局部壊死 6-7・戦闘後
断弦
……
ようやく泣き止んだみたいだ。
こいつの目、まるで脳死してるみたいに淀んでる。
だがこいつに同情はできない。ファウストと違ってな。あいつは命を救ってくれた、良い指揮官だった。
そのファウストがメフィストを俺たちに託したんだ……これはファウストの最後の命令だ。やり遂げてみせるさ。
それはお前たちの勝手だが、俺には関係ないだろ?
いや、俺たちと一緒に脱出しよう。その方がお前たちの生存率も多少は上がるだろう。
……そうか、では行こう。
無事逃げられたら、そいつをどこに連れてくんだ?
ファウストはチェルノボーグには行くなと言っていた。
……だからといって、他に行ける場所はあるんだろうか?
お前たちはファウストの下に付いて長いのか?
フッ……最初はあいつが俺たちに付いて来ていた、といったほうが正しいな。
四、五年前のあいつはな、何か特別な戦術が使えるわけでもなかったし、狙撃の腕前だってひどいもんだった。全部俺たちがあいつに教えてやったのさ。
だが自己学習と鍛錬を重ね、スノーデビルの奴らや、パトリオットの戦士たちとも訓練して、どんどん強くなっていった……
パトリオットやフロストノヴァからも指導を受けて、そして俺たちの隊長を任されるまでになったのさ。隊長なんて呼んだことはほとんどなかったが、誰もが実力を認める素晴らしい隊長だったよ。
……お前たちは、運が良かったんだな。
メフィストはともかく、ファウストは俺たちに何かを強要したことは一度もなかった。
みんな、起爆矢は惜しまなくていい。
近衛局を蹴散らすのにまだ使えるんじゃないのか?
ファウストは死んでいった仲間を、いつもこうやって弔っていた。
「敬意を表すことは、浪費には当たらない。」そう言ってたな。
グレースロートさん?
あいつ……
確か、彼はメフィストと一緒にいた狙撃手でしたね。レユニオンの指揮官の一人です。
……お知り合いですか?
分からない。私とあいつが知り合いと呼べるかは……自分でもわからない。
そうですね。
ロドスはそうです……ほとんどの場合、いつもそうです。
ですが、できることがたとえほんの一握りだったとしても、それをやるんです。
私たちは、できることは必ずやります。
ドクター、もしかしてこれまでのことを振り返ってるんですか?
これまで……たくさんの死を見てきたことを?
ドクターの考えは分かりませんし、その感情を感知するつもりもありません。
いつかきっと……聞かせてくれると信じてますから。
……オペレーターの皆さんは、これまでたくさんの努力をしてきました。
死んでいった命は、救えたものよりもずっと強く心に残ります。どんな死であっても、私は忘れられません。
ですが、もしオペレーターの皆さんの努力がなければ、もっと多くの死を目の当たりにしていたはずです。
もっと、もっと多くの死を……
これまで、ロドスは感染者のために戦っているものだと思ってた。
でも今は、私たちの手にかかって倒れるのも同じ感染者。
アーミヤ……
ねぇ、ロドスは何のために戦っているの?
君さ、今それを聞く?
ブレイズさん。
……わかってるよ、続けて。
同じことを、私もいつも自分に問いかけています。
感染者も、非感染者も、毎日のように私たちの目の前で命を落としていきます。
……私たちが成すべきは、目の前で起きる「一つの死を阻止する」だけではありません。それだけでは、この大地で起こる無限の死の連鎖を断ち切ることはできません。
今もそうです……私たちが向き合っているこの戦いだって同じことです。
戦っている者同士を死に追いやるのは、一本の矢でも、一つのアーツでも……一度の爆発でも、一つの傷口でもありません。
私たちが真に立ち向かい、打ち克つべきは、感染者と非感染者の間の恐れと敵意です。これが全ての戦いを生み出し、互いに傷つけ合う理由の根源です。
私たちは、そんな敵意に汚染されきったこの大地の土壌を、浄化するための薬にならないといけないんです。
あっ。
今のあれ、レユニオンが撃ってるのかな?
……アーツを込めた矢ですね。
お粗末な……花火だね。
ニアールから聞いたけど、チェルノボーグではあのウロコの坊やにかなり手を焼かされたらしいね。
射撃を受け止めた腕が折れるかと思ったって言ってた。あの人の腕なんて、私ですら折れっこないよ。
でもさっきの戦いでは、弦に力がちゃんと入ってなかった。矢に込められたアーツだって大したことなかったし。
何があったっての、ウロコの坊や。
もしかすると彼には……もう戦い続ける理由がなくなったのかもしれません。
ねぇアーミヤ、あの坊やは消えるアーツで実は攻撃を避けてたなんてことはないかな?
……ごめんなさい。
何謝ってんのさ。ただ、なんか惜しいことをしたなって。私が見た限り、悪い奴じゃなかったから。
もういまさら何を言っても遅い。
遅くありませんよ。
過去に撒かれた悲劇の種が、今となって花を咲かせて、悪の実を結んでいるんです……ですがこれから先に起きる悲劇は、私たちで止められるはずです。
……
あいつのクロスボウ、拾ってくる。
何かを悟ったのかな?
彼女の過去を知らないんですか?
教えてもらってないよ。そんなに仲良くもないし。
彼女のご両親は鉱石病学者でした。感染者のために鉱石病を研究していたのに、感染者と当局との衝突に巻き込まれて命を落としました。
彼女はただ、私たちの境遇と自分は大して変わらないと考えているだけだと思います。
グレースロートさんはブレイズさんが思っているより、ずっと敏感な人です。ただそれを表現しないだけで。
そんなのさ……ちゃんと言ってくれなきゃ分かるわけないじゃない……
……
彼は君の友人ですか?
……分からない。
あんたは誰?
自己紹介が必要でしょうか?
いらない。
感染者と友人になるのは危険です。
私は友人が感染者かどうかは気にしない。
そうですか……
ご愁傷さまです。
……どうして私にそんなことを聞くの?
君が感染者と友人になることを危惧しているからです。
アーミヤ、通信だよ。
はい。アーミヤです。
ガヴィルさん? どこにいるんですか?
……スラム最下層の通路? 新しい通路? どういうことですか?
……黒い装束、それに……
スノーデビル小隊? スラムのレユニオンと合流したんですか?
……これ一番まずいことが起きちゃったみたいだね。