光冠残蝕 10-8・戦闘後
悲しむ暇なく
ボス、ボスの言ってた通り、見失いました。
あの反乱軍ども……どいつもこいつもサンドビーストよりも小癪な奴らです。砂に潜ったみたいにあっという間に姿を消しました。
……確かにな。だから、労力を無駄にしなくていい。
奴らが次に現れるまで、持ち場をしっかりと守っておけ。
はい、ボス。その通りにします。
あら、どうやら忠誠を尽くしてくれる新しい部下たちが見つかったみたいね、「ボス」。
彼らはここで成果が上げられると思っている。だから闘志を燃やしているんだ。
彼らはあなたを信頼しているわ。私にははっきりわかるわよ。一人の傭兵が別の傭兵に寄せる信頼をはるかに超えているわね。
つまりマンフレッドの計画が功を奏したということだ。
彼を高く評価してるのね。そういえばあなたたちは、もう本音で話し合うほど仲良しなのよね? 彼があなたに与えた新居は、書斎だけであなたが前住んでたとこより広いもの。
……あれは伯爵の邸宅だ。あそこの主は俺の手で死んでいる。
良心が痛むとか言うつもりじゃないわよね。
あの時彼はアフタヌーンティーを楽しんでいた……妻と三人の子が彼の目の前にいたな。
……こういうの、私たちが昔受けていた仕事とは違うわよね。でもあなた自身が選んだことよ。だからずっと昔に葬り去った良心を悼む資格なんて私たちにはないわ。
なら初めから言うな。確認したいことがあるなら、直接見ればいいだろう。すべてわかっているくせに。
あなたがストレスを感じてるのはわかったけど、私だって楽に生きてないわよ。
まあいいわ、この話は終わりにしましょう。今は慰めを求め合ってる場合じゃないもの。私があなたを訪ねたのは、一つ忠告してあげようと思ったの――足元に注意した方がいいわよ。
それはつまり……
傭兵なんて、それほどに信頼に値するものじゃないことは知ってるでしょう。
歩いてる時に影の動きに注意を払っておかないと、ちょっとしたことで台無しになるわよ。
……伝えたいことは、それだけか?
いいえ、それだけじゃないわ。
こっちが本命――これだけ長い間ふらふらしてた彼女が、向かっているわ。
みんな位置についてる?
はい、サルカズに言われた通り、あの場所へ向かいました……
バカ言わないで。サルカズがあたしたちにやらせようとしてることを言ってんじゃないの。
上官、本当に今夜やるつもりですか? それでは……
……マンフレッドの思うつぼなんじゃないかって言いたいの?
あんた、あいつが何をしようとしてるかわからないほど、このあたしがバカだと思ってるわけ?
いえ、そんな……
あいつはあたしを試したいのよ、なら試させてやればいいわ。
うちの連中はあいつに指図させておけばいい……でもロンディニウムにいるダブリンの人数をあいつは知らない。
ということは、我々はやはりサルカズのために、ちゃんと門番をしなければならないのでしょうか?
……黙りなさい。
その言い方は大っ嫌いよ。なにそれ……まるであたしたちがサルカズの……サルカズの……
チッ、まあいいわ。あとは今日だけ耐えればいいんだもの。この件を片づけたら、ロンディニウムを離れるわよ。
ほ、本当ですか? 上官、みんな喜びますよ!
わ……私は幼い頃からロンディニウムが嫌いでした。両親はここに来て戻ってくることはありませんでしたから……
この都市は、人を呑み込むんです!
……ええ。あたしもロンディニウムなんて嫌い。あんた今までこんなに区画が沢山あって、こんなに高い建物があって、こんなに排水溝がある都市なんて見たことある?
クソ貴族どものテーブルから漂ってくる脂っこい匂い、嗅ぐ度に反吐が出るのよ。
でもいいわ、やっと離れられるんだから。
みんなに伝えといて、夜は「ちゃんとやりなさい」って。死んでもマンフレッドに隙を見せちゃダメ!
あと、それなりに戦えるのを十人選んで。あたしが使うから。
あんたにはマンフレッドを追わせてたわけだけど……あいつがさっきどこへ行ったかちゃんと見てたのよね?
はい、上官。
ならいいわ。
今夜……必ずあたしたちの「スパイ」を救い出す。
ロンディニウムでこれだけ時間を使ったんだもの……何の成果もなしにおめおめ帰れないわ。
あたしは……リーダーを失望させたりしないんだから。
ホルンさん、おかえりなさい!
ええ。ロッベンたちは?
とっくに戻ってきてますよ。
そう。薬は見つかった? サリーの様子を見てくるわ。
いや、それは……行かない方が。
どうしたの!? まさかサリーが……
……
やっぱり見に行くわ。
ヴィクトリアはまた一人の素晴らしい戦士を失った。
一人の可愛い少女もまた、素晴らしい父親を失った。
一体、あとどれほど失えば、私たちはこの悲劇の終幕を迎えることができるのだろう。
……
サリーの娘さんの名前は何だったかしら? アイリーン? それともエルザ? 家はアスカラ郡だったわよね。
ブレイク、サリーの遺品をまとめてもらえるかしら。戦争が終わったら、彼の家を訪ねましょう。
ですが……彼は何も遺していません。
……何も?
