淬火煙塵11-10・幕間道を違えた者同士
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ウルサス炎カジミエーシュクルビアボリバルリターニアヴィクトリアイェラグカズデルシラクーザレム・ビリトンサルゴンミノスラテラーノシエスタイベリア
ウルサスカジミエーシュクルビアリターニアヴィクトリアイェラグシラクーザサルゴンミノスラテラーノシエスタイベリア

名前

淬火煙塵 11-10・幕間

道を違えた者同士

聴罪師直属衛兵

ここを固めますよ。

陣形に注意、彼女の動きに気を付けるよう。

あの愚かな傭兵たちのようなことにはならないように。我々が対峙しているのが何者かよく頭にとどめておきなさい。

……来ました。

シャイニング

……

聴罪師直属衛兵

彼女の手から目を離してはいけません。

いつ剣を抜くかわからないのです――

シャイニング

……


聴罪師直属衛兵

……光と影に注意しなさい。目では剣を追えません。

シャイニング

……

剣を抱えた白い角のサルカズはただ黙っている。

黙したまま歩みを進める。

完全武装した衛兵たちが思わず後ろに引いた。

聴罪師直属衛兵

下がってはなりません!

シャイニング

……

彼女が立ち止まった。

衛兵たちが注目する中、彼女は左手を上げ――ぼろぼろのローブのサイドポケットから、一枚の小さな紙を取り出した。

シャイニング

私はただ彼が望み通り会いに来ただけです。そこまで警戒する必要はありません。

聴罪師直属衛兵

……

シャイニング

……リバーバンク通りへはどう行くのです?

聴罪師直属衛兵

……

???

シャイニング!

あなたたち、どうして入り口を塞いでいるのよ? 早く道をあけなさい。話したでしょう、今夜は家族の集まりがあるって。

聴罪師直属衛兵

……承知いたしました。

???

シャイニング、やっと来たのね。ずうっと待ってたのよ!

シャイニング

……サルース。

遅刻はしていません。

サルース

そうねぇ、そうよ、遅刻じゃないわ。リーダーは怒らないわ。

早く中に入りましょう。夕食の準備はできてるのよ。まったく、こんなにすすけちゃって、旅やつれかしら。ロンディニウムを長い間離れて、ちゃんと食べてなかったんじゃない?

リーダーに言っておいたのよ。料理人たちには王立科学アカデミーの晩餐会のレベルで今夜のメニューを作らせてって。

シャイニング

……

サルース

シャイニング……シャイニング、昔みたいに食卓を囲んでおしゃべりするなんて、本当にいつぶりかしら。これまでのお話をいっぱい聞かせてよね。


サルース

リーダー! シャイニングが帰ってきましたよ!

聴罪師

お帰りなさい。

シャイニング

……

聴罪師

座りなさい、ここは元々あなたの席です。我々がロンディニウムに来たばかりの頃でした……もう随分と前の話です。

あなたがあの哀れな人々を殺し、例の実験品を連れて逃げたあの日から、ここはずっと空席でした。

あの裏切りは、一族を傷つけるものでした。

ですが、私はあなたを責めてはいません。座りなさい。

シャイニング

……

聴罪師

……

サルース

私もう待てないわ、シャイニング。最近は朝まで実験室にこもりっきりで、食事どころじゃないほど忙しいのよ。

彼女は真っ先に椅子を引いて、白い角の聴罪師のリーダーの右手に座る。

リーダーの彼は目を伏せ、それ以上何も言わなかった。

しばらくして、シャイニングは抱えていた剣を置き、長テーブルの唯一の空席に向かった。

聴罪師

サルース、最近行っている実験について教えてください。

サルース

本当に、夕食の席で仕事の話をするんですか? はぁ、分かりましたよぉ。

でも特に言うことはありません。記憶の中から感情を剥ぎ取るために最善は尽くしましたが、亡くなられた哀れな人々の声は私の指先に長くとどまることはできません。

いくつか得られたものはありますが、やはりわずかな言葉しか掴み取れないんです。正直、ちょっと行き詰まっちゃってます。

こうした情報は切断された木の枝のようなものなんです。木全体の輪郭を形作れても、根は切れているので、長くバランスを維持することはできませんし、新たな芽を生やすなんてなおさら無理です。

