアスカロンの所へ連れて行って。
あなたの罪は、バベルが定める。アスカロンが、あなたの罪を決めるでしょう。
もしあなたがまだ自分をカズデルのサルカズと思っているのなら、ここを立ち去ることはできないわ。
――殿下! まさか、俺を処刑するというのですか――?
……
Scout、彼があまり感情を高ぶらせない内に――
――いや、違う……!
違う違う違う! ああ、そうだ。あなたは――あなたは正しい――そうです、俺を殺してください! 容赦も温情も必要ない! あなたはそうあるべきなんだ!
――あなたはかつて戦争の英雄だった! ならば! 裏切り者を、俺みたいな凡人を処刑することこそ、あなたが本当にすべきことなんです!
黙れ!
……
見誤っていた……俺は見誤っていたんだ! 殿下、あなたはまだ俺たちが憧れた一面をお持ちです。俺たちは何十年もあなたにまつわる物語を聞いてきました!
六人の英雄の旗は、未だ地に落ちてはいません。ああ、あなたがサルカズを率いて異族の侵攻に抗った物語……あれを聞いて育った者が、あの時代の再来を待ち望んでいる者がどれだけいることか!
俺は――俺たちはずっと待っている!
俺たちはまだ、あの伝説の再来を、血に塗れた歴史が再び燃え盛るのを待っているんです!
サルカズはそうあるべきだ――サルカズはそうでなければならないんだ!
殿下! これこそ正しきことです! あなたこそが正しさそのものなんです!
殿下!
……現状に関しては以上だ。連絡が取れた傭兵団は、二日後に到着する。
率いているのは誰かしら?
ヘドリーだ。
ヘドリー……彼は優秀な指揮官ね。ただ、見かけ以上に戦争を嫌っているようだけど……
……彼が時間通りに到着できるよう、私の方で手配しておこう。
ありがとう、ケルシー。
……いつの日か、きっとサルカズは紛争と無意味な犠牲から真に遠ざかることができるはずよね。
君のその悲しげな表情は、マルコの件によるものか?
……彼からは、縮図が見えたわ。
道はまだまだ遠いわね、ケルシー。
遠すぎるくらいだ。それ故に君の民は、目前に存在する何らかの答えを望んでいるのだろう。
でも、あなたは私と共に歩んでくれる。そうでしょ?
……もちろんだ。
そういえば……君は昨晩、遅くまで起きていたそうだな。服飾のデザインに没頭していたと聞いたが?
うっ……まさか、叱るつもり?
いいや、そんなことはしないさ。適度な息抜きはストレスの解消になるからな。
しかし、情勢は楽観視できない、君の一挙手一投足がサルカズすべての士気に影響することを念頭に置いておいてくれ。
……分かっているわ。
……テレジア。
あら、ドクター。どうしたの?
アスカロンから知らせが入った。……マルコが……自害した。
……
……彼の王を煩わせないために。
……テレジア。
……そう。分かったわ。
ドクター……今後の見解について聞かせてくれるかしら?
傭兵を除いて、カズデルの勢力圏内各地に潜んでいるサルカズは皆……我々の動向に注目している。
これは全面的な移動だ。だとすれば、情報収集と支援業務のいずれも怠らないほうがいい。
……ありがとう。あとでアスカロンと話し合っておくわ。
彼女ならいい候補者を探してくれるでしょう。
分かった。
……ドクター。
私はあなたを信じているわ。だから安心して頂戴。
……
……ありがとう。
私が垣間見た光景を実現……ううん、少なくとも私たちがこの目で見られる歳月の内に、少しでも近付きたいものね……
……そうだな。
それには……もう、慣れているよ。