光冠残蝕 10-9・戦闘後
異郷での再会
敵を発見! 鉄の爪を装備している――
……一人。
サルカズを一撃で殺しただと! 生意気なフェリーンめ、なかなかの腕前だな。貴様はヴィクトリア兵か?
黙れ!
ダブリンの軟弱者どもよりは歯ごたえがありそうだ。いいだろう、俺の剣で死ぬことを許そう。
――危ない!
……どっちがどっちの剣で斃れるかは決まっていない。
ああ――
サルカズ、私の剣で貴様を処断したかったが……すでに貴様の同族の体に埋まって折れている。
ダグザちゃん、あんまり戦いにこだわらないようにね!
……
ダグザちゃんの考えはわかるよ。復讐してやりたいんでしょ? でも今はその時じゃないからね。騒ぎを起こして敵を引き付けて、それから撤退、ドクターとそう約束したでしょ――
ハァ……ハァ……フェリーン、テメェは一人ならずサルカズを殺しやがった! テメェの命は……テメェの命はいずれサルカズがもらう。
自分の命など惜しくない。
あの時もし選択ができたなら、私は一人で貴様らから逃げることはなかった。
なんで熱くなってるの!? 当たりそうなアーツはちゃんと避けないとだめでしょ!
……少なくとも、死ぬ前に何人かのサルカズは道連れにできる。
こうなることがわかってたら、絶対あんたが来るのを止めてたよ……思い出しなさいよ、ヴィーナがまだ地下でダグザちゃんを待ってるんだからね!
シージ……
死にたいなら止めないけど、せめてドクターとアーミヤを道連れにするのはやめてよね! でないと、あんたはヴィーナに恥をかかせることになるんだよ!
……わかった。モーガン、あとどれだけ時間を稼げばいい?
五分。五分後に、応援が来るってドクターが言ってたよ。
前方で戦闘が起きているわ。
はい。一体誰でしょうか、先にサルカズと戦闘しているようです……
……ブレイク、私がどうやってダブリンの手から逃れたか話したわよね。まだ覚えてる?
誰かがあなたを助けたと言ってましたね……
そうよ。その人の顔は見えなかったけど、とても強かったのはわかるわ。数百人ものダブリンが守る駐屯地に一人で出入りできるくらいにね。
え? そんなに強いなら、こんな大騒ぎを起こす必要はないんじゃないですか?
その人であるとは限らないわ、でも彼は一人じゃない。サディアン区には、他にもダブリンやサルカズとずっと戦ってる人たちがいるの。
ブレイク、今までこれほどに確信を持ったことはないわ――
残っている抵抗者は私たちだけじゃない。私たちには……まだ仲間がいる。この暗闇の中で、灯りを点してくれている。
なら我々も手伝いに行きますか?
……いいえ。今は任務の目標を変えることはできない。
あの人たちがサルカズの注意を引きつけてくれているうちに、私たちは前方から潜入しましょう。
ホルンさん! ダブリンの部隊がそちらへとすごいスピードで近づいています。気を付けてください、そいつらを率いているのは……率いているのは……
……マンドラゴラ。
……
あんた。
……火の光。
はい、ハイディさん。交戦している音が聞こえたと多数の報告がありました。
ええ。警備はどうなっているかしら?
ほとんどはその場で待機しています。おびき出されてはいません。
やはり……向こうは準備していたようですね。
なら俺たちはどうします? 動きますか?
外の火を見てください。私たちの計画はもう動いています。
皆様に準備を整えるようにと伝えてください。
どうか忘れないでください――私たちに与えられたチャンスは一度きりです。
あれは――何が起きた? 貴様ら工場の機械をわざと壊しやがったのか?
誰がここに来ていいと言った……テメェの仕業か!
ええ、またお会いしましたね。
フン、テメェが何か企んでいたのはわかってた。こっちへ来い!
私が何を企んでいようが、あなたのような戦士にとっては、どうでもよいことなのでは?
蒸気騎士が姿を消し、塔楼騎士がことごとく息絶えてから、ここロンディニウム……いえ、ヴィクトリア全体であなたのお眼鏡に適う戦士はどれくらいいることでしょうか?
フェリーン、訳のわからねぇ世辞を言って俺の警戒を解こうって魂胆か? サルカズをなめすぎだ。
言ってた通りだよ、俺は今晩貴様を殺すことができない。だが矢を首に当てるくらいは構わねぇんだ。
うっ……
知ってるか? 温室育ちの首はな、軽くかすっただけで血が流れるんだぜ。
ハハ、ゆっくりと血を流しながら、仲間がどうやって死んでいくのをしっかり見ておくがいい。明日の朝になれば、貴様も――
もし……この程度の血であなたを満足させられるなら……
――これを食らえ!