それより更に昔の声を掴むことはできませんし、それを現在に連れ戻すなんてもってのほかです。

結局……命は時間と同じく一方向に流れるだけなんです。その本質を要約すると、文学的な抽象表現にしかなりません。あなたとシャイニングのアーツでも、捉えられるのは一瞬でしょうね。

聴罪師

「魔王」だけが特別なのです。

サルース

あの知識とアーツは滝のようなものです。でも、私たちにその源を見つけることは永遠にできませんし、その中から綺麗な水をすくうこともできません。

はぁ、シャイニングの実験が中断されてから、私の研究もますます難しくなってるなぁ。

シャイニング

……

サルース

リーダー、そちらは? 摂政王はまた何か大きな計画をされているのでは? リーダーは最近西部大広間にいるか、ザ・シャードにいるかで、私の実験室に来ることはめっきり減りましたよね。

聴罪師

殿下のご計画は、重要な時期を迎えています。

サルース

はぁ、私にはよくわかりません。

数あるカズデルの中で、聴罪師があれだけ多くの王公貴族に仕えてきたのは、ただ欲しいものを得るためだけ。

ですがここ数年、あなたは摂政王のそばを片時も離れず、外から見ている者の多くが聴罪師は摂政王の衛兵と勘違いしています。

聴罪師

我々が他人の目を気にしたことがありますか、サルース?

この数千年来、聴罪師に対して彼らが抱いている誤解はこれしきのものではない。

サルース

リーダー、テレシスは一体何が特別なんです?

シャイニング

……

聴罪師

もし呼び捨てにしたことをマンフレッド将軍が知れば、お説教されるのは間違いありませんよ。

サルース

はぁ、だから家族の前でしか言わないんじゃないですか。

彼は前のあの殿下と同じで、王庭の出身でもなければ、血筋もあなたやシャイニングみたいに純粋なものと比べたら遠く及びません。

彼らの先祖の中には、一人として聴罪師の注意を引いた者はいませんし、私たちは彼らの血の記憶を採取したことだってありません。

「魔王」がかつてあの妹を選んだからといって、彼女の兄までも……

聴罪師

言ったはずです、サルース。

力は血筋に由来し、血筋は記憶を伝承し、記憶は罪を蓄積し、罪は枷を形成します。歴史に束縛されない者だけが、力を枷から完全に解き放てるのです。

サルース

はぁい、はぁい。過去の輝きが殿下たちの導きによって大地に戻りますようにっと。

聴罪師

……違いますよ、サルース。

成否にかかわらず、殿下であればサルカズに十分大きな影響を生むことができるのです。これこそ、最も見落としがちな点ですね。

サルース

そうだ、シャイニング、あなたが連れてった実験体……ええっと、何て名前だったかしら? リサ、それともリズ? あの子は元気?

シャイニング

……リズさんは元気です。

サルース

鉱石病の影響が強くなっているんじゃないの?

彼女の身体はとても特殊よ。たとえあの……ええと……あなたが見つけた医療組織に、ケルシー士爵がいたとしても、彼女の助けになるとは限らないわ。

彼女もロンディニウムに帰ってきているのよね。良かったわぁ。あなたの実験室は全部そのままにしてあるから、いつでも連れてきていいわよ……

シャイニング

……

聴罪師

料理がお口に合いませんか、愛する姉上?

サルース

何か話してよ、せっかく帰ってきたのに、そんなに冷たくする必要ある?

リズのことだったら……私から謝るわ。でも知ってるわよね、彼女は普通の感染者とは違うってことくらい。

それに、彼女の苦難と意識は誰から来たのか、彼女の苦痛と記憶は誰から来たのか。彼女がこれらのことを思い出した時、あなたたちはまだ仲良くできるのかしら?

彼女は私たちの家族じゃないのよ、あなたは――

シャイニング

――リズさんこそ、私の家族です。

サルース

……そう……

で……でもあなたが私たちのもとに帰ってこなければ、彼女もそのうち抜け殻になってしまうわよ。彼女がどうしてこのように作られたか忘れないで。

あなたがそんなに彼女を大切に思っているのなら、私だって結末が悲しいものになってほしくないわ。だから帰ってきなって、ねぇ?

