吾れ先導者たらん GA-8・戦闘前
影と灰
はぁ。
まあよい、自腹を切って修繕するとしよう。これは高く付くぞ。
アフタヌーンティーのスイーツも半分に減らさねばなるまいな。
教皇聖下! 大聖堂から戦闘と思しき騒音が聞こえましたが、どうかなさいましたか!
これは……!? 異端者に襲われたのですか!? ……申し訳ございません、私の失態です!
パオラリオ、そう焦るでない。前回の大聖堂アームレスリング大会の優勝者が誰か覚えておるか?
……教皇聖下です。
うむ。軽く腕を動かしたら、少々ハプニングに見舞われたというだけだ。
街の騒ぎも収まったようだね。
はい、奴らは撤退しました。私はまだ少々爆破し足りない気分なのに――
すみません、入ってもよろしいでしょうか?
ゴ、ゴホン……申し訳ございません、教皇聖下。失言をお許しください。
えー、教皇聖下がお呼びの者が到着したようです。
入ってよいぞ、子らよ。
教皇聖下、ご挨拶を申し上げます……
教皇聖下、こんにちは、わたしはセシリアです。
おぉ、ようこそ。部屋の乱れ具合には目をつぶってくれ。
ところで君たち……
お茶のお供にするスイーツは何がお好みかな?
あの……わたし何すればいいですか?
うーむ、そうだね……
まずは自分のティーカップに角砂糖を入れたらどうかね。
エゼル、君ももう少し入れなさい。糖分は緊張をほぐしてくれる。
あっ! は、はい……
教皇聖下、もしわたしが……ラテラーノから出て行きたいって言ったら、許してくれますか?
許さないと言ったら、君は従うかね?
従わないかも……
ならば行くがよい。
……教皇聖下?
私はただの哀れな老いぼれよ。一番の願いと言ったら、柔らかい椅子でゆるりと晩年を過ごすことだ。少女の旅の計画に口を出している暇などないのでな。
ですがセシリアは……
何かね? よもや天使と悪魔の混血であり、啓示を与えられる聖徒だとでも言うまいね?
セシリアは外に出たいと願うただの好奇心旺盛な少女だ、そうであろう?
……
セシリア、君はまだお母さんの守護銃を持っているのかな?
あっ、ごめんなさい! エゼルお兄ちゃんに渡した方がいいのかな……
でも……
構わんよ、子よ。
守護銃の授与は本来ならば厳粛な過程が伴う。盛大な儀式を開き、後見人が出席して、指導者が承認せねばならん上に、面倒な事務手続きも待っておる……
しかし、君はまだ守護銃を得ることのできる年齢にも達していないからね。こっそり持って行きなさい。
本当にいいんですか?
もちろん、私からのプレゼントだなどと言うつもりはないよ。すべての銃はラテラーノの大切な財産だからね。
しかし、子が母の形見を恋しく思う気持ちを、止める者は誰もいないさ。
大事に持っておきなさい、子よ。引き金を引いたり、悪人を始末したりすることは君の身体では難しいだろう……だがそれは、君の旅の出発点がラテラーノであることをいつでも思い出させてくれる。
……わかった。ありがとうございます、教皇聖下。
エゼル、この子と一緒に行ってあげなさい。長期外勤任務ということにしておこう。
たまに顔を見せに帰って来るようにな。
……
僕には……本当にその資格があるのですか?
もちろんあるとも。君も選択をしたのだろう?
……精一杯頑張ります。
セシリアがいじめられるようなことがあってはならんぞ。
さぁ、行くがよい。時間は待ってくれぬ。私くらいの歳になってしまえば、もう毎日昼寝のことしか考えられんからな。
……教皇のおじいちゃん。
わたし、これからもずっと歩き続けるよ。
……そうか。
ならば、君に祈りを捧げるとしよう。
教皇聖下、これでよかったのですか?
うむ。あの子らと一緒にスイーツを楽しめただけで十分だ。
……教皇聖下のお言葉を聞き入れ、あの男もすでに去りました。
もう少しここに留まらせておくべきだったか? チョコレートでも食べさせてやれば元気になったのだろうかね?
