闇散らす火花 幕間
いずれは共に
1097年11月23日 p.m. 8:45
ふぅ、疲労困憊ですわ……
まったくあの方たちは何なんですの。意味のない提案ばかりで、頭の中に何がつまっているんだか。
あの議員たちは、本っ当に──
本っ当に──バカばっかりですわ!!
プッ。
貴方にも苦労をかけますわね。堂々巡りするばかりで進歩性のない話を記録させてしまって……
そもそもあの方たちは、感染者のために議案を提出しているのではありませんわ。思惑がバレてないとでもお思いなのかしら?
どの機関が感染者の認定を出して、どういった基準で仕事の分配を行うか、そしてどの組織が優先的に感染者の労働者を受け入れるのか……これに利権が絡むことぐらい誰にでもわかりますわ。
あの方たちは感染者の実情に触れず、利権についてもないもののように扱っていますわ。わざとらしく同じ会話を繰り返して時間を無駄にすることに、一体何の意味があるんですの?
議員は貴族で体面がありますからね。感染者の実情を考慮するかはさておき、利権の配分なんて話をおおっぴらに持ち出せるわけないですよ。
この議会が始まってから、まとまった話は何一つありませんわ! どの方も感染者のことをああだこうだと言いますが、成果はゼロですのよ!
他人の提案は否定するくせに、有用な解決方法は誰一人出さないんですのよ! あの提案の数々は一体何ですの?
それが貴族流の「話し合い」なんですよ。ヴィクトリアの市議会において、先ほど仰っていた利権配分の類を決定する場合には、まずこういった「体裁の良いフロー」を経る必要があるんです。
あと、あのチャウィー議員──
感染者の収入を増やし、選択の自由を広げ、生活の質を高められるようにするためだとか何とか言って、自分がいかに慈悲深いかをアピールしていましたわ。
「感染者たちの労働時間に制ぃ限を設けなければ、彼らは労働時間を自由にコントロールすることができぃ、それによって! より多くの賃金を得ることができるのでぇす。」
よく似ていますわ。
……あのしらじらしい口調を聞くと本当に気分が悪くなりますわ!
分かっているくせに。感染者の賃金なんてたかが知れていて、人件費を抑えた分の利益は最終的にすべて自分のポケットに入るって。それなのにあんな慈悲深さを装って……フンッ。
でも確かに解決策の提示ではありましたね。感染者地区を工場に造り替えることで、みなに職と住を与えることができ、自活を促せるという主張は……大多数の国の政策よりマシであるのも事実です。
フンッ!
……
ここの人たちは、みんな傲慢すぎますわ。
え? 突然どうしたんです?
例えばあの感染者新政策に反対する貴族たち……
彼らは、外から来た感染者全員を追い出すと言っていましたわ。その人たちがここに来てどれほど経つか、家族はいるのか、この地に馴染んでいるか、そういう事情を一切無視して……
全員追い出して、どうしろと言うおつもりかしら? 感染者たちなど荒野を彷徨って勝手に死ねと?
行き場を失ったその人たちが最終的にどこへ向かうか、あの方たちは考えたことがありますの?
プッ。
はぁ、でもこれが議会なんですよ。
何ですって……?
これが議会というものです。
誰もが本当に感染者の利益を考えていたとしたら、それはもう議会ではなく、感染者支援協会と呼ばれてますよ。
双方の目的は明確です。まずは実現不可能な案を公の場で提示してから、交渉の中で互いに譲歩し合って妥協点を見つける。これが普通なんです。
それにしても、あの「白狼」伯爵ですよ。彼が立場を明らかにすることをみな期待していたんですけどね。まさか今日、棄権票に入れるなんて思ってもみませんでしたよ。
「白狼」スカマンドロスですわね。あの方はここ半年、議会でどんな意見も表明していませんわ。どうしてなのかしら……
いいえ、違いますわ……議会がこれではいけません……
あぁ──今日あの部屋にいた方々ときたら……わたくしの考えは、あまりにも甘かったと言わざるを得ませんわ。
少なくとも何人かはまともな思考をお持ちの方がいると思っておりました。都市全体の安定を維持するためだけでも、いくつかはちゃんとした議案を提出してくれるだろうと。
ですが彼らは議会を単に駆け引きの場と見なしているだけですわ。どうやって自分に利益をもたらすかということしか、頭にないんですのよ。
うーん、さきほども同じ話をしたじゃないですか。傍聴者として出席する前から、彼らが利益に貪欲な人たちだとわかっていたはずですよね? 別に驚くことじゃありませんよ。
あっ。ていうか、あなたお酒はあんまり飲めないんじゃ……
……自分はこのままで問題ないなんて思っていると、いつか大変なことになりますわよ!!