あああ! な、何だこれは! 目が……熱い!
うっ――!
ハイディさん! 大丈夫ですか?
かすり傷です、血はすぐに止まるでしょう。
見ましたか? このサルカズ引っかかりましたよ! あなたに集めるよう言われた試薬が本当に役に立ちました!
彼にはここで眠っていてもらいましょう。クロスボウを奪い、気絶させただけで、手が……ちぎれるかと思いました。
サルカズは……本当に硬いですね。もし彼らの目が血と憎悪で曇っていなかったら、近付くあなたに気付いていたでしょうね……
……まあ考えるのはやめましょう。ベニーさん、ほかの方は?
あなたに教わった方法で、ひとまず建物を制圧できました。ですがあまり長くは持ちません。サルカズの警備たちが急いで向かってきているので、同じ手は通用しないでしょう。
では急ぎましょう。
将軍、奴らが来ました。
どこの入り口かな?
三箇所の入り口が同時に襲撃されました。
……想定の範囲内だ。
ダブリンの動きは?
現在反乱軍と交戦中です。
マンドラゴラはどこに?
奴らのリーダーについては発見できていないようです。
わかった。彼女は我々のいるここに興味があるのかもしれないね。
ヘドリーは?
えっと……
……ここにいる。
南西の入り口を守っている予定ではなかったか?
戦場に戻る前に、あなたに報告しなければならないことがある。
ゴホッ……ハァ……
……重傷を負った傭兵か。彼は誰だ?
彼の名はシュワブ。以前交友があった。だが彼は俺を裏切り、我々の計画にいくつかの誤算を生じさせた。
裏切りだと……聞き捨てならねぇな? ヘドリー……お前は自分が何者であるか忘れたのか?
シュワブ、自分が何者であるかを忘れたのは、恐らくお前だ。
俺たち傭兵は……ハッ……初めから……何者でもねぇだろ。
ヘドリー、彼女が来たぜ……お前のことは彼女に言ってねぇ……どうだ……友達思いだろ? ハハ……まったく見てみたいもんだぜ…お前ら二人の顔をよ……
……何を言ってるのかわからんな。
裏切り者の話を聞く必要はない。
マンフレッド――
ヘドリー、何も説明の必要はない。
私が知りたいのはただ一つ。君は今なお私のために力を尽くしているか?
……疑いの余地がない。
ならよい。新たな任務を授けよう。
ロックロック、ジョニー、ガビ……みんな無事に着地できたか? よし、なら大丈夫だ。
ふぅ……とりあえず侵入は成功だよ。ドクター、大丈夫か?
ごめんよ。人を抱えてやったことなくてさ、万が一ワイヤーが二人分の体重を支えきれなかったらどうしようとかずっと考えてたら……
……すげーきつく掴んじまった。
クロージャさん、中の状況は見えますか?
バッチシだよアーミヤちゃん、君の耳のふわっふわな毛までハッキリ見えるよ……
……コホンッ、クロージャさん、あまりドローンを近付けないでください! お、音が大きすぎます!
それに……どうしてドローンからクロージャさんの声が聞こえるんですか? 通信機を使わないんですか?
通信機を使ったら傍受される可能性があるからね! 君たち言ってたでしょ、向こうのサルカズの指揮官は頭がキレるって!
あたしのクロー千六百五十一号は一味違うよ。新しく書いたセキュリティーシステムを搭載してるの。そう、ロドスを出る時に全艦に更新をかけたあれだよ……
……クロー千六百五十一号?
そう! あっ……ロックロック……君のドローンからちょっとインスピレーションをもらったんだけど、大丈夫かな?
……
いいよ。その名前……可愛いね。
でしょ! やったね!
それじゃあ、クロー……えっと、何号だったか忘れた……スキャン開始! 捜索目標――ハイディ・トムソン!
目標……目標はここから近いよ……ヤバい、サルカズ兵だ! 敵が近付いてきてる!
みなさん、戦闘準備を!
……貴様ら、ここで何をしている?
危ない!
貴様らは……反乱軍か? わざわざ捕まりに来るとは……ハハ!
アーミヤさん、あいつの後ろにまだサルカズが十数人いるよ!
ロック十七号――
ここは私が。
黒の閃光――貴様は例のコータスか!
……戦士さん。
先にお聞きします、今すぐ手を引く気はありませんか?
手を引くだと……貴様、なにをふざけてやがる! テメェのその力を見るだけで胸糞悪くて震えんだよ!
俺の感情は絶対に操らせねぇ!
……同じアーツを見たことがあるのですか?
