吾れ先導者たらん GA-4・戦闘後
安魂教会
もっとお話しして!
あっ、蝋燭はちゃんと持たないとダメよ。火傷しちゃうわ!
あっ! 力を込めちゃダメだよね……ぐちゃぐちゃになっちゃう。
ママのために……ちゃんとやらないと。
さてと、お話ならもうたくさんしてあげたでしょ。退屈な冒険や普段の生活の話でどれほど満足してもらえたかはわからないけどね。伝説のカズデルについても語ってあげたいところだけど……
恥ずかしながら、私たちも行ったことないのよね。
サルカズのカズデル……きっとサンクタにとってのラテラーノみたいなところだよね! サルカズたちのふるさと……
みんな幸せで、綿あめ屋さんの車もあるよね? あとはお菓子屋さんもあって……街にはニコニコのサルカズたちがたくさんいて、みんな笑い合ってるはずだよ!
……かもしれないわね。
きっといつかは、ね。
次はセシリアがお話しする番よ。パパとママはどんな人なの?
……実は、わたしもよくわからないんだ……
パパにはあんまり会ったことないの……パパに会う時、ママはいつもいっぱい準備するんだよ。それから夜にわたしを連れてすっごく遠くまで行くんだ……それで森の中に入るの。
そしたらパパも来てくれるんだ。パパはいっつも分厚いマントを着ててね、すごく遠くから急いで来てたみたいなの……
わたし、パパの顔はあんまり覚えてないけど、角はちゃんと覚えてるよ! まっくろでまっすぐで、お月様の下できらきらしてるんだよ。
それから手をつないで森の端っこを散歩してるとね、木の種類とかお歳を一本一本教えてくれるの……街の外の夜は静かで、羽獣さんの鳴き声だって聞こえないけど、ちっとも怖くないんだ。
パパはいつもわたしの手をぎゅってするから、ほんとはちょっとだけ痛いけど……でもわたしは言わないんだ。
パパに会う時はね、パパはいつもわたしよりもうれしそうなんだよ……! あとちょっとだけ……緊張してたかも。
わたしが疲れちゃったら、ママがお家までおんぶしてくれるの。後ろを見るとね、高い木のところからパパがこっちを見てくれてるんだ。すごくすごく遠くまで行っても、ずっと見ててくれるの……
セシリアのパパとママは立派なんだね。
ママはすごいんだよ! 何でもできちゃうんだから!
そうだ、見て。ママの守護銃だよ。エゼルお兄ちゃんが置いてってくれたの。
ママがね、パパもママにはかなわないって言ってた……それでママはいつも手加減してあげるんだって! でもきっとパパもすごいよね!
ハハ……私の言った「立派」とセシリアの言った「すごい」は、たぶん違う意味だと思うな。
そうなの? じゃあパパとママはきっと立派ですごいんだね!
でもね、ママはパパとはじめて会ったときのことは教えてくれないんだ。聞こうとすると、いつも違うお話に変えちゃうの……どうしてママは教えてくれないんだろう?
……お姉ちゃんたちが小さい頃は、もっと気になってたことがたくさんあったなぁ。お茶を淹れる様子を見るのは好き? 私はお茶の色がだんだん変わっていくのを見るのが好きだったんだ……
……
……ロゼラお姉ちゃん、そうやってお話を変えるの、ママにそっくりだよ……
……わたしだって何も知らないわけじゃないよ。
昨日街中を歩き回ったけど、サルカズはお姉ちゃん一人だけだったよ……もしかしてサルカズは、ラテラーノに来ちゃいけないの?
だからパパとママも一緒にいちゃダメで……ううん、誰かにダメって言われたのかな?
一緒にいちゃダメなんてことはないわ……そんな考えなんて変わるはずよ。きっと……そう遠くない日に。
愛し合うことに罪はないもの。
……そうなんだ。
お姉ちゃんたちはそのためにここへ来たんだから。
そうなったら、わたしもラテラーノの街を歩き回ってもいいの?