んん?
いつか大変なことになりますわ! 抑圧され続け、搾取され続けるだなんて、そんな状態に耐え続けられるとでも? 彼らは本当に理解していますの? こんな生き方を望む者などいませんわ……
ほんの少しでも希望があれば、彼らも前向きになれますわ! 彼らは頑張って生きようとしますのよ! わたくしは知っていますわ!
……モンベランさん、なんだか話があちこち飛んでますよ。
生まれつきの悪人などいませんわ。生まれつき他人の命を奪うことに喜びを感じる人なんて……彼ら感染者も、ただ頑張って生きたいというだけですわ。
うん。わたしも今はただ、頑張ってあなたにこれ以上お酒を飲ませたくないだけの友人です。
感染者というだけで蔑まれるべきですの? こそこそ隠れなくてはなりませんの? 貴族たちは生まれつき高貴であるべきですの? 感染者から搾取して利益を得て当たり前ですの?
まったくもって愚かですわ! もしこのまま度の過ぎた抑圧行為を続ければ、遅かれ早かれ感染者たちは暴動を起こしますわぁ……
起こらないだなんて言わせませんわよお……感染者が暴動を起こしたら、あらゆる人々の生活が壊されてしまいます……
あのレユニオンの悲劇、悲劇を……再び起こしてはなりませんわぁ……
そうですね、二度と起こしてはいけません。それとあなたも本当にもう飲んじゃダメです。飲み過ぎですよ。ちょっと休憩して、お水でも飲みましょ?
不要ですわ! あれを、今のを……もう一杯くださいまし! あの方たちはわたくしの話に耳を傾けることはしませんが……わたくしこそが正しいんれすのよ!
ええ……「わたくしこそが正しい」……
ブレずに自身の立場を堅持し続ける人物であること。これこそアンスト議員があなたを議会に招いた理由でしょう。
ん? 誰?
思考が明晰で、なおかつ先を見通せる、とある独立貴族ですよ。
ですが、目の前のことしか見えていない老貴族たちにあなたを理解することはできないでしょうね。
目先の利益に影響が出ない限り、あの方たちが変わることなどあり得ません。
こう言った方がわかりやすいですか、酔っ払いのお嬢様? あなたが酔いから覚めたらもう一度話さないといけないでしょうけど。
……
…………
うう……
!?
どうして急に泣くんです?
このグラス、手にくっついて取れませんのっ! うううっ……
大丈夫ですよ、わたしが取ってあげますから……ほら、もうくっついてませんよ。
ううっ……
あの方たち、みんなこんな、なら……ぜったい間違ってるくせに、自分たちが正しいと思っているのならぁ……この世は終わりですわ……
あちゃー、酔いつぶれちゃった。
1097年11月23日 p.m. 10:45
……
…………
起きました? パーティーで酔いつぶれるなんて、わたしがそばにいるにしても警戒心がなさ過ぎますよ。
……頭がくらくらしますわ……
ふふ、ますますあなたのことが気に入りました。
……?
あなたはお金持ちのお嬢様ですが、感染者や困窮者への善意は本物です。今この都市の問題がどれだけ大きいかはご存じですよね? あなたはカレドンに良い変化をもたらしたいと思っていますか?
ご存じの通り、わたしは市の資料館の記録員にすぎず、もっと上を目指すには、頼る人を適切に選ばなければなりません。どうでしょう、情報を提供しますので、あなたが引っ張ってくれませんか?
……
ジョーンズ議員はご存じですよね。チャウィー議員と連名で議案を提出したあの人です。実はですね──
……
彼らが工場建設に使った資金ですが、その一部はカレドン議会が出した助成金なんです。しかもその資金が最終的にすべて工場に使われたかどうかに関してはクエスチョンマークがつきます。
こういうことは、カレドンの貴族たちの間で常態化しています。
もしこの件をどうにかして調べ上げることができれば、彼らの妥協を引き出すことも不可能ではありませんよ。
うわぁ〜。
貴方……物知りさんですわね!
