ドッソレスホリデー DH-9・戦闘後
龍威鼠心
んっ……あれを見てください。追われているのは、チェンたちですよね?
おお、確かにチェン君とリン君だな。いやあ、あの二人は素晴らしい……まったく見事な活躍ぶりだ!
いやいや、とにかく早く助けに……
突然、大きな爆発音が鳴り響く。――それは、海岸のほど近くまでつけていたクルーズ船からのものだった。
……お前……一体何をしたんだ?
んー……ちょっとしたサプライズ、ってところかしら。
ほら、人質の救出後はどうするつもりか、あなたに聞いたでしょ?
さっさと立ち去ること自体には賛成したけど、あの時、まだ持ってきた爆弾が残ってるのを思い出したのよ。
だから、元の持ち主に返してあげることにしたの。
…………
ところで、あなたも一杯どう?
この状況でよく飲む気になれるな。……と、いうか……なんなんだそのシャンパンタワーは。
ああ、これ? ボートを拝借するときに見つけたから、なんとなく並べてみただけよ。
はぁ……つまらん真似を。
私もそう思うわ。
……
……
お前、あれはわざとやったのか?
何のこと?
忘れたのか? 「あなたが彼らの後を継ぐとき、先人たちとまったく同じ道筋を辿っていくだけじゃダメなのよ」と、そう言っただろう。
お前がこの言葉を口にしたとき、通信はまだ繋がったままだった。
……
リン・ユーシャ、正直に言ってくれ。あの件について、お前は、私の想像したようなことなど、実際してはいなかった。そうなんだろう?
……岸に着いたわよ。
あなたの負けよ、おじさん。
……
小娘どもめ……カンデラのような女を助けるとは。お前らは自分が何をしでかしたのかをまるで理解していないようだな。
――やあ、パンチョ。今回は実によくやってくれたね。
カンデラ、貴様ッ……!
……もう止せ。我々は負けたんだ。
ははっ。賢明な判断だな、パンチョよ。
……さて。ここへ来て、椅子にかけたまえ。
カンデラ……貴様、何のつもりだ?
うん? 見てわからないか? 食事に誘ったつもりなんだが。
パンチョは冷たく鼻で笑ったが、しかしカンデラの真正面へと、腰を下ろした。
ふふっ。ほかの連中なら肝を潰して縮み上がっているだろうにな。君の態度ときたら、まったく堂々としたものだ。私は、君のそういうところが気に入っているんだよ。
御託はいい。
私はすでに敗北した身だ。その私を捕らえるでもなく、食事に誘うなど……貴様は何がしたいんだ? 私を侮辱したいのか?
違うさ、パンチョ。少し話をしたいと思っただけだ。
君はエルネストを使って私の注意を逸らして、自分の部下を大会に参加させ、試合を通じて、都市の各地に人知れず爆弾を仕掛ける、なんて芸当を見せてくれた。
その上最後は、第三ラウンド前夜に騒ぎを起こし……私がすぐには動けないよう、船上の富豪や権力者たちを捕らえるところまでやってのけたんだ。
今回の一件ほど、私がドッソレスを失う寸前まで追い詰められたことなど、ないと言っていいだろう。
*ボリバルスラング*! ……まったく、信じられん……この計画のために、私と部下たちがどれほどの準備を重ねてきたことか。
だというのに、それが……何も知らないよそ者二人を貴様が偶然招待し、そしてこの件を偶然任せたばっかりに……
私の計画が……打ち砕かれようとは……ッ!
なぜだ……なぜ貴様のような人間が勝者になり得るんだ!?
……勝者? 私が?
やれやれ、何を言うかと思えば。パンチョよ、どうやら君は私の都市に長く留まるあまり、私が誰であるのかを忘れてしまったようだな。
あるいは君が私を理解したことなど、一度としてなかったのかもしれないが。
いいか? ……君が戦っていたものは、決して私ではない。だから君は私に負けたわけではないんだ。
君は失敗した。それだけのことさ。
心底忌み嫌う都市で十数年を過ごした末に、君は三政府を憎みながらも、私を打倒するため、その一つから援助を受けることにしたのだろう。
どれ、当ててみようか? きっとリターニアの誰かだろうな。……私にはその名前まで推測することができてしまうが、今の問題はそこではない。
パンチョよ、教えてくれ。君は、どういうつもりだったんだ? 貪欲極まりないあの連中に、助けを求めるなんてな。
……
……ふむ。その沈黙から推察するに、君は屈辱をも耐え忍ぶことを学んでいたようだな。
しかし、それならばなぜ、私に尾を振り媚びようとはしない?
どうして、私が君に助力しないものと思い込んでいるんだ?
正直に言えばな、パンチョ。もしも君から頼まれたのなら、君の愛する戦争のために、私は人員と資金を与えていたかもしれない。
さらには、君が勝利を収めた場合、この都市も大いに君を頼りにしていたことだろう。
これ以上魅力的なプランはないように思うんだがね。
だとしても、私は貴様に頭を垂れるような真似なんぞ一生しない。
はぁ……君は、こうしたことに関しては呆れるほど頑固な男だな。
私に言わせれば、君のような奴は、「統一」だの「独立」だの、そういう言葉に対して、非現実的な期待を抱きすぎなんだよ。
何せ君たちときたら、仲間同士を結びつけるだけの「信念」の存在を盲信し、団結の象徴なんてものを追い求めてばかりいる。
だがな、実際のところ、ボリバルは一度として独立を果たしたことなどないだろう。国家として存在していた歴史すらもないというのに、信念や象徴の元に団結するなど――到底無理な話だ。
もし、君の計画が成功したとして、君の打ち立てるボリバルという国は、本当に君が想像した通りのボリバルになり得るのか? 私には、そうは思えないがな。
……貴様が何と言おうと、初めから私の望みはただ一つ。戦争の終結によって、ボリバルに平和をもたらすことだけだ。
確かに私は失敗した。今日のところは負けを認めよう、カンデラ。
だが、よく覚えておけ。私の行いは正義ではないかもしれん。それでも、これは間違いなく、貴様の行いよりも正しいものだということをな!