いや、違うわ、ブレイク。少なくとも彼は……彼の人生を遺した。やはり彼の家に行きましょう、娘さんはきっと、父の話を聞きたいはずよ……
娘さんに伝えなきゃ。皆が絶望に呑まれた瞬間も、あなたの父親は苦難に屈しなかったってね。
……はい。私も一緒に行きます、ホルンさん。戦争が終わったら。
それと、サリーからあなたに伝言があります。
彼は……何て言ったの?
復唱します――「中尉、申し訳ありません、ですがあなたはどうか生きてください」。
……私に謝っていたのね。
はい。そして、私は彼の気持ちが理解できます。きっと我々みんなそうでしょう。
一兵士として、いつか自分はどこかで戦死するかもしれないと考えるのは普通です。
ですがこれだけの経験をしたことで、サリーは……いいえ、我々は本当に恐ろしいことが何かをようやく理解できたんです。
今のロンディニウムを見てください。ここは我々の家であるはずなのに、監獄となってしまいました。
我々にとって、栄誉ある戦死は、もはや過分な望みとなってしまったのではないでしょうか?
……そうあるべきではないわ。
はい、理屈はそうです。しかし、事実として私の認識は間違っていないと思います。
そうわかってはいても、それでも……ホルンさんには生きてほしいんです。我々に希望を与えてくれたのは、あなたですから。
ホルンさんは……本来、我々の希望なんて背負う必要ないんです。これは、重すぎる荷物ですから。
……
生きることは……死ぬことより難しい、そういうことね?
ハッ……彼女には謝らないといけないようね。
彼女とは?
あなたたちと同じ、最も優秀なヴィクトリア兵よ。
彼女は……この話は後にしましょう。
みんなに伝えて、悼み悲しむ時間はないとね。
――!
ホルンさん、捕らわれた他の兵士の居場所がわかったんですか?
非常に有力な場所を見つけたわ。
聞き出した情報が確かなら、サルカズは明日の午前中に、閉じ込めていた人たちを移動させるはず。
それで……どうするか、あなたたちの意見を聞くつもりだったの。
ホルンさん、聞く必要なんてありません。命令をください!
わかったわ。日が暮れたら、すぐに行動しましょう。
ターゲットが監禁されている可能性が高いポイントを地図上に示したから確認してくれ。何か意見がある者はいるか?
まだ……八箇所もあるんですか?
私たちのオペレーターを合わせても、二日以内にすべてのポイントを調査するのは難しいかもしれません。
残念だが、この八箇所はいずれも一時的な監獄として必要な条件を兼ね備えている。
まず、これらの付近には居住エリアはない。これは情報の出入りがほぼ不可能であることを意味している。
また、中央区画へ続く幹線道路の近くに位置し、サルカズ兵が都市内外を往来するのに都合がいい。
それに……私たちがいる区画とも繋がっていない。
サルカズの指揮官は自救軍が地下で活動していると感づいているのでしょうか?
彼は非常に頭がキレる。決して侮ってはいけない。
では……捕虜を監禁する場所なら、厳重に守っているのではないですか?
それは私たちも考えた。
偵察員に各区画におけるサルカズ兵の行動ルートを追跡させたが、残念ながら何もつかめなかった。
このポイントはどんな場所なんだ?
廃工場だ。以前はキャンディを製造する……そうだ、誤解しないでもらいたいが、これは民間工業地帯で使われている俗称だ。
実際に製造されていたのは合成コールと呼ばれる、有機化合物だ。しかしパッケージが子供たちが大好きなキャンディに似ているためみんな「キャンディ工場」と呼んでいる。
キャンディ工場? 聞き覚えがあります……
Dr.、説明をもらえるか?
我々は恐らくそのキャンディ工場の主を知っている。
あっ……思い出しました。ドクターが言ってるのは……トーマスさんのことですね?
トーマスさんは、ずっとサルカズのために働かされていたんでしたよね? サルカズが自分のキャンディ工場を使って何かをしているのを目撃して、口封じをされそうになったと言っていました。
それにダブリン……ダブリンもトーマスさんが持っている情報を求めていました。
理解した。
フェイストに伝えてくれ、私たちの第一目標は合成コール工場だ。
ハマー、キミたちは移動作業を続けて。次善の策は常に用意しておかねばならない。
指揮官!
ローレンスか。どうした?
偵察小隊が戻ってきました。地上でサルカズの傭兵に遭遇したようです――
……被害状況は?
四人が負傷、一人が……捕虜に。
すまない、会議は中止だ。様子を見に行かないと……
……指揮官。
ロックロック、なぜ来たんだ? 傷の手当をしたばかりだろ!
いや……指揮官にどうしても伝えないといけないことがあるんだ。
もしかして……
はい、ゴールディングさんからメッセージが来た。彼女はまだ北部の居住区の学校にいて、無事だって……
でも彼女たちは二日前の集まりで、サルカズに襲われた。
あのトランスポーターさんが……捕まったって。
……
待ってください――
今おっしゃったトランスポーターさんとは、あなたたちにロドスの迎えを依頼した方ですか?
ああ……彼女がそうだ。
アーミヤ、Dr.、救出計画を前倒しにしたい。
彼女は自救軍にとって非常に重要な存在なんだ。多くの情報を握っていて、私たちの撤退行動にも影響を与える可能性がある。
はい、わかっています……
ロドスにとっても、彼女は不可欠な存在です。
これが我々の初の共同作戦となるわけだな。
ああ。私はロドスを信じている。キミたちは必ず、サルカズに捕らわれたあの人を――
強靭な戦士であり、重要な仲間であり、我らが信頼すべき友である――ハイディ・トムソン氏を救う力となってくれると。