ええ、わたしは話しましたよ、今度はあなたの番です。もし何か耳寄りなお話があれば聞かせてください、情報交換です。
知ってますわ! わたくし、わたくしこそが──正しいのれす! わたくしは──彼らに自分たちが間違っているということを認めさせますわ!
わかりました……
もうちょっと休んでてください。
(家柄が良く、正義感があり、政治を学んだこともある。だけどまだ現実を知らず、芯にあどけなさが残っている。彼女のような人物は大抵が現実の無情さに一度打ちのめされる……)
(机上の政治理論は理解していたとしても、今回初めて本物のヴィクトリアの議会を目にしたはず。本人はちゃんと理解しているつもりだろうけど、道のりは長そうだ。)
1097年11月24日 a.m. 9:20
……
……誰ですの!? うーん……今日は仕事は休みのはずでは……?
……はい?
はい! あっ、ミッドレイさん? 大変失礼いたしましたわ。何かご用ですか?
何ですって?
アンスト議員……いえ……先生が? 心臓発作を起こしたと? 昨晩何者かが家に侵入した!? それで先生は大丈夫ですの? 病院にいらっしゃるのですか?
ええ、容体が落ち着いているなら何よりですわ。昨晩のうちに言ってくださればよかったのに……今から病院へ向かった方がよろしいですか?
例の会合ですの? わたくしが先生の代わりに出席を? 問題ありません、すぐに準備をいたしますわ。
ええ、感染者にヒアリングした意見をまとめて、議会の見解を発表すればよろしいのですね、わかりましたわ。
……何ということでしょう。賊が議員の家に押し入るなんて……
ひとまず考えるのはやめておきましょう。私が代役で行けるのも悪い話ではありません。色々と訊きたいこともありますし。うっ、頭痛が……昨夜は飲みすぎましたわ……
昨夜は……どうやって帰ってきましたの……? パーティーで色々と話をしたような気がしますが、ケイトに何を言いましたっけ? 何か言われましたっけ?
はぁ……とりあえずやるべきことを先に済ませましょう!
感染者地区の広場に、大勢の感染者が集まっている。
貴族議員が感染者たちと交流したいなどと言い出すことは、確かに珍しい事態である。
彼らは好奇心と疑いを含んだ眼差しで、目の前にいる美しい身なりをした女性を見た。
今日はあの老議員が来るはずじゃなかったか?
ほらな、言っただろ。お偉いさんどもが感染者と同じ場所にいたいと思うはずがねぇ。連中が自ら足を運ぶなんて有り得ねぇんだよ。
しかし本当に誰か来るとは思わなかった、こりゃどういう風の吹き回しだ?
コホン……
皆様ご心配なさらず、忌憚のないご意見をおっしゃってください。皆様が提示してくださった問題点は、このわたくしが責任をもってアンスト議員にお伝えいたしますわ。
(小声)お前から言え。
(小声)なんで俺なんだよ? あんたが話せばいいだろ?
ではそちらの方からどうぞ。
え? 私?
ええ、貴方はこちらでどれくらい働いていらっしゃいますの?
半年経たんくらいだな。
……俺は覚えてねぇな。
では、貴方がたはどちらからいらしたのですか?
カジミエーシュだ。
ウルサス……かな?
ここに来る前と比べて、今の生活をどう感じておりますの? 毎日の仕事量は適切ですか?
ここじゃ地下競技場で命を懸ける必要はねぇしな……うーん、生きるための金を生きたまんま稼げる分、マシな方だ。
……この会合への参加は仕事と見なされ、賃金が支払われると聞いたが、本当か?
ええ、もちろんですわ。会合終了後にきちんとお支払いします。
それで、貴方がたはこれまでに賃金を不当に減らされた、あるいは規定の期限通りに支払われなかったなどの経験はございますこと?
……
……
ご安心なさって、情報提供者の名前は決して漏らしませんわ!
……貴方がたのお住まいを伺ってもよろしいかしら?