理解できないはずがないよね。

シャイニング

……

聴罪師

あなたはよくわかっているはずです。だからこそ、私の誘いに応じたのです。違いますか?

源石から着手し、「魔王」の真相に通ずる道を開いたことで、我々はより明確な結論を得ました。

彼女はただの古ぼけた檻にすぎません。必要であれば、我々は新しいものを作ることも……

シャイニング

もう十分です。

サルース

――

はぁ。

あの時、あなたが混乱に乗じて同僚を傷つけ、彼女を連れ去った時でさえ、あなたが本当に怒る姿は見なかったのにな。

ここ数年、あなたがどんなことを経験してきたか尋ねる必要はなさそうね。要するに……

……あのよそ者たちを家族よりも大切だと思ってるのね。

サルースはグラスの中の水を一気に飲み干した。

彼女は酒を飲んでいない。酒が好きではなかった。特に仕事の時に酒を飲むのは。

彼女の影が光の下で揺れる。今日は本来、仕事の日ではなかった。

シャイニング

あなたたちは私の家族ではありません。

これ以上明確に言う必要がありますか?

聴罪師

十分です。

シャイニングは、席についた時と寸分たがわず同じ状態で残されている食事にも、傍らに座る二人の聴罪師にも目をくれなかった。

彼女はただ自らの剣を抱えて立ち上がった。

シャイニング

……あなたたちがリズさんの監視に寄越した兵士は、すでに全員引き取っていただきました。

今後は私に招待状を送る必要もありません。

次お会いする時は……恐らく戦場でしょう。

サルース

「全員引き取っていただきました」、ね。

シャイニング……あなた本当にこのまま行くつもりなの?

シャイニング

話すことはもうありません。

サルース

もし私が……行かせたくないと言ったら?

シャイニング

あなたでは、私を止めることは不可能です。

サルース

もう少しあなたに話してもらうよう引き止めるだけよ。そのくらいなら私だってできるわ。

ダメ?

シャイニング

……

聴罪師のリーダーが無言で酒を味わう。

シャイニングには、サルースがすでにアーツを放っているのが感じ取れた。剣を抜いてこの場を去ることは可能だ。しかしその後は?

それで本当にリズを救う方法が見つかるのか?

聴罪師

シャイニング。

サルース

……うぅ! リーダー! 本気でシャイニングに手荒な真似をするつもりでもないのに、なぜ遮るのですか!

聴罪師

好きなように行動することを許します。

一時的に、私のそばを離れることも許しましょう。

ですが……摂政王の計画に影響を与えてはなりません。サルカズが向かう、彼らが長く待ち望んだ未来の邪魔をしてはなりません。

シャイニング

……

聴罪師

シャイニング。我が姉上よ。

どれだけ己の血を唾棄しようと、桎梏から逃れることを望もうと、それを真に否定することは、永遠にできません。誰であっても。

この血色の贈り物である天理を否定することは、無意味なのです。

シャイニング

……あなたならとっくに知っていると思っていました。

すべてがあなたの望み通りになるとは限らないのですよ…………父上。


レト中佐

……大君。

ブラッドブルードの大君

レト、いつも物思わしげですが、何があなたに眉をひそめさせているのですか?

もしや私が出した酒の味がひどいとか? あるいは、つまみの味付けが薄すぎますか?

ふむ、確かに。良いワインというのは、運命に対する凡人の哀れな反抗、そして予言に溺れた英雄の傲慢さと共に味わうべきもの。

自らが楽しむために舞台上で物語を紡ぐことにおける彼らの造詣ときたら、私でも称賛するほどです。しかし残念ながら、我らのヴィクトリアの友人はあまりに「虚構」に頼り過ぎています。

私たちは、さらに素晴らしく、どこまでも感動的なものを見てきました。違いますか、レト?

レト中佐

先ほど、こちらの貴族の妻と子を、あなたはご自身の部隊に食わせましたね。

あなたが潜在的な反乱分子を審査することについて、私は賛成いたします。ですが……その……

うっ――!