……教皇聖下、情にもろすぎますよ。
いいや、ヴェルリヴ。我々は結局、寒い夜の中のかがり火にはなれぬ定めよ。
しかし、薪を抱える者に熱いお茶を運んでやることくらいは……できるだろう。
「この大地は善美を許容しがたい」……これを認めようとしない者たちの成功を、心より願おう。
我々も事を進めるとしよう。騒動も収まったことだし、各国の使節を招集しなさい。
啓示が明確になったからには、やるべきことをやらねばな。
そんな思い詰めることないよ、フィアメッタ。君は何も背負う必要なんてないんだからさ。
いや、これは私が決めたことよ。
あの時あいつがどんな力を欲して、どんな秘密や答えを得ようとしたかなんて知らない。
あいつの崇高な理想や偉大な目標、誰を救い誰を導いたかだってどうでもいいわ。
とにかく私は絶対に許さない。
信仰のためでも、ラテラーノのためでも、護衛隊のためでも、失われた時間のためでもない……
私が許さない理由は、ただ一つ――
アンドアイン、あなたが自分を信頼していた人を裏切ったからよ。
……君たちか。
……どうして何事もなかったみたいに出てこれるのよ!?
どうして教皇聖下まであなたを……
どうして……
どうして、か……どうしてなどあるものか……道など初めから存在していなかった。虚無の中から何が得られると言うんだ?
懺悔のつもり?
懺悔? いや、懺悔することなどない……私は何に懺悔すればいいんだ? 光も、前途もなく、受難者は必ず受難し、悲哀者には悲哀しかない……
救いはなく、楽園はない。このラテラーノは、私たちだけのものなんだ……
もし光が元より虚像であるなら……いや、虚像ではない……確かに存在するが……私たちが望むものではない……
私たちの求める光などないのに……どうやって人々を照らすというのだ……
なに訳のわかんないこと言ってるのよ!?
……私は諦めたのか? ならば私はなぜここにいる?
我々の間に立ちはだかる障壁はこんなにも分厚い。どうすれば彼らを抱きしめてやれる? 私にその権利はあるのか?
私は偽りの希望を言い広めるただのペテン師だったのかもしれない……自分さえもその言葉で騙してしまうほどの……
わからない、私にはわからない。アレの判断とは何だ? アレは私をどこへ向かわせたい? アレの存在自体が私の道を閉ざしているというのに……
私はこれから、どこへ向かい道を探求すればいい?
アンドアイン! しっかりしなさい! あなたの前にいるのが誰かよく見なさい!
誰……あぁ……フィアメッタ……
また何をとち狂ったこと言ってんのよ!? あのご立派で理屈っぽいあなたはどこへ行ったの? 骨抜きにされちゃったわけ!?
頭がおかしくなった奴に罪を問うなんて御免よ! 目をこらして自分の置かれている状況をちゃんと把握しなさい!
……私はラテラーノにいる……大聖堂の上で、フィアメッタ……君と向き合っているよ……
君たちとまた会えてうれしい……いや、喜ぶべきではないのだろうね……
……
……そんな調子でまだ抵抗する気?
どのツラ下げて抵抗してんのよ!?
……
謝りなさい。アンドアイン。
今すぐ、ひざまずきなさい。モスティマとレミュアンのいる方向に向かって土下座しなさいよ!
……
まだ自分が正しいと思ってるの!?
いいや、私の過ちは数え切れないほどある。
なに誇らしげに言ってるのよ! *ラテラーノスラング*!
これを誇りに思ったことなどないよ。
よく聞きなさい! アンドアイン、私はあなたにどんな信念があろうと興味ない。あなたの信念が砕け散ろうと知ったこっちゃない!
だけど、レミュアンがあなたを許しても、モスティマがあなたを許しても、イヴァンジェリスタⅪ世があなたを許しても……たとえ全ラテラーノ人があなたを許しても――私だけは絶対に許さない!
……すまなかった、フィアメッタ。
謝るべき人は他にいるわ。
……もしまたあの時と同じ状況になれば……私はおそらく同じことをするだろう。
……いやちょっと、本気? よりによってフィアメッタの前でそれを言う?
それに今の君は……
よーくわかったわ。アンドアイン。
銃を抜きなさい。
そんなことをしても何の結果も生まないよ。君もわかっているはずだろう。
*ラテラーノスラング*! これが何かの結果を生むためだと思ってるの!? 私がここであなたを殺せば、レミュアンの八年が戻ってくるの!? モスティマの人生が元に戻るの!?
何が結果よ! *ラテラーノスラング*!
私があなたとケリをつけたいのは、ただ私がそうしたいからよ! アンドアイン、*ラテラーノスラング*、分かった!?
……フィアメッタ、これは君の執念なのか?
だったらなに?
もう一度言うわ、アンドアイン――銃を抜きなさい!