感染者地区で雑魚寝してるよ。規定で仕事初日の給料と引き換えに布団が支給される。少し薄いがみんなで体を寄せ合ってりゃ、冬もそこまで寒くはない。
複数人で同居していらっしゃるのね……ではここにご老人は?
工場が募集してねぇんだ。力仕事だからな。
子供がここで働いてりゃ、老いた親が一緒に住んでることもあるだろうが、何とも言えねぇ。子供がいねぇ場合は……老人にもできる仕事がありゃそれに応募するだろうが、難しいだろうな。
ここの食事や賃金の状況はどうですの? 何らかの名目で差し引きされたというのも含みますわ。
飯は工場が食わせてくれるが、そこそこ腹を満たすって程度かな。力が出なくて仕事にならねぇってほどじゃねぇ。
賃金か……ハハッ……
賃金に関しちゃ、あの現場監督、時々……な……
あいつはな、時々私たちの体の源石が商品に触れたせいで、汚れて売れなくなったと言うんだ。それで金を払わんことがあるんだよ。
……あの者たちは本当に、言ってることとやってることがまるで違いますわ……
よくあることさ。あるいは、業績不振で賃金が払えんとか言って、一部の人を追い出して、しばらくすると前よりもっと低い賃金で雇い直すってこともある……
俺たちには発言の場すらねぇんだ。議会なんて門前払いで、話したとしても、聞いてくれる奴なんかいるはずもねぇ……
なるほど、すべて記録いたしましたわ……
普段は仕事が終わりゃ、近くのバーに気晴らしに行くこともあるんだけどよ……今朝、そのバーで火事が起きちまってな。
そうそう、ほんっと最近は良いことが何一つないよ。
!!
火事? そのバーって、「グリーンスパーク」のことですの?
いつのことですの? 今朝ですって?
どうして? あそこの店員さんは──彼女は大丈夫ですの?
あぁ、俺たちにもわからねぇんだよ。常連客が言うには、店員のお嬢ちゃんをずっと探してるが、どこへ行ったかわからないらしい……
な、何が起きたんだ?
ゴホゴホゴホッ……何事ですの!?
左右の部隊は、計画通りに全員連れて行け!
(爆発? これは源石爆発物の臭いですわね……)
何しやがんだ!? 放せ、放しやがれ!
お前たち、一体何者だ──
おとなしくしろ。こいつらの口を塞げ!
(感染者? なぜ?)
(四、六、八、十人以上……妙ですわ、この人たちはどこから? 警備隊の方々は?)
(……なぜ彼らが労働者たちを捕らえるんですの? 一体何が目的……?)
(待って……こんな白昼堂々の拉致だというのに、わずかな躊躇も見られませんわ。明らかに計画的な犯行ですわね……)
(彼らの目的が何なのか見定めさせてもらいましょう。)
あっちにいる娘、あいつも捕らえろ。
おとなしくしろよ。
触れないでくださるかしら。自分で参りますわ。
車にぶち込め、早くしろ! 全員捕らえたか?
ボス、全員揃ってるぞ!
よし行くぞ、扉を閉めろ! 工場へ急げ!
(二十分ほどの道のり、途中で何度も曲がっていましたわ。この方たちは随分と慎重ですわね。)
(けれどこの縄は、わたくしを侮り過ぎですわね。こんな素材、ほんのちょっと燃やせばおしまいですのに。)
(ここは……工場? 何もありませんわ! 設備はどこに?)
(おかしいですわ……)
どうして俺たちを捕まえるんだ!?
は、放せ! わ、私には送金を待つ家族がいるんだ! お願いだ、帰してくれ……!
チッ、おとなしくしろ! そこに座ってやがれ!
これだけの人数をあんなおおっぴらに拉致して、どうなるかわかってんのか? 絶対に誰かが通報してるぞ!
早く解放してくれ、今ならまだ軽い罪で済む……
通報? 面白ぇ、俺たちがそんなもんにビビると思ってんのか?
グダグダ言ってんじゃねぇ、黙っておとなしくしてろ!
あ、あんたたちも感染者だろ! なんでこんなマネをするんだ!
このままじゃ、ろくなことになんねぇぞ!
黙れ。
うっ──
てめぇら*スラング*静かにしやがれ! ギャーギャーうるせぇ奴はそいつと同じ目に遭うからな!