彼は突然声が出せなくなった。

全身の血液が喉を塞いだかのようだった。地面にひざまずき、必死に口を開いたが、息を吸い込むことはできなかった。

血の霧が視界を完全に覆い尽くす前、彼はブラッドブルードが変わらずその場に座しているのを見た。優雅な姿で、欠片も心を乱すことなく、顔を上げてこちらを一目見ることすらしない。

ヴィクトリア兵士

中佐!

整列、中佐をお守りしろ!

ブラッドブルードの大君

あなた方は、ここで私に反抗するおつもりですか?

ヴィクトリア兵士

……

ブラッドブルードの大君

あなた方の血の匂いはそうは言っていませんね。

恐怖……憂慮。

血が叫んでいますよ。あなた方に引き下がるよう、私の目の前から逃げるように、叫びを上げています。

ヴィクトリア兵士

……

……陣形を保て! 防御だ!

兵士たちの唇は、その顔色と同様に青ざめていた。

彼らは震える両手で武器を握りしめた――軍刀、クロスボウ、ヴィクトリアが彼らのために作ったすべてを。

彼らは精鋭である。ウルサスの百戦錬磨の先鋒を恐れず、リターニアのアーツの爆撃を恐れず、クルビアの銃声と砲火も恐れない。

しかし彼らは、ソファに座る目の前のたった一人のサルカズに恐怖を感じていた。

レト中佐

武器を下ろせ……

さ……下がれ。

ヴィクトリア兵士

中佐……

レト中佐

これは……命令だ。

ヴィクトリア兵士

……はい、中佐!

兵士たちは整然と静かに退却した。

その命令を発するために、レトは最後の気力を使い果たした。彼は足掻くことを諦め、サルカズが自らのために用意した永遠の闇に沈む覚悟をした。

すると、シルクのようになめらかな声が再び響き出した。

ブラッドブルードの大君

レト……レトよ。

私たちは友人の仲だと思っていました。友人は互いに信頼すべきですよね。そうではありませんか?

私は十分慈悲をもって接してあげています。あなたやあなたの部下たちの他愛ない「些細な問題」を覆い隠す手伝いを、してやっているではありませんか。

コソコソとした取引や、路地裏の闇市……私は、それらを気にしません。なぜならば、欲望と貪欲が罰せられるべきだとは思わないからです。

しかしながら、あなたも私に対して同様の信頼でもって応えるべきですよ。

多くのガリア貴族は、羽獣を飼うことを好みます。人々はその美しいペットたちに宝石がいっぱい嵌め込まれた籠を作ってやり、柔らかいクッションを与えてやります。

羽獣が鳴けば、美味しい餌を与えます。

機嫌を損ね、たまに人の手の甲をついばめば、人々は大喜びで、自分のペットの賢さと個性について互いに自慢し合うでしょう。さて……

あなたは……籠の中の羽獣が主人を飼い慣らしたと勘違いすることがあると思いますか?

空気がレトの肺に戻った。

彼はしばらくかかって、ようやく立ち上がった。手足はいまだ震えるも、自らの声が震えないよう必死に努める。

レト中佐

……御慈悲に感謝いたします、大君。


マンフレッド

……

サルカズ戦士

進め! 進め!

隊形を保て!

ヘドリー

……俺を探していると聞いた。

マンフレッド

傷の具合はいかがかな?

ヘドリー

相変わらずだ、任務の妨げにならなければ問題ない。

マンフレッド

ならばよい。

先ほど知らせを受けてな、見てくれ。

ヘドリー

……ああ。

この前極秘任務のためハイベリー区に送り込んだ傭兵たちに……問題が起きただと?

マンフレッド

彼らは本来一時間前に、任務の進捗を報告してくるはずだった。

ヘドリー

……

マンフレッド

近頃の傭兵の働きは、軍事委員会を満足させるには到底及ばない。

兵士たちは、さらなる戦場へと集中しなければならないのだ。殿下や私は傭兵に対して……大きな期待を寄せていたのだよ。

ヘドリー

……そいつらの所在をすぐに調査してこよう。

マンフレッド

必要ない、すでに手配済みであるからな。

ああ……私の予想だが。その者たちは、君の昔馴染みと遭遇しているかもしれない。

サルカズの補給ルートに関心を持っているのは、我々の他は、あの者たちだろう。

ヘドリー、君はどう予想するかね。Dr.とアスカロンは……

現在ハイベリー区で軍事工場を調査しているか、はたまた補給ルートの情報を秘めている他の拠点への襲撃に備えているか、どちらだと思う?