笑わせんな! ここにいるサルカズはみんな知ってるに決まってんだろ!
……
お前を今すぐぶち殺してぇ……だが、その前に将軍に伝えねぇとな……
うぇ、あいつの後ろから攻撃が……クロスボウか? なんでまた?
ロック十七号、狙って――
自救軍の皆様、そして――お初にお目にかかりますロドスの方々。
ご機嫌麗しゅう。
ハイディ……さん?
はい。ようやくお会いできましたね、アーミヤさん。
残念ながら、今はゆっくりとご挨拶している時間はございません。ドクターは……あなたがドクターですね? ケルシーが話していた通りですもの。
ええ……おかげで今のお答えも概ね予想がつきました。ドクター、ここからどう脱出するか、目処はついていらっしゃいますか?
こっちだ! こっちに人がいる、全員こちらに急げ――
ぐあ――
黙っとけ、サルカズ。そんなすぐに応援は呼ばせねぇよ。
ベニーさん、ありがとうございます。他の方々は?
ハイディさん、仲間が南側に一番近い建物を制圧してくれました。
あなたが教えてくれた方法はすごいです……非力な女性でも、サルカズの警備に対抗することができました。
大したことではありません。普段使う機械や工具が一番扱い慣れているのは当然ですから。
ここは私たちの工場です。サルカズは彼らが考えているほど、この場を掌握しているわけではないんですよ。
ハイディさん……あなたがこれほど戦闘に精通しているとは思ってませんでした。
アーミヤさん……
あの、ケルシー先生と同じように、アーミヤと呼んでください。
わかりました、アーミヤ。
ケルシーは私に多くのことを教えてくださいました。
――そう、戦い方も含めて。
もっとも、私は彼女の一番優秀な生徒とは言えません。口惜しいですけどね。
これまでずっと、私がケルシーのためにできることは非常に限られていました。
ですが、力を尽くしてロドスと共に戦います。ちょうど今自救軍と奮闘しているのと同じように。
……またサルカズ兵が来た。
うん。私もあんまり空気が読めないことは言いたくないんだけど……事態が緊迫してるからね。こっちに向かってるのは一部隊じゃすまないよ……全工場のサルカズ兵が集まってきてるみたい。
この建物が占拠されたことに気付いたんだろう。
ええ。ドクター、皆様が動いてくださっていますが、稼げる時間はほんのわずかです。
ですから、ドクターには一刻も早く脱出する方法を考えていただかないと……
仲間……
……彼?
一人だけですか? それとも小隊?
ドクター、マンフレッドが鍛えたサルカズ兵は強敵です。どこかに潜んでいるかもしれません……油断は禁物です。
みんな、なんか……変なことが起きてるよ! おかしいよ、前の方にいるサルカズが戦い始めた……ゴホンッ、えっとつまり、サルカズが別のサルカズとやり合ってるの!
待って、あれって……サルカズの傭兵?
……きっと例の奇妙な傭兵ですね。彼らのうちの一人が、午後に私たちを助けてくれたようでした。
サルカズの傭兵が?
うそだっ、あたしは信じない! あの時はそいつらがビルをさらっていったんだ……ゴホゴホッ! あたしは……
ロックロック、興奮するな。傷が深いんだから……
あたしは平気、でもビルはどうなってるかわからないんだよ!
隊長、みんなにちゃんと説明して……
……ハイディさん、サルカズの傭兵が助けてくれたって話だけど、具体的には何をしてくれたんだ?
私に合図を送っているように見えました……
ですが確信は持てません……
あれは何の合図だったのでしょうか?
……
……
このヴィクトリア兵たち……殺しますか?
ダブリンのクソ野郎ども! 絶対に……
上官、どうして動かないんですか?
……
ホルンさん! どうして私を止めるんです! どれだけの仲間が奴らに殺されたか忘れていませんよね!
……
アーツを放つ前、ダブリンの術師はいつも、両の手を高い位置に上げる。
あの両手が、掲げられたアーツユニットが、チェロを……そして他の多くのヴィクトリア兵の命を奪った。
ホルンの手は袖の中のクロスボウを掴んでいる。
マンドラゴラの指がわずかでも上がる気配を見せれば、彼女はすかさず引き金を引くだろう。
あるいは……今すぐそうするのも悪くないように思える。
そして相手の目に、自分と同じ考えが浮かんでいるのが見えた。
どういうことだ? 南エリアで爆発だと? なに、壁全体が爆破された? そんなの内側からしかできないだろ……クソ!
行くぞ、すぐに応援に向かう――
……これは撤退の合図か?
え、ドクターからそんな合図があるって言われてないけど……でもサルカズ兵たちがみんな退いてくってことは、吾輩たちの任務は完了ってことかな?
