画中人 WR-4・戦闘後
女将
うう、ううぅ……
お嬢ちゃん、ほら空が明るくなってきたよ。もうかなり歩いてきただろう? もうすぐ着くから、泣かないでおくれ。
ううっ……
大丈夫、お兄ちゃんがついてるから、安全だよ。
あぁ……いい子だから泣かないで。もう庭園は見えているよ。あと少しで到着するから。
ガアッ!
いやあぁ――!
ど、どうしてこんなところにいるんだ! こいつらは太陽を怖がるはずじゃなかったのか!?
くそっ! お嬢ちゃん、おぶってあげるから、しっかりつかまっていてくれ!
ガアッ!
おじさん! おじさん急いで!
か、髪の毛を引っ張らないでくれ! メガネが、メガネが落ちる!
ガァッ! グァッ!
……ウユウくん、逃げ足だけは本当に速いなぁ。
英雄さん、何かおっしゃいましたか?
ん~? 何でもないよぉ。あなたたちは早く庭園に隠れてねぇ。外の警備は私に任せて〜。
うーん……
あの小さな墨魎は、普通のオリジムシなんかよりもすばしっこいみたいだけど……どんどんウユウくんに離されてるねぇ。
まさか追いつけないほどウユウくんが速いのぉ? そんなことってあるぅ?
ガッ……ガァ……ガァ……
くらえ! えい! はっ! やぁっ!
ははっ! どうだ? これで追いつけないだろう!
ガッ!?
おじさん! もっと速く走れないの!?
これ前からやってみたかったんだ。映画のカンフースターたちは、路地で追いかけられるときに、必ず何かを投げるからね!
い、いいから! もっと速く走って!
痛っ! 頭を叩かないでくれよ、私は駄獣じゃないんだから!
ガウッ――!
回り込んできた!? 太陽があんなに眩しいのにどうしたんだ! こいつらは光を恐れるんじゃなかったのか?
た、助けて!
チッ! 仕方ない……お嬢ちゃん、先に逃げるんだ。私が――
ガッ!
ガッ!?
ガ……ガ……
……クルース嬢!? ああ~恩人様、助けられるんならもっと早く助けてくださいよ――って、どこにいるんです?
ここだよぉ~。
わっ……! お、お姉ちゃん、どこから出てきたの?
さすが非凡なる狙撃の名手、神出鬼没かつ軽やかな身のこなし、真に――
お姉ちゃん! おじさんを助けてくれてありがとう!
うっ。
早くお家に戻ってねぇ、お母さんがずっと探してたよぉ。
うん!
恩人様、早くラヴァ嬢とお坊様を助けに行った方がよろしいかと。ここは私が守りますのでご安心ください。
あれぇ……? さっきラヴァちゃんに、必ず助けに戻るって誓いを立ててなかったぁ?
お、恩人様はなんと恐ろしい地獄耳……ああいや、素晴らしい聴力をお持ちで……
別にそんなことないよぉ。
ところでその扇子、どうしていつも手に握ってるのぉ?
や、これは必需品でして。私の一番のお気に入りです。恩師からの贈り物でもありますし、片時も手放したくないんですよ!
それに……へへ、手に扇子を持っていれば、何となく文化人っぽいでしょう?
ふうん……
さっきの墨魎は、どうしてここまで来て平気だったのかなぁ? ここはもうお昼だよねぇ?
それはこっちが聞きたいです! あいつに追いかけ回されて本当に疲れ果てましたよ……
うーん……まぁ、まずはラヴァちゃんと合流しよぉ~。
……静かになったな。
ここは夜の端で、明かりもわずかに見えるだけだっていうのに、どうして化け物が襲ってこないんだ?
それは拙僧も不思議に思っておった……今までこんなに静かだったことはないぞ?
静かなのは、良いことでしょう?
む! いかにも。これで拙僧もようやく一息つけるでござる!
よっこらしょっと。
気をつけて。店の物を壊さないでね。
…………
サガ、さっき言ってたシーウ……というのは?
もちろん『夕娥(シーウ)、月に奔る』の美談に登場する夕娥のことだが? ああ、拙僧は今でも彼女の両の瞳を忘れられぬ――
……???
サガ、もっと順を追ってゆっくり話してあげたら? ラヴァさんの顔がどんどん曇っていってるわ。
お、すまぬすまぬ、つい興奮してしまった。さっきは墨魎と戦い、ラヴァ殿もくたびれたであろう? ここで茶でも飲みながらゆっくり話さぬか?
じゃあ私はお茶を入れてきますね。
ああ、先に聞きたいことがあるのだが、レイ殿はここから出る方法を知っておるであろう?
いいえ。
知らぬのか?
(軽く首を横に振る)
…………