ヘドリー

……

マンフレッド

引き続き傷の回復に努めたまえよ、傭兵。

君の昔馴染みたちが私の手により一人一人見つけ出されるまで、君がこれ以上「傷」を負う必要はない。


クロージャ

おっ、ドクター、帰ってきたんだね!

どうだったどうだった、軍事工場の情報は全部ゲットした?

ドクター

クロージャ

やるじゃない。ドクターとフェイストに万一のことがあったら、このあたしが、華麗に助け出さなきゃいけないかなって考えてたところなんだよ。

ドクター

アスカロン

……

ドクター

アスカロン

……

ドクター

アスカロン

あの者には自分の計画がある。

ドクター

ドクター

助けが必要かもしれない。

アスカロン

……Wはわかっているはずだ。

ドクター

???

ドクター!

その声を聞いて、あなたはすかさず振り返った。

一番に見慣れた者があなたに向かって駆けてきた。

アーミヤ

着きました。

ドクター

アーミヤ。

ドクター

アーミヤ

はい……ドクターも……

ドクター、数日の間別行動をしようと提案された時、それが最善の選択だということはわかってました。ですが……

少なくとも今は無事に合流できましたね、ドクター。私はとても嬉しいです。

ドクター

クロージャ

安心してよ、ここ数日で準備はほとんど終わってるから。

ロンディニウムのほかの都市防衛システムもおんなじような弱点があるかはわかんないけど……でも使われてるフレームワークはきっと似てるはずだよ。

Miseryちゃんとホルンちゃんの情報、それと都市防衛砲制御室で集めたデータに基づいて、ドローンのハッキング機能をアップデートしといたよ。

ドローンが都市防衛軍司令塔の核心に近付くことさえできたら、三十分もあればシステムをハッキングして、直近十日間のロンディニウムの交通記録を取得できるよ。

ドクター

アーミヤ

はい……明日は厳しい戦いになるはずです。

ここ数日、私たちはいくつかの行動を起こし、現在ロンディニウム内にいるサルカズ軍がどう対応してくるかを探っていました。

マンフレッドとブラッドブルードがすぐに戦場に現れると予想されます。私とアスカロンさん、それとLogosさんで全力で彼らを食い止めます。

ですが……

ドクター

アスカロン

王庭のサルカズがいつ戦場に現れてもおかしくはない。

アーミヤ

そうです、ドクター。

ケルシー先生が私たちのために、ナハツェーラーとリッチが都市に戻る足止めをしてくれています……ですが、稼げる時間にも限りがあります。

ドクター

ドクター

合図に注意し、いつでも撤退できるよう準備しておくんだ。

アーミヤ

はい、ドクター。

ロドスと自救軍との連合軍は準備ができています。


シージ

アラデル、傭兵たちが貴様を探していたぞ。

アラデル

……

ごめんなさい、ぼうっとしてたわ。何か言った?

シージ

……いや、謝るのは私の方だ。

もし私が急いで離れていなければ、貴様と共にエルシーを救えたかもしれない。

彼女は……貴様にとってとても大切な人だったのにな。

アラデル

エルシーは私の唯一の家族よ。

今、カンバーランド家は、完全に消滅したわ。

一人しか残っていないなら、家族とは言わないわ。そうでしょ?