もちろんよ。
もうお家に隠れてなくていいの? ラテラーノ中のお菓子屋さんに一回ずつ行ってみてもいい?
一回じゃ足りないでしょ。好きなだけ行っていいのよ。
うわぁ……早くそうならないかな……早く大きくなりたいな!
そうよ、あなたが大きくなれば、もしかしたら……
ううん、セシリア、そんなに急がなくていいわ。お姉ちゃんも小さい頃は、大きくなればどんな悩みも解決できると思ってた。でも、大きくなっても……
それに、大きくなることはとってもとっても辛いことなのよ。あなたの出自を考えると他の人以上に……いや、何でもないわ。あなたはまだ小さいんだもの、こんなこと考えなくていいわ。
でもみんな大きくなるんだよね?
……そうよ、なりたくなくてもね。
今まで微笑みを絶やさなかったロゼラが、少し寂しげな表情を浮かべた。
彼女は小さな教会の窓の外へと目を向けた。花の咲き誇る墓園がそこにあり、遠くにはラテラーノの中心にそびえ立つ聖像がかすかに見える。
彼女はそのまま外を眺めながら、憂いと少しばかりの希望を帯びた歌を口ずさむ。
あっ、このお歌! 昨日ロゼラお姉ちゃんに会った時の……
ママは歌詞を忘れちゃったから、代わりにラララって歌うことにしてるって言ってた。ラララでもすっごくいいお歌だけど……ほんとはどんな歌なの?
サルカズのとある英雄のことを歌ってるんだよ。遠くへお出かけしてすごいことを成し遂げようとしてる英雄に、みんなが歌でお別れをして、無事に帰ってくることを願うお歌なんだ。
歌詞はこんな感じかな。――旅立ちの時がきた。英雄はその胸に夢を抱き、遙か彼方に続く道に踏み出す……
道は遠くとも。でもきっと、きっと……
あ! エゼルお兄ちゃん、修道士さん!
何のお話をしていたのかな?
先導者様、ごきげんよう――まったく他愛もない話ですよ。サルカズの昔話だったり、世間話だったり……
でも楽しかった……こんなにおしゃべりしたのわたし初めて。
エゼルお兄ちゃん、お花を摘んできたの?
うん。エキスを抽出して、蝋燭に香りを足そうと思って……
香りは亡くなった人たちに方向を示してくれるんだよ。
そうなんだ、ありがとうお兄ちゃん!
あのね、お兄ちゃん、わたし……ほんとは……ちょっと怖いんだ。
お葬式……ママとのお別れ……本当に最後のお別れになっちゃうんだよね?
本当にもう会えないの? お祭りの時とかもダメなの? それか……パパみたいに、たまに一回会うのも……ダメなの? ちょっとだけ……ちょっとだけ頭をなでてもらうのもダメ?
あと……あと……
ママ……まだ天使と駄獣さんのお話の続きが残ってたのに……
セシリア……
セシリア、悲しいけれどこれが最後の夜だよ。
セシリア、今夜はお姉ちゃんが一緒にママのお部屋にいてあげる。みんな一緒なら寂しくないでしょ?
……サルカズがサンクタの親子のために通夜を過ごすなんて。
蝋燭の火は弱くとも、彼岸を照らすことはできるんだ。
レミュアン、また来てあげちゃったよ。
スイーツも持ってきたわ。
大聖堂からくすねてきたフルーツタルトだよ。
いらっしゃい。あら、上に載ってるサボテンがまずそうね。
さっすがレミュアン、よく気付いたね。
それよりあなたたち、毎日会いに来るほど私が恋しいの?
君が望むなら、一時間おきに会いに来てあげてもいいよ。
モスティマ、それはご機嫌取りのつもり? フィアメッタも……あなた笑顔が引きつってるわよ?
何かあったの?