いいかよく聞け。余計なことはすんじゃねぇぞ。アーツを使おうとする奴がいたら頭を吹っ飛ばすからな、わかったか?
全員おとなしくしてろ!
(この方たち……典型的な悪人ですわね。)
(……あとで必ず懲らしめて差し上げます。)
(ですが彼らは一体何が目的なのかしら……)
あの老議員は……あいつはどこだ? 老いぼれを捕まえる計画じゃなかったのか? なんで小娘なんだ?
同じようなもんだろ? 老いぼれだろうと小娘だろうと捕まえりゃいいんだ。
(やはりアンスト議員が目的でしたのね。)
これからどうするんだ?
まずは準備だ。それから合図を待つ。
ブツはこれで全部か?
持ってきたのは半分だけだ。
なら廃棄地区のほうは後で処理しとけよ。あのボロ小屋に、爆発物と化学品を残しとくのは危険だ。余計な面倒が起こらねぇようにしとかねぇとな。
そうだった! あの隠れ家、あれを忘れるとこだったぜ。
ついでに、ダントン兄弟が街を忍び出る時に必要になるブツも用意しとけ。
金、衣類、偽の身分証、それと武器だ。どれも忘れんじゃねぇぞ!
おいおい、しゃべりすぎだ。あいつらが聞いちまったじゃねぇか!
何ビビってんだ、どうせあいつらは死ぬ。漏れることはねぇよ。
爆弾をセットするぞ、早く行け。
お前らはこの感染者どもを見張っとけ、俺たちは次の場所に行く。
了解。
(……あれは全部爆弾ですの?)
(工場にあるのは大量の爆弾……設備はすべて移されましたの?)
(どうやらこれ以上時間を無駄にする必要はなさそうですわね。)
(予備のアーツユニットを持ってきて正解ですわ。なかったら大変なことになっておりました。)
彼女が玉製の指輪を擦ると、黒く艶めいた表面から明るい光が放たれた。
えっ、あんた縄を……?
シッ、静かになさって。これから何が聞こえようと隠れていてくださいまし。出てはなりませんわよ。
わ……わかった……
おい、誰か出てきやがったぞ!
どうなってやがる? ちゃんと縛っとけってんだ!
ヒュウ、色白の子ネコちゃんじゃねぇか。一人で出てきたのか?
ぐへへっ、いい腰つきだな。俺の女になりゃ──
貴方がたは、まったく……気色悪いですわね……
はぁ……
爆発音。
激しい爆発音が工場全体に響き渡った。
暴徒が数名、アーツの激しい炎による壁や柱の崩壊に巻き込まれて意識を失った。
彼らの体に付いていた「源石結晶」は、高熱によって剥がれ、地面に落ちた。
これは……どうして源石結晶が? 違いますわ、黒く塗ったガラスですわね!
(感染者を偽装しましたの?)
何があった!?
何してやがる、人質を見とけっつったのに、使えねぇ野郎め!
貴方がたに指示を出しているのはどなたですの? どうして感染者になりすましていますの?
貴方がたの中に……感染者はいないのでしょう?
このクソアマが……随分と余裕かましてくれるじゃねぇか。
俺らん中に感染者がいようがいまいが関係ねぇ。
てめぇはここから生きて出られねぇんだから、そんなこたぁ知っても無駄だよ。
貴方がたとやり取りするのは、本当に疲れますわ……
何をするつもりだ!
おとなしく退がれ! でなきゃ手加減しねぇぞ!
(口封じをすると言っておきながら、武力で脅して降伏させようだなんて、行動が論理的じゃありません……)
そのような武器でわたくしを脅すおつもりかしら。
わたくしがこれまでに、貴方がたのような輩をどれだけ相手にしてきたと思っていますの?
炎が地面で舞い踊り、まばゆい光を放つ。
隅に積まれた源石爆弾の樹脂ケースが、炎の熱で溶けていく。
むき出しになった結晶制御装置が突然大きな音を立てた。
源石爆弾のコアは、一瞬強烈な光を発した後、活性を失った。
爆弾が! 爆弾が燃やされた!
どういうことだ? なぜ爆発しない?