……もしかしたら、もっと早くに起きるはずのことを今日まで先延ばしにしただけだったのかも。

シージ

そう言うな、アラデル。

あの忌々しいブラッドブルードには代償を払わせる。約束しよう。

アラデル

蒸気甲冑は大火の中に消えてしまった。これもいいのかもね、今後もうあれに向き合う必要もなくなったわけだし。

……ヴィーナ。

私をグラスゴーに入れてくれる? 何も起きなかったように振る舞うから。

私は何も背負う必要なんてなくて、ただあなたたちの頭脳として……ごめんなさい、あなたにはモーガンがいたわね。なら下っ端のチンピラでもいいわ。

それで一緒にサルカズの駐屯地を爆破しに行くの。あなたが火をつけて、煙が十分回ったら、私は忍び込んであいつらの指揮官のお尻を蹴飛ばしてやるのよ。

シージ

……

アラデル

ごめん、冗談だわ。

シージ

わかっている。

アラデル

私はもう定められた道を最後まで歩くしかないの、ヴィーナ。

シージ

なぜそんなことを言う? 貴様はまだ私たちと共にいるだろう、グラスゴーではこれから新たな物語がたくさん生まれる。

アラデル

それって……

シージ

約束しよう。

貴様が奴らの指揮官の尻を蹴り飛ばした後、無傷で帰れるように私が保証してやる。

私が約束する。

アラデル

……そう、ありがとう。

冗談はここまでにしましょう。これ以上あなたと話していると……本気にしちゃうもの。

さてと、私は行くわ。トターさんと傭兵たちが待っているもの。もう一度作戦ルートを確認しないと。

ヴィーナ、あなたも準備しないとダメよ。

「諸王の息」は……もう目の前なのだから。

???

仮に彼女が本当にロンディニウムから離れようと誘ってきたら、キミはそれに応じるか?

シージ

クロヴィシアさん……?

クロヴィシア

ロンディニウムの城壁はあまりにも高い。一般人ではその影から逃れることは困難だ。

でもキミはそれを成した。キミは王宮から逃げ出し、ロンディニウムからも逃れた。この点において、アラデルはキミが本当に羨ましいのかもしれないな。

彼女はこの二十年以上、ずっとカンバーランドの名を背負うよう自らに迫っていた……しかしキミは違う。キミはその姓を放棄することを本気で考えたことがあるのだろう?

シージ

……否定はできない。

だが過去にどのような考えがあったとしても、今の私はもうここにいる。

今のヴィクトリアは危機的状況に陥っているんだ。私はヴィクトリアのために戦わねばならない。

クロヴィシア

……ヴィクトリアか。

国王、公爵、商人、将校、労働者……

人々が自らの行動に理由を探す時、常に口をそろえて「ヴィクトリアのために」と言う。だが、この千年にも及ぶ長きにわたって、争いが止むことはなかった。

ヴィクトリアとはなんだ? 誰が定義する? ヴィクトリアは六十余りの移動都市および付近の土地、そして四千万の人民か、それとも彼らを統治している君主の姓か?

アレクサンドリナ・ヴィーナ・ヴィクトリア殿下――

キミがヴィクトリアのために帰ってきたと言う時、そのヴィクトリアとは一体何を指すのだ?


ゴールディング

貴族たちの屋敷が燃やされて一面の廃墟になっている。一体何人が生き延びたんだ……

サルカズたちが大規模な計画の準備をしている。都市防衛軍も、もはやそれを隠そうとはしていない。

……

この大通りは、もう元の姿には戻れないかもしれないな。

ゴールディングにはわかっていた。あの指揮官が自分を訪ねてきたということは、自分の正体はもはや暴かれているのだ。

彼女は目的もなく大通りをさまよった。絡みつくような無力感が彼女の動きを鈍くした。

人の身で、波に抵抗しようとすること自体が馬鹿げていたのかもしれない。

アダムスの本屋の扉は開け放たれていたが、いつもの黄色い温かな光が漏れていない。ゴールディングの胸に嫌な予感が去来した。

本屋には誰もいない。しかし強烈な血生臭さがまるで実体を持ったように、隅々にまで充満していた。

ゴールディングはようやく気付いた。床がぬめぬめしているように見える。

床だけではない。カウンターにレジ、棚に並べられた本、それにアダムスがいつも手元に置いていたティーポットまで。

まるで一部の隙もなく丁寧に塗られたかのような。仄暗い赤。

血。

ゴールディング

――

ここ数日彼女をずっと苦しめていた心地悪さが、この時になって体の奥底から突き上げるようにして湧き出した。

彼女は通りに飛び出し、胃を震わせる悪心に従って、大きく口を開いて空嘔した。


???

ゴールディングさん、大丈夫ですか?

ゴールディング

うぅ――ゴホゴホッ。

……モリー。

モリー

顔色がとても悪いですよ、さぁ、私につかまってください。

ゴールディングさん、まだ時間があります。あの劇はまだ終わっていませんよ。

言ってましたよね、教育はあなたの力だと。そうでしょう?