問題ない。先に行くといい。
……誰?
あんたはロドスの……
この後の任務は、俺が引き継ぐ。
上官、サルカズが撤退しました! これはチャンスです! 我々は入りますか、それとも……
……
行くわよ。
ホルンは瞬き一つしなかった。クロスボウから手を離すことなく、マンドラゴラの後ろ姿をじっと見つめる。
一矢……この距離なら、たった一本の矢でいい。引き金にかけた指をそっと動かすだけで足りる。それだけで、チェロの胸を飾った血の花が、この殺人者にも咲き誇る。
クロスボウはホルンが改造したものであるから、威力に限りがあることは彼女自身が重々承知していた。しかし今、相手との距離はこれほどまでに近い。ならば、すれ違う瞬間に……
ホルンさん、奴らは行きました。
……
本当に頭に血が上って自分が抑えられなくなるんじゃないかと心配していましたが……ホルンさんが止めてくれたおかげです。あなたは正しい、こんな所でダブリンと衝突は起こせません。
もし本当にやり合うことになったら、サルカズに我々の存在が露見してしまうでしょう。それが一番最悪の事態です。
しかし……あのマンドラゴラが黙って去るとは。今までの彼女であれば狂ったように我々に攻撃を仕掛けていたはずです……彼女は何をしに行ったのでしょう?
……
ダブリンは何をしに行ったのか?
その問いの分析をホルンは拒絶した。彼女の指先は熱く、沸き返った血は、未だに落ち着く様子もなく煮え立っていた。なぜ自分は引き金を引かなかったのか?
マンドラゴラは……なぜあの時のように手を上げなかったのか?
こうした問いが、胸の内で彼女にだけ聞こえる音となって何重にも反響している。こだまするのは……明らかに後悔の声だった。
しかしそれを口に出すことはできない。
そばにいる兵士が望んでいる言葉ではないからだ。
……マンドラゴラにばかり気を取られないで。今私たちのターゲットは彼女ではないわ。
わかりました。ホルンさん、次はどうしますか? ダブリンに続いて侵入しますか?
……その通りよ。
当初の計画は変更よ。次の突入でも隠密行動を維持するわ。みんないいわね?
ブレイク、あなたはそのまま先頭を担当して。サルカズの警備を発見したら、即制圧。ロッベン、あなたはブレイクの後ろについて、必要に応じて火力で支援して。
その他の者は、私に続いて。
前方のあの裂け目が見える? あれはダブリンがご丁寧に残してくれた突破口よ。彼らは先を行ってサルカズを片づけてくれてる。これを利用させてもらいましょう。
覚えておいて。私たちは五人で来たの――必ず五人で帰るわよ。いいえ、違うわね……より多くの戦友を連れて、このサルカズの監獄から出るのよ。
何かあったら合図を出すから、私の手に注目しておいて――
――
行動開始!
ゴホゴホッ……ゴホゴホゴホッ……今の爆発は何だ? クロージャさん、あんたがやったんじゃないよね?
故障――故障――再起動――
うーん、いや、クロージャさんじゃないね。あの人は自分のドローンを平気で爆破できるような人じゃない。
ドクター、これがあなたの計画ですか? 少々……やりすぎでは?
ドクター、もしかして……
見て、煙の中から誰か出てきた! ……またサルカズっ! ロック十七号――
どうしていつも武器が私の方を向いてるのかしらね? それに……また新しい子?
、これがあんたの援軍に対するもてなし方なの?
……ロドスの人?
ロックロックさん、彼女から照準を外さないでください。
ウサギちゃん、少し会わなかったくらいでそんなに冷たいの? それじゃ……悲しいじゃない。
フェイストさん、付近にまだ源石爆弾があるか確認できますか?
そんな時間がない。まだ救出しないといけない人がいるし……
そうよ、残念ね。お互いに挨拶する時間もないなんて。
ハイディ、こっちへ来てもらえるかしら。
……私を訪ねてきたのですか?
あのね、そんな渋らないでくれない? 会ったばっかりだし、あんたのこともそんな好きじゃないでしょ。
もしあのババア……えーっと、あんたがだーい好きなあいつから来るよう言われてなきゃ、あたしだって来たくなかったわ。
ここのサルカズならみーんな知ってるわよ、あたしのギャラはとっても高いの。
ケルシーがあなたに依頼を?
爆発が得意なサルカズの傭兵……
あなたは……あなたがWさんですか?
わぁ、あいつあたしのこと話してたの? 感動すべきかしらね? これだけいる昔馴染みの中に、一人くらいはあたしのことを心から思ってくれてる人がいたって。