バカか! あれはアーツだ! あいつは術師なんだよ!
*スラング*、面倒なことになっちまった!
さて、貴方がたには二つの選択肢を差し上げますわ。
一つ目。おとなしく投降なさって。伺いたいことがたくさんございますの。
もう一つの選択はお勧めできませんわね。わたくしは今とても機嫌が悪いんですもの。
*スラング*、見くびられたもんだな!
てめぇらやるぞ! こいつをぶっ殺して、ほかの感染者たちも全員始末するんだ!
先ほどのアーツを、ご覧になりませんでしたの?
あのようなアーツを操れる人物は、カレドン中を探してもそう何人もおりませんわよ。それでも抵抗するおつもり?
貴方がたの頭には一体何が詰まってるのかしら?
何もビビるこたぁねぇ! ただの術師だろうが!
俺は各地を歩いて色んなものを見てきた! それにこっちにだって術師はいるんだ、てめぇの実力がどれほどのモンか見てやんよ!
はぁ、まったく嫌気が差しますわ……
待て! ダメだ、逃げるぞ!
今度は何だ?
思い出したんだよ! こいつはただの術師じゃねぇ!
「王の杖」だ! こいつはモンベラン家の──
何だって?
いいから! 行くぞ!
彼女の掌から激しい炎が生まれ、上に渦を巻いた。術師の目の前で熱せられた金属の破裂音が響き渡る様は、まるで炎の中で眠りから目覚めた巨大生物の咆哮のようだった。
天井に並ぶ蛍光灯が炎に舐められ、一斉に破裂する。柱が焼け落ち空気は高温で歪んだ。工場内の床に散らばる残骸が炎に巻き上げられ、猛烈な光を発して蒸発する。
暴徒たちは驚愕したまま、見つめるしかなかった。何も言えず、動くことすらできずにいた。
混乱の中、燃え上がる炎が彼女の毛先を優しく掠めたが、彼女自身を傷つけることは少しもできない。
……わたくしの威光に、ひれ伏しなさい。
力が注ぎ込まれると、暴徒たちの目の前に赤い光が炸裂し、そして何も見えなくなった。
彼女が高く掲げていた両腕を下ろした。
こ……これはなんつー光景だ。
す……すごすぎる!
みなさんご無事かしら? 怪我をなさった方はいませんこと?
大丈夫だ、俺たちは無事だ。
眼前の光景を生み出した若い術師は、振り返って感染者に手を貸そうとした。
しかし彼女が背を向けた瞬間、物陰から暴徒が飛び出してきた。
*スラング*……このクソったれ、ぶっ殺してやる!
!!
危ない!
ぐあっ……
どなたですの?
工場の天井につながる階段から通気口へと、影が一つ素早く滑り込んで彼女の視界から消えた。
……
嬢ちゃん、大丈夫か。
ええ。
まだ動ける方は手を貸してくださいますこと? まずは脱出しますわよ!
1097年11月27日 a.m. 6:40
感染者の拉致? 工場の爆破?
ええ、結局彼らが何を目的としていたかはわかりませんでしたが。
妙だな……
で、君にぶちのめされたその暴徒たちは? 何か言ってたか?
……えーっと……
現場の状況が少し複雑で、少々やりすぎてしまいましたの……
まあいい、詳しくは訊かないことにするよ。
感染者になりすまして工場を爆破か……奴らがなぜこんなことをしたのかは推測できる。
逃げた方たちを捕まえるのは少し難しいと思いますわ。
感染者地区で起きた事件だからな。警備隊に調査を期待するというのは現実的じゃない。
それに今回の件は、ほかにも不審な点がございますわ……あの時、わたくしが見たのは──
まぁ、それはさておき、スージーは見つかりましたの?
残念ながら、まだだ。人をやって探してはいるんだがな……警備隊の人が言うには、一度火災現場に姿を見せたものの、すぐに泣きながらどこかへ走っていったそうだ。
あまりにも見つからないようならわたくしも捜索いたしますわ……彼女のことが少々心配ですもの。
ビタールートさん! 開けてください! ビタールートさん!
──!?
ビタールートさん! お願いします! この子を助けてください!
死にそうな感染者がいるんだ、手伝ってくれ!
スージー? レイドさん? 一体何事ですの!?