怒号光明 R8-3・戦闘前
燃え易き「麦藁」
フェイゼへ:
前回の話の続きをしよう。
私は長い逃亡の末、小さな村にたどり着いた。
その時は特に深く考えず、ただ一時的に隠れる場所を探していた。まさかそこに腰を落ち着かせることになるとは思いもしなかった。
あの老夫婦は恐らく、ウルサスの度重なる戦火で早くに子を失ったのだろう。私をまるで娘のように可愛がった。
私の持つ秘密さえ、二人は私のために隠してくれた。
あの二人には、感謝してもしきれないほど世話になった。
ただ残念なことに、十分な恩返しはできずに終わってしまった。
1月13日
前回の定例調査において、我々の隊員の一人が襲撃にあった。
今から、全戸を対象に捜査を行う。感染者はもちろん、襲撃犯を発見すれば即刻処刑だ。更に、これらの者を匿った場合も処罰の対象となる。
苦しい思いをしたくなければ、心当たりのある者は今すぐ居場所を教えろ。善良な通報者を傷つけたりはしないと約束しよう。襲撃犯と感染者については、相応の処分が待っているがな。
それでは、一軒目から調査を開始する。
婆さん、とうとうこの日が来た。これ以上は隠れようがない。
出て来ちゃダメだよ、タルラ! 家の後ろに隠れていれば見つかることはないさ。処罰が怖くて逃げたってことにしておくから、誰もお前を責めたりしないよ!
だがそれでは皆に危害が及ぶ。恩を仇で返すことなんてできない。
少しだが金貨を置いていく……ヴィクトリアの金貨だが、贅沢さえしなければ、一生食べることには困らないはずだ。
タルラ、タルラ! どこに行くんだい? 私のタルラ……ダメだ、あいつらに顔を見せてはダメだよ! あの監視隊の黒い虫どもは、人を人とも思っちゃいないんだから!
だからこそ、これ以上村の人たちを苦しめるわけにはいかない……こんなことはもう終わりにするんだ。奴らに、悪行には報いがあるということを思い知らせてやる。
大丈夫だよ、婆さん。奴らには、二度と復讐の機会など与えない。もう村の人を誰一人として殺させやしないから……
隣の男の子が奴らに石を投げただけで殴り殺されたことは、忘れもしない。
タルラ……ああタルラ! やめておくれ……そんなこと言わないでおくれよ!
だ、誰だい!? ……監視隊かい? ここには年寄り以外誰もいやしないよ! 早くどっかへ行っとくれ!
おばあさま、私よ!
おお、アリーナかい! 早く、早くお入り!
顔を青くしてどうしたんだい? 何か悪いことでもあったのかい?
……密告者が出たわ。
え? 何だって? 何の密告だい?
この村に感染者が一人だけいることを監視隊は知ってるみたい。
そんな、まさか……あぁ! 冗談だと言っとくれ!
どこから情報を得たのかはわからない……でも、感染者を匿ったらどうなるかはみんなが知っているわ。
……
おばあさま……父が早くにこの世を去った後、母にも私にも本当に良くしてくれて感謝しているわ。二人のことは本当のおじいさん、おばあさんのように思っているの。
こうなってしまったからには、もう隠し事なんて……
――待て、アリーナ。
婆さん、爺さんはどうした?
クソジジイ、何の用だ?
わしは罪を犯した!
自首か? おっとそうだ、思い出した。確かあの隊員は老いぼれに足止めを食らったとか言ってたな。その足の様子を見ると、お前が襲撃犯の一人だな?
その通りじゃ!
……見たところ特に財産もなさそうじゃないか。ふん、もういい。見逃してやるからどこへなりとも行くがいい。しかし、こんな貧乏な農民にたかろうなんて、あいつもおかしな奴だな。
待て! ほら、この体を見ろ! これは何だと思う?
――!
か、感染者! 密告のあった感染者とはお前のことか!?
何だって!?
あの夜、着替えを手伝った時に見えたんだよ……タルラ、あんたは感染者だね。私もじいさんもとっくの昔から知ってるよ。
なっ――
だけどね、じいさんも同じさ。小遣い稼ぎに採掘場へ行って、鉱石病をもらって帰ってきたんだよ。だからいつもあの上着を着て、脱ごうとしないのさ……
じいさんはあんたの代わりに罪を被る気なんだよ、タルラ……!
そんなのダメだ!
まさか、爺さんが……
村の人間なんて当てにならないよ。金や命のためなら、あいつらはどんなことでも言うからね!
タルラ、この二年間、私たちは本当にあんたを愛していたんだ! いい子だ……あんたはいい子だよ!
私たちは老い先短いんだから構わない。でもあんたはねタルラ……たとえ病気でも先はまだまだ長い! あんたにはいい人生を送ってほしいんだよ……
タルラ、行っちゃダメだ! 行かないでおくれ!
さあ、わしを捕まえるんじゃ。
早く捕まえてくれ!
この体を見ろ! わしこそがその感染者じゃ!
……
まだ信じられないのなら、これを見ろ!
剣? それを下ろせ。じいさん、お前じゃ俺たちには敵わない。
そうじゃない。わしのアーツを……わしのアーツの力を見てほしいんじゃ!
老夫が剣で自らの腕を切ると、流れ出た血は地面の雪に滴り落ちることなく、霧のように空気中に広がった。
ほら、見ろ……見てくれ! 正真正銘の感染者じゃ!
わかった、信じよう。
協力に感謝するぞ、感染者のじいさん。
うぐ……ぐっ……!
タルラ……
タルラ! 行かないで! 帰ってきて!
これは……火?
どういうこと!? 家が燃えている――
タルラ! これはあなたの――
待って! タルラ!! このままじゃ村全体に燃え広がっちゃう!