……あぁ、すまない。またやってしまった。君の背後にいる連中と君自身のことを混同した話し方をしていたようだ。
君は、今私が述べたようなくだらん人間などではなく、心からこの国を救いたいと願った人だ。そうだからこそ、このテーブルに着くことができるのだしな。
しかし、君の失敗に対する罰として、やはり私は君のことをあの連中の代表と見なすことにしよう。その方が何かと楽だ。
さて、話を戻そうか。親愛なるパンチョよ、君は何か勘違いしているようだが、私はこれまで自分に正義を見たことなど一度もない。
そもそも私は、三政府の思惑にも、君たちのボリバルにも興味はないんだ。
さらに言ってしまえば、実はこの都市自体への関心もさほど強くはない。だから、私がドッソレスに執心しているという認識もまた間違っている。
では、何になら関心があるのかと問われれば、それはこの都市の存在意義だ、と答えることになるだろう。
存在意義、だと? ……貴様、一生を娯楽に費やすことにしか興味がないとでも言うつもりか?
まったく、この石頭め。君が金銭の持つ意味というものを理解する日は、永遠に来そうもないな。
まあ、いい。君とはまた後ほど話すことにしよう。守衛たち、このじいさんを連れて行ってくれ。
ああ、それと。まだ抵抗している連中がいる場合、対処方法は……わかっているな?
はい、カンデラさん。
……
……
凄まじい光景でしたね。鴻門の会に勝るとも劣らない。
そばで見ているだけでも、ぞっとするものがありましたよ。
本当。思わず、お父様とお祖父様が食卓を囲んでる時のことを思い出しちゃったわ。毎度のことだけど、アタシにはどうしても耐えきれない空気なのよね。
ああ……確かに、私もそう思っ……――ん?
ホシグマ!?
スワイヤー!?
やあどうも、こんばんは。
あら、やっと気付いたのね。二人ともずぶ濡れのまま突っ立ってないで、さっさと拭いたら?
お前たち、どうしてここに……!?
あははっ。その辺りのことは話すと長くなりますから、後ほど食事の時にでもゆっくりお聞かせしますよ。
はぁ、こんなの見ちゃったお陰で、食欲なんてないんだけど……
さて、チェン君、リン君。実に申し訳ない。パンチョとの話にかまけて、最大の功労者たちを放っておいてしまったな。
――そこの君。すぐにドローンを手配してくれ。ああ、それから照明もだ!
これでよし、と。……いやはや、君たち二人は本当にいい仕事をしてくれた。まったくもってお見事だったよ。
ウェイ氏は、実に素晴らしい若者たちを寄越してくれたものだ。おかげで私は君たちと面識を得ることができたし――
――この大会にも、これ以上ないクライマックスが提供されたのだからね。
……「大会」? に、「クライマックスを」……?
ああ、そうだとも。今頃、大勢の観客がテレビの画面を通して、私たちを見ているはずだ。
さすがに、船内での出来事までは撮影しきれなかったが……チェン君が甲板の上でパンチョと対峙したあの一幕は、きっと人々の心に深く刻まれたことだろう。
テレビの前の彼らは今頃、君たちへ熱い拍手と歓声を送っているに違いない。
……あなたは以前、こう仰いましたね。「私がいるからには、ドッソレスを脅かすことなど誰にもできはしない」と。
確かに、言った覚えがあるが、その発言に何か問題でも?
今しがた目の前で起きた出来事も、大した脅威ではないと仰るのですか?
ハハハッ。チェン君、君もまだまだ若造だな。
――そもそも、「脅威」とは何だと思う? ドッソレスを更地に変えうる可能性のことか? それとも、この都市の全員を死に至らしめる可能性のことか?
……いいや、違う。そうではないのだよ、チェン君。
本当の「脅威」とは、人々がすべての欲望を捨て、快楽を追求しなくなった状態のことを言うんだ。
しかし――君は長年警察官として勤めてきたそうだから、そんな状態があり得るものかを想像するのは容易だろう?
……
……何も言わずとも、その表情が君の答えを物語っているな。
そう。君も知っての通り……それはあり得ないことなのだよ。
そして、その事実が揺るぎないものである限り、この都市は、永遠に存在し続ける。たとえドッソレスが滅びたとしても、トレッソレスを築くまでのことだ。
私には何度でも、この都市を創り出すことができるのだからね。
……
――だが。だからといって、君たちがこのドッソレスの英雄であるという事実に変わりはない。
……っと、いかんいかん。忘れるところだった。
衛兵、パーティーの準備は整ったか?
はい、大部分は完了いたしました。
よろしい。ならばマイクを……うむ、これだな。
ごほん。……ご機嫌よう、親愛なる市民の皆さん、そして観光客の皆さん。テレビの前の人々にも、まだビーチにいる人々にも、改めてご紹介させていただこう。
――ドッソレスウォーリアーチャンピオン、今大会の栄えある優勝者にして、この都市を救った英雄たち……
龍門からやってきた二人の女傑――チェン・フェイゼ! そして、リン・ユーシャだ!
さらに、自らパフォーマンスを行ってくれた、もう一人の功労者であるパンチョにも……この場を借りて多大なる感謝を献げよう!
……さて、それでは最後にもう一点。これより、大会の大成功を祝して……このビーチでのパーティーを開催する! 皆、外へ繰り出し大いに楽しんでくれたまえ!