ゴールディング

力……

モリー

さあ、戻りましょう。

焦る必要はありませんよ。私たちは、こんなに長い間耐えてきたんですから、きっとエンディングまでたどり着けますよ。


フェイスト

任せたぜ。

自救軍戦士

安心しろ、必ず新たな仲間たちを拠点まで送り届ける。

キャサリン

あんたは一緒に行かないのかい?

フェイスト

うん、俺には次の任務があるからさ。

あんたの孫は、これでも自救軍の中じゃ大物なんだぜ。

キャサリン

大物ってのは無駄口叩かないもんだよ。

フェイスト

そうだ、ばあちゃん、これ返しとくよ。

キャサリン

社員証か。

フェイスト

俺はもう工場の工員じゃないかんな。ここを離れたら、これを付けるべきじゃないだろ。

キャサリン

……

フェイスト

浅知恵じゃ死を謀り続けることはできない。居なくなっちまった奴は確かにもう会えないけど、残った傷跡が時間と共に消えていくとも限らない。

だけど俺は、毎晩毎晩誰も使わない機械を見ながら後悔したくねーんだ。

だってよ……

俺はどんなに暗い夜にだって、乗り込んでくから。

居なくなった奴が俺に残した松明を受け取って、ずっとずっと歩んでいくんだ。

肌を刺す寒さが全部吹っ飛んで、辺りを覆う暗闇が明けるまで――いや、そうなっても俺は歩き続ける。

中身のない希望やら何やらを抱いてるからじゃない。誰かが俺たちのために立ち上がるのを待ってるからでもない。

たださ、ばあちゃんが言ったように、ロンディニウムは俺たちの両手で作り上げたもんだから。

だとしたら、たとえこの都市が明日戦乱の中で廃墟になっても、明後日になりゃ、俺たちはまた建て直せるんだ。

フェイストはすべての言葉を一息に言い終えた。

向かい合っていた者は長い間沈黙していた。しかしその沈黙が、以前のようにフェイストを怯えさせることはない。

生産ラインのそばに立つ祖母の姿を見て、ふとある考えが彼の頭をよぎった。

キャサリンの髪はいつからこんなに白くなっていたのだろうか?

キャサリン

ふぅ……

覚悟が決まったならもう行きな。

フェイスト

……ああ。

ばあちゃん、またな。

キャサリン

……

フェイスト!

フェイストは、視界の端に小さなカードが飛んでくるのを捉えた。

それは彼がたった今返した古い社員証だ。

彼は笑った。

フェイスト

ばあちゃん、ぜってー帰って来るからな。

それだけじゃない。土産で勝利も持ってくる。

ばあちゃんが俺のことを誇りに思ってくれてんのはわかってるよ。だから、言われなくったっていいんだ。

俺はむしろばあちゃんに知ってほしい――

俺がこの先どこにいようと、この工場は、俺の誇りだ。

それと……ばあちゃんも。

ばあちゃん、前に聞かれたあの質問、俺考えたんだ。

ばあちゃんをどうしようもなく失望させた物事――裏切りとか、疑う気持ちとか、永遠に団結できない奴らなんてのは……きっとまた俺たちの前に現れるだろう、それはわかってる。

だけどさ、それがわかってるからって、人を信じる気持ちを捨てるんなら、きっと……俺たちはこの戦争を生き抜くことはできない。

遅かれ早かれ、俺たちはそれに向き合わなきゃならないんだ、勝とうが負けようがな。

キャサリン

……

フェイスト

ついでに。

俺は蒸気甲冑の中身がどんなか見たことがない。でも俺は生産ラインのそばに立って叩き続けるあの後ろ姿は忘れない。

俺にとっては、ばあちゃんこそが英雄だ。これまではそうだった。今だってそうだ。これからもずっとばあちゃんが俺の英雄だ!

あはは……

どつかれる前に、マジでさよならしとくよ!

カンッ。カンッ。カンッ。

生産ラインは変わらず稼働し、何も変わらないかのようだ。

……ハナタレ小僧が。

フェイストには、工場の奥から響いてくる溜息が聞こえた。それは彼にとって、なにより馴染みのある声だった。

彼はその方向へと軽く手を振ると、振り返らずに外の日差しの中へと歩いていった。