……アンドアイン。
……
彼に会ったのね。
ラテラーノにサルカズが紛れ込んでいたの。そのサルカズを追っていた時……あいつのアーツで邪魔されちゃって。
そう。怪我がなくてよかったわ。
レミュアン、ここにいて大丈夫なの? 普通の病院だし、万が一あいつが……
もう来たわ。
なっ――
……はぁ。
病室にしばらく静寂が訪れた。
レミュアンがテーブルの上の花瓶に目を向ける。
……
週末のピクニックの予定を決めてるんじゃないんだから、なんでそうサラっと話せるの?
レミュアン、あんまりあなたに怒りたくはないけど……
でもこの件だけは……あなたたちはいっつもそうじゃない。私があの時の話を持ち出すたびに、二人とも同じ顔をして……
そんな風にされると……あの日気が狂ったのはあいつじゃなくて、私だった気がしてくるわ。
……私たちはアンドアインの思いを「感じた」から……
またサンクタお得意のやつ? じゃあ共感したのに、どうしてあいつに銃を向けたの?
それはまた別の話だよ。当時アンドアインがどんな思いだったとしても……私だって錠と鍵を奪われるわけにはいかなかったんだ。
じゃあその後のことは? あなたはあいつのせいで堕天使になったのよ……! どうしてそんな他人事みたいに話せるの?
レミュアンだってそうよ! あいつのアーツのせいでこうなって、それから五年間も昏睡状態だったっていうのに……なんでいっつも他人事なの?
フィアメッタ……
信じて、私たちはあなたの味方よ。
ただ、私も確かにアンドアインの思いを感じて……
……その言葉はもう聞きたくない。
あなたたち、どうせ私が怒ってるのは余計なお世話だとでも思ってるんでしょ?
そんなことないわ、私わかるもの……
ええ、当然あなたたちはわかるんでしょうね。
わからないのは私だけ、そうでしょう?
ちょっと、フィアメッタ!
はぁ……
フィアメッタ! フィアメッタ!
幽光の夜警さん!
張り倒すわよ!
話を聞いてよ!
モスティマ、言っておくけどね!
いい!? もうあなたたちサンクタにはうんざりなのよ! 何が共感よ、何が相互理解よ! 私はそんなのこれっぽっちも理解したくないのよ!
光輪の熱で天使の脳みそは溶けちゃってるわけ? あなたもレミュアンも、あの廃墟で死ぬところだったのよ!
どうして怒らないの? どうして憤りを感じないの? どうしていつも私だけ一人で怒って……私だけ仲間はずれなの?
意味ありげな笑顔はやめて! 何を話してもひょうひょうとした態度でいるのもやめて! あなたがラテラーノを去ることになって、居場所がなくなったのは、一体誰のせいなのよ!?
私があなたに付き添ってヴィクトリアやリターニア、サルゴン、炎国にまで行ったのは……
一体何のためだと思ってるの!?
あなたに、レミュアンに、アンドアイン……私たちの小隊はあんなに……お互いを信頼し合ってたのよ。
あいつにどんなご立派な大義名分があるの? なんで信頼を裏切られなきゃならないの? なんであなたたちはあいつを理解しようとしてるの? なんで私まであいつを理解しなきゃならないの?
私があの日々をどれだけ恋しく思ってるかわかる……? いつも危なげなく任務を終えて……レミュアンが私たちを飲みに連れて行ってくれて……新しくオープンしたスイーツ店に行って……
みんなの報告書をあいつが手直ししてくれて……
そんな日々を、あいつはどんな理由があってあっさり壊したって言うのよ……!!?
そんな日々が……
そんな日々が、私は大切だったのよ……
……そっか。
……
……
フィ……
……ラテラーノのアイリス。
……
この花が咲いてるのは、聖マルソー中央庭園、サンセット礼拜堂、ステファン区安魂教会……この三箇所だけよ。
うん。
行こう、一緒に。
……君は私の監視人なんだから、くれぐれも私に怪我なんてさせないようにね。
……